562、蒼穹の彼方に浮かぶ黄金卿
遂にシャリアが目を覚ましたって連絡を受けて、ヤマノテシティから帰って来た。2日ぐらいメディアに顔を出して、ホワイト・シーの戦争について色々インタビューを受けていた。
世間も天空で繰り広げられた激しい魔王との戦争に大盛り上がり、スーパーセルの探査の経緯をまとめた動画が沢山投稿されていた。新発見の生き物まとめ動画が1000万再生を突破したんだっけ。ボク達で発見した原生生物もまた話題を集めていた。
ラプトゥヌス。カイコ頭のナメクジさんが特に人気で、ミーム化してハムハムの各所に顔を覗かせていた。
ギガスの研究センター、その1室でシャリアと面談。ドラゴンさんに睨まれるシャリアはボクに似た姿をしていた。空色の長い髪を垂らし、薄っすら碧眼なボク。
「来たか。ラフィの姿はラフィ限定か?」
ドラゴンさんは説明する。
「この子ったら、ラフィと同じ姿になろうとしたのよ。同一性肖像権侵害としてちょっとお話させて貰ったの。」
普段聞かない変な権利。そっくりさん禁止法‥‥?
「整形などで後天的に誰かの顔になりすます行為は違法で御座います。ラフィ様は人気者ですが、同じ顔の子供が大量発生しない理由でもあります。このご時世、顔をピッタリ真似ようとすれば出来てしまいますので。」
そうなんだ。魔王の変身にも適用されちゃう。ギガス内はニホンコクの一部、そこに居るシャリアにも法が適用されちゃう。
「全く、銃だったか?突きつけんでも良いだろう。」
ふとタマさんが、
「アンタニホンコク語話せるの?」
そんな疑問にボクもハッとする。R.A.F.I.S.Sで沢山お話ししたし、魔王同士直ぐに通じ合ってしまったのかも。そんなボクの考えもR.A.F.I.S.Sで伝わっちゃう。
「そういう事だ。ここに来てからも聞く機会は多かった。俺程の魔王となれば言語の吸収ぐらい容易い。」
不敵に笑うボクの顔。シャリアはボクのご先祖だし、特別なのかな。控えていたオウルさんとエンリッヒさんの羨ましげな視線を、シャリアは楽しげに浴びていた。
「ラフィよ。」
急にボクへ寄るシャリアは悪い顔。隣へ立って肩がぶつかる。
「この姿は良いな。何だか甘やかしてくれるぞ。」
「大事なのは見た目だけじゃありません。もぅ。」
ブランさんがシャリアを退けてしまい、タマさんもシッシと手で遠ざける。
「小悪魔系ラフィって?調子に乗ってお偉いさん怒らせてぶっ殺される前に止めておきなさいよ。ラフィの質の悪いコスプレにしか見えないわ。」
シャリアはボクの姿が気に入ったのか、それでも気にせず話を進めちゃう。
「しかしシャーリアを救えるという話は本当か?」
「はい。実際に現地の様子を見て最終的な判断を下しますが。ボクの予想が正しければ問題ありません。」
オウルさん達もホッとした顔。戦争にまでなったのに、助けようと動くボク達に感謝を感じていた。
部屋へモモコさん達も入ってくる。
「随分見た目を変えたね。中々大胆だ。」
苦笑いのモモコさんをシャリアは意に介さず、キャハッ!とあざとく笑ってアピール。ボクはそんな顔しません。
「ラフィの笑い方はもっと自然だ。羊頭狗肉と言った所か。」
シャリアに四字熟語は通じないけど、エンリッヒさんは思わずそっぽを向いて噴き出す。内心思っていた事をピタリ、レイホウさんに言い当てられたみたい。そんなエンリッヒさんの態度をジト目で一瞥。
「全く、馬鹿にされている事ぐらい伝わるわ。性格の悪い奴め。」
「美しい者には真摯に応えますが。」
シャリアは神聖な者と見られながらも、エルフ達との関係は案外気安いみたい。軽口を叩き合う様子が伺えた。
それからバーズさん達ともホロウインドウで会話しながら、シャーリアの現在の様子を細かに聞き取りが始まった。多忙なセイテンさんは今は居ないから、ビャクヤさんが代わりにこの場へやって来る。
「シャーリアは現在時を止める魔法に包まれているが‥‥あの瞬間を永遠に保存する魔法であって、後から来訪した者は魔法の対象外になる。」
皆が一番気になっていた所を教えてくれた。踏み込んだ瞬間巻き込まれたら大変だからね。
『にゃはは、ワタシもそうだろうなと睨んでいました。現在進行形で何もかもを止めるとなると、不用意に近づいて巻き込まれた原生生物が増える程負荷が増えますから。ま、常識的に考えて維持出来ませんよね。』
魔法の専門家のお墨付き。魔法の維持に携わっていたエンリッヒさんも同意見。その認識で間違っていないと先ずは共有された。
「都の都市としての機能は既に喪失している。廃墟だ。まぁ、俺もインフラの全部を管理するなどやってられんしな。」
シャーリアの広さはヤマノテシティの上層と同じぐらい。地方の小都市と似た広さのようだった。放し飼い‥‥ぐらいの認識で原生生物が棲みついているみたいで、最奥の宮殿以外は放棄された状態になっているようだった。
「まさに消えた古代エルフの遺跡じゃない。冒険し甲斐がありそうね。」
冒険してお宝ゲット!と行きたいけど、オウルさん達が健在な以上持って行けない。もう住人が居ないのならともかく、眠っているだけだからね。空き巣というか、盗賊みたいになっちゃう。
「とは言え、折角僕達が助ける立場なんだ。戦争に勝った分賠償を負わせる権利も有している。何が出るかは探索しないと分からないけど、先ずは資産を確認してから取引と行こうか。」
モモコさんもレイホウさんも、ビャクヤさんも。コーポの皆は搾り取る気満々。思わずボクを見るオウルさんに首を振った。
「ごめんなさい。でも、無償で‥‥というのは出来ません。大丈夫です。酷い事にならないよう、ちゃんと配慮されますから。」
幾らこっちが有利でも、存続する古代エルフの都市から何でもかんでも略奪して植民地にしちゃいました‥‥なんて流石に世間が許さない。プロジェクトは公表されているんだから、メガコーポの積んだ外交術で互いの利益を良い塩梅に確保できるよう動く筈。
「とは言え、先ずは何が眠っているかを調べない限り交渉する事は出来ませんわ。」
相手はお金という概念も廃れ、資産という概念も曖昧な文明。大変だろうけど、お願いします。
話は直ぐに纏まり、やっとギガスが動き出す。ホワイト・シーの基地をそのままに、もっと上空へと。
「ここは高度7000m付近、16000m上空となるとまた長旅になりそうだが‥‥シャーリアは目視出来る距離感だ。真っ直ぐ向かおう。」
詳しい内部の探査は程々に、先ずはシャーリアを目指す事になった。幸いここはスーパーセルから少し離れた場所を回遊する魔法雲の大陸。真下から内部を通って近づくよりも、直線的な航路を取って移動出来る。
『呼んできたぞ。』
カテンさんの声がR.A.F.I.S.Sを叩く。スーパーセルから離れた場所を飛ぶとなると、やっぱり下界からの狙撃が怖い。下は分厚い魔法雲が何層もあって安全そうだけど‥‥それでも万全を期したいから。
ぬぅっとギガスの下へ潜り込んで追従する、リヴァイアサン級のウミウシさん。呼び掛けに応えてくれて、ボク達を大きな体で隠してくれるようだった。
魔王との戦いで共闘したお陰で受け入れられた感じがする。興味本位にギガスに近付いて、一緒に空を飛ぶ原生生物も多かった。ふわふわなイルカさん達の高い鳴き声が聞こえて来る。
間に邪魔になる魔法雲も無くて、暫く時間が掛かったもののシャーリアの全景が見えて来た。
真っ白な尖塔が立ち並ぶ、真っ青な空に映える美しい都があった。都には防壁のようなものが無くて、そのまま外周を生い茂る緑が囲う。何となく外周が農村部なのかなって感じた。
それだけじゃない。
あらゆる建物に黄金の装飾が施されていて、陽の光を受けて眩く。蒼穹の彼方で静かに瞬く、黄金卿がそこにあった。
「うっわ‥‥」
タマさんの小さな声を隣で聞く。皆もその美しさに目を奪われていた。
まるで芸術品のような都には生活感みたいなのを感じない。
「私達の故郷。とても懐かしく感じる。」
オウルさんの声が、数世紀経ってなお高空にあり続けたシャーリアへ向けられていた。
『むふ、都が結界に覆われていますね。物理的な障壁にはなりませんが、風を和らげ気温を一定に保つもののようです。』
フィクサーさんが気配からザックリと結界の存在を察する。これも事前の情報通り。問題無くギガスはシャーリアの端、開けた農村部の一角へ着陸した。
「先ずはここを拠点に内部の捜索と行こうか。危険な原生生物がいるかも知れない。ラフィの班を先行させ、僕達は組織的なバックアップに徹しよう。人海戦術でバー!と調べちゃったら冒険の風情が無いだろう?」
モモコさんはボク達の冒険の楽しみを優先してくれた。それに呪いの件もあるから、不用意に大人数で動くのは危ないかも。
「ありがとうございます。ボク達で先を切り拓きますから、モモコさん達は安全が確保されたエリアの探索をお願いします。」
ここは農村部、そして目前には生い茂った森に飲み込まれたかつての耕作地。多分村落もあると思う。様子を見た感じ時が止まっているのは都の中だけかな?この辺りの草木は成長を続けていた。
「時を止めて延命するエルフ達は都の奥、神殿に匿われている。」
「では折角ですから、ミライさんも行きましょう!開拓者として経験を積むチャンスです。」
「良いの?!やった!」
モモコさんやレイホウさんも呼びたいけど‥‥流石に呪いの件があるせいで声を掛けられない。それは向こうも分かってくれていた。虹渦島みたいに危険な原生生物が居るかも?ぐらいなら十分な護衛が居れば良いけど、ブラックボックスアーツが潜む可能性がある場所へは向かわせられない。
ボクの予想通りなら大丈夫でも、それだけを根拠に危険に身を晒して許される身分じゃないんだ。こういう時の無茶は武勇伝というより、浅慮な無謀って見られちゃうし。
「ウメさんにも来て欲しいです。あと、赤翼の方からも。」
肝心な所でここまで支えてくれた赤翼の皆が、初探索に全く関われないというのもどうかなって。
ビャクヤさんはドラゴンさんを指名した。
「特務隊の精鋭よ。ギガスの防衛は副旅団長に任せるわ。それと、ラフィ班の後方を守る班もシブサワと連携して組織しますから。」
ボク達が進んだ先で通信が途切れないよう、等間隔に工事して通信網を設置する班とそれを守る班。ボク達を後ろから狙撃で援護する班の3班をバックアップに付けてくれるようだった。
「各々、1箇所に固まりすぎないよう程よく分散させよう。後は環境を見て臨機応変に。」
先ずはこの形で探索計画が立った。
エルフ達の秘境へボク達はワクワクしながら冒険へ出掛けたのだった。




