605、お姫様が王子様へ手を差し伸べる
アリスさんとボク達の遊園地を作る為に、S.N.S連盟へ呼び掛けて必要な資材を提供して貰っちゃおう!そんな話にチズルさん達はヒヤヒヤ顔。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「シブサワはラフィが挟まれば理性的なイメージもあるがよ‥‥」
「ニッポンイチは俺らほぼ面識ねぇよな。」
「赤翼って何処にも忖度せずに企業社会の自由人枠でやってる連中だろ?協力なんて仰げんのか?」
ザワつく大人達を代表するかのように、チズルさんが問い掛ける。
「アイツらラフィにはそりゃ甘いけどよ、お前は他企業の令嬢に過ぎないんだ。言いなりになる道理はねぇし、そもそも会ってくれないと思うぜ。」
ブランさんも当然とばかりに、
「ウマミMAXの代表でも無い令嬢が、S.N.S連盟のトップにお目通りなぞ片腹痛く御座います。せいぜい外交官にあしらわれるだけでしょう。」
やろうとしている事の大きさを考えたら、趣味の遊園地作りで手を出すには危険過ぎる交渉。提供を募る‥‥貢がせるなんて、交渉の主導権を握って動かないと無理。
「勿論分かっていましてよ。ですがフィクサーさんに言われて確かに‥‥勝算があるように思えましたわ。厳しい道ですが、これも試練ですわね。」
アリスさんは早速ボクへ交渉を。
「ラフィと一緒に作った遊園地だもの。S.N.S連盟の皆さんへお繋ぎ出来るかしら。私の為に動かなくても、ラフィの為になら動きますわ。」
タマさんの横槍をアリスさんはひょいと躱す。
「言っとくけどラフィに交渉を押し付けて後ろで見ているだけなら───」
「交渉は私がやりますわ。繋ぐだけで良いのです。ラフィに頭を下げさせるような事はさせませんから。」
そもそもこの話はお金が無いから何とかしようって話じゃなくて、一種の挑戦。アリスさんの成長の機会へ繋げてしまおうって提案。2IFAIを買い揃えるだけなら正直、アリスさんの貯金額からしたら払えない金額じゃない。1個5000円を1000個仕入れて500万円。コーポの令嬢の金銭感覚的にも趣味の贅沢で使える範疇だと思う。
開拓者の金銭感覚でも、1個1000万円を超える装備を買い漁るから。やっぱり凄い金額って印象は無かった。
「ですが、ラフィには軽い口添えをお願いしますわ。説得は私がするとして、やりたいって気持ちをハッキリ出して欲しいのです。私に利用されているなんて思われないように。」
「ブランさん、プレゼンの時間は30分。セッティングをお願い出来る?必要なら料金を支払うわ。それとシャーリアの実情について開示出来る範疇でも良いから教えて下さる?」
「オウルさん、一緒に来て魔法‥‥歌の実演をお願い出来るかしら。将来的にその歌で貴女が月々多額のマージンを稼ぐチャンスなのよ。気合い入れなさい。」
「チズルは当日護衛として付かなくて良いわ。分かるでしょう?コーポの交渉マナーよ。」
他にもカテンさんへ遊園地のプレゼン用の空撮を依頼して、タマさんとフィクサーさんへ専用アプリの方向性の指示書を送付する事を伝えた。テキパキと皆を動かすアリスさんは凛々しくて、モモコさん達にも感じるデキる雰囲気を纏っていた。
使えるものは何でも使う姿勢で、手際良く皆へ指示を出してどんどんプロジェクトを押し進める。3日後、ボクとブランさんの呼び掛けでS.N.S連盟のトップ達が一堂に会する機会を得た。
場所はパンタシアの応接室、皆で作った遊園地を本格始動させる為にモモコさん達へ売り込むんだ!
時間早くアリスさんが1人で来て、応接室で最後の打ち合わせをした。ボクはやりたい!を伝える役目。アリスさんが実利的な説得をして、遊園地に対する物資の提供を募る。ホロウインドウの中のフィクサーさんはそんな様子を楽しげに眺めていた。
緊張気味なアリスさんに対して、タマさんは傍観者気分で寛いでいた。
「別に失敗しても失うモンなんて無いわよ。ウマミMAXもメガコーポだけど、S.N.S連盟を成す連中からしたら傘下企業1個分と大差ない規模の企業。シブサワフードカンパニーと同格でしょ?デカいけど上には上がいるというかさ。好奇の目で見られるぐらいでしょうね。」
ブランさんも会議がどう動くか楽しみだって隠さない。アリスさんの挑戦をエンタメ感覚で楽しんでいた。500万円の綱引き、果たしてどうなるんだろう。
暫くすると時間に少し遅れてモモコさん達がやって来た。今回の主催がアリスさんだって話は通っていて、だからか敢えて遅れて来た風な皆は忙しくてねと言っていた。
「とは言えラフィ様のお時間を無駄にした分、後で埋め合わせてさせてやりますよ。」
ブランさんの遠慮無しな態度にモモコさん達は苦笑で返したのだった。メインはアリスさんでも、場所はパンタシア。向こうからしたらボクに頼った交渉に見えていると思う。
でも‥‥
「まさかセイテンが来るなんてね。ビャクヤを寄越すと思ったわ。」
タマさんの指摘に屈託の無い笑顔で返す。今日は1時間ほど隙間時間が出来たみたいで、面白そうだから覗きに来たって。
「遊園地、良いじゃないか!ああ、ビャクヤと最後に行ったのはいつ以来だったか。いつの間にビャクヤも立派になって、中々機会に恵まれなくてな。」
緊張するアリスさんの手をボクの手が握る。癒しの力で心を優しくほぐしてあげた。大丈夫、皆話せば分かってくれるよ。
第一声、アリスさんの声で始まった。ボクの手をそっと離して、恭しく皆へ淑女の一礼をする。
「皆様、今回は私ウマミ・アリスの呼び掛けに御足労頂いた事に感謝致しますわ。私とラフィ、その仲間内で進めていた遊園地再建プロジェクトについてご提案がありますの。」
モモコさん達も軽い自己紹介を交わしつつ、挨拶を最低限に話を進めるよう促した。
先ずは遊園地についての説明から。
「ギャラクシートイズが販売する、“持ち運べる遊園地”。プライベートルームにも使われるP.A.R.S技術を応用して作られたオモチャ箱の中の異空間。そこへ遊園地を建造しておりますの。」
そして出来上がった遊園地の空撮写真が、応接室の壁面スクリーンへ投影された。同じく遊園地全体のARが応接室の卓上へ表示される。セイテンさんの嬉しげな声、モモコさんの感心する息、レイホウさんの興味の視線。先ずは好感触。
「既に外観は9割完成しています。内部のアトラクション施設に関しても、テストが済んで稼働待ちですわ。でもこの遊園地の1番の売りはそこではありませんの。」
この遊園地の楽しい!の中核を成すアクションRPGゲームについては既に資料を配布済み。モモコさん達も目を通してからこの場に来ている。けれど敢えて企画書の中に伏せられた情報もあった。あくまで何をやりたいのか、必要な資材は何かという物を説明した物だから。
「面白い事を考える。企画の概要は知っているが、実現性はあるのか?」
レイホウさんの指摘、モモコさんも妙な穴の空いた企画書だねと試す視線。繊毛AIを使わず、普通のお人形さんを使う点のような違和感のある内容。けれどブランさんが目を通して問題無しとしたから配られた企画書。
確かに好奇心をくすぐられる。会議が早く実現したのも、皆が気になったからだと思う。アリスさんの計画通りだった。
「改めて説明致しますわ。」
“アリスinワンダーランド”と名前の付いた遊園地、そこで開催される体験型RPGアトラクションの説明を。
遊園地を訪れたプレイヤー達は、エントランス施設でキャラクター作成を行う。ルール説明のアプリを見ながら使う銃の種類を決めるんだ。銃の収納が付属した、リストバンド型のバリア装甲発生装置を装着。そして簡単なチュートリアルを経ていざ入園!
ルールは簡単、トイ・ウェポンで悪いお人形さんを倒してレベルアップ!レベルが上がる度に使える銃の種類が増えて行く。そして上がったレベルでアトラクションが解禁、アトラクション初回利用報酬で大量経験値ゲット!
その他お人形さんを倒す度にワンダーポイントが手に入る。勿論アトラクション初回利用報酬でも。このポイントを使えば、遊園地内での飲食やお土産屋さんの料金を大幅に割引けた。
「データは退園時に全て消えてしまいますが‥‥月パス、年パスを買う事で一定期間の間保持する事も可能です。同じデータで何度も通えば、すっごい武器を手にする事が出来てしまうかも。そのような企画ですわ。」
説明に対して皆は思いの外真剣な顔で考え込んでいた。そしてアリスさんはこのプロジェクトの中核を担う魔法を発表する。
「肝心な敵役、お人形は魔法で操って操作しますの。完全に自律して動く奇跡の魔法ですわ。」
応接室へぽてぽてと歩いて入ってくるお人形達、そして率いるオウルさんはドヤ顔でモモコさん達を見回す。
「アリスは私の歌を買ってくれるそうだ。風の主のダンジョンで劇場の罠を制作したのは私。キミ達は価値を見出さなかったけど、ヒトが変われば値が付く事を知れた。」
ブランさんも指摘する。
「シブサワPMCと共に大規模ダンジョンを探索した軍事データは送信済みで御座いますが、今の今までこの技術に関しては手付かずのままでした。金の糸にばっかり目が行って、色々深掘れば見落としがあるのでは無いのでしょうか。しかしこの技術を先に買ったのはアリス嬢で御座いますので諦めて下さいませ。」
流石にモモコさん達は動揺していた。ザッと聞いただけで幾らでも良い利用方法が思い付く、より安価な無人ドローン技術の代替案となり得そうな魔法。ボクもこのお話が進むまで忘れていたし、やっぱりエルフの魔法はこの時代にも通用するのかもって。
「うぐっ。そう言えばオウルさんにはそういう聞き込み浅かったね。」
「いつもラフィと行動していたからな。貴族達との仲介役もあって、オウル自身が魔法の達人だという認識が曖昧になっていた。」
「これこれは。アリス嬢、その技術を共有して頂けるとしたら‥‥」
セイテンさんの交渉をやんわりと流して続ける。パッと飛び付くような姿勢を見せず、それでいて話を最後まで聞いてと聞く姿勢を維持させる。
『ここで交渉に乗せられれば、この場での主導権を失いますからね。ほら、セイテンさんの関心した顔。アリスさんはちゃんとしていますね。』
この魔法でお人形さん達を動かして、2IFAIバリア装甲と組み合わせてゲームを作る。初期投資安上がりでランニングコスト格安、それでいてアップデート内容次第では長期に渡ってお客さん達を釘付けに出来る。
ボクの名前を出すから宣伝効果大、世間から注目されるこのプロジェクト。
「私は良い提携先を只今募集していますの。私の箱庭の遊園地で、最高のエンタメを作るお手伝い‥‥など如何でしょうか。」
ボクもしっかりアピールするよ!
「この遊園地はボクも最初から関わっていて、とっても綺麗で楽しい場所になったと思うんです。でも折角だから、もっと多くのヒトに遊んで行って欲しいなって。皆で集まればもっと楽しい遊園地になるって思ったから。ですからボクも皆さんも仲間に入れたいなって。」
タマさんも寛いだままザックリと纏めてしまう。
「ぶっちゃけ趣味でやるにはプロジェクト規模デカくなり過ぎたし、遊びで済ませるには商業価値モリモリなモン作れる目処が立ったのよ。けれどウマミMAXはエンタメ事業に弱いでしょ?会社から予算引っ張れないでしょうし、令嬢のお小遣いだけじゃ危ういのよ。」
モモコさんは早速、「ならシブサワグループが必要経費を全額持とう。」なんて。ブランさんの遠慮の無い失笑がやけに応接室に響いた。最初に無理な交渉をして落とし所を探るのは定石でも、ちょっと無理筋過ぎだよね。オウルさんの魔法の件で大分動揺しているようだった。
「ニッポンイチはこういう事業に強い。なにせ有名なIPは大抵漫画一が持っているからな。コラボ企画の積極提携をしても良い。聞いた話ではコラボ企画の相性も良さそうだ。」
レイホウさんは冷静に、現実的な提案をして来た。確かに普通よりも良い条件でコラボ企画を組めるのならもっと人気を集められる。ボクの好きな漫画ともコラボしちゃったり?企画者側に回れると思うとワクワク。
「赤翼が技術提供を行おう。折角だ、空もエンタメの場にしてみないかね?こちらとしても、遊園地経営は未体験でね。新しいタクポ技術の開発にも繋がるかもしれない。我が社は実用性重視、少しばかり遊び心を学んでも良いんじゃないかって思うのだ。」
セイテンさんも魅力的な提案をしてくれた。赤翼の凄さは体感して分かってるから、手を貸してくれるのなら心強いな。
モモコさんも負けじと、
「もし本格的に事業化するんだったら、アリスさんだけでは管理し切れないと思うんだけどどうかい?ウマミMAXにはノウハウが無い。けれどシブサワには遊園地経営の確実なノウハウがあるんだ。」
「絶対成功させたいのなら、独占せずに共同運営というのはどうかな。勿論アリスさんに主権がある事は保証するし、こちらはお手伝いさせて頂く立場だよ。」
アリスさんはその一言を待っていたと言わんばかりに笑う。モモコさんはギクっとした顔。
「それは魅力的な提案で御座いますわね。でしたら共同で運営する以上、もう一歩仲良くなるのは如何でしょうか。信頼出来るパートナーとして互いに認め合う為、ウマミMAX社もラフィのスポンサーとなってS.N.S連盟へ加入致しましょう。」
びっくりするボクへアリスさんは笑顔を向けていた。流石のタマさんもソファーから転げ落ちて唖然。セイテンさんは思わず吹き出して笑っていた。




