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608、童話の街、観光道中!

ガイドラビット・フォレストから一歩出た先。ちょっとした箱庭感のあるちんまりとした明るいお庭。庭の中央に流れる小川には、ハスのような綺麗な花が沢山浮かんでいる。因みに園内で使われる植物類は全部造花の類い。


とは言っても、“リアリティフラワー”って種類の高級品。正直専門家でも無い限り本物と見分けの付かない、そんなクオリティの造花は最低限の手入れでも輝きを失わない。遊園地を皆で作る際に少しずつ欲しいってなっては買い足して、虹渦島の植物のデザインの物をオーダーメイドで用意して。一個一個拘って配置した物なんだ。


お庭にはノームさんが住むような小さな家が連なって、小人の街を見下ろしたまま歩いて行ける。精密3Dプリンターで作られた家は内装までしっかりあって、街のデザインも都市計画に則って作った物。適当配置じゃなくて、本当に街づくりしたんだ。


でも結局それらは全部ただの背景。審査員達が見下ろしたそれは、小人の街と比較してあまりにも壮大な童話の街だった。


ここから街の景色が一望出来るよう、ガイドラビット・フォレストは小高い丘の上。それも1kmぐらい街と離れた場所。厳密にはガイドラビット・フォレストは街とは別の空間にあるんだ。


同じ空間内に見えるよう設定された、小分けされた別空間。見た目だけで地続きにはなっていない。


見下ろした街の中心には巨大で荘厳なお城。リアルなレンガ色というよりも、純白輝かしい城壁と青の尖塔が美しい芸術品のよう。薄虹の水路がお城をリボンのように巻いて、その上をキラキラ光る無数のプレゼントボックスが流れて行っていた。緑、赤、青‥‥プレゼントボックスはクリスマスツリーに飾る装飾品みたい。


クリスマスツリーの装飾ってキラキラですっごい綺麗な色合いで。ボクの好きって意見に皆賛成してくれた。あの色合いをお城のスキンに使ったら、予想以上に神秘的で綺麗なお城が出来たんだ。


街は本物の都市として作られていて、その構造は都市計画の専門家さんの監修を受けて制作された。童話な家々が立ち並ぶ城下町の全ての建物に入れるし、どの家にも童話の世界の住人が住んでいてもてなしてくれる。


アプリと連動して、会話のやり取りを個別に記録。セーブデータを引き継ぐ限りは街の住人と仲良くなって関係を結ぶ事も出来るんだ。その為にオウルさんの魔法だけじゃなく、簡易なAIチップを搭載していた。


アプリ経由に命令を受けて、この世界全体を管理する事業コアシステムからデータをダウンロード。AIチップが処理してオウルさんの魔法へ情報を反映させる。セーブデータはアプリ内で管理、お人形さん自体にはメモリも搭載されていない。


やってる事は複雑でも、お人形さんを高精度に自律させられる魔法の存在を中核に安価に仕上がっていた。


見下ろした城下町には沢山ランドマークがあって、他の世界へ続く入り口がある建物がそこかしこに。


「凄い‥‥今まで色んな遊園地を見てきたが。遊園地というよりは街だ。童話の街が現実にある。」


ユウヤさんの感極まった声。他の審査員達も思わず写真を撮ってはしゃいでいた。


「ふふん、まだまだこれからですよ。移動はファストトラベルが出来ます。少額の課金が要りますが、セーブデータを保存していれば退園した後もアプリ内に登録したファストトラベルポイントをそのままに出来るんですよ。」


モモコさんの協力で虹渦島でも使われた転移技術を一部使っていた。何処からでも転移で移動が可能。でも、転移出来る先は実際に街を冒険して自力で探すんだ。転移先は決まった場所だけに限られるから。


じゃないと幾ら街が広くても、全部移動を転移で済ますようになって勿体無いしね。勿論主要なアトラクションには転移で即座に移動出来るよう、ファストトラベルポイントが設定されていた。


「1日じゃ絶対に遊び尽くせないんです。ここでザッと街で出来る遊びの一部をご紹介します!」


パッと開いたホロウインドウが情報を一纏めに表示する。



【ようこそ!アリスinワンダーランドへ!街遊びを一部紹介!】


『悪いお人形をやっつけよう!ミニイベントも盛り沢山!』

悪いお人形さんがお店を襲撃?!観覧車を占拠?!街の住人と派手にパイ投げ大会?!ミニイベントをクリアして更に大量ワンダーポイントゲット!


『街の住人と交流しよう!』

家に入れば街の住人がもてなしてくれる!ワンダーポイント大量ゲットチャンスの宝庫、ゲームセンター!カジノ!

麻雀の卓を囲う家も何処かにあるかも?


『街の冒険要素は一杯!』

民家の押し入れに宝箱?!毎日ランダムな位置へ姿を現す宝箱を開けばワンダーポイントゲット!それ以外に武器のスキンや、ARコスプレ衣装も‥‥?

アトラクションの入り口が地下下水道の隅っこに?住宅街の怪しげな光を放つ家に?壮大なお城の中にも?!探してファストトラベルポイントを増やして行こう!



勿論探索を楽にするアイテムを、ワンダーポイントと引き換えで街中にあるお店で購入出来る。最寄りのアトラクションの位置がざっくり分かったり、付近の宝箱をスキャンして探したり。


「これはアレですね。OWゲームという物を現実へ落とし込んだ。そういう遊園地です。しかし、遊園地の本懐とも言えるアトラクションを自力で探す。確かに新体験です。」


「はい!今回はアトラクションまで案内しますか?時間を決めて自由に探索出来るようにしても良いです。」


「折角ですから冒険を楽しみましょう。一般客と同じ体験を通して審査させて頂きます。」


転移のチュートリアルを得て、皆で街の一画へ飛んだ。


”どんぐり広場“。そこがこの遊園地へ来た人々の最初のファストトラベルポイント。どんぐり、リスをモチーフにした家々が立ち並ぶ。見下ろした際、お城の反対側にあるこの広場は先に街の全景を見ていても初見で楽しめる。初っ端から意外性でびっくりさせるよ!


「立ち並ぶどんぐりの家、全部入って中を探検出来ますわ。家具から何までこんな家を作りたいってアイデアを出し合いましたの。」


「ボクのミニフィーの人海戦術と、ギャラクシートイズから買い入れた沢山の装飾セットのお陰でサクサク作れました。」


このどんぐり広場の中心部はセーフゾーン。セーフゾーンから出たらアプリに通知が入って、悪いお人形さんがそこら中に居るエリアになるんだ。


「では各々時間まで自由行動‥‥個別審査を行うように。」


ユウヤさんの一言で、わっ!と皆小走りに散って行った。


「ははは‥‥すみません。我々もギャラクシートイズの社員。こういう雰囲気には弱いんです。かく言う私も駆け出したい気分ですよ。」


「大丈夫です!ではキャストの皆さん、各自案内をお願いします。」


「ラフィもちゃんと案内しなさいよ。」


タマさん達が審査員のヒト達へ同行していった。ボクとアリスさんは審査員長のユウヤさんを手厚くサポートだよ!


手始めに数件、どんぐりの家をユウヤさんは覗いて行った。どんぐりの家は文字通り、地面から直立したどんぐりをくり抜いて作ったような家。二階建てだったり、高い天井から連なった木の実が干されていたり、地下があったりと同じような外観でも内装が結構違う。


『失礼!ここはワンダーランド、旅行者の方でしょうか?私はウサギと申しまして!失礼!』


ボク達が初めて会ったお人形さんもウサギさんだった。タマさんにビームシュナイダーで掻っ捌かれそうになったりと大変だったっけ。中身が繊毛AIで出来たお人形さんも居る。アリスさんが元々持っていた個性豊かな住人達も。この新しい街に住んでいた。


「ああ、旅行で来たんだ。地下を見ても良いかな?」


『お好きにどうぞ!私は記事を一筆したためるのに忙しいのです!ああ、変わりゆく城下町を記録していかないと。』


ウサギさんの作った新聞は実際に読める。城下町のそこかしこに“ウサギ新聞”が隠されていて、インタラクトすればアプリに記録されるんだ。城下町をボク達が作った際の小話、作られた経緯、設定上の歴史が載っていた。


因みに一定数集めてウサギさんへ話し掛ければ、収集クエスト報酬でワンダーポイントやウサギさんとお揃いの記者衣装を入手出来ちゃう。


「開園したら常連さんにならせて貰うよ。ははは、コレクションアイテムってのにも弱いんだ。」


覗いた地下で発見した謎のレバー、下ろせば金属音と共に雑貨を乗せた棚の一つが横へズレる。薄青い炎を宿したランタンが並ぶ謎の地下通路を覗き見た。


「おおっ。しかし。ああ、悩むな。この葛藤が冒険か。いや、今は良い。地上にあったジェットコースターが気になっていたんだ。審査員として定番は押さえておきたい。」


このまま怪しい地下通路へ行くべきか。でもぱっと見結構深そうで、もしかしたらそのまま別のエリアの地下まで繋がっているのかも。それか広大な地下ダンジョン?行ったら時間一杯使って冒険する事になってしまう‥‥のかも。


思わずボク達はニヤニヤ。そうそう!行くべきか、今回は見送るか。ボクも冒険の最中そんな葛藤に何度も直面した。チラリと見えた洞窟の入り口、湖の底に見えた地下水路、何かありそうな珊瑚の森。けれど予定を優先して、後で良いやと見送ってしまう。


ユウヤさんは正しく冒険を楽しんでいた。


「あのジェットコースターのレールはこの街全体を一周しています。つまり、環状線なんです。」


ただのアトラクションじゃなくて、都市インフラ。ジェットコースターで駆け抜けながら広大な街の別エリアまでひとっ飛び。新しいエリアの開拓も出来るし、移動も楽しい。少しの間も暇させないよ。


「ふむ。確かにこの街から徒歩でエリアをしらみ潰しにか冒険するよりも、ジェットコースターに乗って気になるエリアへ一気に行けた方がテンポが良い。考えられているな。」


ジェットコースターは電車のように何両もあって、同じ周期でぐるぐると都市内を回っていた。特に交通が多そうなエリアは3レーンに分かれていたりと、交通機関も万全!


街全体にミニフィーを沢山放って、実際に混雑したらどんな問題が起きるか予めシュミレート済みなんだ!


乗り場はアプリのマップを見れば現在地と一緒に、徒歩何分かまで表示されて分かりやすい。ガイドを選択すれば地面に薄っすらと、ユウヤさんだけが見れるガイドラインのARが現れた。


「じゃあ、ユウヤさん!」


「ああ。行くぞ!」


乗り場に悪いお人形さん達がたむろしていた。ユウヤさんが引き金を引く!感覚フィードバックによって、実弾を発射しているかのような射撃を楽しめる!目つきの悪いクマさん人形達が、わーっ?!と吹き飛んで転移で消失してしまった。


短い間の戦闘でも、ユウヤさんは上気した顔で額の汗を拭う。


「良いぞ!良いぞ!!ハァーッ!すみません、年甲斐も無く。興奮して息が。」


「大丈夫です。落ち着くまでそこのベンチで座っていても。」


「もっとオモチャ銃かと思ったら、まるで本物ですね。オーダーメイドとお聞きしましたが、凄い。ギャラクシートイズに教えて欲しい技術ですよ。」


モモコさんの工場で作ったオーダーメイドだからね。‥‥シブサワPMC旅団大隊で仮想訓練に使われる、感覚フィードバックデータを融通してくれた。ここから持ち出されなければOK。ボクのお願いっ!にモモコさんは笑顔で応えてくれる。


‥‥そんなやり取りを見たレイホウさんも、ニッポンイチPMCで過去に使われていた感覚フィードバックデータを譲ってくれた。現役じゃ無くても実際に使われていた一級品。お陰で武器によってフィードバック体験も多彩なんだ。


「持つべきはコネですわね。」


「あはは‥‥本当にここだけでしか楽しめない感覚です。」


つまりは見た目はトイ・ウェポンでも、軍事用仕様の射撃体験!市販品じゃ届かないズルい爽快感!思わずユウヤさんも興奮して息切れしちゃった。


今のやり取りでゲットしたワンダーポイントと経験値が、視界の邪魔をしない半透明なリザルト画面に表示される。2レベルまでは後3回も戦えば届いちゃう。10レベルまでは1日普通に遊んでいれば楽に届く設計だった。朝来て、夕方にはロケットランチャーを撃ち放って遊べるんだよ!もっと上のレベルに見える、連装式ミサイルランチャーを見たら絶対また来たくなる!セーブデータに課金してでも!


ふとベンチの下に新聞紙の束が落ちている事にユウヤさんは気付いてくれた。視覚センサーが新聞紙を認識した事を判別、パッとアプリのコレクションにウサギ新聞のログが追加された。


「ウサギ新聞、データログ#1。50以上あるんですか。集め甲斐がありそうだ。」


ちょっと待つ間にも数回の襲撃、待ち時間を楽しみながらやって来たジェットコースターへ皆で乗った。


きゃーっ!(,,>᎑<,,)思わず声を上げるボクの眼下を、街の景色が目まぐるしく流れて行く!巨大どんぐりの中を通って、出た先で大きなマンションを見た。


そう、マンション。


現代的な高級マンションに思わず興味を引かれ、ユウヤさんは駅で降りる。


「びっくりしたかしら?童話には現代モチーフな童話も沢山あるわ。でもここはラフィの冒険を追体験する場所なの。」


「マンション迷宮ですよ。寄って行きますか?」


「勿論だ。立体迷路を踏破してやろう。」


楽しい、と求める足がそのままマンションのエントランスへ向かって行った。

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