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586、ラプトゥヌスは何処へ

「これが剣‥‥?!鉄は黒、白の真逆のモンだ。でもこりゃ‥‥白の。それ以上かもしれねぇ。」


ボクが持ち上げた鳳凰刀をマジマジと眺めるヤクトジャージさん。ええと、白はオウルさんの言葉から何となくニュアンスが分かってる。神聖な、崇高な、綺麗な。そんな意味合いで使われる慣用句。


鉄は黒?黒鉄(くろがね)とか言われるけど。エルフさん達の物言いはR.A.F.I.S.Sを介してもよく分からない部分があった。


「てかこんなモン食べてたの?お腹壊さないわよね。」


どっかり椅子に腰掛けたタマさんの手には、ぷらんと干し芋みたいなものが摘まれていた。でもカビてて白っぽい。


「それはそういう物だ。芋に生やしたカビが独特な風味を齎す。黄には及ばないけど、糧にはなる。」


食べて大丈夫なんだ。チーズとは違うよね。特殊なカビなのかも。興味が湧いたボクの視線を、そっとブランさんの差し出したチキングリルバーが隠した。


「お腹が減ったのでしたらこちらをどうぞ。えてして深未踏地に住まう部族のゲテモノ料理は、オークインプラントで強化された胃すら傷ませます。」


オウルさんの抗議の目線はブランさんの背中に刺さらず。少しの歓談タイムも程々に、ボク達はヤクトジャージさんに案内されるままにさらに奥地へと向かった。


はむり。すっごい柔らかお肉のチキングリルバーが、じゅわりと肉汁をお口一杯に吐き出す。カリッカリなチキンの皮でウインナーみたいにお肉を包んだとっても美味しい携帯食。ステーキバーも人気だけど、こっちも人気。値段はこっちの方がちょっと安いけど。


んっ、んっ。はぐはぐするボクをミライさんが物欲しそうに見てくる。


「欲しいのでしたら当機が売っても良いですよ。1本4万円です。」


「うぇ?!そんなするの?!4万のキチングリルとか聞いた事ない‥‥」


見せびらかすよう、ツバサさんもチキングリルバーを取り出す。


「そろそろおやつの時間だ。ラフィさんとお揃いだなんて嬉しい。」


お揃いっ!2人で笑い合う後ろで、ミライさんがお金のやり取りをコソコソやっていた。タマさんはドライフルーツが練り込まれたカロリーバーを咥えたまま、オウルさんと涎を垂らしたヤクトジャージさんを見やった。


「なによ。早く案内しなさいって。そうね、ちゃんと成果を出したら1本ぐらいやってもいいわ。」


悪い顔。後でヤクトジャージさんにもご馳走するけど、今は先を急ぎたい。ここに着くまでにかなり時間を使ったせいで、これ以上遅れると夕方になっちゃう。流石に夜間行動をするのも良くないし。ラプトゥヌスの居場所だけでも掴まないと。


『1日使ったんですし、良いニュースを持ち帰りたいですよね!』


「はい。ツバサさんも忙しい中参加してくれたんです。今日は無理でした、なんて後で報告させる訳にはいきません。」


ツバサさんが同行したのも、赤翼も早く交渉材料が欲しいと思ったから。S.N.S連盟は貴族達との会議であれこれ案を出しても、良い取引にならないと損を被る事になると思っている。エルフの都を救って得た物が、賞賛の声と感謝の笑顔じゃメガコーポは納得出来ないんだ。


「完全に廃墟でまっさらでしたら妥協して引き下がれたので御座います。ただ、何か引き出せそうな気配だけあるのがタチが悪いのです。未知の技術、未知の素材、未知のブラックボックスアーツ。成り立ってそうな文明がある以上何かしらある筈なのです。」


頑張れば利益を引き出せそう。そんな気配が会議を泥沼化させてしまっていた。出せる物は無い、と言っても本当かどうか細部まで調べなきゃいけないし。住民への聞き込み、廃墟の捜索、都に使われている魔法技術の全部を調べていた。


『にゃははは、貪欲ですよねぇ。でもコーポってのはそういう存在です。助けに来た正義のヒーローが、金の魔力に振り回される姿って滑稽で幻滅しちゃいますよね!』


「‥‥まぁ、私も少しずつコーポや金が何なのか理解を深めているつもりだ。気持ちは分かるし、こちらもハナから無償で助けて貰おうなんて舐めた考えがあった訳じゃない。でもあまりにもキミ達の文明が眩しく、想像以上に差し出して意味がありそうな物がないんだ。」


オウルさんが言うには、当初は労働力やエルフの魔法技術を売り込む予定だった。シャーリアは浮島だから資源と呼べるようなものも無いし。そこでも多少値切れるようにする為に、聖堂に罠を張った。でも空振りで全員無事に救出されちゃった。


何を要求されるか分からない恐怖心が矛盾した行動へ繋がったけど、現実となった今びっくりするぐらい差し出せそうなものが無くてパニック状態なんだって。罠の責任追及で更に割増で色々差し出さなきゃいけないのに。


労働力は正直要らない‥‥というか救出したエルフ達をこき使ったら絶対世間に叩かれて炎上する。世間の認識は庇護対象、労働者じゃない。

魔法技術もマギアーツが主流となった今、余程発想が飛躍したトンデモ魔法技術が発掘されない限り価値を持たない。多分見つかるほぼ全てが、もう都市も類似の技術を知っているようなものばかりだと思う。


「だからボクは一刻も早くこの状況を何とかして皆を救いたいんです。時間を前へ進めましたが、それだけじゃまだダメなんです。関わる以上はちゃんと責任を持たないと。」


ボクの言葉に皆は緊張感を取り戻し、急ぎ足に工房の最奥へと向かった。通った先に肉汁の匂いを漂わせながら。


工房の奥、石の床が途切れて魔法雲になった区画があった。


『ここは元々倉庫の一部だったんだが、見ての通り原生生物の襲撃やらで壊れてな。迫り上がって来た雲に飲み込まれちまった。でもラプトゥヌスにとっちゃ良い環境だ。ここまでラプトゥヌス達を引っ張って来て、この奥に匿った。』


魔法雲の一部はよく見ると跳ね床になっていて、取っ手を引っ張ればパカリと開いた。


「じゃあ、行きましょう。」


ユリシスを展開、ヤクトジャージさんの驚く声を背後にミニフィーが飛び出してドア前を確保する。上はミニフィーで見張るから大丈夫。ボク達はゾロゾロと雲の階段を降りて行った。


『最後に確認したのは1週間前か。もうそんなに経つんだな。』


「おい。これがダメだったら大変な事になるぞ。」


『しゃーねぇだろ、俺も補修で忙しかったんだ。』


餌はシャーリアに近づいて来た小型の原生生物を自力で狩って過ごしているから大丈夫らしい。でも掃除したりして綺麗に保つのはヤクトジャージさんがやっていた。綺麗好きな生き物だって聞いた。


「‥‥っ!!総員、警戒態勢!」


ツバサさんは即座に駆動魔具を展開、背中に装着された飛行機みたいな翼付きのバーニアが駆動する。ボク達を巻き込まないよう、一気に階段を駆け下りながら飛び上がった。


「サメ型、危険な原生生物です!」


ボク達も狭い階段をパパッと降りて開けた広場に出る。魔法雲で囲われていたであろう場所の壁が食い破られ、10m級のサメが回遊していた。


『そんなっ?!』


叫ぶヤクトジャージさんをオウルさんが庇う。


「こっちは任せて。」


「お願いします!」


ルナドゥロスとの戦いで大きな力が激突しあったから、周辺の危険な原生生物が漁夫狙いで多数寄って来ていた。主だったモノはシブサワと赤翼のPMCが倒したけど、ここにも残りが居た。地下深くで気付けなかった!


サメの視線はツバサさんを追って、ボク達に背中を向けている。居合の速度で振り抜かれた軍刀はチェーンウィップ、猛速で迫った鋭いチェーンを質量任せに硬い頭の甲殻で弾いてしまった。


頭を兜のように甲殻が覆っている。兜ザメの一種だった。


レイホウさんから頂いたアプリが、兜サメの生体情報を教えてくれる。ボクが理解すればR.A.F.I.S.Sで全員に伝播した。頭と尾先の甲殻は光学兵器を反射するから使用厳禁、皮膚は高い防刃性を持っていて並の刃物じゃ傷も付かない。海洋に棲まう危険な原生生物として認知されていた。


これは近縁種だけど性質は大体同じだと思って戦わなきゃ。


「ったく!どっから迷い込んだのよこのデカブツ!」


燕尾服に着替えたタマさんの舜動、そして凄まじいキックが腹部を穿つ。ミライさんも尾先に飛び付いて、強化外装の出力で動きを阻害した。尾先の甲殻の隙間へ引っ掛けた強化ワイヤーの鉤爪を、そのままボクが空間へ固定したミスリルシールドにも引っ掛けた。


これで簡単には逃げられない筈。狭い空間で暴れられるのは危険でも、逃がして再起を図られるのも危ない。高度な知性を持つようで、R.A.F.I.S.Sには敵意が激しく叩き付けられていた。


ツバサさんの剣閃激しく、激しい噛み付きを躱しながら舌を斬ってしまう。


『近くにまだラプトゥヌスが隠れているかも知れねぇ!』


ヤクトジャージさんの悲鳴のような意志が流れて来て、戦い方の方針が決まった。銃も跳弾や貫通した分が怖いから出来るだけ使わない。格闘中心に削り倒す!


ユリシスからシラヌイを呼び出し、互いに10mサイズ同士で真っ向から組み付く。フル出力で締め上げるものの、兜サメの膂力も凄まじく直ぐに振り払われて吹き飛んでしまう。


S.S.Sから取り出したアマノムラクモを放り投げ、シラヌイがキャッチした。シラヌイからしたら小刀みたいなサイズでも十分通用すると思う。10m級が狭い空間で激しい格闘戦を繰り広げる。


ボク達からしたら10mは3階建ての建物相当、大質量が取っ組み合う様は迫力満点で近付くのが難しい。


でもシラヌイだけじゃやっぱり致命傷を与えられそうに無い。頭部の頑丈な甲殻をシラヌイに押し当て、腕に握ったアマノムラクモの刃先は薄皮1枚を切り裂くだけ。刺せそうな部分は甲殻に覆われて、腕の長さ的にそれ以上奥へは刃が届かなかった。


でも大分動きは抑えられたし、振り回されるヒレに注意して攻撃していかないと。


ヒレが頭上を掠めながら滑り込み、タマさんのビームシュナイダーが腹部へ押し当てられて内部を灼き裂こうとした。皮が焼け爛れると激しく体を暴れさせ、巻き込まれないよう何とかタマさんは瞬動で逃げ延びる。


ブランさんもヒレを絶ってしまおうとvitis(ウィティス)を振るう。液化ミスリルが大きなヒレを斬るけど浅い。ツバサさんの軍刀が追撃を入れてヒレの一部が斬れ飛んだ。同時に激しくうねったヒレがツバサさんとブランさんを打ち据えて、バリア装甲にヒビを入れさせながら転がしてしまった。


場所が狭くて回避も難しい!イーディウスがヒレに何度も突き刺さって欠けさせていく。グジャさん!来て!


「おう!!魚なんざ捻り潰してやるわ!!」


伸びた影がグジャさんを呼び出し、巨大化しながらヒレを抑え込んでシラヌイと一緒に拘束した。


‥‥っ?!来るッ!!


バイオマジックが吹き荒れる!!咄嗟にフィクサーさんが空間を操って、攻撃の大部分を外へ逃がしてくれた。爆発的な風は氷の粒を巻き込んで何もかもを斬り裂く。それでも皆の強化外装が斬り裂かれ、辺りが一気に血生臭くなってしまった。


だけどシラヌイとグジャさんはボロボロになりながらも手を離さなかった。


『今だ!!』


「分かった。」


そうこうしている内にヤクトジャージさんがミニフィーと一緒に戻って来た。戦いの間護られるだけじゃなくて、少しでも使える物が無いか工房へ走って戻っていたんだ。


そして工房にあった大量の金の剣がオウルさんの歌に合わせて宙を巻い、シラヌイに噛み付いて引き剥がそうとする兜サメの口内へ吸い込まれるように突き刺さっていった!!


流石に大ダメージになったみたいで、激しく出血しながら身を捩る。再びバイオマジックを発動させようと力を溜めていた。


でも、させない。


影から出たオボロさんが鳥居の術で一瞬の内に兜サメの目前へ、手を叩けば強い幻覚が脳を揺さぶって感覚を暫時の間壊してしまった。途切れた集中がバイオマジックを阻止、迫ったイーディウスが灼き爛れた腹部を掻っ捌く。


そのまま内臓をバラバラにしてしまうよう、イーディウスが体内へ殺到した。生きたまま解体するような行為の後、重力に身を任せて動かなくなった兜サメが地面へ下ろされたのだった。

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