564、都へ続く街道を行く
一気に森を抜けた先、廃村へ飛び出した。森に飲まれた廃屋よりも原型が残っていて、20軒ぐらいの廃墟がポツポツと影を伸ばす。
『森を抜けた所で速度を戻します。補給の必要はありますか?』
ウメさんの連絡に問題無しとの返答。頭上を飛ぶカテンさんが都までの距離を伝えて来る。
「思いの外離れているな。」
「先ずはここを探索して行きましょう。」
何か発見が無いかな?と皆で手分けをして見て回る。廃墟になっても家々に薄っすらと金の装飾があって、どこか趣深い雰囲気が冒険心をくすぐった。
「タマさん、これ。」
「木の棒かしら。」
装飾の彫り込まれた木の棒を、エンリッヒさんが敬意を払ってそっと踏まれない場所へ移した。
『歌を奏でる祭具だ。ニホンコク風に言うなら魔法の杖か?あまり美しい響きでは無いが、直感的ではある。』
オウルさんも故人が風に消える際に、祭具を共に焼却して空へ還すしきたりがあるって教えてくれる。そう言われるとあれは誰かが生きていた証なんだって思えた。直ぐ近くに散らばった遺骨も、祭具と同じ場所へイルシオンで運んだ。
「この辺も犠牲者が多かったっぽいね。どのベッドにも何かしら骨がある。」
ブランさんが回って一つずつ検死を進める間、タマさんとボロボロになった奇妙な板を見上げていた。金の装飾が残る風化した板に、消え掛かった文字が書かれている。フィクサーさんは首を振って、オウルさんへ解説を求める。
「そうだったね。トゥスクル‥‥ううん。どう言えば良いかな。」
エンリッヒさんもR.A.F.I.S.Sで補足を。
「そう言えばあの呪いが蔓延った時期は丁度その時期だったか。収穫の季節を過ぎた頃に行われるシャーリア全体を上げた祭事だ。豊作をシャリアへ報告し、次の豊作を空歌の姫が祈る。」
そうなんだ。オウルさんはナイス解説、と言いたげにエンリッヒさんの肩を叩く。お祭りの準備がされたまま、風化してここに残っていた。
ドラゴンさんが家の中で黙祷を捧げる姿が窓から見えた。窓から覗けば、小さな遺骨がベッドの上にあった。ヒトの形になるよう手直しされた遺骨にクリプトが掛けられた。
「エルフは中々子供が産まれない。農村部の数少ない子供だった。」
オウルさんも残念そうに呟く。ボクも一緒に黙祷を捧げた。呪いの被害を目の当たりにすると、なおの事今止まった時の中で助けを求めるヒト達を救わなきゃと強く感じる。今行くからね。
それは皆も同じで、都へ直ぐに足が向いた。
「やっぱり、子供の遺骨を見るのはとても辛いわ。」
道中ドラゴンさんは言う。10人の子供を持つドラゴンさんは子供が大好きで、シャーリアの現状を見てその一歩をより力強いものにしていた。ボクを頼りにする気持ちと、ボクに頼ってしまう事に対する複雑な想いを感じる。
「ラフィさんもまだ小さいのに。ダメよね、こんな事を言ったら。シブサワの要人を子供扱いだなんて。」
その笑みは母性に満ちていて。ボクの首をタマさんの尻尾が巻いて、伸びるドラゴンさんの尻尾を片手で払っていた。
「そーよ。無礼よねまったく。」
あらあら、ごめんなさいね。ケッ、とドラゴンさんに威嚇するタマさんへウインクが送られた。
「大丈夫です。ボクは頼られるのも好きですから。その分ボクもドラゴンさんを頼ります。」
そこでドラゴンさんの力に一歩踏み込んで聞いてみる。さっきからライフルの1発で大きな原生生物を絶命させていて。どんなブラックボックスアーツを操っているのかなって。
ピクリ、ウメさんが興味無い振りしながら聞き耳を立てている。他社のPMCの特務部隊のトップの実力の情報を耳が欲しがった。ドラゴンさんもその事に気付いていて、そっとタマさんへ収納内からチラリと“お人形”を見せた。
「なんっ‥‥?!」
素っ頓狂な声に流石に皆注目しちゃう。今の人形‥‥タマさんに昔写真で見せて貰った事があるような‥‥いつだっけ。知っている筈のお人形さんは、ボクよりも少し小さいぐらいの大型。黒ずんだピンクのウサギさんのお人形。
『にゃはは、そういう事ですか。ラフィさま、ノクターンの執行者の顔ぶれに居ましたね。気配でピンと来ちゃいました。』
ええと。ああ!確かお人形の中に入った邪神さん?!
『タマシティ防衛戦でも活躍した話を聞く、死の瘴気を操る邪神ですよ。ふむ、タマさんも平時は開拓者やってますし。オフの時はドラゴンさんの収納内で住み込みバイトでもしているのでしょう。』
死の瘴気‥‥すっごい怖い力を振るう邪神さん。どう言う縁があってかドラゴンさんの収納内へ収まっていた。
『邪神と子供は成せないから、彼氏としてお付き合いしているの。ギャザリックって名前。カッコいいでしょ。』
ボクだけにR.A.F.I.S.Sへひそっと流された情報にビックリ。20年以上付き合っていて、戦場を共にしていたらしい。
『ずっと昔深未踏地で偶々出会ったの。お人形に封印されて征伐戦争絡みでこっちに来たって。』
コウジさんと同じタイプだ。深未踏地で不思議なものを拾ってしまう話は偶に聞く。名を上げる有名な開拓者には、そういう出会いがキッカケですっごい力を手にしたってヒトも居た。これもまた開拓者ドリーム。
『ノクターンの団長さんにスカウトを受けてからは、重要な時だけギャザリックに出張を頼んでいるのよ。ノクターンにも一緒に組んで戦えるヒトが居るって言うから。私は軍務が忙しくて行けないけど。』
意外な所でタマさんの同僚と接点が出来た。ノクターンの執行者達には顔を合わす機会が中々無い。収納の中へ向けてR.A.F.I.S.Sを伝播させてみる。心をつんつん、ふにふに。お話出来ますか?
「ええい!何だこの感触は?!」
もごっ!と収納から声が聞こえた。
『タマさんの仕事仲間ですよね?』
『‥‥突くな。タマからお前の事は聞いている。馴れ合いは好かんのだ!無駄に関わるな!』
怒られちゃった。
「そいつに構っても時間も無駄よ。最低限仕事はするし、報酬の為に役職が付いてるってだけ。扱いは便利な道具って所かしら。」
道具‥‥収納内からタマさんに抗議する意思が飛ぶけど軽く流してしまった。あらあら、とドラゴンさんは苦笑する。正体が有耶無耶に感じたのか、ウメさんの聞き耳は空振ってしまったようだった。
ドラゴンさんはウメさんへ大っぴらにしたくないようだし、ボクも黙っていようかな。秘密事を触れ回るのは良くないからね。
気付けば農村部から、石で舗装された街路に出ていた。雑草がボーボーに生え、だいぶ凸凹になっている。
「このまま進むと都に入れそうですね。」
「そーね。都市防壁が無いせいで違和感凄いわ。そのまま内部に続いてるんでしょ?」
「壁は風を妨げる。都合が悪かった。」
寂れた街道のそこかしこに土が積み上がっていて、ミライさんが不思議そうに見上げる。
「これは何?」
『ああ、これはだな。そう言えばそのままだったな。』
エンリッヒさんが祭具を構えた先で、ミライさんに影が落とされる。土の塊がぬぅっと大雑把な人型に。
「呪いで誰もが眠った際、都の防衛機構を動かしていた。あれはゴーレムだ。」
オウルさんは説明がしら槍先から凝縮された魔力の光線を発射、貫かれたゴーレムが一撃で崩れ去る。
『コアを壊せば破壊は簡単だ。原生生物を相手にする壁役みたいなものでね。』
エンリッヒさんの指揮棒が振るわれれば、オウルさんの光線が操られて周囲の土の塊を纏めて貫いてしまった。起動する前にゴーレム達がバラバラに。
「つまり都の中にはこういうのが沢山いるって?RPGみたいでちょっとワクワクして来たかも。」
ヤル気を声に乗せるミライさん、ため息を吐くウメさん、苦笑するドラゴンさん。シャリアはそんな情報言わなかったけど、言うまでも無いと思っていたのかな。もぅ。
敵は原生生物以外にも居るようで、警戒対象が増えたのだった。
街道を守るようにゴーレムが点在していて、ブランさんが遠隔でスキャンした結果をR.A.F.I.S.Sで皆に共有。土の中に含まれる不純物‥‥コアの位置を精密に撃ち抜いて行く。
「ミライ、ちゃんと狙いなさいよ?銃も使えなきゃ開拓者やっていけないからね。」
タマさんに背中を叩かれるミライさんの手には、中価格帯のスマートライフル。強化外装の自動照準システムとの合わせ技で、不安定な体勢でも比較的正確な射撃が出来るってタイプ。
『初心者向けですが、原生生物を相手にするならこれでも十分です。大概図体デカいですからね!』
1発の銃弾がコアを撃ち抜き、土塊がそのまま崩れ去った。
「やった!でも、私のメインウェポンはショックライフルだけど。」
ロゼさんも使う、衝撃のマギアーツが付与された特殊規格の銃弾に最適化されたライフル種。正確な射撃というより、連射力にモノを言わせて面制圧的に銃弾をばら撒くんだ。
「デカい原生生物を怯ませる威力は無いわよ。諦めてスマートライフルの扱いに慣れなさい。」
へーい、とその後も射撃訓練のように起動する前のゴーレムを撃ち抜いていった。
ふと動く影を見つける。イルシオンで指した先でカチャカチャ音を立てる鉄製の不格好。
「あれはシャリアが作り出した‥‥鉄を歌で踊らせたもの。沢山作れて戦士の代わりに都を護らせられる。皆が眠る際、出来るだけ作って配置していた。」
少し辿々しいオウルさんの説明に、ウメさんが更にため息。ボクの癒しを求めてか、伸びた手がぎゅっと抱いて来た。R.A.F.I.S.Sに伝わって来る。
『何で最初に言わないんですかアナタ達は。』
『君達は強く美しい。シャリアを下す力があれば障害になり得ないだろう。』
『そーいう問題じゃないんですよ。エルフの方の大雑把な感性に期待した私がバカでしたね。』
オウルさんとエンリッヒさんは何食わぬ顔。邪魔になったら蹴散らせばいーじゃん、と言いたげに進んで行く。インシデントなんて概念は無いし、報告義務や再発防止案なんてものも知らないようで。
「2人とも、隠し事はダメです。取り敢えずウメさんに謝って下さい。」
ぐいぐいと2人の腰に抱き付いて抗議、頭を下げさせたのだった。




