表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
603/628

580、ファンタジーの住人が抱えるアファンタジア

「‥‥そうだな、厳密には少し違う。」


オウルさんは真っ黒な写真を、バーガーを食べ終えて空いた手でそっとなぞった。指先が人型をなぞり、その姿は少女の姿のシャリアのよう。


「薄っすら影が見える。」


そう言えばオウルさんは本を読んだりするのも好きだっけ。


「ああ、シャーリアには小説は殆どない。紙自体希少だ。だけど少しならあるから、よく読んでいた。」


『アレの何が良いのか私には分からない。退屈に感じる。』


「そうだね。皆も私のそういう所は変だってよく言っていた。」


2人は懐かしそうに語り合う。感傷に耽る‥‥よりはどこか知識を言い合うようで。


「前々からボクは違和感を感じていたんです。2人がR.A.F.I.S.Sに情報を流す時、決まって真っ暗で文字が流れてくるようでした。」


深刻なお話じゃないよ、と一応言っておく。アコライトなボクが言い出したせいか、ちょっとだけ2人は緊張気味だった。何かおかしいんじゃないかって。


「ボクは、夜眠る時目を瞑って‥‥いつの間にか草原に居ます。海を泳いでいる時もありますし、ビルの谷間を駆け抜けている時も。全部が映像で流れて行って、1本の自分を主人公にした映画を見終わった頃にふと目が覚めるんです。もっとお布団に甘えていたかったなって思いながら。」


オウルさんは不思議そうにしたままで、エンリッヒさんも首を傾げる。


「寝る時‥‥文字が流れて、こう。状況を説明するような感じ。偶にぼんやりと何か見える時もあった気がする。」


『そうだな。最近はそこにニホンコク語が増えたと思う。何かが見える‥‥というのは眉唾だが。』


想像力。


それは誰しもが等しく持つものじゃない。ヒトによってはすっぽりと欠けてしまっていたりするもの。欠けるって言い方も良くないのかも。でもイメージを視覚的に思い浮かべるって事が出来ないヒトが100人居れば2、3人居たりする。


頭の中に思い浮かべられるイメージの鮮明度合いは、びっくりするぐらいヒトによって様々。ボクはファンタジーでも何でも鮮明に思い浮かべられるのに、タマさんはそういうものになるとちょっと曖昧になるんだっけ。前に会話がちょっと噛み合わなくて混乱したんだ。


「アファンタジアって言います。頭が良いとか悪いじゃなくて、脳の構造の問題です。」


視覚皮質って場所がいつも興奮しているようなヒトだと、イメージを頭の中で思い描けない。神経ノイズが増えちゃって、イメージ生成の過程を邪魔してしまうって説があったっけ。これでもアコライトの免許を取った後も、色々医学分野のお勉強をしてるんだから!


‥‥TUBEの動画とかで。


動画内容の裏付けは一緒に観たフィクサーさんやブランさんがしてくれた。偶に凄い!って感動したのにデマだったりでがっかりしちゃう。


「こういう影響は遺伝によって起きる事が多いんです。シャーリアのエルフ達は祖先を辿ると同じ家系が多いんじゃないですか?」


オウルさんは興味を惹かれたよう、封印の解除に意識をやりながらも顎をさすった。


「‥‥そうだね。始祖となったエルフの一族の伝承はシャーリアじゃ誰もが知っている。」


『遺伝か。何となく知っていたがシャーリアには無かった概念に、ピタリとニホンコク語が当て嵌まる感覚は美しい。血筋、のような言葉はあったがより正確に感じる。』


ついでに知っていた小話を添えてみる。


「えへへ、ヒトは自分の常識が周囲と違うって認めるのが難しいんです。アファンタジアの論文を初めて書いたとある学者さんが、同僚の学者達の中にイメージを思い描けないヒトがいるって知った時。聞き込み調査をした結果どんな反応をされたと思いますか?」


2人の反応は冷ややか。


「変な奴だって言う。」


『そうだな。気でも狂ったのかとでも。』


あう、でもその通り。


「イメージなんて概念は存在しない!と抗議されたんです。多くのヒトとはあなた達は違うんですって説明したら“気が狂っている”なんて言われちゃったそうです。」


オウルさんの手が急に伸びて、ボクをぎゅっと抱く。きゃっ?!急になにっ?!


「ラフィの力のお陰で、私達は頭の違いを知れた。流れ込んでくる映像が、ラフィの言うイメージだったのか。自力では影しか出てこないのに、とっても鮮明だ。」


『そうだね。確かに言葉で言われただけでは納得し難いが。頭の中に流れ込んでくるコレをイメージだと言われたら、そうなのだろうと納得出来る。』


フィクサーさんがホロウインドウの中でコソッと。


『ラフィさまはどちらかというと、ハイパーファンタジアの気がありますね。情報量過多で漫画が難読化する程ではありませんが‥‥ああ、そこは膨大な演算容量で補えば問題無しですか。やはりR.A.F.I.S.Sを扱う者の適正なのでしょうか。』


ハイパーファンタジアは、アファンタジアの逆。想像力とっても豊か!意思決定は早いし、正確で冷静!創造性抜群!芸術得意!だけど想像力豊か過ぎて心理障害を負いやすい。誇大妄想とかPTSDとか。ボクの心は頑丈だから大丈夫だけど‥‥よく悲観的に考え過ぎちゃうってタマさん達に言われてしまっていた。


それでも、


「アファンタジアでもすっごい有名になったクリエイターさんも居るんです。シャーリアにもそういうヒトは居ませんでしたか?」


エンリッヒさんは思い出したように。


『ああ、居るぞ。この装飾を生み出した白の長がな。シャーリアは永らく停滞したが、芸術に関しては思えばそれなりに発展していた。大半の技術や文化は地上譲りでもな。』


やっぱり居たんだ。会ってみたいな。


「シャーリアの停滞は血によるものだったか。少しだけホッとした。正直言うとあまりに‥‥輝かしいキミ達を見ていると、自分達に落胆する気持ちがあったんだ。長い時間があったと言うのに、どうしてこの文明の一端にも手が届かないままだったのか。」


『ああ。私なんか遥か年下の女子に殴り倒されてしまった。例え武の心得があろうと、この私が少女に負けるなどあり得ないというのに。その差を埋めた文明の輝きは美しかった。』


ちょっとだけ抗議。


「ミライさんは特別ですよ。すっごい強いんですから。かつての帝国の英雄を倒した実績もあるんです。」


装備の力にも頼ったかも知んないけど、それだけじゃ勝てない相手だった。それでもエンリッヒさんはプイッとしてしまう。プライドに関わるお話のようだった。


黙って解除を急ぐより、ちょっとお話しながら緩やかな回り道。最短距離じゃなくても、確実に封印を解除出来る方が良い。それに封印を解いた後も内部の案内があるし、余裕を持ってね。


シャーリアはあっという間に夕陽が差し、星空に空が染まっていく。そして遂に聖堂のドアの封印が解けたのだった。


「じゃあ、行って来ます。」


ボク、タマさん、ブランさん、フィクサーさんにカテンさん。ミライさんとウメさん、ジークバールさん。8人で並んで聖堂のドア前へ立つ。既に万が一を考えて他の人員は皆避難済み。


「ドアを開けても良いだろうか。」


オウルさんへ頷きで返した。


「時を、前へ進めに行きましょう。」


風が歌う、大きなドアがゆっくりと開き始めた。


「時を前へ進めるのはコレで2回目よ。不思議な気分ねー。」


「普通の開拓者は生涯関わる事のないイベントで御座いましょう。」


修理されて直ったブランさんは、いつもと変わらない姿でボクの後ろへ控えていた。見ればミライさんはワクワク顔、ウメさんはギリギリまで通信しながら状況報告を、ジークバールさんは鼻歌混じりに構えている。


『ふむ。皆さん、気を付けて下さい。この先は時間が凍結した場所となります。実際に観測して分かりましたが、ドアの向こうはこの時空から切り離された異空間のような場所ですね。』


フィクサーさんが言うには、不自然なくらいピタリとドアの向こうから魔力の漏れを感じない。不気味な世界が広がっていた。


「ラフィさん、先ずはドローンを突入させましょう。」


「はい。お願いします。」


ウメさんが操作するドローンがふわり、小さな球体がそのまま中へライトを照らしながら突入する。


「2人はこの魔法の全部を知っているのですか?」


エンリッヒさんは頷いた。


『無論だ。私はこの歌の維持管理をしていた。オウルもまた個人単位で使える祝福された存在。内部へ入ったとしても私達の時まで止まってしまうような危険性はない。』


オウルさんからは写真のようなものだって聞いた。写真みたいに空間を切り取ってそのまま保存する魔法。切り取った瞬間にだけ効果があって、巻き込まれた全部がそのままそこに有り続ける。


「武器に出来るような便利な歌ではないよ。発動には事前準備が必要だし、風の奏でもとても長い。祭事の歌と呼ばれるものだ。」


祭事‥‥大魔法だし、発動するのにお祭り騒ぎレベルの詠唱が必要なのかも。マギアーツ化は出来ないかな?そんな事を考える間にドローンが入り口付近を軽く回って帰って来た。


「一先ず気配はありません。ただ、内部空間の電波通信に大きな制限を感じました。有線での通信が必要になりそうです。」


ドローンはこれ以上遠くへ飛ばせなさそう。スマイルも圏外になっちゃうかも。それでもボクは踏み出した。


「呪いについて調べます。オウルさん、案内をお願いします。」


「バリア装甲を内気循環モードに設定して下さいませ。ほら、エルフのお二人も。長丁場にならない限りエネルギー切れでバリア装甲が解除される事は無い筈ですが、くれぐれも破損にご注意を。」


ブランさんの指示に従って皆設定の最終確認を済ませる。


ボクが最初に一歩、サッと足を踏み入れた。埃一つ無い、清潔な床は金の民族模様が美しい。


「こっちだ。付いて来てくれ。」


歩きながら現地を見つつ説明をしてくれた。


「風の主の世話係と行政を担う4貴族が眠る部屋は頂上の一つ下、“白”に選ばれた者達が1階層下、農家や畜産家はその下、最後にそれ以外の大勢が2階と地上階。聖堂は幾つかの大広間と沢山の小部屋で構成されている。」


大聖堂は5階建て、各階に大きな祭場がある。祈りの日には大勢が集まるけど、身分によって祈りに使う階層が変わるって話。


「私は空歌の姫、風の主を助け4貴族の導き手になる者でもあった。‥‥シャリアの伝言役と言った感じだよ。シャリアが直接あれこれ指示を出すと大概混乱するんだ。私が内容を噛み砕いて要約して4貴族へ伝えていた。宗教的な言い回しでね。」


「中間管理職は大変ね〜。」


茶化すタマさんの視線はオウルさんと、ジト目で見やるウメさんをなぞる。


「じゃあ大勢がこの奥にいるんですね。」


ユリシスを開いて暗い聖堂の中ミニフィー数体を先行させる。呪いの影響が分からないけど‥‥大丈夫かな?


その暗がりの奥、巨大な天幕が降ろされたその先で。布1枚敷いて横たわった大勢のエルフ達の姿を捉えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ