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563、森に飲まれた文明の跡

草原を踏む。ふさっという心地の良い靴裏。吹き抜ける風は穏やか、そして止めどなく。低木が雑然とする森の木々は揺れ、その向こうで黄金卿の尖塔が光り輝いていた。


「気温は20℃、湿度20%。待機中の有毒物質無し、紫外線はやや強いですが許容範囲内で御座います。」


見上げた空は真っ青を通り越して、僅かに暗く宇宙の色を感じる。蒼穹の彼方にあるエルフの古都シャーリア。その外周に広がった農村跡地に降り立っていた。


「未知の病原菌の存在の危険性がありますから、バリア装甲は解除せず戦闘モードでの探索を行います。」


一応リーダーなボクが皆へ指示を出す。これでも深未踏地探索の経験者、テキパキと。探索リーダーという肩書きがボクをしっかり者にさせてくれる。


「後続班の方、100m後方から援護をお願い致します。何か発見がありましたらブランさんへ連絡をして下さい。原生生物の襲撃を受けた際はボク達からも援護射撃を行います。」


ミニフィーを連れた後続班の皆が頷いてくれた。ウメさんが一言補足を。


「ミニフィーは場合によっては貴方達の生命線にもなり得ますので、万が一ロストした場合は即座に報告を。ここが深未踏地の真っ只中であり、例え100mの距離でも遭難する可能性がある事を念頭に置くように。」


ギガスの前で最終確認を行っていた。原生生物が居着いてしまったシャーリアの危険は未知数、魔王シャリアがここを出てからもう数日経ってしまっている。それだけの時間があれば、どんな危険な生き物がやって来て縄張りにするか分からなかった。


ボクに同行するのはいつもの仲間達に加えて、オウルさんとエンリッヒさん。ミライさんにウメさんとドラゴンさん。


後続班にはシグさんと、アサルトメンバーの方が居た。精鋭中の精鋭で固めた編成で立ち向かう。


「良いか?狙撃の警戒を怠るなよ。森に都、危険なテッポウウオでも潜んでいたとしてもおかしくない。征天丸の援護は受けられないと思って作戦に臨め。その代わりギガスへ爆撃支援を要請出来るがな。」


ギガスに搭載された滑空砲、そしてミサイルポッドにバーンバズーカが頼もしかった。オウルさんは小声で、


「壊さないで欲しいのだが。」


苦情を漏らしていた。魔王との戦争が本土決戦にならなくて良かった。打って出ずにシャーリアに閉じこもっていたら、そのまま滑空砲を撃ち込みながら都を踏み荒らす戦いになったと思うから。


「では出発します!」


シリアスなミーティング、踏み出した一歩はワクワク。R.A.F.I.S.Sに皆の期待感が伝わってくる。結局冒険の気配に、兵士達もドキドキを隠せない。


駆動魔具で駆け抜けず、堅実に一歩ずつ踏み締めて行く。スーパーセルの大冒険、その終着地点の一つ。スーパーセルの中に何かあるかも!という期待の最果てに黄金卿があった。


「あっ!タマさん、鳥が居ます!」


「アレはまさか‥‥カラス?」


そう、まさかのカラス。30cmぐらいで、キュイキュイと鳴く。ニホンコクが異界地へ持ち込んだ野鳥の一種。でもカラス達の色合いは純白、アルビノ種なのかな?瞳は赤かった。


森に入って早速発見!


『いつの間にかシャーリアに居着いていたな。』


R.A.F.I.S.Sへエンリッヒさんの証言が。オウルさんも見かけた事があると話した。白カラス達はボク達を見下ろして、賢い頭で好奇心のままに観察して来る。鳴き声は少し奇妙だった。


雑草をかき分けて進む間ホロウインドウの中フィクサーさんはふむ、と考察を。


『妙ですね。カラスは高度1000mも普通は飛びません。市街地では100m行かないぐらいでしょうか。元々シャーリアがあった場所は高度5000m前後の場所。どうやってここへ?』


そう言われるとん〜?と皆して首を傾げる。


「カラスにも渡り鳥はいるわよ。そういう子は1500mを超える高さを気流に乗って飛ぶんだけど‥‥そうね。データを調べる必要があるかも。」


ドラゴンさんは思い付いたようにギガスへ連絡を取る。カラスの出自のヒントになるデータが得られるかもって話だった。やっぱり赤翼は空の専門家だからか、カラスと聞いてパッと閃いてくれた。


『ワタシだって考えましたよ。流石に当時の情報が無いと当てずっぽうになってしまいますが!』


先を越されてちょっとフィクサーさんは悔しげだった。


森の木々を抜けた先、少し開けた場所があって崩れかけの廃屋が数件並んでいた。スマイルカメラに様子を収めながらも、ついつい気になって覗いちゃう。


「ラフィ、危ないわよ。」


「大丈夫です。ドラゴンさん。」


「分かったわ。」


ドラゴンさんとウメさんが機材を取り出す。パッと自動で組み上がったそれは、そのまま廃屋へ細長いワイヤーのようなパーツを差し込んで行く。


「何それ?」


ミライさんの質問へドラゴンさんは優しく答えてくれた。


「こういう場所は危ないけど、調査しないといけない時もあるの。コレを使えば内部に頑丈な骨格を通して崩落を防げるのよ。」


屋根が崩れて来る事も無い。壁も大丈夫。調べる間倒壊を防げるんだ。


「はえ〜、すっごい。じゃあ見に行っても良いよね?」


ボクとミライさんで一緒に廃屋の中を覗いた。リビングには大きな机と風化したお皿が。壁には大きな布が掛けられている。


「不思議な模様です。」


異国の文化香る刺繍は細かくて、ボロボロなのに綺麗に見えた。タマさんも柄を褒めて、ブランさんが写真を撮って電子データに保存する。


「クリプトだ。聖なる‥‥宗教。うーん、」


「何かの儀式の道具?」


タマさんの声にオウルさんは頷く。


「昼は壁に飾り、夜はこれを被って寝る。そういう慣習があった。」


面白いのが各家庭ごとに手縫いで自作するらしい。だからここにあるやつも一点もの。ここに住んでいたヒト達のオリジナルなんだ。


ひょいと寝室を覗く。並ぶベッドは足が折れて傾いていて‥‥


「ミライさんは下がっていて下さい。ブランさん。」


「検死を行いましょう。」


床にチリになりそうな骨が転がっていた。オウルさんとエンリッヒさんも残念そうに目を伏せる。


「死んだ者も大勢居た。特に農村部は壊滅的だった。」


オウルさんは遺骨へ黙祷を捧げていた。ブランさんが直ぐに検死を済ませ、データをボクへ送信する。


やっぱり。


「死因は外傷によるものではありません。」


データが少なくてハッキリとは分からないけどね。呪いは外傷を伴わない。編みかけのクリプトが壊れたタンスから覗いていて、イルシオンでそっとすくって遺骨の上へ被せたのだった。


「ラフィ様、只今後方待機班が害獣の襲撃を受けたようで御座います。」


ブランさんからデータが共有される。包んだ物を何でも溶かして捕食してしまう、オオクラゲの一種が寄って来ていたらしい。交戦時間3秒、5体のクラゲが蜂の巣になって散らばった。


「見通しの悪い森の中でボヤボヤしてんのも危険ね。早く行きましょ。」


「はい。やっぱり危険な生き物が多く棲みついているみたいですね。」


お空の上と違って、ここは隠れられる場所も多いし。それだけ色んな原生生物が棲家にする為に寄って来る。シャリアは管理せずに放っておいたらしいし、お陰でエルフの古都が危険度マックスサファリパーク状態になっちゃった。


家を出てそのまま更に森の奥へ、鬱蒼とした暗がりの向こう。薮はボクの背丈を超え、目線の高さにダニがこんにちわ。バリア装甲でそっと退かして、R.A.F.I.S.Sを頼りに索敵しながら突き進む。


強化外装を纏ったミニフィーも陣形を組んで歩調を合わせて前進、手にしたドラゴンファングアサルトライフルが数上発砲していた。海蛇みたいな原生生物が藪の中に転がる。わっ!と虫が群がって死骸を食べ始めていた。


「うへぇ。なんか色々こう。冒険って感じだね。」


ミライさん、気持ちが漏れてますよ。綺麗な場所を進む事もあるけど、森や洞窟を行くなら大体こんな感じ。薮で見通し悪いし、ダニ類はそこら中で見かけるし、森ゴキブリの類もカサカサ地面を這い回る。

洞窟じゃ泥っぽいヌルついた地面を這って進む事も多いし、大きな蜘蛛さんが顔の真横を歩いて行く姿をよく見かけた。


「デカい原生生物よりも、昆虫系のモンを一番見かけるのよね。」


ドラゴンさんはミライさんへ可愛い反応だなんて頭を撫でて、ウメさんは慣れた顔。


「軍属に虫を警戒する者は居ても怖がる者は居ませんよ。この辺りの小型の虫ならバリア装甲を食い破るタイプじゃ無いので無害ですね。」


オウルさんはふわり、空を飛んで付いて来ていた。


「この辺りは村の広場だった。もう原型も無い。」


よく見ると地面に欠けた石の輪があったり、何となく人工物っぽい石片が藪の中に転がっていた。


「ラフィ様。」


「見えてます。」


薮を一つ隔てた先に魚影が。それも大きくて特徴的なサメのヒレが覗く。


「体長5m級、小型のキバザメの類いでしょうか。」


サメ類は基本的に群れないけど、捕食者が回遊するエリアには他の捕食者が居るかも。餌が沢山あるから回遊しているんだしね。


『全隊へ通達、危険生物の回遊エリアに入りました。迅速に抜けますので速度を合わせて下さい。』


ウメさんの合図でボク達は一気に飛び出す。凄い反応で即座にボクへ噛みつこうとするサメへ、R.A.F.I.S.Sが危険な杭を突き刺す!魔王の威にショックを受けて怯むも、それでも猛然と獰猛な牙が迫る。


「平和的には無理そうね。」


横合いからのタマさんのキック、ブランさんのvitis(ウィティス)がヒレを斬り裂く。オウルさんの短い歌声がサメの口を凍り付かせてしまった。


けれどタックルで強引に突っ込んでくるサメへドラゴンさんが1発、S.S.Sからライフルを抜き撃った。ビクン!として電池が切れたように絶命。勢いのまま転がって行く。


『ほぅ?やはりドラゴンは面白いモノを隠しているようですね。』


ホロウインドウの中のフィクサーさんは楽しげに笑っていた。


後方でも交戦の気配が、数発の銃声を鳴らしながらも速度は変わらず追って来る。戦いの気配がすると周辺の危険な原生生物が一斉に迫って来るんだ。漁夫の利狙いだったり、縄張り意識が強かったり。


森を揺らす咆哮音!獣の叫び声を張り手のように、木々を折り曲げて大地を揺らす‥‥奇妙な大型生物。ムッキムキな馬の上半身、そして大魚の尾ひれで宙を掻いて空を飛ぶ。その体長はおおよそ6m級!


「ケルピー種です!」


5匹前後で群れを成す深未踏地の危険生物種!海や大きな湖にしか居ないと思われていたのに、空を飛ぶ変異種が襲い掛かって来ていた。


これは躱すのは無理かも。


『第一種戦闘用意!!』


ウメさんの指示がR.A.F.I.S.Sへ伝播する。早速後方から銃弾が3発飛んできて、2体のケルピーの硬い鱗を弾いた。大口径でも今のは直撃じゃ無いし、距離も遠い。けれど軽傷に関わらず2匹のケルピーがボク達を素通りして後方へ突っ込んで行った。


『プライドの高さは有名ですからね!小突かれると急激にキレ散らかして大暴れするんですよ!』


フィクサーさんの解説を聞きながら、ボクのステラヴィアを履いた蹴りが丁度正面のケルピーをよろめかせていた。馬の口が噛み付こうとすれば、横合いから燕尾服姿のタマさんが掌底で首をどつき上げる。


白光を纏うイルシオンが口を巻くも、暴れるケルピーの尾ひれを蹴りで相殺した拍子に距離が離れてしまう───


『にゃはっ。』


フィクサーさんが距離を操り、一瞬で肉薄したボクとケルピーの驚いた目が合う。S.S.Sから噴出した6本の虎薙が零距離で叩き付けられた!


肺の中の全ての空気を吐き出すような悲鳴、激しく口から泡を吹き地面へ巨体を横たえた。肺の辺りを狙った一点集中の重撃が、硬い魚鱗の内部を破壊していた。銃弾が貫通しないのなら思いっきり引っ叩けば良い!


上空から迫ったカテンさんの巨大な尾が、真空の刃を纏って戦場を薙ぎ払う。身軽に回避するもケルピー達を引き離す事に成功。飛び出したミライさんの手には虎薙、噴出させた先端がケルピーの尾ひれで弾かれてしまう。


エンリッヒさんとオウルさんが操る魔法が、凝縮された魔力の光線を矢継ぎ早手に乱射。ケルピーに大きく動かせないよう制限した。貫通しなくても何度も直撃すればダメージが目に見えて蓄積しているんだ。


ウメさんのバッグガンがミスリルネットを射出、ケルピーへ絡むと同時に空間へネットが固定されて更に動きを封じ込めた!空間に固定出来るミスリルシールドのネットバージョン、相当な価格帯の高級原生生物対策グッズ。


「こんにゃろっ!!」


ミライさんの虎薙が上段から脳天を引っ叩き、脳が激しく揺さぶられたお陰で失神させた。タマさんのビームシュナイダーがもう一体のお腹へ当てがわれ、時間を掛けて魚鱗を灼き裂いてしまう。そこにドラゴンさんがライフルを撃ち込んで絶命させた。


激しい戦闘で辺りが更に騒がしくなったけど、


のぅ。こちらは終いじゃ。」


「ハハハッ、食ってやったぞ!」


影から飛び出していたオボロさんとグジャさんが片付けてくれていた。


「お疲れ様です。」


お礼を言うボクと軽くハイタッチ。2人は影へと戻って行った。


『‥‥戦闘終了。ギガスの支援は要りませんでしたね。』


ウメさんの指示がR.A.F.I.S.Sで伝播したのだった。

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