614、下層区潜入ミッションへ向けて準備を
「下層区への潜入ミッション、当機にプランが御座います。」
下層区へ潜入と言っても、アテもなくウロウロしても意味が無い。今回は下層区の混乱を出来るだけ避けたいって方針だから、ミニフィーを一斉に放って大々的に殺人犯を捜索‥‥というのも良くない。
「殺人犯らは何の目的かは知んないけど、自力で潜伏していると言うよりは誰かに匿われているって考える方が自然ね。ミニフィーで一斉捜索?バレるぐらいなら殺して豚の餌にするか溶かして流しちゃうんじゃない?」
タマさんの意見は生々しくて現実味を感じる。目的は不明でも、亜人のスラムに消えている以上匿われているって考えるのが自然。ニホンコクへの反抗目的か、企業の陰謀か、シンプルにスラム暮らしの友人を頼ったのか。
ブランさんは続ける。
「今下層区には多くの新顔の傭兵や開拓者が跋扈しています。トウキョウシティからヤマノテ入りした連中です。金と実力を持ってここで一旗あげようと意気揚々。イキり放題な連中ですが今回は良い隠れ蓑になりそうです。」
つまり‥‥
『ラフィさまとタマさんで傭兵コンビを組んで潜入しましょうか。』
オウルさんの抗議の視線。
『‥‥傭兵トリオでも良いですよ?まさかシャーリアのエルフがこんなゴミ溜めに居るとは誰も思わないでしょうし。』
手際の良いブランさんは、傭兵として活動するに当たっての“偽装身分”の許可証をボクのスマイルへ送信してくれた。
「都市運営委員会がグルなのです。勿論ミツホシとの関係性は秘匿されますが、警察に照合されても偽装だとバレる事は御座いません。」
傭兵デビューするんだ。ワクワクしてきた。オウルさんも悪い顔でソワソワ。タマさんはいつも通り、早速ソメヤさんへ連絡を取っていた。
「あら、ブランが先に連絡してたの?準備良いわね。」
「当機はラフィ様の敏腕秘書で御座いますので。」
何かとお世話になっている敏腕武器商人さん。タマさんがその裏の顔を匂わせたりするけど、具体的な事は教えてくれない。そのうち分かるわよ、だなんて。ボクのびっくりする顔を楽しみにしているようだった。
少し後に応接室へソメヤさんがやって来る。いつもの調子で、アイバイザーのホロウインドウに『新顔傭兵スターター割引』なんて。
「はいはいはい!武器、強化外装、小道具何でもあるよ!また面白い事をするつもりなんだろ?ここに来て装備一式また揃えるなんて富豪の金使いだな!」
テンションアゲアゲにケタケタ笑って、ボクのホロウインドウへカタログを送って来た。
「分かってると思うけど、イルシオンとか拡張パーツ類の使用は禁止よ。ラフィだってバレちゃうもの。使う武器もラフィが普段使いしてない武器種が良いわね。イメージに無い、意外性あるやつが良いわ。」
意外性のある武器‥‥ボクが普段使っていない物。
もう一つ、タマさんが付け足す。
「ブランド品は避けなさい。そうね、流れて来た傭兵が持ってて違和感ない値段帯よ。鳳凰刀みたいな金の匂いぷんぷんする武器を持ってたら怪し過ぎるでしょ。」
うーん、どうしよっかな?フィクサーさんも一緒に見て色々助言をくれる。
『意外性のある武器、つまりは戦う相手にとって初見になりやすい物を選びましょう。銃器類は‥‥下層区ですし安価なプラスチックライフルを。もう一つは100万円程のスマートライフルですね。』
プラスチックライフル。銃器類の中でも1番安い種類。聞いた話だとヤマノテシティの下層区では、プラスチックライフルが自販機で買えちゃうらしい。お値段一丁1000円から。高いと3万円ぐらいするけど、その差は頑丈さだけ。武器としての性能は必要最低限、弾が飛べば何でも良いってもの。口径は小さいし、開拓者基準で低価格帯の強化外装のバリア装甲を貫くのも厳しい。一応数を揃えて直撃させればバリア走行を抜けるらしい。
「下層区のチンピラなんて、強化外装を着てない素人連中が大半よ。そりゃ1着うん百万円するものなんて買える訳ないわよね。千円のオモチャ銃を大事そうに抱えてる連中。敵も味方もそんなんだからプラ銃で十分なのよ。」
因みにプラスチック銃は使い捨て。酷い品質だと1マガジン撃ち切っただけでヒビが入っちゃうって。安いけど開拓者が持つような物じゃなかった。
そしてもう一つ。
「これ使ってみたいです。」
ボクが選んだのは‥‥
三節棍。
ムラマサ工房製、ユニークウェポンシリーズ。三つの棍が連なった打撃武器で、それぞれが液化ミスリルコーティングされた鎖で繋がっている。その両端の棍‥‥梢節にはオプションサービスで仕込み銃を追加出来た。
「ハハハッ、随分面白いモンに目を付けたな。ユニークウェポンシリーズは、使えるモンなら使ってみろ!って風な戦闘中に大道芸したいユーザー向けだ。両端の棍が仕込み銃になった三節棍を振り回して戦える自信はあるかよ?!」
タマさんはボクなら大丈夫って言うし、ボクも頷いた。
「多分大丈夫です。練習は必要ですけど。これを塗装を変えてちょっと改造しようかな。オーダーメイドサービスも使いたいです。」
三節棍だけど鎖の部分を収納にしまい込んで、長い棍棒として取り回せるようにしたらもっと使いやすそう。接続部分は磁石で良いかな?強力な奴が欲しいな。
「流れ者の傭兵らしい意外性を意識したオーダーメイド品。良いじゃない。無難な武器を担いでヤマノテ入りする奴は大規模な旅団の末端の雑魚。3人で組んで動くなら相当な手練じゃなきゃロクな仕事を受けられないわ。」
ボクとタマさんとオウルさんの3人で、そこらの旅団と同程度の活躍が出来なきゃお仕事が何も回って来ない。
「私は祭具がある。」
オウルさんはそう言うけど、タマさんがバレル可変拳銃を買い渡した。
「どこの世界に魔法の杖1本携えて傭兵する不審者が居るのよ。剣とファンタジーの世界に見える?銃が無い傭兵なんて裸で街を彷徨く変態さんと同ランクの存在よ。」
「そう言うものか。じゃあ遠慮なく。」
オウルさんが受け取った銃は、バレルの長さをその場で調整して射程を大きく上げられる特殊拳銃。拳銃ながらに最大射程がちょっとした狙撃銃並み、口径も大口径で威力が高い。その分扱いこなしが難しいし、長い射程を持て余しがち‥‥でも。
「アタシの勘だとアンタは銃もイケる口よ。魔法で狙撃するんでしょ?スコープも、補助装置も何も無い状態でさ。空間把握能力がずば抜けてなきゃ出来ない芸当だと思うわ。」
褒められたオウルさんはむふ顔。
「空歌の姫だからね。私の歌は遥か蒼穹の彼方を撃ち抜ける。銃だって似たようなものさ。」
そしてタマさんはドローンを買い揃えた。
ムラマサ工房製、特殊型小型ドローン。レイス。
「タマも面白いやつ選んだな。」
「意外性よ、意外性。後、強化外装は別に安物じゃなくて良いわ。見た目じゃ性能なんて分からないでしょ?衣替え機能で見た目は変えるけど、命を預ける強化外装に変な妥協はしないわ。事故で死にたく無いわよ。」
使う武器を買ってるけど、普段使ってる武器も勿論収納内に持ち歩く。最悪それを抜いて戦うもののそれは最終手段。
「タマさんも最近新しいの買いましたよね。」
「そーよ。ラフィと同じ1億する最高級品をね。衣替え機能もあるし、燕尾服とは方向性違うけど十分高性能。前のも安くは無かったけどさ。」
オウルさんも強化外装をタマさんに買って貰っていた。オウルさんへ投資する代わりに、オウルさんが稼いだ分から暫くマージンを取る。結果タマさんが黒字になる取引。成功した開拓者や傭兵が、見込みのある後輩へ装備を工面してお金を稼ぐのはよくある話だって聞いた。
オウルさんも5000万円級の高級強化外装を着ていた。勿論衣替え機能もある。オウルさんの場合はG軽減よりも防御偏重型。4重のバリア装甲を展開出来る代物だった。
「ボク達のグループ名はどうしますか?」
「屋号掲げたい?そーね、3人グループが大層な名前してたらアタシだったら笑っちゃうけど。」
「ユニット名はあった方が良い。あと呼び合う名前はどうする?」
ボクの名前はフィー。タマさんの名前はマジシャン。オウルさんはフラウリリム。
旅団名はアリスイ。キツツキ科の渡り鳥で、下層区を突いて事件を追うボク達にピッタリ。
「ボクの名前フィーで良いのですか?ええと、その。」
「良いわよ。名前なんてそもそも何の判断材料にもならないし。ラフィと似てるから何?アナタはラフィですか?なんて聞いてまともな答えが返ってくる?思う以上に誰も気にしないわよ、傭兵の名前なんてね。」
そういうものなのかな?フラウリリムはオウルさんの長い名前の一つをとったもの。けれどオウルさんの世間的な名前はオウルだけ。その名前の全部は公表されていない。
「しかしタマはマジシャンか。偽名全開だね。隠す気も無しだ。」
「だから名前なんて誰も気にしないって。洒落た名前で呼ばれるのって案外気持ち良いわよ。」
タマさんの趣味全開な名前。ボクの名前案に混じっていたケルベロスも多分タマさんの案。タマさんはカッコいいのが好き。
「タマの趣味は子供っぽいからな!これでもラフィと出会ってから随分大人びた方だぜ。昔はもっと拗らせててよぉ。」
ソメヤさんの頭に3回のチョップ、ヘラヘラ笑いながらズレたアイバイザーを片手で直す。
「はいはい、アタシの趣味はともかく。ブランはパンタシアで秘書さんかしら?最近は裏方ばっかりで顔を忘れちゃいそう。」
丁度応接室のドアを開けたブランさんはヤレヤレって風に。
「パンタシアからですと、いざという時にラフィ様のファンタジアやワープゲート以外で出て来る事が出来ません。まさかただでさえ怪しい傭兵3人組が、プライベートルームのドアをそこらにはっ付けて寝泊まりするおつもりで?」
うっ。確かに。パンタシアは便利だけどドアを隠すのが難しい。迷彩モードで透明化出来ても、ドアがそこにある事には変わらないからボク達が消えた場所を念入りに調べられたら危ない。壁を弄って触られたら流石にバレちゃう。
「まぁラフィが居る限り相応に注目されるでしょうし。姿を偽っても大活躍すれば絶対目立つわ。企業のエージェントやマフィア組織が素性を探ろうとするでしょうね。」
でもパンタシアに帰れないのは困る。ツキシロやペットの皆に癒しを撒きたいし、畑にも癒しを振り撒きたい。うーん。あっそうだ。
「今こそピュア・クラウンの使い時です!ピュア・クラウンの中には転移で戻れますし、飛んで移動すればボク達の居場所もバレません。確かピュア・クラウンの光学迷彩機構は、パンタシアのドアとは原理が別ですから一般的なA.M.S‥‥アンチミラージュシステムでも看破されません。」
赤翼の企業機密、最新技術が使われた迷彩システムは都市に一般で知られる物とは機構が違う。
「良いじゃない。ピュア・クラウンの中にもプライベートルームのドアを付けられる場所があったわね。じゃあそこを拠点に下層区に潜入しましょうか。」
話が纏まって来た所で、フィクサーさんがスマイルにアプリをインストールした。
『ではではラフィさまの可愛いお顔を隠しましょう。素性を知られたくない傭兵が、顔をモザイクで隠す事は珍しくありません。アプリのモザイクにワタシが手を加えた、完全匿名モードをお使い下さい。』
パッとアプリを起動すると、ボクの顔を黒い霧が覆って隠しちゃう。衣替え機能でボクはパーカー姿に、フードを被って金の髪を隠す。真っ暗で見えないボクの顔の代わりに、ポンと可愛い顔文字が浮かび上がった。
(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)
タマさんのミラーアプリに映ったボクの姿。
『折角ですから声を出さずにホロウインドウで会話するのはどうですか?謎めいて可愛さアップですよ?ボイスチェンジャーって違和感ありますし可愛い見た目が台無しです。』
可愛い、可愛いと言われると嬉しい半分恥ずかしい半分。ボクは男の子なんですから。
(>⸝⸝⸝⸝<)『これで良いですか?変じゃないですか?』
顔文字が感情に応じて勝手に切り替わる。恥ずかしい内心が顔文字に現れちゃった。
迫るタマさんの手、オウルさんも徐に両手を広げてボクを抱きしめる。きゃっ?!ううっ。近い‥‥
「あざとさ全開で御座いますね。ですが口から砂糖が漏れそうなあざとさはラフィ様に限って好意的に受け止められます。可愛いは正義を体現出来る男の子で御座いますので。」
2人にわちゃわちゃと可愛がられながら、作戦へ向けて準備を進めて行ったのだった。
ラフィの顔文字はAndroidだと表示がおかしくなるかもしれません‥‥




