574、銀の月が夜空を駆ける
聖堂前、出て直ぐに激しい破壊音が聞こえた。シャリアの力で空間を隔てるドアを開けっぱなしに、パンタシアのドアが開きっぱなしになった劇場空間と電波を繋ぐ。
『モモコさん、こちらの様子が見えますか?』
早速偵察ドローンを数機放ってこの場所をカメラに映して行った。金の装飾が美しい塔が沢山並んでいるのが見えて、けれど激しい戦闘音が向こうから聞こえていた。
「これが時を止める魔法って?」
タマさんの視線の先、聖堂前の広場で時間が止まったまま立ち尽くす人影が。赤翼班のメンバー3名が石像にようになっていた。
「フィクサーさん。」
『はいはい、初見殺しに引っ掛かっちゃったおマヌケさん達を起こしてあげますよ。』
オウルさんは嘆かわしそうに。
「ここもかつては綺麗な場所だった。けれど‥‥時の流れは残酷だ。」
魔法が効かないカテンさんに先行して貰って、ボク達はA.M装甲の最終チェックを。
「A.M装甲良し。魔法が解けたようですね。」
「‥‥ッ!!ラフィらか?!」
R.A.F.I.S.Sで情報を共有する。時間が再び動き出した面々は直ぐに銃を構えて戦闘音のする方向へ動き出した。
「救出に感謝する!団長が向こうで戦っている!応援に向かうぞ!」
「はいっ!でもその前にこれを!」
A.M装甲を発生させるチップを手渡して、使い方と特性を共有。駆動魔具で駆け抜けるボク達は、広場を囲う高い壁を飛び越えた。そのまま尖塔の一つを駆け上がって様子を見る。
もう日が沈んで、辺りは真っ暗。頭上に星々が瞬いて‥‥荒れ狂う銀の月が都を蹂躙する姿を見た。
「体長20m級、大型の飛竜種で御座います。バイオマジックの発動を検知。時を止める魔法の間合いは、半径30m前後でしょうか。魔法を展開しながら突っ込んで巻き込むように使うようです。」
ブランさんが観察した結果を教えてくれる。A.M装甲でちゃんと防げるかな?A.M装甲は物理的な衝撃に弱いし、演算容量も大きく食う。その分バリア装甲が薄くなるし、高度な演算が要求される武器の取り回しが悪くなるんだ。
‥‥ボクの演算容量からしたらそこまでじゃないけどね。演算容量はR.A.F.I.S.Sで繋がった皆に共有出来るから、今作戦に於いて防御性能の劣化を気にする必要は薄いかな。
「A.M装甲の破損に注意して下さい!ボクが突っ込みますので、皆さんは援護射撃をお願いします!」
先ずは仕掛けてみないとね!
イーディウスを展開、ボクの体はグングン速度を上げてルナドォロスへ真っ直ぐ突っ込む!カテンさんのブレスを躱したその横っ面へ‥‥!!その速度のままセイグリッド・エンジンを展開!!!
マッハ1に到達しそうな速度で、セイグリッド・エンジンの大質量が突っ込む。直前で気配に気付いて顔を逸らすも───掠った!激しい衝撃でセイグリッド・エンジンが数回転する隣を、砕け散った甲殻の一部が飛散して行った。そして付近の瓦礫を破壊しながら散弾のように降り注いでいた。
イーディウスを再び展開すれば、そのまま地面へ激突せずにボクの体は浮き上がる。背後に迫ったルナドォロスのブレスは、激しく燃え盛る真っ青な火球。激しい爆発はボクのバリア装甲を少し消耗させつつも、ボクを捉える事は無かった。
カテンさんの激しいタックルを躱し、一瞬切り替えたユリシスから飛び出すシラヌイの火炎放射ブレードも当たらない。時を止める魔法がピタリ、シラヌイの時を止めてしまった!
シラヌイ内で操作するミニフィーとの接続が切れて、その巨体が空中で凍りついたように止まってしまう。落下もせずに座標に固定されたようだった。しまった!やっぱりボクが直接叩かないとダメみたい。
カテンさんと一緒にルナドォロスと激しく戦う中、ふと違和感に気付いた。皆の援護射撃が来ていない?よく見ると空中で止まった無数の銃弾が見えた。そんな?!銃撃も止めちゃうの?!
確かに自分を中心に時を止める魔法を展開出来るのならあり得る話だけど‥‥銃弾の速度でも関係なく止めてしまうなんて。シャリアの放った無数の怪物のワームも同じく止められて届いていなかった。
これじゃオボロさんとグジャさんを呼び出しても厳しいかな?相性が悪そうだって思った。
それでいて凄まじい速度でルナドォロスは飛び回る。尖塔から狙撃するタマさん達へ一瞬で急接近!慌てて散開する面々がバラバラに離れてしまった。
「コイツは想像以上に厄介な奴だな!我が気を引くから、ラフィはドラゴンらの救助を優先してくれ!」
「はいっ!探して来ます!」
戦闘音は激しくて、シャリアが放った無数の怪物があの手この手でアプローチを重ねていた。時を止める魔法はシャリアもオウルさんも知識が深いから。徐々に怪物が甲殻を齧り、凍てつかせて脆くしていた。魔法の開発者なら、その抜け方も分かっているみたい。銃弾じゃ再現出来なそうだけど‥‥
ユリシスから一斉にミニフィーが飛び出して、わっ!と散って行く。R.A.F.I.S.Sが広域に伝播して行って、ドラゴンさん達を探した。
直ぐに脳波をキャッチしてボクはパパッとイーディウスで飛んで行く。廃墟となった民家の中、立ち込める血の匂いを纏ってドラゴンさんと‥‥ツバメさんが居た。
「助けに来てくれたのね‥‥」
「ラフィ!団長は血を流し過ぎている。危険な状態だ。」
大丈夫だよっ!ボクが直ぐに治すんだから。
「任せて下さい。今ボクの仲間達があの竜の気を引いています。よくここまで持ち堪えてくれました。エンリッヒさんは居ますか?」
エンジェルウイングがふわり、ドラゴンさんを包んで傷を癒して行く。蓄積した疲労も、ふわふわの天使の羽が溶かしてしまう。
「ごめんなさい。エンリッヒとは逸れちゃったわ。私達も必死だったから。」
「アイツに近付いたモノは銃弾すらも止まって動かない。動けなくなった仲間が食われないよう、私達で気を引き続けて逃げ回っていた。」
ツバメさんも怪我を負っている。だけど先にもっと重傷なドラゴンさんから。より体に馴染みやすい、軍の高級品な万能輸血液をドラゴンさんへ輸血。強化外装の輸血液の収納は空っぽ、あちこち壊れていて強化外装の修理をしないと戦線復帰は無理そう。
「ドラゴンさん、替えの強化外装はありますか?」
「もう無いわ。全部使い切っちゃった。‥‥ふふ、カッコ悪い所を見せちゃったわね。アナタのような子供にこんな姿、見せたくないのに。頼られるままで居たかったの。」
ドラゴンさんは弱気で。こういう時はちゃんと勇気付けなきゃ。
「大丈夫です。ボク達が絶対にあの銀のお月様をやっつけます。ドラゴンさんも絶対助けますから、安心して下さい。皆でここまで来たんですよ、冒険も大詰めなんですから。ハッピーエンドを目指しましょう!」
ドラゴンさんはボクの頭をもふっと撫でて小さく笑んだ。勇敢でカッコいい子、なんて。
と、ドラゴンさんの収納の中から震える声がした。
『オオオオ‥‥なんだこの感覚は‥‥浄化されるぅ‥‥』
エンジェルウイングにすっぽり埋まったドラゴンさん。その収納が急にグワっ!と開いて、中からギャザリックが飛び出した?!ランドセルサイズのウサギ人形は、半狂乱にジタバタ!
『ヤメロォ!!そんなふんわりオレ様を包むなァ!!浄化されそうになるだろうが!!』
ドラゴンさんに抱かれて、やっと落ち着く。
「ごめんなさい。でも、私を治してくれているんだから。そんな態度はダメよ。」
ボクの視線の先、ウサギ人形は骨も筋肉も無いのにコミカルに動く。腕組みして首を傾げれば、長い耳が垂れた。
『グゥ‥‥!ハニーよ済まないな。オレ様もこんな姿をしてなきゃ、あんのクソトカゲ風情にやられる事は無かった。この体は余りにもモロ過ぎる。』
ちょい、ボクの手がお人形を撫でた。思ったよりも柔らかい。体温は無いけど中にワタが詰まってる感じとも違うかな?
『オイ、撫でるな。ハニーを助けてくれる事には感謝するが、馴れ合いは好かん。』
けれど、ヒョイとボクへギャザリックさんを渡して、ドラゴンさんは笑った。
「私はもう戦えないわ。でも、ギャザリックは違うでしょ。ツバサと一緒に迎え撃ちなさい。これは旅団長の命令よ。」
そう言われるとギャザリックさんは言い返せず、ツバサさんもビシッと敬礼した。ドラゴンさんを完治させた後、ツバサさんの怪我も治す。さっきからずっと見られていたけど、ツバサさんはボクの癒しを嬉しそうに堪能していた。
「生フィの癒し‥‥ふふふ。」
「ツバサさん?」
「いえ、何でもない。私の強化外装はまだ機能するから、このまま戦線に復帰出来る。ただ、あの竜に有効な攻撃手段が無い。」
それは、大丈夫だと思う。
「あの竜はルナドォロスって言います。ルナドォロスの性質は把握して来ていますので、ちゃんと対策も用意されています。」
収納からそっと、沢山突起が付いた小型の爆弾を見せた。ガスを噴射する特殊弾頭‥‥それを手に持って直接甲殻へ引っ掛ける為の物。万が一銃が効きそうになかった際に、ボクが特攻してぶつける為に持たされていた。
『にゃは、そういう事です。確かに極めて厄介な力を持ちますが無敵ではありません。それに多勢に無勢。数の暴力はどんな巨獣さえも打ち倒します。』
そう。だから、準備が出来たら直ぐに反撃に出るよ!
「ギャザリックさんも頼りにしています!」
ボクの収納の中へしまった。ギャザリックさんはちょっと不貞腐れながらも、
『分かっている。オレ様の力を使いこなせるかな?』
なんて。ツバサさんを治したボクは作戦を伝えて直ぐに動き出す。見上げた先で、今なお激しく銀の月が夜空を駆け回っていた。




