610、ダブルチェック、指差し確認、ヒヤリハット‥‥事故ったワンダーランド
お昼が終わったら審査員の皆で本格的なアトラクション体験をする事に。場所を話し合った結果、トランプの大橋を皆で冒険!
トランプの大橋、隠しアトラクションの一つ。世界一高い観覧車、上空から街を見下ろせるメリーゴーランド、天空ジェットコースター、そしてトランプ迷路を楽しめる。
転移した先で皆びっくり、ドヤ顔のユウヤさんがボクの代わりに紹介する。鳥のように空を飛ぶトランプの群れが、雲海の上にある大橋の周囲を回遊していた。悪いお人形さんを銃で蹴散らしながら、レベルアップしたヒト達が近場のショップで新しい銃に乗り換えていく。
「ショットガンが使いやすいな。」
「スナイパーライフルも良いね。なんか適当に撃っても当たるよ。」
「キャンディバレットは良いぞ。キャンディぶち撒けながら戦おうぜ。」
「トランプカッターってここ限定かしら?トランプで戦うのってオシャレ。」
ユウヤさんもトランプボムを選択。発射されたトランプが爆発!四方に当たり判定のあるトランプを拡散する面白武器。発射間隔がちょっと長めで、パーティープレイ用の武器。手裏剣みたいにトランプが飛んで行く、連射性能高いカッターとは別種なんだ。
「それでは先ずはメリーゴーランドです。」
ボクとアリスさんで同じ馬に2人乗り、皆も各々馬や馬車に乗り込んで。動き出すとメリーゴーランド自体がふわりと空を飛んだ。
「わっ?!飛ぶの?!」
このメリーゴーランド、台座が無い。上から吊り下げられた回転する座席に座って、棒にしがみ付いてお空を旅するんだ。
「落ちたら自動で大橋の転移センターへ飛ばされますの。安心は無くても安全な空の旅は如何かしら?」
安全帯無し、目の前の吊り下げ棒を掴んで身軽な空の旅。苦手なヒトは馬車に乗ろう。高所恐怖症の方は多分このエリア全体がダメだと思うから‥‥
シャーリアで録音された、美しい曲を聴きながらメリーゴーランドが回転する。どこか民俗文化を感じるも、現代的にアレンジされた曲は耳に残る名曲。真下にはワンダーランドの街並み、横を見れば回遊する無数のトランプ。そして大橋が向こうまで続いているのが見える。
上空でも風は心地良くて、開放感抜群なメリーゴーランド。ちょっぴり危険な刺激がヒトを病みつきにさせるんだ。
「因みに、時間帯によっては遠心力チャレンジモードに切り替わります。」
徐々に加速するメリーゴーランド、最高速度にアナタは耐えられますか?!強化外装が無いと厳しい超スピードで振り回される!投げ出されても転移で戻れるから大丈夫だよ!
参加するにはショップで専用のシャボン玉装置を買う必要がある。EXPOで発表された頑丈なシャボン玉。その技術を早速シブサワとウマミMAXの共同で実用化実験も兼ねて導入した。落ちると自動で装置が作動して、一瞬でシャボン玉に包まれる。乗客同士ぶつかっちゃっても怪我無しで安全。
「‥‥試しにチャレンジしても?」
ユウヤさんの思い付きに、審査員達は慌てて反対。けれど審査員長には逆らえずに、結局ショップで使い切りのシャボン玉安全装置を買う事に。
『お空の旅をどうぞ〜。』
鳥さん人形に見送られ、ベイゴマと化したメリーゴーランドでお空をGO!
「ああああイヤ〜〜〜〜〜!!!!」
「アアアアアア?!」
「速い!!無理ッ?!」
「ワァァァァァ?!」
最初に1人脱落する。本当は叫びたかったのに、他の審査員達を怖がらせない為に静かに落ちて行った。
そして中盤にどんどん脱落。皆ベイゴマのように側転しながら吹き飛ばされてしまう。タマさんとチズルさんの考えた悪ノリメリーゴーランド、審査員達を全員振り落として軽くなって帰って来たのだった。
遊園地内は強化外装着用禁止、でもインプラントで腕力を強化した開拓者さんなら耐えられる。ボクはそうじゃ無いけど、耐えようと思えば九尾の尻尾で無理やりしがみ付けた。
楽しかったな。
一方その頃、審査員達が合流してやや暇になったキャスト達。必要があれば転移で飛んで行ける都合上、酔いどれネズミ街の居酒屋で経費ご飯を突いて談笑。
「お酒が飲めないのはツマンナイよね〜。アリスったら口止めしちゃってさ。」
「昼間っから飲むんじゃねぇよ。ジュースで良いだろうが。」
タマとチズルがファンタスティック塩辛を摘む中、チズルの部下のおっさん達も審査員達の反応を肴にコーラを乾杯。
「しかし良いのか?我らがこんなぐだぐだしていて。そこの焼き豚を取ってくれ。」
「自分で取れっての。アタシらがゾロゾロ連れ立って囲んでいたら、逆に威圧感あって嫌でしょ。審査員達を大勢のキャストで囲んで良い評価を強請ったなんて言われたく無いわ。」
尾先から伸びた毛が魔法の力で器用に動く。小さな皿を絡め取って持って行った。
「かと言ってよ!大事な日なのに俺らが審査員を一目も見れないなんて寂しいよなぁ!暇を持て余すの分かった上で来るしかねぇのよ!」
造形おじさんの声に賛同する声多数。
「じゃあお前ら審査員の視界の隅っこで踊って賑やかし要員やってりゃ良いだろ?」
「ハハハッ!髭面筋肉ムチムチのおっさん達のダンスを見せに行くか?!汚楽しみ下さいってか!」
イントネーションを捻れば言葉の真意が共有される。文字に起こさずとも自分達の“汚さ”を笑い合えた。
後で頑張ったラフィに何か買ってあげようかなと考えるタマは、自作した居酒屋の席を尻で温めていた。
同じく地下街から行ける隠しエリアの一つ、ちゅーちゅーラボ。その奥に眠るはレイドボス用の巨大人形。内部に頑丈な骨格を通した、繊毛AIでガオー!と動く大怪獣。
午後の予定を急ぐオウルは準備に忙しかった。
(今頃タマらは遊んでいる最中だろうけど。サプライズでレイドボスの登場イベントをやるんだから手伝ってくれても良いのに。)
そうは言ってもタマらは魔法の素人、肩揉みぐらいしか手伝える事は無い。それでも何となく不公平感を感じていた。
レイドボスの行動パターンには2種類ある。Aモード、園内の専用ボスステージに使われる広場に君臨するモード。広場まで転移でひとっ飛び、派手なARの演出と共に悪のネズミロボが現れた。
もう一つはBモード。専用アトラクションステージへ転移させ、大規模拠点防衛イベントを楽しめるモード。派手に腕を振って大暴れ、防衛目標を壊されないよう皆で力を結集しよう!
只今調整中、強過ぎず弱過ぎずなバランスを模索する真っ最中。
オウルはAモードで起動して、先ずはオーソドックスなものを楽しんで貰おうと準備していた。トランプの大橋からは下界のワンダーランドが一望出来る。勿論レイドボスが現れればとっても目立つだろう。
「むふん。私だけに任された重要任務さ。これも将来のお金の為。」
タマから持ち掛けられた取引の事、それで浮きそうなお金の使い道、煌めく文明は金の輝きを持ってこそ楽しめる。資産を持つ悦びにオウルは内心はしゃいでいた。
(文庫を買い漁るか‥‥マギアーツの研究に使うのも良いな。ラフィの伝手で征天大学を見学させて貰えないだろうか。)
───タマらは魔法の素人、肩揉みぐらいしかやれる事は無い。
いや、もう一つ大事な仕事があった。
Bモードで起動、そのまま広場へ転移準備を済ませてしまう。
ダブルチェック。声に出して確認しながら作業をする大事さよ。
目を赤く光らせたネズミロボが転移して消えた後、オウルは何だか胸騒ぎがして考え込む。何だろうか、このえもいえぬ妙な予感は。何か間違っていたか?簡単な作業ゆえ少し集中を欠いていたが──────
「タマッ!!!」
「うひゃっ?!オウル?!アンタ何でここに?!」
「このままだとワンダーランドが滅ぶ!!」
「はぁっ?!アンタ何したの?!」
ジュースを飲んだくれていた、面白おかしい格好のキャスト達が酔いどれ街を飛び出して行く。既に地上から大質量が暴れ回る音が聞こえていた。
ボク達は観覧車に乗って、この世界で1番高い景色を楽しんでいた。4人乗りの観覧車へアリスさんと一緒に、ユウヤさんともう1人が乗ってゆらゆら。まったり寛いで景色を楽しめる観覧車は癒しのアトラクション。
「私達はこの遊園地を作るのに何ヶ月も費やしましたわ。」
「ボクがトウキョウシティへ向かう頃に計画が動き出したんです。」
最初から遊園地のざっくりとした形は整っていたけど、壊れている場所を直して行く内にあれも欲しい、コレも欲しいと皆で湧き上がったインスピレーションを盛り込んで行ったんだ。
ユウヤさん達から皆を代表してインタビューを受けていた。
「OWゲームってボク好きなんです。色んな遊びが出来て、自由に冒険を楽しめる。もし現実で再現出来たら楽しそうだなって。えへへ‥‥最初は難しいかもって感じだったのに、アイデアを出し合ったら作れそうな感じがして。」
「元々私が作っていたワンダーランドの原型はあったのです。そこへ遊びとして機能するようにシステムを盛り込んで行った。私が作っては倉庫に放り込んでいた家のアセットや家具のアセットは沢山ありました。」
アリスさんの長年の傑作達は倉庫で埃を被っていた。再建に伴って見せてもらった時、皆コレ使いたい!って思って。気に入ったデザインは沢山複製してあちこちの家へ配置したし、家そのものも沢山あったから細かい手直ししながら次々投入。
かつてアリスさんが作った夢の成果物達が、遂に日の目を見る時が来たんだ。
「こんな大規模になるなんて、私も予想外でしたわ。身内で楽しむ程度の物にしようと思っていましたのに。けれどそれだけじゃ勿体無いって、そんな素敵な出来栄えになったのです。」
遊園地誕生秘話をインタビューに残して、あの時の気持ちを忘れないようにしないとね。
「ここがニホンコクで1番楽しい遊園地になるよう、ボク達で頑張って作ったんです!まだまだ今日は終わりませんから、最後まで楽しんで行って、審査するだけじゃなくて。素敵な思い出を持ち帰って欲しいなって。」
観覧車の窓から見下ろせるワンダーランドを見て!見て!と紹介した。
『おや?急な通信ですね。ラフィさま。』
「今ですか?ええと、緊急で無かったら後で掛け直します。」
アリスさんも同じくスマイルに連絡が飛ぶ。どうしたんだろう?トラブルでもあったのかな?
「おや?ああ、アレですか。確かお話にレイドボスの存在がありました。おお、凄い暴れようだ。」
ユウヤさんの感想にうんうん、と頷いて胸を張る。ふふん!レイドボスのサプライズが決まった!あれ?もうそんな時間だっけ?
「あのー、演出とは言え結構派手に壊しますね。それに‥‥わっ?!今飛んだの光学兵器ですか?!」
さっきからスマイルの着信音が止まらない。冷や汗を掻きながら、ボクとアリスさんは硬直して背筋がピンと伸びてしまった。
ごめんなさい。今、観覧車の頂上にいます。
遥か天空から街を見下ろせる一等地で、大事なインタビューを受けています。
本当は直ぐに行かなきゃいけないけども‥‥
今はもう少しだけ、知らないふりをしたいです。
現実を受け止めるのにはまだちょっとだけ。時間が欲しいなって。
『ラフィさま。現実逃避しても状況は変わりませんよ。にゃははは、レイドボスが暴走して大暴れ、キレたタマが銃ぶっ放して戦ってます。ああ、オウルさんの大魔法が人形を吹っ飛ばしました。しかし‥‥思いの外頑丈ですね、ネズミロボは。』
「すみません!ええと、レイドボス!ボク達で倒す所を観覧車から見ていて下さい!特別イベントですよ!」
「そ、そうね!今回限りのレイドボス解体ショーよ!あ、ははははは‥‥」
ぴゃっ!と転移で飛び出すボクを、声が上擦ったアリスさんは見送ったのだった。




