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613、今若者達のブームは‥‥殺人?!

アリスinワンダーランドは大盛況、アリスさんは忙しそう。でもボク達は遊園地に付きっきりになれず、開拓者組合からの新しい依頼を確認していた。


パンタシアのリビングに集まって、早速ブランさんからのミーティングを受ける。


カテンさんとオウルさんもワクワク顔で、ボクはタマさんの尻尾に甘えながら。ホロウインドウの中のフィクサーさんも、豪華なソファーの上で足を組んでブランさんを待った。


「久しぶりの依頼ですね。」


「今更組合の依頼なんてね。でもスクエア連盟外の企業がラフィにお仕事振りたいんなら、組合を通すのが安牌ね。少なくともスクエアの外交官連中に相談するよか通る可能性が高いわ。」


ボクも組合と仲良くやって行こうって宣言した所だし、依頼者達からは今が依頼を投げるチャンスに見えたのかも。とは言えスーパーセルの探索にシャーリアの復興支援でなかなか時間無かったけど。


「この3ヶ月間、シャーリアとヤマノテシティの往復に忙しかったです。ちょっとした犯罪を暴いたりはしましたけど、機密依頼なんて暫くぶりなんです。」


オウルさんにも分かるように説明した。今のオウルさんの立場はカテンさんと同じ、ボク達に雇われた傭兵さん。お仕事を一緒にこなせば、報酬金の中から2人にもブランさんが分け前を分配した。


「オウルはこの3ヶ月で、都市内作戦活動に必要な資格を粗方取りました。カテンと違い武器を扱う以上必要になる資格も多く、準ニホンコク人の試験もパスしなければなりませんでした。流石エルフの賢者と言った所で御座いましょうか。」


「むふ。もっと褒めて良いんだよ?私もこれで一人前のニホンコク人さ。エンリッヒはこっちに関わる気は無いようだし、準ニホンコク人の資格取得だけだったけどね。白翼の主を支えるのが空歌の姫のお役目なんだ。都市だろうとお供するよ。」


皆で口々に雑談を、そしてブランさんがR.A.F.I.S.Sで伝えれば自然と壁面スクリーンへ視線が集まった。


「それでは始めさせて頂きます。先日組合から相談を受けた機密依頼の件ですが、スクエア連盟との協議の結果受注する事になりました。」


「はいっ。ボクがやりたいって言ったんです。だって。」


スクリーンにパッとヤマノテシティの全景が映し出された。


「現状ヤマノテシティは、トウキョウシティに寄った影響を強く受け荒れています。行政区である上層、ラフィ様の自警活動によって安定した中層の混乱は軽微ですが。しかし下層区の治安が急激に悪化しているのです。」


土台となる下層区から中層、上層と積み上がったヤマノテシティ。最下層の広大な街が赤く点滅した。そして最近起きた犯罪件数が、半年前から50%以上上昇したって数値が示される。


「元々下層区は生産区域となっており、都市を回す様々な物品が生産される工場地帯でした。水に食料から精密機械まで、トウキョウシティから輸入した素材をヤマノテで組み立て他の都市へ卸す。ヤマノテシティは交易都市なのです。」


もう一つブランさんは付け加える。


「また、ヤマノテシティは多文化共栄政策を取る都市でもあります。各都市を回れば必然的に全国の多様な種族を拾ってしまいますから、排除せずに共存しようと都市運営委員会ミツホシホールディングスは考えているのです。」


そこにタマさんの嘲笑するようなツッコミが飛ぶ。


「亜人の高度人材を各都市のスラムからピックアップ、あんよが出来てワタシニホンゴワカリマセンが話せれば高度人材認定よ。超安値で働かせ放題な合法奴隷ゲットで企業はウハウハ、安上がりで動く生産工場のお陰で物価も安くなって皆ハッピー。」


『ついでに企業戦争で使い捨てられる便利なチンピラも大量確保出来ますね!不干渉権で切り捨てられる亜人様は本当に便利です!にゃはは、しかし最近は不穏な動きを見せていますが。』


思惑は色々、ブランさんも2人の意見に何も言わずに話を進める。


「トウキョウシティでラフィ様が中心となって起こされた荒野戦争の影響で、荒野の犯罪シンジゲートと連んでいた半グレを始めとした反社勢力は行き場を失いました。後ろ盾になっていた組織はラフィ様と警察に駆逐され、ゴーストも消え去り、シブサワとニッポンイチはチンピラを企業戦争で使わず匿ってくれない。」


荒野戦争。あの事件は今そう呼ばれている。ゴーストを追い詰める為に荒野をひっくり返して戦ったんだ。後悔はしない。


「散々虐げられていた現地住民が武装して反社勢力を追い出し、場所が都市防壁に囲まれた荒野ですから行き場を無くしてしまいました。そしてヤマノテシティの高度人材受け入れ制度に乗っかる形で移民として流入したのです。」


治外街で犯罪を犯しても簡単には証拠が残らない。電子口座を持つのが難しい関係で治外街にはスマイルが普及していないし、だからこそ監視の目は少なく汚れた手をポケットに隠しておける。


ヤマノテシティの主導する見境ない共存共栄政策は利権の塊。こうなっても撤廃は容易じゃないし、そもそもミツホシが始めた事だから失策を認める形になってしまう。重大な社会問題を生みながらも、金の重みが煮え立った鍋へ蓋をした。


「勿論反社勢力からしても不本意ですし、故郷を捨てヤマノテシティの下層区を縄張りにしていた他の犯罪シンジゲートの縄張りに踏み込むのです。お陰で現地は大荒れ、元々人手不足だったミツホシ都市警察もお手上げ状態になってしまいました。」


ボクが付いていけるよう、タマさんが補足を入れてくれる。


「元々ミツホシ都市警察は、下層区の犯罪に対して消極的な対応が目立っていたわ。言った通り、下層区の生産工場じゃ、違法な条件で亜人をこき使ってる企業が多いのよ。勿論それ以外にも‥‥どんな些細な犯罪がメガコーポの虎の尾に繋がってるか分からない。捜査担当者としちゃ、暴行事件の捜査で背中に銃を突き付けられたくないでしょ?」


上層、中層、下層で分かれた都市をカバー出来るだけの人員の確保が難しい。取り分け大きな下層区には地雷が沢山眠っていて、尚更そこで起きた犯罪の捜査は後回しにされがちだったらしい。


「殺人事件となれば流石に動くけどね。無法を許し過ぎて深未踏地のど真ん中で住民が大暴動起こしちゃ存亡に関わるわ。とは言え現在進行形で住民の不満は危険水域、いつドカンとなっても不思議じゃ無いわね。」


ブランさんはそこで、と繋げる。


「市民が選んだのは自力救済、警察に頼らず犯罪者達を自分達で始末しようという動きで御座います。自治会からなる自警団、親無しのストリートキッドからなる半グレ自警団、自警団を自称するマフィアにヤクザ。ぶっちゃけ自力救済のタカが外れて中々世紀末なのです。」


勿論都市運営委員会はこんな状況に無対策で居るわけが無かった。


「今回の依頼主はミツホシホールディングス、都市運営委員会で御座います。最近下層区で起きた連続殺人事件の捜査協力依頼です。」


「その話、聞いた事があります。」


ボクはニュースサイトをパッと表示した。





公園の遊歩道は私の縄張り。


日の差さない下層の自然公園、最寄りの駅へ真っ直ぐ向かえる遊歩道は朝と夜に大勢が行き交う。今日も女性の金切り声が響いた。


「おいっ!!ここは歩行者以外立ち入り禁止だよ!!」


遊歩道の入り口にある看板が、勢いのある女性に正義を与えてくれる。キックボードで侵入した悪ガキを突き飛ばして唾を吐きかけ、反撃されそうな気配があったら警察へ通報すると騒いで被害者のお面を被る。


転かした自転車は5台、靴型の簡易な駆動魔具で侵入しやがったリーマンの前へ躍り出て当たり屋をやった事もある。


駅前へ誰もが急ぐ。交通ルールは中々市民の理解を得られず、無能な警察の代わりに勝手な自警活動で暴れ回っていた。暴力と恫喝を前提とした過激な活動、逆に通報される事数回。


しかし簡単なお叱りだけで即日釈放。無意味、無敵、正義。


歳若くない彼女はラフィの大ファン。少年の輝かしい軌跡を少しでも真似たくて始めた正義の行進。


昨日は車椅子で侵入した老人の行く手を塞いで、思う存分罵詈雑言吐きかけて泣かせてやった。


私は正義。最高に気分が良い。


今日も彼女は正義をなす為、リビングの机に食パン置いて朝早くから公園へ張り込む。ふと、目前へ1人の男が歩み寄って来た。手には金属バット‥‥


「えっ?何あん───」


数度響いた鈍い音。10度小さく聞こえたナイフの刺し音、思う存分顔を踏み付けられサッカーボールキックで側頭部を粉砕された。ホログラムで顔を隠した男は数回に渡って何度も嫌がらせをされていた。


最初はキックボードで侵入した際に急に突き飛ばされ、その後も歩いて通ったにも関わらず難癖付けられ突き飛ばされビンタまでされた。お次はタックルで芝生へ転がされ写真を撮られてハムハムに拡散された。


許せなかった。


屈辱的だった。


しかし警察は動かず、自警団も非武装の迷惑行為上等な市民程度を相手にしない。亜人の犯罪者の相手で忙しかった。


「クソババァが。やってやったぞ。地獄に堕ちろ。」


呪いの言葉を残して走って立ち去る。


その間に10人以上の市民が通り掛かるも、誰も通報もせずに迷惑な女性が原型を失っていく様を横目に見ていた。


そして男は大きな亜人のスラムへ姿を消し───未だに見つかっていない。同じような殺人犯達のよう、スラムの中へ消えて3回の警察の立ち入り調査は全て空振ったのだった。





───そんなニュースをここ最近何件も見る。


「捜査協力‥‥?警察だけじゃ見つからないのかい?警察の捜査力は凄いと聞いたんだけど。」


オウルさんの疑問にフィクサーさんが光を当てる。


『犯人の身元は割れています。既に指名手配済みです。どこのスラムに逃げたのかも分かっています。けれどあら不思議、何の痕跡も残さず消えてしまいました。煙のように。殺人犯は皆素人、前科無し。隣人トラブルが主な理由で殺意は明白。何の伝手も無い素人が思い付く逃走計画程度で惑わされる警察ではありませんが‥‥亜人のスラムは頑なに捜査協力を拒否するんですよ。』


ブランさんも補足を。


「ここでもう一つ、厄介な社会問題が絡んできます。元々亜人達はヤマノテシティの都市へ不法占拠気味にスラムを築いていましたが、お目溢しに感謝する所かニホンコク人を嫌っています。不干渉権絡みの事件の数だけ恨みが募っているようで御座います。同胞への仇討ちなんて気持ちで善良なニホンコク人へ犯罪を行う‥‥そんな空気感が最近は特に顕著なのです。」


捜査協力拒否も同胞への仇討ちの延長線上?うーん、過激な思想だけど皆が皆そう思ってるのかな?殺人犯の隠匿は重罪だし、バレたら最悪スラムごと全部撤去。関係者にどんな処罰が下るか分からない。ニホンコク人へ嫌がらせして満足、には似合わないリスクだと思う。


「つまり色々胡散臭いけど、現地人しか現場の空気感は分からない。亜人にも自警団にも馬鹿にされて嫌われる警察の証言はアテにならない。だからアタシらが潜入して見て来いって話ね。元はラフィの戦争が原因なんだし、責任取って頑張って。そんな所かしら。」


「明け透けに言うならそうで御座います。勿論依頼を蹴る事も出来ますし、流石のミツホシと言えどスクエア連盟を糾弾するバカはしませんが。ラフィ様に社会勉強をする機会を与えようって言う魂胆が強いのかもしれません。」


「だからボクは受けたんです。責任からは目を背けません。それに、今までモモコさんのような上流階級のヒト達と過ごす時間が長くて。アングルスとも違う、ヤマノテシティの下層区を見て来たいって思ったから。色んな世界を知りたいんです。」


今ヤマノテシティの下層区で何が起きているのか。結局神の視点で見下ろすヒトは居なくて、色んな立場のヒトの証言を束ねた結果荒れているという結論だけが出た。でも詳しい事は曖昧で、そんな中このままだと迷宮入りしてしまいそうな殺人事件の捜査を協力する。


その為には潜入しないとね。勿論ボク達の素性を隠さないと、すっごい目立つし悪いヒトは皆隠れちゃうから。下層区のヒト達に溶け込んでヤマノテシティで暗躍する影を引き摺り出そう。


闇が蠢く社会の暗がりへ、ボク達は冒険の準備を始めたのだった。

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