609、悪魔の歪めたマンションから天空の秘境まで大冒険
ボク達は今、遊園地。そして高級感溢れるマンションのエントランスを歩いていた。
「マンション型立体迷宮です。敢えて童話の雰囲気を無くして、実際にありそうなマンションを建てたんですよ。」
とは言っても、ギャラクシートイズのアセットをオーダーメイドで改造した物だけど。元々はお城として使うアセットを、マンション風に改装して置いていた。
「どのドアに入るのかしら。」
中庭の見える廊下には、ドアがズラリと並んでいる。上階へ直接向かえる階段や転移陣は無い。
「折角だし、この赤いドアを選ぼうかな。」
ドアの先には玄関、廊下に付いた2つのお部屋。突き当たりにリビング。リビングの向こうにはリビング。リビングを抜けた先にはリビング。
「はははっ、部屋が連なっているな。家具の展示会場みたいだ。面白い。何処かで見たような部屋が、不自然な形で連なる光景は不安にさせてくれる。しかし、嫌ではないな。この不安は冒険前のワクワク感の裏返しのようだ。」
そして3つのリビングを抜けた先で、部屋の中央に上階へ続く階段を見た。まだ先にはリビングが続いている。対面する別れ道。
「作っておいてなんですが、不思議ですよね。」
「この構造を作る為にすっごい苦労したわ。」
『にゃはは、空間の立体パズルですよね。色んな技術フル活用で何とかって所です。』
既に空間拡張技術が使われているこの空間内で、更に空間を拡張するのは不安定で危ない。確かすっごいお金の掛かる専用の軍事技術が必要だっけ。その代わりに空間を操る悪魔さんの知恵がオーパーツ的な技術を再現した。
鼻歌が階段を登って行き、階段の先にはまたもや廊下と並ぶ部屋。ドアを3枚潜った先で不思議な廊下に出る。
「廊下が途切れている‥‥?廊下が崖になってますよ。」
目前で廊下が真っ直ぐ奈落へ続くように直角に折れて、天井にあったライトが目の前を照らす。迂回出来るドアが左右にあるけど‥‥
「落ちたら支えてくれますよね!」
「あっ!ユウヤさん!」
まさかのそのまま直角に折れた奈落の廊下へ踏み出した!
グインッ?!重力の向きが変わってユウヤさんは再び廊下に立つ。驚いて振り返れば、崖になった廊下にボクとアリスさんが立って手を振っていた。
「これは一体‥‥?!重力ブーツの類いとは違う。足が地面へ縫い止められるような感覚じゃない。自然に重力の向きが変わったんだ。こう、一歩進んだ先で私は崖の壁面に立っていて。ラフィさん達から見たら私が壁に立っているように見えるんじゃないのか?強化外装も駆動魔具も着けていないのに。」
混乱する多弁なユウヤさんに追いつくよう、ボク達も崖になった廊下へ飛び出す。ストンと浮遊感も無く、自然な動きで着地。振り返れば崖になった廊下が見えていた。
「ワンダーランド、でしょう?」
技術を隠すアリスさんの影、ホロウインドウの中でフィクサーさんが笑う。ボクもイタズラっ子な気分でクスクス笑っていた。
不思議体験は続く。
最初はマンションだったのに、進むにつれマンションの見た目なのに明らかに不自然に歪んでいく。直角に折れた廊下、床と天井に付いたドア、廊下が捻れて捻れに巻き込まれたドアも同じく歪んで捩れる。床と壁の境目を跨ぐようにドアが折れていたり、壁に対して真横に引き伸ばされた細長いドアがあったり。ドアのデザインは都市でよく見かけるシックな物。日常で見るドアが異様な状態で散乱する廊下には、ユウヤさんの舌がよく回った。
「同じようなアイデアのアトラクションハウスは見た事がありますが、ここのは違う。見た目だけのハリポテ‥‥うーん。“そう作られた”ものじゃない。本来あるべき形を歪められた。空間がおかしくなった。そんな場所なんです。一種の禁足地のようなゾクゾク感を感じます。」
フィクサーさんは嬉しげに、
『見た目によらず鋭いですね。まぁ、高位の悪魔の知恵なぞお金じゃ買えない物です。ワタシはラフィさまの笑顔の為なら喜んで知恵を貸しますが。大悪魔が空間をオモチャにして歪めちゃった場所なんて、時代が時代なら神の棲まう禁足地として周辺住民に避けられるものです。』
文字通り悪魔が歪めた狂気の世界がマンション迷宮の奥地にあった。ドアを開けた先で、急にその後ろに隠された自動ドアが開く。廊下の先までずぅっと200mぐらい、10cm感覚に並んだ無数の自動ドアがちょっとずつタイミングをズラしながら開いて行く!
ユウヤさんはふらふらと自動ドアで作られた廊下を歩いて行き‥‥眩い光の先で爽やかな風を浴びていた。
「おめでとう御座います、悪魔のマンション迷宮Tルートクリアです!」
惚けるユウヤさんが眺める景色は遥か上空。人間サイズのおっきなトランプが風に流されて空を舞う世界。
「アトラクション到達おめでとうですわ。ここは悪魔のダンジョンTルートと、その他2つの方法でしか来れないアトラクションですの。」
地面を構成する土台もトランプ。表面ツルツル、でもたわまずにカチカチ。空飛ぶ絨毯のスキンをトランプに変えて、色々弄ってトランプで街を作ったら綺麗で面白いんじゃないかって。
「おお‥‥これは。」
トランプで出来た街、雲の彼方に浮かぶシークレットダンジョン。
「トランプの大橋へようこそ!ファストトラベルポイントに登録されましたよ!」
空に架かったトランプの大橋の上に、トランプで出来た街並みが続く。勿論お人形さんの商店もあるし、悪いお人形さんもいっぱい居る。
稼いだワンダーポイントで、ユウヤさんはトランプ貴族の衣装を購入。トランプ柄の貴族の正装はどこかピエロのよう。けれど背中のマントがちょっとカッコいい。
「ああ、審査員でした。いやはや忘れてしまいます。まだ開園前なんですよね。ヤバいですよ、これが正式に開園してしまったら。」
「元々アリスさんがずっと幼い頃から作り上げて来た遊園地の土台あってこそです。」
後から聞いて分かったんだけど、初めてここへボク達が来た時に空の上から竜宮城まで冒険した。けれど同じ遊園地の中に色んな独立した空間を作るのって、とんでもない根気と努力が要るらしくて。
こう、オモチャ箱の中に遊園地を作って。容量的に余った狭い空間を一個一個上手く把握して、本来ならお空の一部とかに使われるような空間を切り分けて全く別の独立した空間に組み直す。
思い付いても誰もやらないような作業をアリスさんはずっと続けていて。その時培った技術がこの遊園地に存分に活かされていた。
ぱっと見ぎゅうぎゅうに詰まったオモチャ箱を整理整頓、開いた空間に何でもかんでも詰め込んで。デフォルトで用意された地面もない空間に、地面に使えそうなパーツから購入して組んでいく。事業レベルに容量を拡張したアリスinワンダーランドは、そんな技術で沢山の小分けされた空間を用意出来た。
「元々こういうのは得意だったのよ。それに‥‥凄い遊園地を作ってお父様の気を引きたかったですし。お母様はお父様以上に忙しくてあまり関わる機会も無かったですけど。」
ウマミMAXの女帝は、自分の子供を産んだ後もずっと現役。
「今になって分かったの。お母様は私の為にこの会社をもっと大きくしようって奮闘していましたの。‥‥投資の勘も商才もお父様より優れていて。お父様が社内を纏めて地盤を硬くし、お母様が大きな商談を成功させて会社を大きくする。けれど私はオモチャ箱の中で拗ねて小さくなっていただけ。」
そういうアリスさんに自嘲する声色は無くて。趣味をそのまま事業に出来る、そんな機会を掴めた事を楽しそうにしていた。それに両親が後押ししてくれた事も嬉しかったって。
「結局、ボクを支えてくれる皆は必死なんです。メガコーポのトップに居るようなヒトでも、いつも努力してもっと上を目指すように奮闘しています。アリスさんもモモコさん達と同じぐらい頑張っていると思いますから。」
そんな皆の期待に応える為にボクも必死に頑張らなきゃね。トランプの大橋を歩く間コソッと心情を話し合った。
そして集合時間がやって来る。名残惜しそうなユウヤさんは、ボク達と一緒に転移でどんぐり広場へ戻ったのだった。
広場には既に皆集まっていて、キャンプテーブルの上にドリンクを置いて話し合っていた。集まった審査用の資料を見せ合って、今の内に少しでも進めたい総評の書類作成に忙しそう。
「やぁ、戻ったよ。いやいや、凄い遊園地だね。早速皆の冒険話を聞かせて貰いたいな。ああ、そうだ。もうお昼だし、フードコートやレストランはあるかな?」
ユウヤさん達へ、ボクはどんぐり広場の掲示板を指した。
「園内にはマップがそこかしこにあります。インタラクトすればアプリのマップへ未発見のアトラクションの場所が表示されたり、直接ファストトラベルポイントが追加されたりするんです。」
勿論隠されたマップ経由じゃないと行けない隠しアトラクションもあるよ!どんぐり広場の掲示板マップからは、ごちそう市場のファストトラベルポイントを登録出来る。その他インフォメーションセンターや、どんぐり広場のトイレへのファストトラベルも解禁されるんだ。
アプリマップを開いた時に、しっかりマップシステムのチュートリアルが表示されるよ!
注意深く観察していた審査員の1人が、既にごちそう市場の他に別のレストランを発見していた。
「折角ですし、“ハニーガーデン”はどうですか?偶々見つけたんですけど、レストランとして使えるって。ほら、マップにレストランマークが付いてる。」
‥‥探索すれば隠されたレストランやカフェなんかも発見出来る。全部料理を作る場所は同じ場所、店舗によって注文出来るメニューが違うけど。飲食はウマミMAXの専門分野、日本一大きな調理場を持つ料理部門をアジモトさんが当てがってくれた。作った料理は転移で送るから、普通にやったら人件費が凄そうで無謀そうな事が出来ちゃう。
共有されたファストトラベルポイントで皆が飛んだ先には、蜂の巣を模った大きなレストラン。周辺は森のようで、都市内にある自然公園の中にあるようだった。カラフルな葉を付けた木々に、奇妙な形の果実がぶら下がった面白おかしい森だけど。
「冒険って楽しいですよね。俺はマシュマロみたいなバスが民家の屋根上を飛び回ってるのを見て。偶々屋根の上へ上がれる民家を見つけて乗ったんだ。終着点はこの森の中だった。」
赤翼の協力のお陰もあって、空飛ぶ乗り物も充実。安全安心な空の旅はより移動を快適にしてくれる。
可愛い蜂さんの壁紙、蜂さんモチーフなインテリアがオシャレなレストラン。キャスト役のタマさん達は同席せず、ボクとアリスさんへ任せて別のお店へ飛んでいた。お食事代は経費扱い、でもアルコールは提供しないようアリスさんが事前に伝えてあるから注文出来ないよ!酔い覚ましを飲めば良いや理論で、コッソリ注文するのを見越した行動だった。
お酒好きなネズミさん達が棲まう地下世界のアトラクション内に、お酒も提供する居酒屋さんが何個かあるんだよね。地下世界の情報は街中のそこかしこでお人形さんから聞き出せたり、ウサギ新聞で匂わせがあったり。10のルートで到達出来た。
『7名様ご案内します!』
空飛ぶミツバチさんがボク達を席までご案内。遊園地内の大きなレストランは全席消音のマギアーツ加工で、どれだけ騒いでも周囲に音が漏れない。ここならはしゃいでも大丈夫!
机にはちみつを使った色んな料理がズラリと並んで、特にはちみつカレーにハンバーグが好評だった。ボクもあむあむ、はちみつソースが掛かったハンバーグをパクリ。甘くて美味しい。不思議な組み合わせだけど、専用にブレンドされたはちみつソースがよく合うんだ。
皆の冒険話も卓上へ並べられる。
「私は怪しげなキノコ料理を出すお店の話を住人から聞いて、行った先にキノコ料理店があったんです。お店‥‥というより、古民家カフェみたいな雰囲気。けれどお店の奥のバックヤードに普通に入る事が出来て。その向こうに広大そうなキノコの森が見えました。」
「悪い人形を倒した際に、消えずに逃げ出した奴がいて。追い掛けたらそのまま下水道エリアに入れました。下水道へ通じてそうな道は大体塞がってたのに。」
「城の方へジェットコースターで向かい、乗ったまま城のバルコニーにあるお庭に着けたんです。噴水が凄い綺麗で、そのまま中に入ったらちょっと迷子になっちゃって。」
「そういやお店で壁を歩けるブーツが売ってるの見ました。結構な額だったんで、何回かここへ通わないと手が届かなそうでしたけど。」
「あっ!私宝箱見つけました!お城の倉庫みたいな場所にあったんです!」
「下水道の先でも宝箱見つけたな。なんか下水道の一部の壁が壊れてて、そこから坑道へ入れそうだった。」
皆の話を記録して、撮った写真を確認し合い資料に纏めていく。そんな中、ユウヤさんが皆へ濃い冒険の話をしたのだった。




