566、黄金卿はまさに無限なるルミナススペース
翌日、作戦変更して黄金卿の迷宮へ挑む準備が出来た。
道順はオウルさんとエンリッヒさんが知っているから、2班に分けて進む事に。ボク達を含んだシブサワPMC班と、赤翼PMC班で分けるんだ。迷宮と言っても、黄金卿のあちこちに開いた空間を通って進んで行く形になる。場所が黄金卿の外へ飛ばされる事は無いそうなので、ミニフィーを連れて行って各所へ配置。R.A.F.I.S.Sで都全域を覆えれば安定して外部とも通信出来る筈。
ギガスを都の直ぐ側まで移動させて、バックアップの探索支援本部を立ち上げる。内部での遭難を避ける為、探索班が居る座標を割り出して位置をハッキリさせるんだ。
同時に外周部を徘徊する暴走した機械やゴーレムを掃討する班も編成、支援本部と連携して脅威を排除して行く方向で決まった。
「大規模なダンジョンの攻略は初めてです。ワクワクしますね。」
ボクと一緒に向かう班はいつものメンバーに加えて、ミライさんにウメさんとジークバールさんが同行する事に。
「シンイチ、外周部の掃討は任せましたよ。ゆめゆめ、赤翼に遅れを取らぬよう。」
「はっ。シブサワの精鋭が何たるかを示して参ります。」
さっきまですっごい浮かれていたのに、部下を前にするとピタリと姿勢を正すジークバールさん。シンイチさんはボクにも敬礼して、部下と共に動き出す。カッコいい軍人さんの無駄の無い動きは見ていて惚れ惚れしちゃう。
「‥‥シンイチ副総班長も、あの戦争を経験したお陰か大分顔付きが変わったように思います。ラフィ様と戦場を共にした経験が良い糧となったのでしょう。」
「征伐戦争ではシンイチさん達と一緒に戦って。とっても強い英雄と戦った話を伺いました。ボクも、皆もあの戦いで成長したんだと思います。」
ジークバールさんはボクへ恭しく礼をした。そんな姿をジト目で見やるウメさん。そして面倒くさそうにしかめっ面なタマさん。
「ジークバール総班長。くれぐれも任務ですので、冷静を欠く事の無いようお願いします。貴方の武才はこの局面で抜擢される程ですが、“やや”ラフィさんへの態度に懸念点がありますので。」
チクリ、ウメさんの刺す釘は鋭く。
「言っとくけどラフィは神様みたいに崇められるのを嫌がるタイプよ。面倒は勘弁して。」
げしっ、タマさんの苦言が背中をど突く。
けれどジークバールさんは物腰柔らかに受け流してしまった。図太いけど軍の高官らしい社交術を心得ていて、2人の勧告を右から左へ。
「‥‥あの両目眼帯さん、こう。何か怖いんですけど。さっきの異常なテンションとの落差がサイコ感あって。」
ひそっとするミライさんに陰口はダメだよ、と注意した。ジークバールさんはちゃんとした方です。ボクを強く応援してくれるんですから。
「皆さん、出発です。探索もそうですけど、冒険は楽しんでこそです。黄金卿の綺麗な写真をいっぱい撮っちゃいましょう!」
「仰せのままに。ラフィ様の勇姿は私が確実に捉えておきます。」
任せたよ!とジークバールさんへ手を振って、先導するオウルさんの後を付いて行った。
「壁のドアは何個かある。どれを通ってもシャーリアのエルフなら聖堂へ辿り着ける。私達はここから行く。」
「そして内部の空間はドアを開く度に変わる。‥‥ランダムだろうか。不定な場所へ飛ばされる仕組みだ。」
ドアの開いた先に見えた、長い回廊。
「わぁっ!タマさん!」
「何よ、廃墟の割には綺麗じゃない。」
広大な庭園に一本線を引いた回廊。所々欠けた屋根、両脇の手摺り、純白の床と天井に刻まれた民族的な紋様。朝の日差しが影を落とした回廊は薄暗くも、金に薄っすら輝く紋様が寧ろ映えるように存在感を示す。
早速踏み込む。
皆で飛び込んで即座にクリアリング。全方位を銃口が見回して、敵影が無い事を確認した。同時に異変に気付く。
『おや?これは。』
「空間が歪んでいるようで御座います。」
「ぬぅ、無限に回廊が続くのか?庭園も終わりが見えんぞ。」
そう、回廊の先は遥か向こう。終わりがない。庭園も同じ景色がループするよう繫ぎ合わされた感じで‥‥同じチャンクが無限に続くサンドボックスゲームみたいな感じ。
「庭園バイオームを雑に並べたようね。ほら、あの木。全く同じ木が一定の間隔で遥か先まで並んでる。」
ここは大魔王のダンジョン。多分人類が踏破したどんなダンジョンよりも広大な世界。GPSも機能しないし、スマイルも圏外になってしまっていた。R.A.F.I.S.Sも‥‥うーん。赤翼PMCとの連携が取れない。向こうのミニフィーは事前に設定した通りの動きを続けるから、ボクと接続が切れても当面は大丈夫。誰かに抱えて貰えば機能し続ける筈。
「予想以上です。これじゃ簡単に遭難しちゃいます。」
オウルさんの手をキュッと握れば、小さく微笑んで握り返してくれた。
「帝国の英雄達が攻め込んで来ても大丈夫なよう、長い年月を掛けて風の主が構築した世界。力押しでの突破は出来ない。」
暫く回廊を進んだ後、そのまま庭園の中へ足を踏み入れる。木々で飾られた庭園を皆で歩く。
「ホント不思議な世界だねー。ああ、こういうの知ってるかも。」
ミライさんの声にウメさんが視線をやる。
「ルミナススペースってやつ。この世界の“裏側”にある異世界でさ。ゲームのバグみたいに同じ景色がずっと続いてるの。頑張れば別の階層に行けて、そこも同じように変な景色が無限に続く空間なんだ。」
「異世界ですか?眉唾な話ですね。」
怪訝な顔のウメさんに、ホロウインドウの中からフィクサーさんが補足を。
『都市伝説から派生した創作物ですよ。そんな世界があったらいいな、と皆でオリジナルのルミナススペースの階層を作って共有してイイね!を送り合う。そんなコミュニティがあるのです。』
はぁ。ウメさんの反応は薄い。
「面白そうです。帰ったらボクも見てみたいな。」
ボクが興味を持つと、
「後学の為に知っておいて損はないでしょう。」
ウメさんも話を合わせてくれた。
そんな会話もずっと続く行軍記録の端っこに、長い余白が続いた頃。多分2時間ぐらい庭園を歩き続けた後。
「オウル、迷ってないわよね?」
「問題ない。直ぐには着かない。ここは帝国の軍を退ける為の空間。総当たりで探索しただけで半日も経たずに出口を見つけられるように作ってある訳がない。」
それもそうだよね。でも予想以上に長い。道を知っていても数日単位掛かるのでは?と皆は覚悟を決めていた。
「因みにどれぐらいでこの空間の出口に着けますか?」
「事前に伝えた筈だけど、1日以内。空間の大きさはその時々で変わる。私達がここを通って中へ向かう事は想定に入って無い。だから容赦が無い。」
味方が通る事は前提に無い。オウルさんはこの空間を最短距離で、決まった周波数の魔力を感知しながら進んでいるようだった。シャーリアのエルフにだけ分かる魔力の細い道標。
駆動魔具で時速150km。朝から進み始めて、お昼休憩を終えた頃。やっと目前に再び回廊が見えて来た。
「運が良い。今回は近かったね。」
皆の安堵の息。ずっと同じ景色を半日歩くのは精神が疲れちゃう。死んだ目で歩いていたらミライさんが、そのまま手摺りに寄りかかった。
「あー、やっとか。最初からエグいぜー。」
ウメさんとジークバールさんは全く堪えた様子も無くて、探索計画が無事に一歩進んだ事に安堵していたようだった。
「予め作戦予定時間は1週間と定めていました。」
「ラフィ様、お疲れでしたら休憩を挟んでも大丈夫です。」
ミライさんもタマさんもちょっと疲れ気味。エンジェルウイングを展開しながら、少しだけ休息を取る事に。
「肉体的というか、精神的に疲れるわね。無限ループする世界を進んでると距離感というか方向感覚がマヒしてくる。」
「分かる。その内今進んでるのかも分かんなくなってさ。同じ場所で足踏みしてんじゃないかって。」
カテンさんも頭をクラクラさせていた。
「ぬぅ‥‥目が回って来たぞ。上から見てると尚更同じ景色のループが遥か先まで見えてな。」
30分休憩、そして回廊を進む事更に1時間。やっと回廊の終わりに簡素な木のドアが見つかった。
「ドアの向こうの警戒は私が。」
オウルさんの合図でドアの向こうへジークバールさんが1番乗り!少しして大丈夫だって招かれた。
「今度は随分狭いわね。」
「どこかの集合住宅かな?マンション‥‥というより団地っぽいです。」
シャーリアの何処かにある集合住宅街。都市の高層マンションみたいな高さじゃ無い、3階建てぐらいの建物。その廊下にボク達は立っていた。
眼下にはボロボロになった市場の跡地のような物が見える。スマイルの中からフィクサーさんが、
『お気を付けを。そのまま建物から飛び出せば、何処か別の空間へすっ飛ばされてしまう気配がします。まぁ正規の順路があるのでしょう。』
オウルさんも頷いていた。
「ここは上へ登って行く。けれど脅威もあるから、気を付けて欲しい。」
脅威?魔王は居ないし怪物も居ない筈‥‥と、何処からか空間が張り裂けそうな轟音が響いた!!一瞬皆が驚くけど、R.A.F.I.S.Sでやり取りして即座に動けるよう身構える。
「運が悪い。丁度今のようだね。」
魔法で身体を強化して動くオウルさんを皆で追いかけ、そのまま直ぐ近くの部屋へ飛び込んだ!木の薄いドアは鍵みたいなのは掛かっていなくて、
「ドアを閉めて!」
オウルさんの叫び声に反応したジークバールさんが、閉めた後収納から大きく重厚な盾を持ち出して空間へ固定して塞いだ。部屋のクリアリングをしながらも、直後に迫った凄まじい音を前に皆して床に伏せてしまった。
見えなくても分かる。今ドアの外をジェット気流が吹き荒れていた。
「全てのドアには歌が錠を掛けている。でも私なら開けられる。」
オウルさんのお陰で難を逃れられたようだった。物理的な錠前が見当たらなかったけど、魔法の鍵が掛かっていたらしい。
「ぬぅ、これで吹き飛ばして建物の外の危ない空間へ転移させるのか。回りくどいな。」
カテンさんはボクを緩く巻いたままボヤく。
「メンテナンスも兼ねて定期的に私達で回る必要がある。その時はシャリアも同行していたけど‥‥ここはメンテナンス用の通路も兼ねた場所。」
そういう場所もあるんだ。それでも容赦無く危ない罠が待ち構えていた。
「3階建てだし1個上がそのまま屋上だよね?」
ミライさんの縋るような声に、オウルさんは首を振った。
「階段の高さは不定。大体1日は歩く。」
うへぇ‥‥床に伏せたままミライさんはしんなり。タマさんも遠い目をしていた。
「作戦予定時間をフルで使う広さですね。とは言えもう突入してしまった以上、作戦の変更は困難です。」
「ラフィ様、パンタシアで休みながら向かいましょう。」
ブランさんの意見に皆賛成。ただでさえ危険な上に定期的に轟音が鳴るここで野宿なんて出来ないよね。ダンジョンの中でもパンタシアのドアは普通に開ける。
「前みたいに不安定な時間遡行結界の中じゃあるまいし、基本は何処でも開けるわよ。」
風の音が止んでいく。
「もう少し進んだら一度パンタシアに戻ってギガスと通信しましょう。」
埃っぽい部屋の中、ボク達は立ち上がったのだった。




