569、シャリアの真意
「終わった。今の内に早く進もう。」
オウルさんに急かされるようボク達は進んで行く。水と霧とそして長大な水道橋の世界。水道橋の上に水道橋が連なって、5000m上まで続くようなダンジョンの異空間。
広い世界だから駆動魔具でグングン進んで、次から次へと上の階層を目指す。機械の襲撃は頻繁に、ちょうど今も指した先でツキシロが3体分のワシ型を前足で粉砕していた。
イルシオンが突進して来る機械を灼き裂いて、イーディウスが乱舞して近付けさせない。S.S.Sから紫電M10が的確に銃弾をばら撒いて、広範囲を紫電弾の爆発に巻き込んでいた。
「ラフィ様のご活躍は鬼神の如し。私の剣が霞んでしまいます。」
ジークバールさんも凄い活躍しているし、背中を安心して任せられるんだから。
「世辞は良いから、ウメはアンタが引っ張りなさいよ!」
タマさんも3M50でガンガン水流に潜む敵を粉砕して行く。
「私をお荷物みたいに言わないで下さい。これでも元アサルトメンバーですので。」
ウメさんの携えたキャリーバッグのような複合銃が、撃ち漏らされた敵をピンポイントに狙撃していた。片手で振り回した拍子に、ズドン。AIによる補助が有っても神業のよう。
上に行く程機械の襲撃が増えて行くようだった。
「ぬぅ‥‥我も戦いたいが。大きくなれんのが口惜しい。」
カテンさんが巨大化しちゃうと、それだけで別の階層へ転移するエリアに体が被っちゃうかもしれない。ボク達全員を追い風で更にスピードアップさせる補助に徹してくれていた。
「カテンさんのお陰で皆とっても速く動けているんですから!助かってます!」
背中に受ける風が気持ち良い。オウルさんはこの状況に溜息を吐いていた。
「ダンジョン内に居るこの機械達も、もう耐用年数が過ぎて制御がボロボロ。全部が終わったらもう一回作るのにどれだけ時間が掛かるのか。」
『にゃは、こんな骨董品を作り直しても意味ないですよ!まぁ技術の漏洩が怖いので都市からバトロイドを買い付ける事も出来ないでしょうが!』
共有モードのホロウインドウをオウルさんはジト目で睨んでいた。
気付けば水道橋は雲の高さに達していた。辺りを漂う霧が雲だって分かった時、雲海の上へとボク達は飛び出していた。
「でもまだ上があるんですね。」
それでも水道橋の遥か上層は見上げる高さ。滝にように落ちる水が霧になって霧散する。雲海の下は見えない、そして雲海から突き出した水道橋は神秘的で美しく感じた。スマイルカメラをフィクサーさんが操って、この綺麗な場所を沢山撮ってくれていた。
大きな咆哮のような轟音が空を揺らす。そして遠くから巨大な機械が迫って来ていた。全身が歯車で出来ているような巨大なワシは、絶え間なく身体中の歯車をぐるぐると回しながら空を飛ぶ。そのサイズは大怪獣レベルだった。
「アレもエルフの文明力の賜物って?動物に似せずに無駄を省けばもっと強くなるわよ。」
タマさんの冷笑にオウルさんは反応せず、杖を構えて圧縮された魔力を光学兵器のように撃ち出していた。一筋の光が巨大な翼に着弾、そこから急速に凍り出してズシリと重量を傾かせる。
ワシの機動力が落ちた間にもっと上へとボク達は急いでいた。
少しでも早くこの階層を出ないと‥‥!あっ!また!
世界がモノクロに、そこかしこから影が迫る気配を感じた。皆の緊張感が高まる。同じ場所に留まるのは危険だから、もっと早く進まなきゃいけない。影に包囲されちゃう前にもっと先へ!
移動する場所をアクアマリンの水路へ絞って、水道橋から離れないように滑走する。遠くから巨大なワシが突っ込んで来るけど、タマさんの3M50の集中砲火が片翼を粉砕!そのまま遥か地上へ落下して行った。
群がって来る空飛ぶ機械の群れを振り切るような速度で進んで、ジークバールさんの感知した影を回避する。水路の上を飛んで迫る影を前に、皆アクロバティックにジャンプして頭上を通り過ぎた。
上へ!上へ!
水路をグネグネと曲げて影の襲撃を回避、飛来する機械へ銃撃を浴びせ掛け落下して行く残骸に脇目も振らず。カテンさんの追い風が一層激しくボク達を押し進めて、水路の上をジェットコースターのように駆け抜けた。
水底から飛び上がった平たい機械を黒剣が両断!4つに別れた影の隙間を縫って滑走。イルシオンの白光が頭上を通過した直後に、首を寸断されたワシ型が悲鳴のような風切り音を残して後方へ。
蹴っ飛ばされたワシ型が道を開け、バッグガンの散弾が広範囲を押し除けた。
R.A.F.I.S.Sで完全に連携した動きは一切の淀みなくスムーズに。精鋭の中の精鋭、達人の完璧な動きが難局を乗り越えて行く。
霧となった滝を逆走して飛び込み、遂にオウルさんが出口を指した。水道橋の向こうに木のドアが見える!けれど道を塞ぐよう沢山の影の気配があった。
後ろからも追いかける無数の気配!立ち止まれない、けど正面の影の数が多過ぎる。迂回する為に水道橋を離れられないし、隙間を縫って行くのはリスクが高い。
必死なボクはふとシャリアの思惑に気付いた。
何でシャリアはこのとっても広大なダンジョンを正面から攻略させたのか。ボク達なら乗り越えられるって信じたのもあるだろうし、折角長い時間を掛けてここを創ったんだし誰かに見て欲しい気持ちもあったと思う。
それ以上に、子孫である魔王のボクにダンジョンを体験させたかったんじゃないかな?それはアトラクション的な意味じゃ無くて、ダンジョンは異界化の秘奥のようなもの。魔王として試練を与えたんじゃないかって。
1人の開拓者としてじゃなくて、魔王としてここへどう挑むのか。
それがシャリアの狙いだったんだと思った。
今までこの長大なダンジョンを見て、感じて。その秘奥を少しでもR.A.F.I.S.Sが学んでいった事を感じていた。空間の構造から、魔王の力の扱い方。どう使えば異界化をより繊細に操れるか。
ボクは魔王の力を本気で振い、全力の異界化を正面へ打ち出した。
目前の水道橋が一瞬で白銀の羽毛が舞う銀世界に姿を変え、空間が重なって出来た影がその姿を消失する。目前の空間はボクの世界。シャリアの影響が及ばないダンジョンに開けられた風穴。
ドアの扉も羽毛になって吹き飛び、ボク達はぽっかり空いた空間の中へ飛び込んで行った。ボク達が通ると空間の穴は縮小するように消えてしまった。穴の空いたダンジョンを修復するかのような動きだった。
「ラフィ、助かったわ。」
タマさんの片手がボクを撫でる。
「そうですね。ラフィさんの力は頼りになります。」
ウメさんもボクに礼を言う。カテンさんは安堵の息を吐いてぐったりしていた。
『このダンジョンにさえ穴を開けるラフィさまの力は凄いですね!シャリアも驚いたでしょう!』
思いっきり攻撃しても壁一つ壊せなかったのに、ボクの異界化で上書きしてダンジョンを歪められちゃった。ボクはダンジョンを創った事はないけど、開拓者試験の時と今回のダンジョンを見てその構造をR.A.F.I.S.Sで理解していった。
「ああっ!これがラフィ様のお力!なんて美しい異界化でしょう!すみません、感極まってしまい‥‥!少々涙が。」
さっきから黙って1人昂っていたジークバールさんがやっと口を開く。そんなに褒められると流石に恥ずかしいな。
「大分魔王の力も使えるようになって来ました。ボクに隠された拡張機能じゃなくて、魔王本来の力。」
このダンジョンを体験して、また一つ成長出来た。都市じゃ危なくて振るえないし、積極的に魔王の力を振り回そうとも思わない。それでも力を磨いておく事に越した事はないから。
時間はもうお昼を大分過ぎて、3時のおやつの時間になっていた。朝からぶっ続けで6時間以上走り続けていたんだ。流石に皆疲れが見えて、パンタシアで休憩を取る事になった。
開いたドアへ片足踏み込んだボクはふと振り返る。そこは巨大な劇場になっていて、紅と金の美しい廃墟だった。
パンタシアへ戻れば、丁度ミライさんがリビングで休憩している所だった。
「皆戻って来た!あはは〜お疲れー。」
タマさんの尻尾がおでこをぐりぐり、ウメさんにもほっぺを引っ張られる。わちゃちゃ、とするミライさんの腰をボクはグイグイ抱いてじゃれついた。
「もう!大変だったんですよ!」
「そーよ。ま、半端な乗りこなしのアンタが来てたら死んでただろうけど。」
「そうですね。職場体験にしてはハードな戦いでした。」
ボクの頭をミライさんがもふもふ。髪をさわさわ。ついでと言わんばかりに触る手をブランさんが横合いから払ったのだった。
「短い時間でしたが、ミライの乗りこなしの上達速度は目を見張ります。一流には程遠いものの、センスはあるように感じました。」
ブランさんに褒められてどーよ?とドヤ顔。ボクとタマさんは顔を見合わせて、次の探索には連れて行こうかな?と考えた。結局実戦経験が1番成長を促すし、リスクはあるけどミライさんが行きたいと言うのなら。
「もっちろん行くよ!大丈夫、役立ってみせるからさ。」
やる気満々のようだった。遅めのお昼ご飯は厚切り豚カツ丼。お吸い物と漬物を添えたドンブリを皆でかき込む。お肉っ!卵っ!
「この卵、プライベートフォレストで育てたやつですよね?」
「そうで御座います。濃厚な味わいは一層深みを増したようです。」
ニワトリ2世達が卵を産み始めて、ボクの癒しをたっぷり浴びた鶏卵がお肉と絡み合う。
「これがラフィ様の癒しを浴びた特上卵。香り高く、濃厚で、おおっ。美味い。」
ジークバールさんも嬉しそうに味わっていた。ウメさんも幸せそうなトロけた顔でカツ丼をもぐもぐ。ミライさんの唸る声が聞こえた。
定食とかバイキングだとお喋りしながら食べるけど、丼ものだとつい無言で味わう事に集中しながらかき込んじゃう。持ち上げた丼が軽くなっていくにつれ、幸せいっぱいなお口が心を満たす。お吸い物をずずずっ‥‥はぁ、と漏れた息は満足の証。
「この世界の料理は何を食べても美味しい。」
丼をつるりとさせたオウルさん。そのままふわりと魔法で浮かび上がり、ハンモックに揺られるよう空中でたゆたう。
食休みの間、ウメさんとジークバールさんが応接室でモモコさんに進捗を伝えに行っていた。ボクはタマさんの隣でスマイルをいじいじ。トラッキングされた脳波と目線がホロウインドウを忙しく動かす。
文字たっぷりのニュース記事をAIが要約してくれて、数秒で内容を把握して次の記事へ。同時進行で開いたハムハムアプリのおすすめ欄が下へ流されていく。可愛いペット動画だけはちゃんと見るけど。
オウルさんに突かれてホロウインドウを共有モードに。
「内容ちゃんと分かってるの?凄い早い。」
「大丈夫です。ボクは演算能力がとっても高いから。」
演算能力は情報の処理能力に直結するんだ。このぐらいならぼーっとしていても完全に把握出来ちゃう。
隙あらばオウルさんの手がボクを抱いてくる。タマさんの尻尾がうねってオウルさんの指先が引っ張った。あの、くすぐったいです。んっ、ほっぺくすぐらないで。
ブランさんがボクの装備のメンテナンスをしてくれて、ボク自身も休憩しながら強化外装をメンテナンスモードで休ませていた。まったり寛ぎの時間、だけどもう次の冒険に向けて準備が進んで行っている。
くすぐる指先に誘われてぺた‥‥とタマさんに寄り掛かりながらも、ボクの心は次の冒険にワクワクしていたのだった。
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