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596、白翼の主は過激な音符を連れて来る

白の祭場での1件以降、一層シャーリアのエルフ達にボクは認められていった。復興が進む街を歩けば、皆に敬服のポーズを取られて見送られる。笑顔で返し、エンジェルウイングの癒しを撒いて回った。

あの後戦士達は皆一度逮捕されたけど、予定の行き違いで行われた軍事演習による混乱があった‥‥という内容で簡単な賠償だけで済まされたんだ。


「ラフィの人気はうなぎ登りね。コンサートでも開けばもっとファンを獲得出来るんじゃないかしら。」


「コンサート‥‥良いですね。生活模様が変わって戸惑うヒトも多いですし、少しの間でも不安を忘れさせてあげたいです。」


「では当機が手配致しましょう。でしたら大掛かりな事をする前に宣伝も兼ねて路上ライブでも。」


向かう先、そこはシャーリアと農村部を隔てる中間地の大きな広場。ヤックル広場と呼ばれる場所が、今後はシャーリアを二分する境界線になる。都市計画の一つに、自然の中で旧来的な生活を送りたいヒト達と、都市で先進的な暮らしをしたいヒトで棲み分けられるようにしようっていうものがあった。


農村部に住むヒト達には一次産業をやって貰い、ヤックル広場に造られた市場に卸させる。物流の為には道の整備も必要で、シャーリアの住人達が既に働き始めていた。


『都市の工事はシブサワを中心に行いますが、エルフ達も朝から食っちゃ寝する生活を良しとしません。ラフィさまの白の祭場でのご活躍は、瞬く間に都全体へ広まりました。皆色々と気合が入っているんですよ。』


元々シャーリアにはお金が流通していなかったけど、風の主の下で誰もが無償の労役に就いて任されたお仕事をやっていた。市場に並ぶ物は必要な分だけ持って行って良い。


と言っても、食料が並ぶ事は基本無くて。大概工房で造られた道具類が並んでいたそう。


「市場というよりは、誰でも好きに触れる倉庫のような扱いだったね。食糧の管理は厳密で、白と緑を管理する貴族が共同で配給していた。」


だけど今の市場はとても活気付いていた。新鮮な野菜やお肉に魚が並んで、生活用品も一通り揃ってる。畑で使える道具類なんてのも。


「何だ?ドローンは無いのか。品揃え悪いな。」


現役農家さんなカテンさんは鼻で笑っていた。いきなりドローンを用意されても充電スタンドの用意もまだだし‥‥都市インフラが無いからね。


充電と聞いて、オウルさんが試しに手元で簡単な歌を披露する。パリパリ、小さな放電が起こった。


「これで動かせるか?」


「ニホンコク語の罠にハマったわね。」


タマさんの悪い顔にオウルさんは首を傾げる。


「昔は色んなものが電力で動いてましたから、充電で合ってました。今は魔力で動きますが結局昔馴染みの充電という言葉がそのまま使われがちです。」


言葉の内容が変わっても、文字はそのまま使い回しで単語の内容と齟齬が起きる。ニホンコク語あるあるだよね。充魔じゃなんか語感悪いし。一応正しくは魔力充填だっけ。マニュアルを見ると魔力の充填口って説明をよく見ると思う。


『充填って言葉も空洞を物質で埋める意味合いを持ちます。個体気体液体選びませんが、エネルギーを詰め込む際に使われるのはちょっとおかしいんですよね。ま、そもそも人類が扱うエネルギー代表は電力でしたし。充電、充填入り乱れて使われてるのが現状です。』


当て字文化もそうだけど、ニホンコク語って結構ゆるふわ。でも意味が通じちゃう。何のエネルギーを使っても、最後には電気エネルギーへ変換して社会を動かしていたニホンコク人。異界地に行った後、敢えて新しく造語しなかったみたい。


『充魔、給魔、給力、補充‥‥当時は色々手探りに言葉が飛び交いましたが、結局どれも浸透せずに充電か充填に落ち着いた歴史がありますよ。にゃは、そんなもんです。』


市場の雑踏の中、ボク達の雑談は雑学へ。オウルさんは雑なニホンコク語に頭を悩ませる。言葉なんだから、通じればそれでヨシ!そんな談義に聞き慣れない声が挟まれた。


翻訳AIが生声を解析、同じ声で出力されたニホンコク語が聞こえる。ノイズキャンセリングで一瞬聞こえた本来の古代エルフ語がかき消され、会話に支障なくやり取りできた。でもやっぱり最初の一声が古代エルフ語だから、知り合いの声じゃないって分かっちゃう。


「おおっ!白翼の主じゃあ。市場の視察に来たんかいな?」


この派手な衣装の女性は‥‥アッハさん。一際目立つ金の刺繍でキラキラなアッハさんは、少しゴワついた金髪を片手で撫で上げてボクを歓迎する。背丈がタマさんと同じぐらいだけど‥‥オウルさんの杖がアッハさんの胸元を小突く。


「胸元。ニホンコクはそういう露出を良しとしない。」


「なんじゃ、息苦しい。ニホンコクも妙な拘りを持つのう。脚と腕には何も言わんのに、胸元だけ乳首を隠せだの表面積の何割隠せだの。」


大らかなヒトなのかな?ドン引きなタマさんの目線を前に、ため息を吐いて衣装を着直した。


「ええと、オフの時はラフィと呼んで下さい。」


ボクの声もAIで解析されて、古代エルフ語へ出力された声で話し掛ける。翻訳アプリも短期間でめざましくアップデートされ続けているんだ。そんな様子にアッハさんは不思議そうにしていた。


「お前達が持ち込んだ妙な技術もそうだが‥‥ああ、そんな事より!食べ物が市場に並んでると聞いてな!その‥‥良いのか?」


「つまり食糧生産担当のサンラリタル家として、我々にお役目を全て奪われ没落するのでは無いかと焦っているので御座いますね。」


食べ物は白を司るラケルタクル家と、緑を司るサンラリタル家で管理配給していたからね。


「サンラリタルが供給、ラケルタクルが市民へ配給していた。定期的に行われる祭事のついでにね。聖堂を使うような大規模な物じゃないし、街中のそこかしこにあった小さな施設で地域の担当者が配っていたんだ。」


ラケルタクル家としてはあくまで宗教活動の一環でしかない訳で。ボク達に食糧配給のお仕事を取られちゃっても問題ない。だけど、サンラリタル家にとって存亡の危機。


「大丈夫です。ただ、現在は畑も全部ダメになってシャーリアに食糧がありません。いつまでも料理を無償提供し続けるのも良くありませんし、食材とレシピを提供して自炊して貰う方向に変えていこうって施策です。」


だからニホンコクの作物が並ぶのは期間限定。シャーリアの畑にもニホンコクの作物を植えていくから、自力で採れるようになっていく筈。ただ‥‥現地の大使館や研究施設に残るヒト達にサバイバル生活をさせる訳にもいかないから。


「ニホンコクが所有した領土内には、料理を出すお店が並びます。利用にはお金が必要になりますけど、ニホンコクへ金の糸や工芸品を卸せば手に入ります。」


とは言っても本格的に流通させる予定は無くて、4貴族のそれぞれ当主だけにスマイルを配布。口座を開いてそこへ4等分した金額を入れて行く。どれぐらいの金額になるかはまだ分からない。


市場に並ぶニホンコク製の食料品や生活用品の輸入も、そこから賄って貰おうかなって計画だった。


「スマイル‥‥これだろう?いつの間に戦士共が持っていたのは驚きだが、全部突っ返したのにな。呪われた道具だって。」


「でもニホンコク人は皆持っている便利な道具です。使い方次第なんです。すっごい便利だけど‥‥その。戦士の件は。」


アッハさんはにぱっと笑ってボクを撫でた。きゃっ?!


「気にするな!見事に手玉に取られた戦士共が悪いんさ。でも、ラフィが場を鎮めてくれたんだろ?コーポとか言う連中はおっかないけど、ラフィの事は信じてるよ。」


んっ、んっ、となでなでを楽しむ。


「オレはこれからシャーリアが良くなってく予感がするんだ。おっかないコーポの連中もラフィには頭が上がらないようだし、ラフィも可愛くて良い子だあ。」


いつの間にタマさんの尻尾がボクの腰を巻いていて、オウルさんの杖がアッハさんをぺしっ。


「気安過ぎ。」


「なんじゃ、ラフィは嫌がってないだろうに。」


ぐぐっ、と頭で手を押し退けアッハさんを見る。


「これからここで簡単なお歌を歌うんです。アッハさんも聴いて行きますか?」


「芸も出来るのか?」


3歩進んでくるりとアッハさんへ向き直る。


「ふふん、ボクは歌が得意なんですから。沢山のヒトにボクの歌を好きって言って貰えたんですよ?」


お楽しみに、と手を振って。市場の中でも特に活気に溢れた広場へ向かう。沢山の屋台に囲まれたこの場所にある物は。それはスイーツ!


和菓子からチョコまでズラリと並んで、期間限定で配布された引き換えチケットと交換で好きな物を楽しめる。チケットは1日に1回市場に入る時に受け取れて‥‥シャーリアについての文化や歴史。有用な情報を大使館へ報告すれば都度1枚貰えた。


既に報告済みの情報では引き換えられず、今エルフ達の中では引き換えられそうな情報が無いか、集まっては報告済みの情報を話し合っていた。


4貴族の裏情報まで何でもタレ込まれて、貴族達は少し困った風。また一つしてやられたと、アッハさんも市場を見て嘆いていた。


「本当にお前達は上手い事やるな。嘘の報告をすれば出禁‥‥どうしてか嘘が一瞬でバレてしまう。」


今まで集まった情報を統括する情報管理アプリが、虚偽の疑わしい情報の真偽を即座に判定するからね。ヒトが嘘を吐く際の細かな挙動もカメラが捉えてるし、パッと見気安い雰囲気のやり取りでも裏ではこれでもかと警察が尋問で使う捜査関係のマギアーツが動いていた。‥‥それでも真偽の捜査に時間が掛かりそうな場合はチケット配布が後回しになるけど。


「チケット欲しさに嘘は良くないです。信頼の積み重ねが大事なんですから。」


「結局1番欲しい情報って、アンタらの民度がどんなもんかよ。客観的な部族に対する思想や素行の調査をやってんの。真面目な性根なのか、欲望の為なら平気で犯罪を犯す連中か。罪を罪と認識する常識があるのか、部族内の自浄作用はどんぐらいか。」


アッハさんは思わずため息を漏らす。


「ニホンコクの付き合い方は独特じゃな。こう、何か一つ行動を起こしたら必ず裏に陰謀が隠れている。」


「アンタらが無法無茶苦茶集団だったら、特別指定亜人に指定してニホンコクの都市から追放しなきゃいけないのよ。チケット欲しいからって大使館を強盗するようなバカが居るような部族と、真面目に付き合わなきゃいけないこっち側の理由が無いわね。」


タマさんはそう言うけど、流石にそんな事件は起きていない。嘘を吐くヒトも偶に居るけど、それも個人レベルの問題行動。誰もが組織立って嘘をバレないように動いたりするような悪質性は無い。


「今の所は悪い印象は無いですから、安心して下さい。」


けれどそういう話を聞いたアッハさんは、皆へ注意喚起をしようと思ったようだった。結果民度が良くなれば過程はどうであっても大丈夫。問題のあるヒトが居ても周囲が正せば良いから。自浄作用もテストされていた。


皆がスイーツを楽しむ場所に、ボクの歌を添えようかな。簡単な路上ライブだから、ホロミュージカルを起動してミニフィー数体を配置する。ユリシスを展開したボクに皆が注目して、驚く声があちこちから聞こえた。エンジェルウイングとイーディウス以外を皆は知らないから。


「少しボクの歌を聴いて行って下さい!」


咽頭マイクを起動。ミニフィー達が演奏を始める!シャーリアに伝わる音楽を、ニホンポップへアレンジ。曲調軽快、スキップするようなリズムがぴょんぴょん!ボクも軽くダンスで盛り上げながら、歌声を曲へ乗せて行く。


身を揺らして、両手の指をフリフリ。ウインクを贈って手を差し出した。


歌詞の内容はシャーリアを流れる風が、何処までも吹き流れて行くってもの。民謡を歌えば皆も段々ノリノリに聴いてくれた。


民謡を数曲歌ってお終い‥‥そんな予定だったのに。


「ラフィー!!」


「白翼の主ィー!!」


「もっと歌って!!」


予想以上の食い付きにビックリ。


「ここでは“歌”は特別な意味を持つ。私もラフィの歌が大好きだ。」


オウルさんもそっとボクへアンコールを。そっか。ここでは歌と言えば魔法を意味する言葉だけど、それだけじゃないみたい。口ずさむお歌を風に乗せる。それが尊くて、遊び以上の価値を持つ事のようだった。


「今は復興で忙しいけど、普段はそこかしこから歌が聞こえて来ていた。歌える事は当たり前だったし、祭事で皆で声を合わせて合唱したものだ。」


「こういうのをメルヘンと言ったか?むぅ、流るる風に音符が揺蕩う黄金卿。面白い場所もあったものよ。」


「四六時中誰かの素人カラオケ聴いてたらノイローゼになりそうね。」


タマさんの耳がペタリ、抗議するオウルさんにヘラヘラ返していた。フィクサーさんがボクに色んなジャンルの曲を披露するよう勧めてくる。


『ライブ前に何のジャンルが大ウケするか確認してみましょう。本番で感性の違いにダダ滑りなんてしたくないでしょう?』


うっ。確かに文化が違えば好かれやすい曲も違うよね。皆の視線は期待に満ちていて。


「では、ニホンコクで流行っている歌を歌います!ちょっとビックリするぐらい派手ですけど、良いでしょうか。」


ここで用意出来る楽器、音にない概念のヒップホップミュージック。風に乗せられて流れる音は牧歌的。でも今から鳴らされる音楽は風を吹き飛ばすヤンチャな歌!


跳ねるボクに誰もが驚いた顔を向けていた。

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