565、黄金卿ジグゾーパズルが行手を阻む
屈強そうな鉄の剛腕が振り上げられ、セイグリッド・エンジンの体当たりに轢き飛ばされてバラバラに。街道の道中は随分荒っぽく。
「道から外れて回り込む?」
「薙ぎ倒して進めるのなら倒して行った方が良いでしょう。下手に避けていつの間に包囲されるのは厄介で御座います。」
鉄のゴーレム‥‥というより機械みたいな印象のそれはどれも不格好。最適化されたバトロイドと違って、お手製感が強い。装甲に刻まれた民族文化を思わせる紋様が特徴的で、色合いもカラフルだった。土汚れやサビで綺麗って感じじゃないけど。
どれも大雑把に2足で歩いて、強化された長い腕を振り回したり握られた剣を振り回したりする。ボロボロなせいか動きはぎこちないけど、質量は結構あるし思いの外原生生物は都に近づこうとしていないようだった。実際に都を守る使命は果たせていたみたい。
後方の支援班にもワラワラと何処からか現れた機械が迫り、交戦し続けながら付いて来ていた。
「オウルさん、ボク達に敵対しないよう出来ませんか?」
「ごめん。試しているけど、古くなってて言う事聞かない。多分内部の制御が、高まり過ぎたスーパーセルの魔力に当てられておかしくなってる。」
『魔法の暴走ってヤツですね。マギアーツと違って、旧来的な魔法陣には暴走を制御するストッパーがありませんので。出力が高まり過ぎて脳が焼けちゃった、みたいな?』
固く閉ざされた避難所の聖堂には入れないから大丈夫だろうってエンリッヒさんが補足した。
「冒険と言えば困難の連続ってね!敵が居ない冒険ってのも淡々としちゃうじゃん?」
ミライさんのショックライフルが纏めて機械を薙ぎ払って転がしちゃう。
「カテンさん!後どれぐらい周囲にいますか?」
目前の一団が空から薙いだ尾で吹き飛ばされた。
「そのまま進め!外周を守るように群れているが、内部には少ないのではないか?上から見た感じではな!」
戦いながら踏みしめた地面が、いつのまに純白の石造りに変わっていた事に気付いた。機械の数も減って、一息つけそうだって思った。
「このまま大通りを通って聖堂まで一直線でしょ?今日中に終わりそうね。」
タマさんの前、大通りを塞ぐように跨る巨大な建物。近くで見ると大きな壁が道路を埋めるように立っている。
「何だこれは?うおっ?!」
って、急にカテンさんが落ちて来た?!ボク達を潰さないよう、慌てて体を小さく変形させたままイルシオンにキャッチされる。驚く皆をもっと驚いた顔でカテンさんが見上げていた。
「ありのまま今起こった事を話すぞ?目の前にとんでもなくデカい壁が迫り上がって、中へ入ろうとする我を弾き落としたのだ。」
オウルさんはぺこー、と頭を下げて諦観顔。
「ごめん。龍種のような空の生き物の侵入を防ぐ歌に惑わされたんだよ。」
フィクサーさんもホロウインドウの中で面白そうに。
『確かに今空間が大きく歪んだのを観測しましたよ!ワタシの使う魔法に似ていて親近感感じますね。ほうほう、この壁を飛んで越えようとすれば空間が急激に伸び、矮小化されてしまいます。理不尽ですか?にゃは、魔法ってそういうものです。』
長い間危険生物が棲まう空の上で生活していただけあって、対策に魔法の真髄が込められていた。
『ワタシの力で強引に突破出来なくはないですが、この機構を破壊してしまいますね。ここと連動した都市内の色んなセキュリティシステムにヒビを入れる事になっても良いのなら、ぶっ壊して入っても良いですよ。』
オウルさんがボクの腕を引く。エンリッヒさんも肩を引いて首を振った。だよね。呪いの件が何とかなっても、ここで生活出来なくなったら大変。作るのに相当時間を掛けたものだろうし。
オウルさんの案内でボク達は壁に沿って暫く進む。そして目立たない扉がポツンとあるのを発見した。
「今シャーリアは臨戦体勢にある。この壁もそうだけど、都の中の空間がツギハギになっていて一番大事な聖堂へ簡単には侵入出来ないようになっているんだ。」
空間に干渉する魔法、と聞いてフィクサーさんは楽しげ。都市内の空間がパズルのピースのようにバラバラになって、扉と扉で迷路のように繋ぎ合わせているらしい。
「一度ギガスへ戻って状況を整理しましょうか。それと‥‥お互いの協力関係を再確認しましょう。」
ウメさん、顔が怖いよ!確かにすっごい重要な情報だけど!このまま進んだら後方支援の班と分断されちゃうかもしれないし。一度作戦を練り直さないと。
流石のオウルさんとエンリッヒさんもジト目のボクに見つめられ、ウメさんとドラゴンさんに連行されるように連れられてしまった。事前の情報の共有に曖昧な部分が多かった。
後方の支援班が転移陣を設置して、ボク達は都からギガスへ一足で帰る。やっぱり冒険は万全だと思っても、歩く足が小石に躓く。これだけのバックアップを受けながらも、一筋縄ではいかないようだった。
「何かどっと疲れた〜。ラフィ、お風呂入りましょ。」
「はい。」
ねぇねぇ、とミライさんがボクを抱く。
「一緒に良いでしょ?パンタシアのお風呂が凄いって聞いてさ。」
オウルさん達をウメさんとドラゴンさんが連れて行く間、皆でお風呂タイム。冒険の失敗をお湯で洗い流したい。
「うーわっ!これが噂のパンタシア風呂!めっちゃ広い!」
はしゃぐミライさんが飛び込まないようブランさんが抑え、タマさんの尻尾に巻かれたボクは洗い場へ。姿を現したフィクサーさんにからかわれながら綺麗さっぱり。
皆でまったりと石造りの露天風呂に身を沈める。
「今の状況ってさ。」
タマさんの声は溶けていて。
「ですね。ダンジョン探索です。」
そう、ダンジョン。シャーリアは魔王シャリアのお膝元。都全体がダンジョン化していてもおかしくない。
「にゃはは、空間でジグゾーパズルなんてダンジョン化した魔王の領域でも無いと無理でしょう。ワタシも似た事は出来ますけど、そのまま100年単位で維持したままは流石にガス欠になっちゃいますね。」
タマシティの開拓者試験で潜ったダンジョンも、本来の地下鉄とは構造が大きく変わっていた。魔王になっていないダンジョンですらあんな感じだったのに、魔王が棲まうダンジョンとなれば空間がガッツリ歪んで複雑化しているのかも。
「まぁ、PMCによるダンジョン破棄と言えば、ダンジョン内にミサイル撃ち込んで爆破しちゃうやり方が主流だし?歩いて魔王が居るレベルのダンジョンを攻略なんて普通はしないわよ。」
そんな話の最中も、ミライさんが濡れたボクの髪をそれとなく弄ってくる。指に巻いたり、撫でたり。
「このまま終わっちゃうのも味気なかったし、黄金卿の探索しながらやって行けば良いじゃん。前向きに考えよー。」
タマさんの呆れた声。
「命懸けって所は忘れないようにしなさいよ。魔王の身柄はこっちにあるし、怪物の心配は無いけどさ。あの変な機械が彷徨いてるんでしょ。」
冒険を楽しむ気持ちは大事だけど、遊びじゃ無いって意識しないとね。ミライさんも分かってますって、と頭を掻いた。
「そんな事よりラフィくん、お姉さん達と混浴して何か感じないの〜?」
悪戯っぽい顔のミライさんの腕がボクを抱き寄せる。ふにっ、腕に柔らかい感触が。ぴぃっ?!急に恥ずかしくなって顔が熱いボクの反応にミライさんはニヨニヨ。ブランさんのチョップと、タマさんの肘が腕に密着した感触を押し除けた。顔に掛かった飛沫を拭う指の間から、タマさんにべしべし叩かれてわちゃわちゃするミライさんが見えた。
と、もう一つの飛沫と共にもう1人のボクが並んで浸かっていた。
「シャリア。」
「どうやって?お前と俺の仲だろう。便利な歌だ。」
急に現れて警戒するタマさん達を他所に、シャリアは急にボクへ身を寄せる。腕がくっつき合う距離、ぐぐ‥‥と預けられる体重。
「重いです。」
「まぁ癒せ子よ。ほら、折角の愛されフェイスだぞ?ニホンコク人は可愛いがくっつき合うのを好むそうじゃないか。」
ぎゅむっ、ボクを抱く。髪の色とか瞳の色は違ってもボクの顔だし。ラジコンなミニフィーと抱き合って写真を撮る事もちょくちょくあったけど、シャリアだって思うと変な気分。ボクの顔だけど、ボクの意思で動かない別の存在。
「シャリア、どうして色々黙っていたのですか?皆困ってます。」
肌くっつき合う距離感はそのまま、癒しを浴びながら答える声が真近で聞こえる。
「あれだけ冒険を楽しみにしていただろう?全部ネタバレされた状態で、頭で識ってしまった場所を淡々と歩きたいか?ワクワクする子の顔を見ると、先祖としては見守ってやりたくなってだな。」
ボクの顔だけど、イタズラっぽい悪い顔。
「ですが危険ですから。分かっている事は教えて欲しいです。これもエルフ達を助ける為ですよ。」
「俺を倒す程の文明だぞ?この程度の風の悪戯で歩みが止まってしまう事もあるまい。あの空間を識るのは俺だが、危険の無い冒険をさせるのも忍びない。オウル達を絞っても大した情報は出て来んぞ。」
皆の非難する視線を気にせず、シャリアは楽しげに笑った。
「その代わり、シャーリアを救った英雄には俺が最高の礼を用意しよう。貴様らヒトが最高に欲しがるものを俺は識っている。困難を乗り越えるだけの価値があると保証しよう。」
その心の奥底は本当に楽しげで。自分の作ったダンジョンを何としても攻略して欲しいって気持ちがあるようだった。コミュニケーションに飢えたシャリアは構って欲しくて仕方ないって。
シャリアに同情する気持ちも正直な所あった。長い間寂しい思いをしたのもあって、皆の反応が欲しいって気持ちでいっぱい。ボクもそうだけど、魔王にだって心はあるんだから。
「分かりました。シャリア、その話に乗っても良いです。」
「ほう?話が早いな。俺にダンジョン化を解除しろと迫るかと期待していたのだが。」
ボクに身を預けたシャリアの頭を、撫でた。
ビクッとして驚くシャリアを軽く抱いて撫で撫で。ボクはこうされるのが好きだから。
「寂しかった気持ちは分かります。でももう1人じゃありません。」
シャリアの態度は結局、どこか甘えたいのかもしれないって思ったんだ。自分で言うのもアレだけど、ボク自身も甘えん坊。タマさん達に抱きしめられて撫で撫でされるのが好き。ご先祖のシャリアもきっとそういう部分があるのかもしれない。
エルフ達と共生するシャリアは、彼らに甘えていたのかも。勿論こういう感じに撫で撫でする仲じゃなかったと思う。でも、大事な彼らをダンジョンの最奥へ匿って長い刻を過ごしていた。
魔王的な打算だけで言うなら、スーパーセルを地上へ落としてそのまま根付いた方が良い筈。空よりも獲物を確保しやすいし、スーパーセルの残骸がそのまま巨大なダンジョンとして防壁にもなるから。
でも身を削ってでもエルフ達の生活を守る事を選んでいた。
「何だ急に。」
「ボクと話すのなら遠慮は要りませんし、本音で話し合っても良いです。愚痴ぐらい聞きます。」
「‥‥子よ。」
「ラフィって呼んで下さい。お酒とかどうですか?ボクは飲めませんが、美味しいものがあります。」
R.A.F.I.S.Sで軽く要望を流していたお陰で、ブランさんが既に冷えたフルーツサワーを用意してくれていた。ボクと味覚が近いのならこういうのが好きかな?
すっ‥‥ボクから身を離す。シャリアは気恥ずかしそうにしていた。
「俺を誘惑するのか?魔王的な包容力だ。まぁ、ラフィからの贈り物は受け取っておく。」
フルーツサワーはシャーリアのどのお酒よりも美味しかったらしい。はしゃぐシャリアに肩を抱かれてわちゃわちゃ。打ち解けられてホッとした顔のタマさんも一杯お酒をあおっていたのだった。




