604、遊園地建造計画へ悪魔が試練を与える
「遊園地が悪のお人形さんに乗っ取られちゃいました!倒してアトラクションを解放!貯めたポイントでウマミMAX限定メニューと交換しちゃおう!」
ボクのアイデアを要約するとそんな感じ。皆ワクワク顔で続きを催促する。
「繊毛AIによる悪のお人形さんを遊園地中にばら撒きます。プレイヤーはIFAIが搭載されたバリア装甲発生装置を装着、お人形さんにタッチされる度にバリア装甲に設定されたHPが減って行く仕様にします。」
IFAIはこういうゲーム用に開発された、細かに条件を設定して内部でフラグを管理出来る特殊品。ギャラクシートイズが販売してるんだよね。サバゲーとかでもよく使われる物で、ヒットした瞬間にバリア装甲の色が変わったり‥‥とか設定出来るんだ。
そしてそれはお人形さんにも搭載する。
「使用する武器はトイ・ウェポン、レーザータイプ。実弾が出ない代わりに、実銃を撃ったような感覚フィードバック機能が搭載された高価格帯の物を使います。」
引き金を引く度に、銃口から不可視のレーザーを照射。お人形さんのバリア装甲に当たればIFAIがHPの減算処理をする。
「HPがゼロになったらプレイヤー、お人形さん共に転移でホームへ帰還されます。お人形さんを撃破する度にポイントが入って、アトラクションの開放や限定メニューと引き換える事が出来ちゃうんです。他にもアチーブメント機能もあって良いかも。専用のアプリ開発が必要ですけど、ローカルで使うのならアプリ制作AI任せでもイケると思います。」
すかさずアリスさんが挙手、はいっ!何でしょうか!
「経験値、レベル制も導入しましょう。ふふん、重要なのは持続性。一回遊んだらもう良いや‥‥ではなく何度も来訪したくなる魅力なのですわ。プレイヤー個人毎にセーブデータを管理するのです。少し複雑ですけど、そうですわね。アプリ開発は外注しましょう。報酬は弾みますわよ。」
視線の先、タマさんとブランさんとフィクサーさんが居た。タマさんはハッカーだけどアプリ開発は専門外、それでも電子に強い3人ならいけちゃうかも?
「開発はともかく、脆弱性検査は専門分野ね。」
「その程度の簡単なアプリでしたら当機が制作致しましょう。」
『ワタシもお手伝いしますよ。にゃはは、専用のアプリ開発とは面白くなってきましたね。』
カテンさんの意見がそこへ一石を投じる。
「そもそも実体は必要か?繊毛AIに関してよく知らんが、ARの方がコスト安いと思うのだが。」
「ARじゃ迫力には妥協が必要になるわね。ゲーセンクオリティで受賞出来るんならそれでも良いけど。」
一石を受け止めたタマさん、指で弾いてカテンさんへあっさりリリース。ARは便利だけど、実体があるか無いかで大きな差が出るのは間違い無いと思う。大気をかけわけそこに“居る”という存在感、それを気配と言う。ARは所詮宙へ投影された映像に過ぎなくて、勿論気配なんて無かった。
出力された訳じゃない自然な足音、地面の振動、その全てがリアリティ。そこに妥協した時点で満足感に天地の差があるとボクも思った。
「予め概要は聞いている。繊毛AIとやらはかなりコストが掛かるのでは無いかな?」
オウルさんの意見は現実的。プレイヤーが1人、2人だった場合なら用意する敵役も少し居れば済む。倒されたら転移で消えるから使い回せるし。
けれどこの話のまま進むとサービスの規模はガッツリ商業レベル。お友達数人を呼んで楽しみましょうって規模じゃなくて。ウマミMAXが総力を上げる程の予算が要求されるんじゃないかって。
「そうだな。繊毛AIって安物なら10万円ぐらいだけど、IFAI搭載となると50万円は超えるんじゃねぇのか?本格的にRPG要素追加すんなら、演算容量も相応のモン確保しなきゃいけねぇし。仮に1人当たり10体当てがう計算だと、100人呼んだら1000体。5億すんぞ。」
うわぁ。でも安全性を考えるとトイ・ウェポンの銃で戦うのが前提。実体剣とかだとオモチャでも興奮して振り回したらぶつけ合って怪我しちゃうかもしれないし。
でも銃で戦うのに1度に2、3体しか出ないとこう‥‥迫力が。チマチマした戦い続きで爽快感無いし。
「そうですわね。元々お父様に買って頂いた繊毛AIのお人形さんを結構持っていましたが、値段はピンキリでしたわ。簡単な指示に沿って動くだけの物は1万円。大半のお人形さんはこれでした。勿論この企画で使うのなら、チズルの言う通り最低でも50万円越しの物が欲しいですわね。」
IFAI搭載って所で一気に値段が上がっちゃう。更に転移を仕込んだりするのも結構なコストが掛かるし。う〜、冷静に考えるとポンと10億円単位で出すのは無理かな。
「ラフィの懐で計算するなら、将来的に稼げる金額を勘定に入れて払える金額よ。ラフィプレゼンの遊園地、絶対ファンがじゃぶじゃぶお金を落としていってくれるでしょ。」
タマさんの皮算用に、ブランさんがお絵描きアプリに描いた餅を見せつけた。理想は高く、でも現実的じゃない。アミューズメントパーク運営はウマミMAXの本業じゃ無いし、アリスさんの個人的な趣味の範疇のプロジェクト。10億単位で投資するのはちょっと。
「ゆうて最低金額だぞ。定員数100人の遊園地って寂しくねぇか?実際は下手すりゃその10倍は呼ぶ。500億規模の社運を賭けたプロジェクトになるな。」
大賞受賞は通過点に過ぎない!夢はおっきく商業化!アリスさんの遊園地で世間を賑そう!
そんな都合良く簡単に行く訳もなく。
「‥‥まぁ、夢は夢よね。現実的な落とし所を探しましょう。」
アリスさんも苦笑しつつ、同じ表情の面々を見回した。
「ぶっちゃけ今まで誰も思い付かなかった人類史上初のアイデアじゃないでしょうし。思い付いても冷静に計算したら無理っぽいとなって皆やらないだけ。実際に遊園地経営してるシブサワアミューズメントでもやってないのよ?」
シブサワ系列のメガコーポの一つ。ボクも前に遊園地の広報のお仕事の為に呼ばれた事があるっけ。あの時は1日遊園地でいっぱい遊んで楽しかったな。
「あはは‥‥すみません。無理なアイデアを出しちゃって。深夜のテンションで皆で盛り上がった企画なんです。今思えばちょっと現実的じゃ無かったです。」
ふと、アリスさんの視線が止まった。その先でオウルさんが考え込んでいて。目敏く黙ったままのオウルさんに気付いたようだった。このまま話題が流れたら、多分言い出さないままになってしまいそうな感じ。ボクも様子に気付いてR.A.F.I.S.Sで心をつんつんした。
「オウルさん、何か意見があれば遠慮しなくて良いのよ。聞くにラフィさん達の仲間に迎え入れられたそう。でしたら、オウルさんを私は受け入れますわ。」
ボクも、
「大丈夫です。良いアイデアがあるのですか?」
覗き込めば目が合った。オウルさんは収納から杖を取り出し、近くに座らされていたクマのお人形さんへ先端を向けた。
「例えばだが。」
するとクマさんがピクリと動き出して、その付近に居たお人形さん達も次々と命を得たかのように動き出す!皆びっくりして思わず後退った!
「きゃあっ?!」
「歌を奏でて操っただけでは無い。簡易的ではあるけど、歌を纏わせた。‥‥つまりは、今の私はあれらを操作していないんだ。事前に指示した動きを行わせている。」
人形の強度の問題で、自律して歩ける物とへたり込んでしまった物に分けられた。オウルさんが見せた魔法はどこかで見たのを覚えていて。
「あっ?!もしかして。」
「ラフィは覚えていてくれたようだね。風の主のダンジョン内、あの劇場の罠を作ったのは私だ。」
無数のエルフ達に似た魔法人形が闊歩していた劇場の中の街。確かにあの時、罠の提案をしたのはオウルさんだって話していた。提案したって事は作れるって事。あの時は敵の軍隊の足止めの為に、千体以上の数が同時に動き回っていた。
「これなら繊毛AIというものは必要無い。人形を動きやすよう強化する必要はあるけど‥‥そうだね。恵み糸を内部に通そうか。廃墟骨格だっけ。廃墟に丈夫な糸を通して頑丈にする道具を見た事がある。真似てみよう。」
オウルさん凄いっ!!繊毛AI搭載のお人形に拘らず、普通のお人形を使うのなら一気にコストが安くなる。
「良いじゃない!!面白い魔法を使うのね!大丈夫よ、技術料は支払うわ。そうね、この遊園地のプロジェクトが上手くいったら月々マージンを払う契約を結びましょう。」
「お金になるのか?」
「そうよ。私は技術を安く買ったりしない。優れた技術にはキチンと対価をね。」
むふー、とオウルさんは顔を紅潮させて嬉しそう。
「ええっと、IFAI搭載型のお人形さんは良いお値段がします。けどIFAIが搭載されただけのバリア装甲でしたら1番安い物で5000円です。」
フィクサーさんがこっそり見せてくれたカタログを、チラ見しながらボクも頑張って意見を出す。バリア装甲‥‥と言っても、その実完全にこういう商業利用専用品。装甲としての性能は皆無、相応の低出力な分お値段もかなり安い。
繊毛AIとIFAIを統合した物は、かなり複雑な命令もこなせる分かなり値段が張る。こっちはIFAIだけだから、バリア装甲が感知した内容へフィードバックを返すだけ。例えばレーザー照射を受けたら装甲を青く変化させるとか、転移のマギアーツを作動させる信号を送信するとか。
お人形さんが自律して動いたり、AIで思考したりとかは一切無い。バリア装甲が反応を返すだけなんだ。
でもお人形さんを自律して動かせるアテがあるならこれだけで十分な筈。
ホロウインドウが大きく開いて、中のフィクサーさんがアリスさんへ問う。
『それで必要な規格は?』
「そうね。2IFAIで充分でしょう。HPの増減管理、0になったら転移作動信号送信。この2つだけよ。最低限の物で良いでしょう。」
『でしたらこのモデルが市場価格最安値ですね!2IFAIでしたらお値段5000円!ギャラクシートイズ製、パーティー2型IFAIモデル、如何ですか?』
意味深な笑みを浮かべ、アリスさんを試すように見下ろしていた。タマさんとチズルさんは首を傾げ‥‥そんな様子にボクも真似て首を傾げる。あっ?!尻尾で首をくすぐらないでって!
「そうね。もっと安く買えるでしょう。仕入れ先はシブサワグループ傘下S.T.C。そこの子会社ヒカリヤは家電販売店。IFAIの取り扱いもあった筈よ。この遊園地はラフィと一緒に作った場所だもの。正式にラフィへブランド料を支払って、ウマミMAXとラフィプロデュース遊園地として宣伝しますわ。」
ですから、と繋げてフィクサーさんへアンサーを返す。
「折角ですし、ブランド料金を支払う代わりに少しばかりお勉強して頂こうかしら。纏め買い致しますわ。」
元々沢山買ってもそんなに痛くない金額でも、コーポを継ぐ者なら無防備に定価で買わない心構えも大事って事かな?果たしてフィクサーさんの採点は───
90点!!
あれ?9がぐぐぐ‥‥と揺れ動いて、6に?!
60点!!
思わずむ〜、と頬を膨らますアリスさん。けれどケラケラ笑うフィクサーさんへ、ご教授頂けるかしら?と素直に結果を受け入れた。
『商業的なコンサル業は有料ですけど、まぁ折角ですし今回は貸し一つで無料サービスしましょうか。』
その場で一回転したフィクサーさんは営業マン風なスーツ姿。早速皆の見上げるホロウインドウの中で、分かりやすい資料を見せながらプレゼンをしてくれた。
『まず一つ。最近のアリスさんはあの箱入り娘とは思えないぐらい、精力的に動いてメキメキと頭角を現しています。しかしまだ経験不足。視野が狭いのです。そうですね。同じ問いをモモコさんやレイホウさんへ投げれば間違いなく90点以上の答えを返していたでしょう。』
視野が狭い?アリスさんもちょっとジト目になりつつ見上げていた。
『例えばアリスさんはシブサワの名を挙げました。ラフィさまのスポンサーですし問題ありません。凡策極まりない一般人の及第点。しかし2IFAIを販売する企業は他にもあります。』
フィクサーさんの背景に企業ロゴが2つ並んだ。
『ニッポンイチ傘下、テクノロジー企業NMTの子会社情熱列島社。全国に販売店を持つメガコーポです。誰でも知ってるヒカリヤに並ぶ有名家電店ですね。』
『赤翼ホールディングス傘下、スカイロード。こちらは赤翼内部でのタクポ製造業の為に立ち上げられた企業でして、多くのタクポ製造工場と取引して製品を卸しています。一般向けの販売店は持ちませんが、ここのIFAIも業界内ではシェア率結構高いのですよ。』
そこまで説明されればアリスさんも理解したようで、思わず唾を飲んだ。ホロウインドウの中、フィクサーさんが笑う。
『一流へ至りたいのなら、挑戦する姿勢は大事です。3つの巨塔が集うS.N.S連盟へ吹っかけてやりませんか?定価で買う者は3流、値引いて2流、貢がせて1流です。』
電子の悪魔がアリスさんへ、一つ試練を与えたのだった。




