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590、シャーリアの王様になるにはその報酬を自前で提案しないといけない

ボクがシャーリア運営特別顧問に就くとしたら、その報酬をどうやって捻出するのか。コレもまた厄介な問題だった。


シャーリアがボクを王へ添えたいと要請して、ボク達がOKを出したのならその報酬はシャーリアが支払うのが筋。お願いに応えたんだからね。


でもシャーリアにお金が流通していなくて、仮に現物支給するとしても何を貰っても正直対価として安過ぎる。


「ラフィへ仕事を振るのなら、治外街だろうが相応の対価を頂かないと。今まで築き上げたラフィへの依頼料の相場がおかしくなってしまう。まさかシャーリアだけ特別にりんご一個で受けてあげますなんて言えないだろう?」


皆でボクを支える為に築いて来た相場を乱す訳にはいかない。現物支給でも、お金に換算した際に等価となる物じゃないと。


「うぐっ。しかしそう言われるとシャーリアとしては複雑だね。うーん、金額的に幾らぐらいだい?」


ミライさんの看護ついでに事務仕事に忙しいブランさんへ連絡が飛ぶ。応接室へやって来たブランさんがザッと計上した。


「実務的な負担の量によって大きく変動致します。結局はラフィ様の拘束時間がまず第一に来ますので。名前貸しだけでしたら、ラフィ様へのブランド料金のお支払いのみとなります。実務負担がある場合は、都度計算して請求する形で御座います。住人の陳情を聞く程度なら、雑務依頼として処理しましょう。」


オウルさんの前にボクへの依頼料の紹介ページが表示された。共有モードのホロウインドウを目を細めながら凝視する。


「雑務依頼扱いの範囲なら何とかなりそうだね。うう、思いの外高い。ラフィはやっぱり凄いヒトなんだ。」


「えへへ‥‥」


オウルさん自身はお金を持っていないけど、ニホンコクのお勉強がてらお金の価値を正しく学んでいた。だからこそ、ボク達へ一つ要求を。


「この際だから確認するけど、私とエンリッヒの今までの武働きに対する報酬はあるだろうか。救助要請を受けてくれた事は深く感謝しているが、戦争を含めかなり戦ったと思う。」


タマさんの仰天する顔をオウルさんはジト目で見ていた。オウルさん自身もダメで元々って感じに言い出しただけだけど。


「アンタ‥‥心臓にチタン合金でも入ってるのかしら?その神経の太さは素直に凄いと思うわ。」


小さく笑ったモモコさんは頷く。


「ああ、そうだね。勿論対価を払おう。済まないね、そういう事務手続きが色々後回しになっているんだ。プロジェクトに参加したPMCの団員も多いし、活躍に応じて特別報酬や勲章の授与査定もある。少しの間待っていてくれるかい?」


「分かった。礼を言う。その金額からラフィへの報酬に充てる事は出来ないか?当面分が足りれば、後は私が稼いで賄おう。」


オウルさんが支払うの?


でもそれだとオウルさんに個人的に雇われる形になって、色々とやっぱりお金と責任の所在がおかしくなるような。ボクを雇うオウルさんが事実上のシャーリアの王になっちゃうんじゃ。


「代表取締役という概念を学んだのだが‥‥」


モモコさん達は思わず吹き出してしまう。素で呟いたオウルさんはそんな態度に首を傾げて不思議そうにした。


「オウルがラフィへシャーリアの取締役を依頼するのか。シャーリアの所有者としての名義になるけど良いのか?それで良いのなら、こちらは構わん。」


オウルさんの遠い目。やっぱりダメだった。


ええと、ボクへ支払われる報酬をボク達で頑張って考えなきゃ‥‥!なんかおかしい気がするけど、前代未聞な事をしているんだし仕方ない。


ふと、ボクの頭の片隅で何かが光った。


そうだ、虹渦島。虹渦島が開拓された事で、虹渦島の様々な物に値段が付けられた。レイホウさんも虹渦島の虹天リゾートタウンの一画に、土地を購入して別荘を建てていたっけ。


「そうです!!」


ピコンっ!ボクの頭上に電球が(とも)る。皆の視線がボクへ向いた。


「オウルさん!報酬として、シャリアの宮殿を頂けないでしょうか!あの建物と土地が欲しいです!」


モモコさん達は思わず手を叩き、セイテンさんは声を上げて笑った。でもこの状況を打開するにはコレが1番!首を傾げるオウルさんへ、ボクは頑張って説明を。


「元々浮島の土地の金額というのは定められていなかったんです。でも、オウルさんも前に行った虹渦島。あそこが開拓された事を切っ掛けに、浮島の貴重な土地に値段が付けられました。シャーリアだって浮島ですし、虹渦島の土地の金額を参照すれば土地へ値段を付けられると思うんです。」


あの宮殿はとっても広々だったし、築何百年とは言え建物だけでも歴史的価値とか換算すれば結構良い値段になる筈。土地まで含めるのなら何十億円‥‥それ以上になるかも。これなら将来的に、ボクへの依頼料が更に値上がりしたとしても絶対に大丈夫。


シャーリアにはお金が流通していないから、現物支給。宮殿と土地の所有権を支給して貰うよ!


オウルさんも納得したように笑んだ。


「私の一存で決める訳にはいかないけど、良いと思う。風の主が復活したらその時はまた新しく宮殿を建てるかすれば良い。筋が通せるのなら反対意見を挙げる奴はいない筈。」


セイテンさんは一通り笑った後、快活な口調で宣言する。


「ならその内容を次の協議に掛けるとするか。ラフィ運営特別顧問、活躍を期待しているよ。」


「はいっ!頑張ります!」


これでボクがシャーリアで色々頑張っても、金銭的な問題は起きない筈!先払いで報酬を頂くよ!タマさんも楽しげに笑って、フィクサーさんもホロウインドウの中でケラケラ。


『にゃははは、新たなる王を迎える代償に先代の王の宮殿を献上するのですか。シャーリアは完全に新体制で再出発、シャリアが後で復活してもホームレスですね!宮殿は王威を象徴する国の心臓ですよ?シャリアの呆れた笑い顔が浮かぶようです!』


「良いじゃない、国の指導者を外国に頼った時点でこうなんのよ。ある意味シャーリアの精神的な脈絡は潰えるわね。折角だし宮殿改装してラフィの銅像を飾ってやりましょ!」


2人をジト目でオウルさんは見やるけど、それでも大丈夫だって。


「どの道こうする他無い。貴族達はシャーリアの独立の為に策を張り巡らせたけど、結局巡り巡ってシャーリアが新生する事になっただけ。反対意見は上げさせない。」


意味深にブランさんのホロウインドウに表示されたオウルさんの写真は、随分と左に傾いていた。


オウルさんは意味を分かってない風で、一同の苦笑いに首を傾げていた。





とは言え色々と事務的な手続きも盛り沢山で、ボクが関わる以上シャーリアの新体制へ向けて準備しなきゃいけない事も多い。だけど結局政治に関わるのはS.N.S連盟大使館の外交官のヒト達。ボクの実務的な労働は無しの方向で話が進んでいた。


「ラフィは精神的主柱としてシャーリアに君臨してくれれば良い。大事なのは貴族達の上に絶対的な王が居る事。貴族達はラフィに威圧された件で皆その力を認めている。シャリアとはまた違った、異質な恐怖を感じたと評判だったよ。」


怖い子って思われちゃったかな?


「大丈夫、私達も結構図太いんだ。シャリアと喧嘩する者も居たし、取っ組みあった者も居た。受け入れられるよ。」


パンタシアを後にしたボクは、皆と一緒に街を歩いていた。回復の早いヒト達はもうベッドを降りて、瓦礫の片付いた街を復興すべく忙しそうにしている。自分達の家を歌で作り直そうとするも、作業員たちに退けられて仮設住宅に追いやられてしまう。


シャーリア復興工事は完全にS.N.S連盟持ち。インフラ整備も条約内容に含まれる以上、全部こっちで受け持った方が早いんだ。家を建てちゃう前に先ずは街の地盤をひっくり返して基礎から作らないと。上下水道に魔力線をね。


街の地面を重機でひっくり返す様を見て、エルフ達はびっくりした顔で戸惑っていた。貴族達が説得して回ったお陰で抗議の声は上がらないけど。


サンプル品と言いたげに建てられた仮設住宅は、2階建ての都市風現代建築。建築用3Dプリンターで量産された簡素な物でも、見た目や設備はしっかりしている。流石シブサワグループ。仮設住宅なのに普通に都市の住宅地に並び立つオシャレな一戸建てみたい。


外壁はレンガ壁風デザイン、木造デザイン、石造りデザインに‥‥良いお値段がしそうなサイバーテック風デザイン。白と黒の洗練された色合いとARの緑が高級感を漂わせる。


エルフ達は皆現代建築に興味津々だった。


『不思議な形をしている。石だよな?』


『どうしてこうも見た目が違うんだ?同じ石で造られているのに。』


『木組みの家と言えば農村のアレだよね。全然違う。』


『こっちの家は妙だ。何で出来ているかも分からない。不気味。』


サイバーテックデザインは物好き用のニッチな需要。石と木デザインが人気を集めた。内装は全部同じだから見た目だけだけど。


「オウルさんはどれに住みたいですか?」


「私はサイバーテックだね。むふ、キミ達の文明の色濃いデザインは新しくて好きだ。」


空歌の姫というシャーリア文化の象徴的な肩書きを背負うオウルさんは、意外にも先進的なデザインが好き。オウルさんへ戦いの報酬が支払われたら、何を買いたいかよく話してくれていた。


「私は木の香り薫るあの家が良い。」


エンリッヒさんは伝統的なデザインを好んだ。


仮設住宅の住み心地は早くも噂になって、野宿を選んで農村部へ足を運んだエルフ達の耳にも届き始める。


『歌とは違う、異質な何かが家を動かしている。』


『この家は生きている。生物の腹の中は存外住みやすい。』


『入っただけで明かりが灯され、手を翳せば水が出る。隙間風が無くて全ての間取りが計算され尽くされた快適さを持つ。』


吟遊詩人のような装いのエルフさんが、早速仮設住宅の事を歌い上げて誰しもの耳へ広めていった。脳波とAI制御で動く家は生きているように見えるんだ。


「面白い発想よね。生きた家が住人を食い殺すホラー映画はあるけどさ。」


「うむ、我が初めてこの文明に触れた時の事を思い出すな。この気持ちは何だ?優越感?妙な愉しさを感じる。」


カテンさんの反応にブランさんが少しばかりドヤ顔で、


「カテンにもこの気持ちが分かりますでしょうか。無知蒙昧な者共を文明の明かりで照らす快感、その瞬間どれ程この文明の下層に生きる者であっても彼らのイニシアチブを握れます。ヒトの本能に根差した闘争心が僅かに満たされ、上がった自己肯定感に酔いしれるので御座います。文明力チートはヒトを病み付きにさせるのです。」


ブランさんはweb小説が大好きなんだよね。


「‥‥?ブラン、お前は別に底辺でもなかろう。寧ろラフィお付きのメイドとなれば社会の上澄みではないか?」


首を捻るカテンさんへ向けられた悪い顔。


「ハッ、それは当機の客観的な見解です。しかし当機はラフィ様へお仕えする身。偶には誰かのイニシアチブを握って尊大に振る舞いたくなるもので御座います。当機もまた、材質が人工タンパク質とその他諸々で造られたヒトなのですから。」


でもボクのメイドさんとして振る舞わないといけないから。空想の世界で自由に振る舞う。web小説の数々はブランさんの心を潤してくれているようだった。ボクも今度何か読んでみようかな?‥‥前に見た時は500話とか1000話とかあって手が出なかった。


そんな会話にオウルさんは呆れ顔。


「そういう事は現地人の居ない場所でした方が良いよ。言葉が通じないからって好き放題言ってくれるね。」


「アンタはもうこっち側の人間よ。束の間でも一緒に文明力チートを楽しんだらどう?」


「悪いけど悪趣味に感じるね。空想の世界で完結させてくれ。」


それもそう。現実に持ち込んで態度に出すのはとっても失礼ですから。タマさんの腰に抱き付いてぐいぐいと抗議、イルシオンがブランさんをペシペシ叩いた。


「ラフィはああ言う悪い大人を見習っちゃいけないよ。」


「ボクはそんな事しません。小説と現実は違います。シャーリア復興も見世物じゃないんですから。」


‥‥でも。ボクの視線の先にあるのはドローンカメラ。多分現代住宅を物珍しそうにするエルフ達の様子が、その内配信されちゃうんだろうなって思った。


結局そういう需要があるのは事実だし、広報的にも異文化交流の様子を発信していくのは大事だから。文明力チート、異文化交流。前後の文脈の違いが印象の明暗をクッキリ分けた。

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