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584、金の糸を吐く家畜を求めて

「今回の目的はラプトゥヌスの捜索です。先ずは畜産区域を見て回りましょう。」


振り返ったボクへ皆が頷いた。今回一緒に来るのはタマさん、ブランさん、フィクサーさん、オウルさん、ミライさん、ツバサさん。カテンさんは修繕工事に空撮にと引っ張りだこで忙しい。都度報酬が出るから、カテンさん自身も掻き入れ時だって喜んでいた。


ラプトゥヌスの捜索‥‥まぁ壮大な冒険へ出掛ける訳じゃないしね。予定が合うヒトは集合っ!なスタンス。シブサワグループからはミライさんが、赤翼ホールディングスからはツバサさんが代表して同行してくれた。


「今回は宜しくお願いする。改めて、赤翼特務旅団団員・ツバサだ。私から同行を申し出させて貰った。何なりと申し付けてくれて構わない。」


ちょっと緊張しているのかな?口調が固いツバサさんは眼帯で片目が隠れている。クニークルスさん、オボロさん、ジークバールさん、そしてツバサさん。眼帯を付けた知り合いが増えていく度に思う。やっぱりカッコいいな。ボクのキャラに合わないけど、ちょっと憧れちゃう。


ツインテールの綺麗な白髪は軍人さんらしからぬラフな髪型。けれどしっかりとした体幹と言い、その佇まいは精鋭だと一目で分かった。少女‥‥な雰囲気の顔を見ても、タマさんは何も言わずに受け入れている。深未踏地の探索なんだし、認めないヒトが混じるようなら容赦無くズバッと切り捨てるのに。


自分よりも少し歳上、そんなツバサさんへほんのり対抗心を向けるミライさん。チラチラと盗み見て、歩く足取りは1歩前へ。


「ツバサさんは深未踏地の冒険の経験は?」


ミライさんの問い掛けに、無論と答える。


「冒険、というのは変だが深未踏地での作戦行動自体は珍しく無い。赤翼PMC空挺旅団大隊もまた、ヤマノテシティを始めとした移動都市の経路確保の為に尽力しているのだ。」


返す言葉はエリートの毅然とした声。ふにゃ‥‥姿勢を崩しミライさんは少し気まずそうにそっぽを向いた。そして姿勢が悪いわよ、とタマさんの尻尾に小突かれてしまった。


とは言え、シャーリアに徘徊していた機械のゴーレムは大体駆除されている。巣を作っていた原生生物もある程度は。気を抜けないけど、張り詰める程緊張するような危険な冒険じゃない。


足元注意!瓦礫の落下注意!


基本的な注意点は廃墟歩きと変わらず、慣れたボク達は口数多く気楽に構えて冒険を楽しんでいた。目的地までは駆動魔具でひとっ飛び、片道10分も掛からず到着した。


「ここが都内部の畜産区域だ。ここでは特に質の良い糸を吐くラプトゥヌスが飼育されていた。」


オウルさんが案内した場所は、ちょっと大きめの石造りの建物。半壊していて内部に光が差し込んでいた。ひょこ、ボクは内部を覗き込む。金の装飾は埃を被り、瓦礫が散乱したエントランス?の奥にそのまま飼育場のような広々とした空間があった。


ツバサさんがパッと組み立てた機材から、にゅっと細長いワイヤーが伸びて半壊した建物へ接続された。廃墟骨格と呼ばれる機材は廃墟探索のお供。頑丈な骨組みを通して崩落を防げるんだ。


「それでも小さな破片が落ちてくるかもしんないし、頭上には注意ね。特にミライ、集中しなさい。」


「わ、分かってるって。痕跡を探せば良いんだよね。」


「はい。どんな小さな物でも良いので、手分けして探しましょう。」


廃墟となった建物はがらんどう。ボクの小さな体はひょいひょいと奥へと進んで行く。


『羽の一つも落ちていませんね。ま、相当時間も経ってますし骨も無さそうですが。』


しゅるん、アニマトロニクスがボクの頭に犬の耳を生やす。くんくん、ふんふん。流石に匂いの痕跡もないや。ふと、後ろから伸びた指先が犬耳をモフ‥‥と撫でる。


「ぴぃっ?!」


「わっ、すまない。驚かせるつもりはなかった。」


「ツバサさん?」


ホロウインドウの中でジト目で見やるフィクサーさんには気付かず、ツバサさんは少し気恥ずかしそうに。


「その。今こういう話をするのはおかしいかも知れない。ただ‥‥その。私はラフィを応援しているんだ。」


応援?ええと、ありがとうございます。


「赤翼にもラフィのファンは多い。それで‥‥サインを。」


R.A.F.I.S.Sに周辺の反応は無し。ここには危ない敵は居ないし大丈夫かな?


「分かりました。でも、意外です。ツバサさんは真面目な軍人さんって雰囲気ですのに。」


「私はいつも機を逃してしまう。今を逃したら結局言い出せないまま解散となってしまうだろう。」


収納から色紙を出し、サラサラとサインを手描きする。そしてウインクを贈りながら、


「タマさんにバレたらドヤされちゃいます。えへへ、ナイショ。ですよ。」


きゃっ?!シャッター音?!そんな沢山撮らなくても!‥‥もぅ。ツバサさんはによによしながら色紙を受け取って、大事そうに収納へしまった。


「ラフィの冒険を真近で見れるんだ。今日は宜しく頼む。」


「ツバサさんも一員なんですから、皆で見つけますよ。一緒に冒険です。」


とは言えウロウロ当てもなく探し回っても何も見つからなそう。ここがダメなら都の外の農村部を当たるけど‥‥でも考えなきゃ。


「オウルさん!教えて欲しいです。」


オウルさんを呼んで気になった事を色々聞いてみた。思い出すのはラプトゥヌスと初めて会った時の事。あの時ラプトゥヌスはどんな場所に居た?そしてどんな動きを見せた?


「ブランさん!」


「承知致しました。」


ラプトゥヌスの研究データに目を通す。大事なのはラプトゥヌスの立場になって考える事。確かに時間はかなり経っているけど、場に争った痕跡が見当たらなかった。


ラプトゥヌスは戦う時、10本の触手から金の糸を射出して獲物を絡め取ろうとする。金の糸は時間の経過で簡単には風化せず、実際シャーリアの各所で装飾として残っていた。


もしエルフ達が休眠に入った後、ラプトゥヌスが他の原生生物に襲われたら金の糸を振り撒いて戦う訳で。でもここにはそんな痕跡は残っていなかった。


「飼育者の証言では、ラプトゥヌスは聖堂へ連れて行けずにここへ置き去りとなった。施設を管理する歌にその後の管理者は居らず、自然に崩壊してしまっただろうと言っている。」


つまりこの施設を維持する魔法は、管理者不在で崩壊してしまった。その魔法の内訳もオウルさんが教えてくれる。その中に予想していたものがあった。


「そう。ちょうどこの飼育場を囲うように石材を補強し強化する歌があった。毎日風の歌を捧げる事によって維持されていたが、誰の歌も無いままになってしまった。」


シンプルに壁や床を壊されて脱走されないようにするもの。けれど、あの時会ったラプトゥヌスの巣の様子を思い出せばどこへ脱走したのか検討が付いた。


「皆!床を全部捜索して下さい!瓦礫を撤去して、くまなく探しましょう。」


ボクの連絡に皆の反応が返ってくる。そう、ラプトゥヌスが逃げるなら床!あの時も地面の小さな穴へラプトゥヌスは逃げ込もうとしていた。外から見た感じ、この建物の周辺に金の糸の巣が張られている痕跡は無かった。閉所に巣作りする習性があったとしたら、多分開けた外へは直接逃げないと思う。地下に逃げたんだ。


ユリシスが開き、強化外装を着込んだミニフィー達がきゃーっ!と飛び出す。わちゃわちゃと皆で床に散乱した瓦礫を撤去して行く事に。


「そうは言っても一仕事ね。ミライー、瓦礫は1箇所に纏めなさいよ。どうせ後々片付けるんでしょうし。」


「はーい。地面の穴ねぇ。うーわ、土埃凄い。」


瓦礫を退けると土埃がむわりと舞い上がって室内が煙たい。壁の横穴から煙が抜けていくけど、ブランさんが設置した大型扇風機の追い風が必要だった。


「きゃっ?!虫か!」


煙たい中急に聞こえた華奢な悲鳴。思わず顔を上げて見回せば、声の主は素知らぬ顔でいた。


「軍人さんでも虫が嫌いなんだー。」


ミライさんの小声にツバサさんは少し顔を赤くしてそっぽを向く。瓦礫の下からしゅるりと這い出るムカデは、無数の足に支えられて滑走しているかのように地面を這い回る。ムカデの動きって独特だよね。動く時の体の揺れが殆どなくて、床を滑っているかのよう。


ツバサさんの軍刀がムカデを払い除け‥‥グルン!軍刀に一瞬で巻き付いたムカデが猛スピードで持ち手まで這い上がって来る!


「きゃあああ?!」


ブランさんに摘まれたムカデは必死に指を齧るけど痛痒も無く。尻餅を突いたツバサさんの肩をタマさんが小突いていた。


「アンタ戦えるけどそれ以外がダメなタイプ?」


「お、驚いただけだ。深未踏地では虫でさえもバリア装甲を噛み割る事がある。用心しておいて問題ないだろう。」


「ハッ、可愛く尻餅を突くのが赤翼式の用心かしら。」


「こ、この!」


ポカポカ、タマさんを叩くツバサさんをイルシオンに巻いて引き離す。遊んじゃダメです。今は冒険中ですから。ムカデさんは未知の種類。地上から切り離されてガラパゴス化したシャーリアの固有種かな。ブランさんは小型の生体サンプルボックスへ確保していた。


「どんなエリート様が来たのかと思ったら。ちょっと安心したかも。」


「特務隊はエリートだ。まったく。」


「まぁまぁ。仲良くやりましょうぜ〜。」


広々とした飼育場のそこかしこに散乱した瓦礫を退かして行って、途中でお昼休憩を挟みながらもう少し。


「これで見つかった穴は20個目で御座いますね。」


「思ったよりも多いです。うう、ややこしくて地形スキャンが使えないのはもどかしいです。」


大半の穴は深さ1m前後、直ぐに行き止まりで脱走路じゃない。何で掘ったのかは分からないけど、習性なのかな?


皆で穴を見つけ次第深さを測って捜索する。そして遂に、ミライさんが見つけた。


「あっ!ラフィくん!ここ深いよ!10m以上はある!」


「見つけましたか?!半日掛かっちゃいました。」


穴の直径は50cm、小型のラプトゥヌスなら通り抜けられるサイズ感。アクアマリンを展開、するすると水路を中へ通して行った。ピクリ、アクアマリンの中に住まうウィンディーネが反応する。


R.A.F.I.S.Sでやり取りしながらウィンディーネの向かう先へ意識をやった。狭まった通路は真っ直ぐにずぅっと下へ。その先、急に開けた空間へ出た。


そこはまるで巨大な鍛冶場のよう。巨大な炉が直ぐ前に見えていたのだった。

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