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573、皆が笑顔で居られる未来の為に

重苦しい空気の中、シャリアは遂に口を開いた。その姿を美しい金髪の少女のように変え、ボクの姿見を解いた。どこかふてぶてしい目元の雰囲気は変わらないけど、その表情は真面目だ。


「先ずは謝罪させて貰おうか。確かに情報の行き違いは多かったと思う。貴様らを試すような態度だった事も認めよう。戦いに敗れたのは事実だが‥‥悪いな。何せ負けた経験はそうないのだ。」


へりくだった態度は取らないけど、素直に非を認める姿勢を見せる。


「そしてシャーリアの救難計画にも感謝している。どれも本心でもこういう交渉に慣れも無い。“おふざけ”が原因で多大な苦労を掛けてしまった。」


誤魔化したり婉曲な表現も使わず、率直な物言いはモモコさん達からしたら感触が良くないようで。R.A.F.I.S.Sに侮りに近い感情が流れて来た。


モモコさんはこほん、と咳払い。


「そうだね。非を認めるのは大事さ。ただ反省している悪かった‥‥じゃ交渉にならないんだ。真摯な謝罪というには態度が宜しくないし、ハッキリ言って対応に困るね。交渉をしようじゃないか。」


まず第一に求めるのはダンジョン化の解除。ボクもシャリアへお願いしてみる。


「‥‥非常に言いにくいのだが。あのダンジョンの中枢で奏でられる、時間を停止させる歌に強い干渉を受けて以来ダンジョンの支配権が曖昧だ。そうだな‥‥体内に悪性腫瘍が出来て、干渉出来ずに暴走した部分があるという感じか。」


内部の一部の空間の時間が“再び”凍結しちゃったみたいで、空間の制御が上手くいかないらしい。


レイホウさんはつまりは‥‥と繋げる。


「時間停止の魔法とやらが再発動したとでも言うのか?赤翼班はそれに巻き込まれた可能性があると。」


シャリアは頷いた。セイテンさんは一瞬辛そうな顔をする。けれど悟られまいと表情を正した。ボクは気付いているからね。


「ダンジョン化の解除の際、こういう制御を離れた部分が中枢にあるとシャーリア全体の空間が無茶苦茶になってしまう。端っこなら切り離せたが、流石に心臓部は無理だ。」


そしてそもそもの原因をシャリアは語った。


「シャーリアの支配権を今まで多くの者‥‥貴様らが言う原生生物と奪い合って戦って来た。その中に俺と数度戦うも倒せずに逃げられた竜がいた。」


太陽のように輝く黄金卿を飲み込まんと迫る“月”。


ルナドォロス(銀月の主)と呼んでいる。数多の魔法を使う飛竜。その中でも一際大型で、スーパーセルの中でも強い存在感を放つ。リヴァイアサン級‥‥だったか?そういう超大型の原生生物共も手を出さない、孤高の月だ。」


一応カテンさんに訊いてみるけど、知らんと首を振った。空の主には存在を知られていなかった。パッとホロウインドウが開いてフィクサーさんが補足してくれる。


『ルナドォロスですか。にゃは、オシャレな名前ですね!しかし元々飛竜はバイオマジックに長けた種族です。深未踏地の奥地、高山地帯を主な生息域にしますが。スーパーセルに住まう彼はその中でも逸れ者なのでしょう。』


「あやつはメスだ。」


『おや、これは失礼。今まで観測して来て気付きましたが。やはりスーパーセルに巻き込まれ、そこを棲家とする原生生物は極めて濃度の高い魔力の中で暮らす内に、その存在を変異させる傾向が強いようです。』


フィクサーさんの言に白喰みさんも頷く。


「ああ、深未踏地で暮らすニホンコク原産の生き物が、変異してその生態を大きく変えた事例は多い。私の故郷の大陸ではそう言った人里離れた場所で暮らす生き物を“魔物”だなんて言ったな。」


濃い魔力を浴びた原生生物は、体内に蓄積した魔素が原因で突然変異を起こす事がある。魔素の持つ魔力が原因で遺伝子が破損、その穴に魔素が食い込んで時にバイオマジックが発動する。多くの場合は異常成長や骨格の変化、体を構成する物質の変化なんてのを引き起こしちゃう。


説明するのが大好きなフィクサーさんは負けじと主張する。


『そうです!遺伝子レベルで魔素が体内に組み込まれた生き物は、自然と体内の魔素内の魔力が枯渇しないよう魔力を求めるようになります。魔力を含まない魔素は、干からびたミイラみたいになって縮んじゃいますからね!最悪遺伝子レベルで構造が脆くなって死んでしまいます。』


そしてより濃い魔力を求めて深未踏地の奥地へ生息域を変えていき、更に濃い魔力を浴びつつより身体を変異させていく‥‥


『とまぁ、深未踏地の上空に異常成長した原生生物が多い理由なんです。元々濃い魔力風が吹き荒れていますから。その中でもスーパーセルは膨大な魔力渦巻く場所。そこに迷い込んだ飛竜が一体どれ程の変異を遂げて強大になってしまうのか。』


そんな話を聞いたミライさんはちょっと怖そうに。


「えっ?それって私達大丈夫なの?人間だって変異しちゃうよね‥‥?」


ホロウインドウの中のフィクサーさんは悪い顔でミライさんを覗き込む。


『亜人って何で存在するか分かります?深未踏地のような魔力の濃い場所で暮らした人間のなれ果てですよ?ミライさんも直ぐに豚鼻になっちゃったり‥‥?』


思わず自分のお鼻を触るミライさんにボクは大丈夫だよって伝えた。


「そうならないようにする為に、深未踏地を冒険する前に魔力障害予防の注射を打っています。一度打てば遺伝子が魔力の影響を受ける事はなくなります。」


都市内で日常的に浴びちゃう魔力量で障害を受ける事は無い。あくまで深未踏地の奥地レベルの濃い魔力に長時間暴露した際の影響のお話。


モモコさんの咳払い再び。話題を引っ張り戻す。説明好きな2人が居るとついつい講義が始まっちゃう。


「それでルナドォロスが聖堂前に居座っている可能性が高いって事だね?カテンすらも入れなかったというのに、どうやって入ったんだか。」


モモコさんの意見にカテンさんは不満顔。自己主張大きめにぐるん!と卓上を回ってアピールする。


「言っておくが!我も入るだけなら出来るのだぞ?勿論ダンジョンの破壊が大前提になるがな。大方主人のシャリアが居ない間に強引にダンジョンを食い破って入って来たのだろう。」


想定された入口から入らないとダンジョン内の空間へ上手く接続出来ない。魔法に長けた竜って話だし、想定外のやり方で入り込んでしまったのかも。モモコさんは苦笑しながらごめんごめん、と軽く謝った。


「ルナドォロスなら長い時間を掛け、シャーリアに掛かった大規模な魔法を解析して模倣したとしてもおかしくはない。」


戦うにしても時を止められちゃったら勝てないよね。どうしよう。


「ダンジョン化を解けるんなら、ギガスから滑空砲で死ぬまで狙撃してやれば害獣駆除は簡単よ。でも流石に至近距離で取っ組み合いするなら、時間停止の魔法抜きにしてもお断りな相手ね。」


歩兵用の並の兵器が効かない頑丈な甲殻、宙を飛び回る圧倒的な機動力。空飛ぶ戦車との取っ組み合いになっちゃう。


タマさんの意見に皆して考え込む。どの道赤翼班を救出するなら、避けては通れない相手。外からカテンさんのブレスでダンジョンごと破壊したいけど、赤翼班を巻き込んじゃう可能性高いし‥‥やっぱり正攻法しかないのかな?


倒すだけなら手段は沢山あるけど、救出作戦になると一気に難易度が上がる。


『時間停止の魔法ですが、ワタシならある程度は防げますよ?オウルさんに掛かっていた魔法を解いたのはワタシです。あれから個人的に研究をして、銀トカゲ以上には理解を深められた筈なのです。』


とは言え、広範囲をカバーするのは難しいそうで。フィクサーさんが住まうホロウインドウと距離の近いボク1人分しか守れない。


「我にも効かんだろう。この鱗は魔法を弾く。空間全体を巻き戻すような結界に巻き込まれたのならともかく、その場でポンと発動出来る規模の魔法の影響など受けん。」


カテンさんは頼もしかった。


「だったら征天丸を使うのはどうだ?ラフィにワープゲートを開いて貰い、そこから征天丸で侵入する。征天丸の外殻も魔法の影響を弾くのだぞ。プロミネンスのブレスすら焦げ跡一つ付かん程にな。」


征天丸で攻め入るのは確かにアリかも。時間停止‥‥すっごい無敵の魔法に聞こえるけど、魔法の影響そのものをシャットアウトする技術だってあるんだ。ニホンコクを代表するメガコーポが3社もこの場に居るんだから。


「そうだな。魔法の影響を防ぐ‥‥A.M(アンチマジック)という点に関してはニッポンイチにもノウハウがある。深未踏地への探索事業を推し進めるのなら対策技術は必須となるのでな。」


レイホウさんは直ぐに、A.M加工されたバリア装甲を展開する装置を手配してくれた。


「物理的な衝撃には弱いが、衝撃を伴わない魔法に対してはめっぽう強い。途上中の技術でも役立つだろう。」


モモコさんも同じく。


「STCにもそういう技術はある。性能も似たようなものだけどね。僕は竜種が嫌うガス弾の手配をしようか。獣用スプレーみたいなものだけど、魔法を使う際に必要な集中力を削ぐには十分効果がある。不完全な魔法になれば怖く無いだろう?」


竜の甲殻に引っ付いた後、悪臭ガスを噴射し続ける特殊弾頭があるらしい。強い催涙効果もあって、より有利に戦えそうだった。


次々と有効な対策が挙げられ、急ピッチに準備が進んで行く。そんな中シャリアの存在は無視されているようで、オウルさんと共に不安そうにするしかなかった。


「文明の煌めきはあの銀月をも霞ませる‥‥か。どこか複雑だ。」


「シャリア、戦いに参加出来そうなら来て下さい。ここはアナタの都なんですよ。」


ボクの差し出した手を見る。


「俺を解放するのか?首輪を付けていないと不安なのだろう?」


タマさんがシャリアの頭をペシっと小突いた。


「何をする?!」


「ハッ、アンタのその自信はどっから来んのよ。負けて脅威じゃなくなったアンタを怖がる奴はもう居ないの。単に研究対象を逃したくないからギガスに閉じ込められていただけよ。」


白喰みさんが悪い顔で見ていた。シャリアは視線から逃れるよう、ボクへ寄る。


「俺は魂に甚大なダメージを受けていてな。見かけ上は復帰しているが‥‥大きな力を扱えん。」


カテンさんは鼻で笑った。


「魔王が随分弱気だな。我も長年掛けて仕上げた最強の肉体を喪失して以降、魔力で模った仮初の肉体に甘んじているが現役だぞ。まぁ、空の主である我のような離れ業は難しかろうが。」


「貴様‥‥確かに弱気なのは認めよう。余りにも俺は立場が弱い。貴様らの力は俺が識る以上に‥‥理解のずっと外側にいるのだ。」


弱気なシャリアの背中を、トントン。


「強いからとか、弱いからとか。そういう問題じゃないです。アナタの都を救う戦いなのに、言い訳をして何もしないまま白喰みさんのモルモットとして過ごすのですか?」


シャリアの目を見つめたまま、しっかりと意思を伝えた。


「いいですか?これは300年後、シャリアとエルフ達が笑顔で暮らせているか。それとも瓦礫だけが残ったこの浮島で腐っているか。そういう戦いなんですよ!」


「例えついでになったとしても、ボク達は手助けをします!シャリアが目一杯活躍すれば、モモコさん達もアナタの窮状を聞き入れてくれるかもしれない。でもここで任せっきりにしているのなら。」


「自分の手で道を切り拓こうと頑張る事も出来ないヒトを誰も応援しません。」


結局はモモコさん達も、シャリアを交渉相手として適切か値踏みしているんだ。弱気なまま動けないようなら、もう見向きもせずに白喰みさんに全部の処遇を任せてしまうと思う。


ボクは皆を助けたい。それでもボクを支えてくれる皆の意思も大事だから。呪いの領域へ踏み込む危険を軽んじたりもしないよ。


シャリアはボクを真っ直ぐ見つめたまま、その目に覚悟を宿した。オウルさんもシャリアの側を通ってボクの隣へ。


「私はどの道戦う。風の主が醜態を晒したとしても、私が活躍すれば良い。」


「お前な‥‥」


シャリアは前へ踏み出した。


「このダンジョンの主人は俺だ。ルナドォロスと決着を着けるとするか。」


横目で見ていたモモコさん達も少しだけ頬を綻ばせる。


「作戦へ参加したいのなら、適切な装備を支給します。ラフィさんの指揮下で戦うように。作戦上シャリアは戦力として換算されませんが、それはサボっていて良いという意味ではありません。ラフィさんの補佐として活躍を期待します。」


ウメさんはシャリア用の装備を手配してくれた。大勢の指揮官達が応接室へやって来て、直ぐにでも詳細なミーティングが始まる。


その間、ボク達は先行隊として直ぐに出発する事になった。ボクのワープゲートを使って内部の状況を伝えながら作戦を詰めていくんだ。


「では行きましょう。」


「そうね。今回の冒険も大詰めって所かしら。」


『ワクワクしますね!』


「ラフィ様、当機が背中をお守りしますので。」


「飛竜如き、我が叩き潰してくれる。」


「皆、待ってて。やっと助けに行ける。」


直ぐに突入準備を済ませた。ドラゴンさん達、待っていて下さい!少し遅れましたが、今助けに行きます!

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