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578、機械仕掛けのメガコーポ

それから兵士達が現場の後片付けにバタバタする中、モモコさん達に促されてボク達は一度パンタシアでお休み。特にタマさんは疲れた顔をしていて、お風呂で散々飲んで寛いだ後ボクを抱き枕に寝室でぐっすり。


くぅ、くぅ。


寝息を立てるボクとタマさんをそっとしてくれて、フィクサーさんが壊れてしまったブランさんの修理のお話を進めてくれていた。世間へ出されているブランさんの情報は普通のスクトゥムロサ。


メガコーポである、リューゲル社が販売するバトロイド製品だった。勿論未来からやって来たブランさんは、この時代のリューゲル社からしたら登録の無い妙な機体。製造された痕跡が無いのにも関わらず、偽造されている訳でもない正式な未発行のコードを持っている。


翌朝タマさんに尻尾を絡められながら、リビングへやって来たボクへその事でお話があると伝えられた。


『リューゲル社の方は、前々からブランさんの存在を訝しんでいましたが。今回の修理の件で一度確認を取りたいと。ラフィさまへ販売した記録が無いのに、サポート外の機体があったら放っておく訳にもいかないのです。』


ちょっと不安なボクの視線の先、応急処置的に下半身を飛行ドローンに接続されたブランさんはふよふよ漂いながら。


「心配ご無用で御座います。シブサワ、ニッポンイチの抱える要人であるラフィ様の重要な資産へ手出しなんて出来ません。今回の件、リューゲル社の外交官だけでは無く代表も呼び付けました。」


ウインナーを噛み砕いたタマさんはフォークで指す。


「つまり、事情を話しちゃうのね。未来の技術を寄越せなんて言われたら?」


「ハッ、シブサワ・ニッポンイチの二大メガコーポとの企業戦争沙汰で御座います。そんな間抜けではないでしょう。」


話によればモモコさんとレイホウさんも同席するみたい。朝から応接室でブランさんについて色々協議するんだって。戦いの後で混乱しているのに、こっちもバタバタしちゃいそう。変な事にならないといいな。


「ブランさんの修理パーツはこの時代の物で大丈夫ですか?」


「進化したのは当機の電子脳みそと、人工筋肉で御座います。ガワの骨格さえ用意されれば、内部に筋肉繊維を伸ばしていき修復可能です。簡易な損傷なら自動修復機能が御座いますが、流石に半身を失うレベルとなると修復に時間が掛かり過ぎますし。」


内部を通る特殊な人工筋肉、そして搭載されたパーツを侵食して素材を変えてしまうl.E.Sと呼ばれる侵食システム。壊れてもガワを整えるだけで元通りのフルスペック。


「スクトゥムロサの量産性に難が出た時代、如何に機能を落とさずに使い回せるかという方向性で製造されたのです。未来は物資が乏しく、買い替えによる利益発生以上に長持ちさせる方向性が尊ばれたので御座います。」


ブランさんは経済という概念も崩壊しつつある、人類総共同体の時代に製造されたスクトゥムロサ。採算度外視で、製造出来る環境が維持出来ている内に、将来への投資も兼ねて製造されたらしい。


それでも悪質なハッキングに遭った辺り、人類は最後まで一枚岩になれなかったけど。


『ラフィさま、そろそろお時間です。ちゃっちゃと面会を済ませてしまいましょう。』


「はい。タマさん、行きますよ。」


「分かったって。」


ボク達は応接室へ向かう。一足先に応接室のソファーに腰を下ろし、ブランさんがお茶とお茶請けを用意してくれた。直ぐにモモコさんとレイホウさんが姿を現し、その後ろにシークレットサービスが並び立つ。


こう言う時は光学迷彩で姿を隠すのがマナーなのに。黒スーツの面々は堂々としていた。その中にミライさんも居て、ちょっとだけ緊張気味な顔。


「これから戦争でも始めそうな物々しさね。言っとくけど応接室荒らしたら高く付くわよ?」


「ははは、悪いね。別に荒事にはならないさ。けれど、意思表示は大事だし‥‥まぁ外交には色んなやり方がある。」


タマさんの苦情をモモコさんは軽く受け流し、レイホウさんも澄ました顔で。


「何せリューゲル社はかの“異界化事件”の首謀者3社の生き残りだ。元々内閣にも席があったが、街一つ魔王の腹の中へ消し去った大事件を切っ掛けに政界から退いた。」


異界化事件。タマさんが故郷を失ったあの事件。タマさんは態度に出さないけど‥‥応接室のドアの向こうを嫌な目つきで睨んでいた。


『にゃは、つまりタマがキレてリューゲル社の代表をぶっ殺さないように準備したって所でしょうか?』


タマさんの舌打ち、モモコさんはやだな〜なんて苦笑する。


「大丈夫、ラフィを困らせるような事はしないと信用しているよ。」


タマさんはそんな事をしませんから。けれど、タマさんへ何か失礼な事を言ってこないか。ボクもちょっと警戒気味だった。


少しして時間通りに応接室のドアが開く。ドアを開けたのはまさかのメイドさん。でも見た瞬間スクトゥムロサだって分かった。黒髪のメイドさんはぺこりとお辞儀を、後に続いてゾロゾロとメイドさんと執事さん達が10体。


最後にドアを跨いだのは‥‥半透明な人型だった。ARで投影されたその姿はフォーマルな格好をしつつも、髪が無くて顔立ちが中性的。でもモモコさんやレイホウさんみたいな雰囲気でも無くて。美形、というよりは無個性。印象に残らない顔をしていた。


思わず言葉を失うタマさん。そして慌てて席を立つ。


「ちょっと?!代表を呼んだんでしょ?!まさかリモートで対応するつもり?!」


その背中をモモコさんの声が引き留めた。


「ふーむ。タマはリューゲル社の代表を知っているかい?」


「ヒラタ・エイスイよ!!禿頭のクソ野郎!」


わちゃっ!とタマさんの腰に抱き付いてソファーへ戻した。気持ちは分かりますけど、喧嘩腰はダメです。


「‥‥ごめん。でも動揺するのは仕方ないでしょ。」


ARの人型は反応を楽しむようにニコニコ。その動きは無機質に見えた。レイホウさんが自己紹介を促す。するとパッと表情が真顔に戻って口をパクパク。


『当AIはヒラタAIと申します。リューゲル社の代表であり、元々は内閣政治サポートAIの任を受けておりました。件の事件以降、リューゲル社が政界を退くと共にそのお役目は無くなりましたが。』


タマさんの困惑する気持ちは、R.A.F.I.S.Sを介さなくても顔を見れば一目瞭然。


『にゃはは、ワタシも風の噂に聞いていましたが。マジだったんですね。都市伝説の類ですよ?』


リューゲル社のトップには代表取締役社長が居る。しかしヒラタ・エイスイの他にもう1人‥‥代表権を有する取締役が居る。だけど何故かその名前を誰も知らない。調べても出てこない。


だけどエイスイさんの動きを見ていると、やっぱり明らかにもう1人代表者が居るとしか思えない。そんな都市伝説。


「エイスイは対外向けの代表者、ヒラタAIが実質的なリューゲル社のトップだ。エイスイも判断を逐一ヒラタAIに頼っている。」


興味本位で覗きに来ていたカテンさんは宙で頭を捻ってうねうね。ボクも不思議な気分で首を傾げていた。AIでもメガコーポの代表者になれるの?


「まぁ、経緯を説明すると長くてね。ヒラタAIは元人間だって知っておけばいいよ。AIに意識を移植した‥‥と言う事になっているけど成否の証明をしようがなく色々宙ぶらりんな存在というか。」


「テツゾウ代表から聞いた話では、前はもっとヒトらしい話し方をしていたそうだ。まぁ、機能していれば問題無い。」


すっかり毒気を抜かれたタマさんは、呆れ顔で無表情なヒラタAIを見上げていた。


『宜しいでしょうか。それで、そこのブランさんが件のスクトゥムロサで御座いますね。ふむ。妙です。型番から違うようです。』


ブランさんもヒラタAIと通信する。


「当機は改造され、ラフィ型として生まれ変わった経緯が御座います。元はM(モデル)25ブラン型でしたが、この時代にはブラン型はM10しか存在しません。最新式の時代遅れの骨董品で御座います。」


ブランさんはボクと同じR.A.F.I.S.Sの簡易版を搭載する為に、中枢モジュールから色々改造して生まれ変わったんだ。ブランさん自身も簡易的だけどR.A.F.I.S.Sを扱える。R.A.F.I.S.Sは経験を積む程にアップデートされるから、接続し合ってボクのR.A.F.I.S.Sと成長させ合えるよう搭載された。


それのお陰でブランさんは同型のモデルの中でも、一線を画すスペックの高みへと至れたらしい。そう自負していた。


『M25‥‥しかし確かにそのコードは間違いなくリューゲル社の物。当AIが正式発行したIDと認証を持ちます。───エラー。“まだ”そのIDは発行されておりません。』


え、エラー?大丈夫?壊れたりしない?不安なボクを根拠無く慰めるタマさんの尻尾。多分大丈夫でしょ、そんな気持ちを本人も訝しむよう。


『壊れちゃったらブランさんは代表殺害の実行犯として確保しましょうか!未発行のIDを送り付けた罪です!』


「流石にそこまで脆いポンコツでは無いでしょう。」


見ればモモコさんとレイホウさんの表情は少し困惑気味。1分ぐらいのフリーズの後、やっとヒラタAIは動き始めた。


『リューゲル社に登録された全商品を検索しましたが、やはり該当しませんでした。』


モモコさんは言う。


「ああ、ここからはオフレコで頼むよ。如何なる情報の漏洩も僕達は許さない。」


レイホウさんも、


「そうだ。オフレコでな。モモコ、レイホウの生体認証を以って本件を機密とする。」


送信された生体認証をヒラタAIが受け取ると頷いた。


『シブサワ・モモコ、ヒムロ・レイホウ両名の認証を確認致しました。本件内閣機密情報として処理致します。』


よく分かんないけど国家機密級の扱いを受けているのかな?


『まぁそこらの市民がラフィさまの正体を口外する分には何の影響もありませんが、リューゲル社がこの情報を何かに利用しようとすれば影響は計り知れません。一市民の胡散臭い都市伝説と、メガコーポの言動は同列に並ばないでしょう。』


そっか。確かにそうかも。うんうん、と頷くボクはヒラタAIを眺めていた。


「当機は300年先の未来から、時間渡航技術によって送られて来た存在で御座います。今から3世紀先の未来、リューゲル社の原型は無く現在存在しないメガコーポに合併吸収されてしまっていました。」


委細がデータとして送付される。その言の信憑性を少し時間を掛けてヒラタAIは思考した。


『信じ難い事実ですが‥‥この場の状況から判断するに虚偽でないとします。』


「ですので、当機は不法にラフィ様が所有する機体では御座いません。この時代の修理用代替パーツで結構ですので、ブラン型パーツの販売処理をお願いします。詳細な注文を送付致します。」


ヒラタAIのビックリ!って風なリアクションは自然な感じというより、エモートって雰囲気。予め用意されたモーションを再現しているだけ。やっぱり感情は感じ取れなかった。


「スクトゥムロサの方がヒラタAIよりも情緒豊かよね。」


あっ!皆思ってたけど口に出さなかった事をタマさんが!ボク達の視線にタマさんはlちょっと気まずそうにした。


『当AIにお客様への対外的な感情モジュールは必要御座いません。言わば接客用ではありませんので。』


ヒラタAIは淡々と告げたのだった。


「この時代のスクトゥムロサの感情表現はやや不格好で御座います。未だ電子の生命を産み出せる程の技術力は無いのです。ただ‥‥当機の知りうる未来のヒラタAIには情緒がありましたが。」


何があったのかは分からないけど、未来のヒラタAIは悩んで試練を乗り越えるような事があったのかもしれない。その時に成長したのかも。とにかく、これから変わっていく可能性があるって聞いてちょっと嬉しかった。


感情が無いなんてやっぱり寂しいから。


『将来的に当AIが感情モジュールを取り込む機会があるのかもしれません。接客をせざるを得ない状況に陥ったのでしょう。可能性として一つ記録しておきます。』


ヒラタAIは要件を済ませると、直ぐにその姿が消える。メイドさんや執事さん達が再びゾロゾロと応接室のドアへ消えて、パタリと閉じた。


機械仕掛けのメガコーポって印象が強く残ったのだった。

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