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583、呪いを照らす文明の煌めき

蔓延したインフルエンザでシャーリアの住人達は誰もが弱りきっていた。突然現れた大勢の医療スタッフ、そして見慣れない医療設備に誰もがびっくり。でも起き上がる気力も無くてなされるがままにしていた。


ミニフィーが散って行って、R.A.F.I.S.Sを広域に伝播させて行く。言葉は通じないけど、R.A.F.I.S.Sを介して意思の疎通が出来るんだ。重症患者を乗せたドローンベッドが、ふわりと浮き上がってプライベートルームの特設隔離病棟へ。ボクもアコライトとして出来るだけのお手伝いをしていた。


怪我の治療とかは大得意でも、病気の医療にはエンジェルウイングもあまり対応していない。戦場の兵士達を癒す為のものだから。イルシオンを伸ばして大勢居る患者さんを、1人1人床からベッドへ寝かせるお仕事をしていた。


大量のベッドが次々と運び込まれて、所狭しと聖堂内へズラリと整然。事前にウメさんとジークバールさんで、聖堂内の具体的な間取りをモモコさん達へ共有していてくれたお陰で混乱無くベッドを配置していけた。


暗い聖堂を照らす照明ドローンが宙を飛び回り、シブサワプロモーションのヒト達がそんな様子をカメラに収めてエルフの都を救った記録を残していっていた。


場を整えて処置をするのに1日では足りなくて、何日も掛けて患者さん一人一人のカルテを作成して真摯に向き合う。古代のエルフ達に現代の医療技術が問題なく通じるのかも確認しなきゃいけないし、免疫の弱いエルフ達の治療は総力を上げた大仕事になったんだ。


「まったく。私まで駆り出されるとはね。」


聖堂の一画に作られた休憩スペースにて、白喰みさんはパックコーヒーを飲む。透明なビニール袋みたいなパックは、ギュッと握ると飲み口が突き出て飲みやすい。“袋コーヒー”とか“パックコーヒー”とか色々言われてるけど、虹渦島で見つかった新技術は勿論ここでも使われていた。


「お疲れ様です。ボクもちょっと休憩。」


やらなきゃいけない事は沢山。


聖堂内のお掃除もその一つ。元々綺麗に管理されていた聖堂も、パンデミックの中管理者不在になってあちこち汚れていた。それに時間が動き出した影響か、聖堂内の一部が急速に劣化が進んで危ないって事で補修工事も行われていた。時間を凍結させる魔法自体、この為だけに考案された前例の無い1発勝負な魔法。どんな副作用が出るかはエルフ達も把握しきっていない。


「あー、冒険の終わりに大掃除で雑用祭りって言うのもしまらないわね。」


タマさん達も一緒に働いていた。ボクが働いているのならって手伝いを申し出たんだ。免許と知識が無いから医療関係のお手伝いは出来ないけど、お掃除、補修、依然として散発的に起きる原生生物の襲撃防衛、シャーリア全体の破損状況の確認‥‥幾らでもお仕事はあるし手が足りなかった。


「ラフィ様は当機がサポートしますので、タマはそのままガテン系労働に勤しんで下さいませ。」


『エルフ達を救出するって事は色々と責任を持つって事です!病気を治してもこんな廃墟の都に放って逃げたら全滅必須ですし。勿論、お手伝いした分はキッチリエルフ達から徴収しますが!S.N.S連盟と貴族達の利権の綱引きはどっちが勝つでしょうか?!』


モモコさん達S.N.S連盟もオウルさんや4貴族と共に今後の協議で朝から忙しい。どこまでボク達がシャーリアに干渉するのか。ここを植民地みたいにする計画は一切ないけど、それを信じて貰うのも一苦労。


「ラフィの威圧が相当効いたみたいよね。高慢ちきな態度を取るかと思えば、貴族連中は皆借りて来た猫みたいに大人しいって話。ここがホームだってのに。」


カテンさんが休憩スペースへやって来る。毎日シャーリアを飛び回って都の隅々を空撮するお仕事に就いていた。


「虹渦島でのバイト生活を思い出す。開拓者とは気ままなものよと思っていたが‥‥久しぶりだ、カッチリと時間に追われる労働というのも。」


「勤務時間が定められてるっていうのも新鮮です。ボクはお手伝いって立場だから時間的な縛りは曖昧だけど。」


医療スタッフ補佐兼、統括開拓オペレーター的な。変な肩書き。でも統括開拓オペレーターという、何をするのか曖昧な名前のお陰で自由に振る舞う事が出来るんだ。


手伝いをしても、シャーリアを冒険して回っても良い。モモコさん達の気遣いだけど、もう少し現場のお手伝いをしたいからここに居た。


白喰みさんはボクへ問い掛ける。


「して、どうするのだ?オウルが推薦したのだろう。」


「うう。急なお話ですし‥‥」


タマさんは面白そうに笑った。


「ラフィがシャーリアの王になるって?田舎どころか空の彼方に浮かぶ浮島の、謎の民族の王様?何の得があるんだか。」


現在風の主たるシャリアはダンジョンコアに戻ってしまい、意思の疎通が出来ない。シャーリアを覆うダンジョンも維持出来ずに消えちゃったし、風の主としてシャーリアを護る使命は果たせそうになかった。


ボク達との戦争、ルナドゥロスとの戦いで消耗が限界に来ていたんだ。魂が弱ったまま無理に力を振るった反動は大きかった。何日、何年ダンジョンコアからの復活に掛かるか分からない。その間だけでも同じ魔王のボクに王となって欲しいって。


「ラフィ様はニホンコクを冒険するので忙しいので御座います。田舎民族に混じってウホウホ原始的な酒池肉林に溺れるような虚しい事をしても仕方ありません。」


そこまで言わなくても。でも、ボクにそこまでの大役はこなせないよね。帝王学だって学んでないし、力だけで統治なんて出来ないよ。


『無難な落とし所としては、S.N.S連盟による実効支配でしょうか。都市法的にここへ都市を建てるのは‥‥場合によってギリギリOKになる可能性があります。スーパーセルの内部は論外としても、ここはスーパーセルの頂上であって気象も落ち着いていますし。』


植民地支配というよりは、ここにニホンコクの都市を建ててしまおうって事。ガッツリインフラ整備しちゃうし、シャーリアの原型を保てるか怪しいけど少なくとも安全は手に入る。問題はここを都市化するにあたって利益になるのかというお金の事。


『ですので、ここを征天大学付属の学園都市にしてしまいましょう。この場所も深未踏地のど真ん中、まぁ予算を割いて大学を構える価値はあります。スーパーセルがすぐ真下にある環境は貴重ですよ?』


観光都市と学園都市のセットは、征天大学と虹天リゾートタウンの成功例がある。今じゃ大勢が詰めかけてかなりの収益が上がっているんだって。


「そりゃ深未踏地内の土地は企業の私有地になっても土地税掛からないし。そこに現実的に維持出来る施設を作れるかは別として、開拓意欲唆られる魅力的な話よね。」


土地代掛からなくても、施設の防衛・維持費用が嵩んで結局大赤字がよくある話。でもこういう限定的な環境なら。


「ここなら原住民の協力を得られますし、大学を建てる計画は良いでしょう。ただ、S.N.S連盟で権利を共同で持つ以上金の流れはまぁ面倒臭い事になるかと。」


ブランさんの意見が問題の核心を突く。だよね。虹渦島と比べたら面積も小さいし、虹渦島のように未開拓部分が多分に残っていて“伸び代がある”状態じゃない。島のほぼ全域がシャーリアの住人に開拓されていて、未知の部分は周辺のお空だけ。


正直どれぐらいお金になるのか不透明、ここだけのすっごい特産品があれば良いけど‥‥都市を建てても採算が本当に取れるのか。そこが曖昧だと共同だからこそどこも出資を絞っちゃう。


虹渦島の時はシブサワグループ独占だったから思う存分開拓出来たのに。


スーパーセル開拓を始めた時も、スーパーセルがどれぐらいお金になるのか不透明だからって話が持ち上がっていた。


「最低限の設備だけ揃った、低予算な観光都市が無難じゃない?征天大学付属の土地って事にしてさ。良いじゃない、シャーリアのエルフ達の生活に触れてみませんかって。そんな売り文句なら何もかもが必要最低限でも文句言われないっしょ。」


偶にある未踏地の亜人の部落と提携した、異文化観光ツアー的な。需要はあるけど‥‥観光客が現地民と問題を起こす事も多いし、反対運動が起きてツアー提携がおじゃんになった話もよく聞く。


ニホンコクの通貨が欲しい未踏地の亜人の部落ならともかく、シャーリアの住人はそんなものを欲しがらないし。上手く行かなそうだなって思った。


「観光業をやるのならシャーリアの住人達のしっかりとした理解が必要だと思います。お客さん達が文化を尊重してくれるとは限りません。でも大学付属の土地ってだけだと多分お金にはならないと思います。」


原住民がいる。この一点が虹渦島と違って、この島の扱いが難しくなっている大きな問題点だった。だからS.N.S連盟の皆は連日のように会議を開いて今後の動きを4貴族と話し合っている。


休憩スペースでの雑談で何か画期的なアイデアが生まれるなんて事もなく。


ボクに出来る事は何か、と考えた結果やっぱりシャーリアの冒険だって思った。観光資源にしても、何にしてもメガコーポへ売り込めるものがいる。現地のヒトからすると大した事がないものだったとしても、異邦人からしたらすっごい価値があるものがあるかもしれない。


オウルさんにも声を掛けて、交渉材料になりそうな物探しに誘った。一応完全手探りじゃなくて、ある程度のアテはある。カテンさんの空撮写真も合わせて皆で場所を相談し合った。


「私もシャーリアの全部を把握していた訳じゃないんだ。すまない。」


元庶民だったオウルさんは長年空歌の姫をやっていた。元とは言え庶民の暮らしを横目で見ても、長い時間で変化したその細部までは流石に知らない。ボクもヤマノテシティの全部を知っているかと言われたら、分からないし。


「探し物は畜産物です。」


結局の所、ここでしか手に入らない特産品を使って交渉するのが一番。中でもメガコーポ達がこぞって興味を持ちそうな物があった。


ラプトゥヌス。


金の糸を紡ぐ鳥。シャーリアのそこかしこで装飾として使われる金は、ラプトゥヌスが紡ぎ出した物だって思った。


以前ラプトゥヌスはホワイト・シーの冒険で1匹捕まえた事があった。カイコ頭にクチバシが付いた、ナメクジの胴体を持つ羽毛に覆われた奇妙な生き物。クジャクのように背中の羽が大きく開き、滑った腹部からは金の糸を吐く10の触手を伸ばすんだ。



『シャーリアに古くから言い伝えられる伝承に金の糸を吐く神鳥が語られる。金を吐く者という意味の名前だよ。神から遣わされた天の恵みだ。』



以前聞いたオウルさんの言葉。天の恵み、て言う部分を覚えていた。恵みという以上生活に何かお役立ちしていたのだろうし、黄金卿を見てパッと思い付いたんだ。ラプトゥヌスはシャーリアで飼われていたんじゃないかって。


あれからラプトゥヌスの研究が進んで、吐き出す金の糸に強い魔力の伝達性がある事が分かった。オウルさんの証言からも、金の装飾は美しいだけじゃなくて歌をより響かせる事に役立っていたって分かった。


そんな魅力的な特産品が何で今まで議題の中心に来なかったか。


理由は単純、シャーリアが廃墟化してもう長いから。仮にラプトゥヌスが多数飼われていたとしても、肝心な個体が居ないんじゃ交渉材料にはなり得ない。


でも本当に全滅しちゃったのか、シャーリアの近辺で野性化した個体が居ないのかは分からない。だからボク達で探そうって話になった。


少なくともホワイト・シーには1匹居たんだし、もしかしたら探せば群れが見つかるかも。ラプトゥヌスを発見出来れば、S.N.S連盟からシャーリアへ復興に多額の援助を出資させる事が出来ると思うんだ。


いつものメンバーを集め、早速ボク達は廃墟となったシャーリアの冒険へと出発したのだった。

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