560、雲と虹の秘境の合縁奇縁
オーアッ!オーアッ!コゥコゥコゥコゥコゥ‥‥クックルゥルルルル‥‥!!
征天丸の大型パッケージ内、金色の糸を吐きながらナメクジカイコ鳥?が暴れていた。羽毛はあるけど羽は無いし、よく見るとカイコみたいな頭なのに小さなクチバシが付いている。
ナメクジの体を荒ぶらせ、10本の触手がしきりに透明なパッケージを弄っていた。
その異様な光景はつい、皆の手にしたココアの湯気を薄らがせる。‥‥あっ、冷めちゃう。常に動き回ってジタバタする姿と奇怪な鳴き声は、何となく観察欲を引っ張り出されちゃう。
「そろそろ落ち着かせましょう。」
エンジェルウイングがふわり、パッケージごと怪生物を包み込んだ。癒しのオーラを強めていけば、段々と沈静化されていく。
リルリルリルリルリルリル‥‥ホッ
落ち着いた。R.A.F.I.S.Sで敵じゃないよ、怖くないよと伝えてカイコ頭の目を見つめた。昆虫的な目が首をしきりに動かしながらボクを様々な角度から観察しようとする。
目は悪いけど、別の原理で見ているのかな?ヘビさんみたいに赤外線?一部の爬虫類は舌を使って周囲を把握するって聞くし、生き物の感覚器官の神秘は簡単には推し量れない。
ずっ!と勢い良く動いて体ごと這いつくばってボクを見上げる。真下からカイコの頭がボクを見つめた。
にょん!と今度は飛び上がってパッケージの上部にナメクジの体が張り付く。上下逆さまな姿勢でボクを見下ろした。
プゥーウ?
ニホンコク語で表現し難い不思議な鳴き声。小さなクチバシがパッケージを突く。
R.A.F.I.S.Sでやり取りするボクをタマさん達がソファーの上から見守った。余計に刺激しないよう、気配を殺してココアをチビチビ。
「お友達になりませんか?」
癒しのオーラが手招く。R.A.F.I.S.Sが怪生物の心をつんつん。気付けばナメクジの体をパッケージへ押し当てて、お腹をボクへ向けたままカイコ頭がボクを見下ろしていた。
パッケージ越しにぬたぬたしそうなお腹を触れば、感触フィードバック機能が生暖かい質感を伝えて来る。こう、ナメクジの裏側と言うより内臓的な。10の触手の付け根が見えていた。
吐き出された金の糸を、サンプル採取機能を使ってブランさんが慎重にパッケージから引っ張り出してくれた。
「ブラン、何で出来てるのかしら。」
「既知の物質ではありませんが、敢えて形容するなら魔法金でしょうか。魔素が金を模様しています。しっかり固着して自然に分解する気配はありませんね。金の糸を吐くカイコですか。」
どんな目的があって金の糸を吐くかは分からないけど。でもすっごい綺麗な糸。欲しいって思っちゃった。ボクはキラキラしたのが大好きだから。
そろそろお昼頃、征天丸は報告も兼ねて一度基地へ帰還する。その間もコミュニケーションを色々試していた。
ホロウインドウに映ったアニメ、視力がやっぱり弱いせいか反応薄め。
手頃な野菜とフルーツ、うーん‥‥無反応。食べ物とも認識していない。
お肉、クチバシの中へスルスルと吸い込まれる。雑食性じゃなくて肉食みたい。カイコ頭だし草を食べるのかな?と思ったのに。
「糸で獲物を捕まえるんでしょ?蜘蛛っぽいし肉食だよね。」
ミライさんは納得していた。ナメクジ&カイコの食性は無視するようだった。
音楽を流してみる。
オッ?!オ、オ、オッ!?アーオッ!!!
ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!ホゥッ!
びっくりするボク達の前、凄まじいテンションでパッケージの中を縦横無尽!!慌てて音楽を止めた後も暫く暴れ回って、すっごい興奮していた。R.A.F.I.S.Sには喜色の反応‥‥楽しかったみたい。でも見ていて怖くなるぐらい暴れていた。
基地へ帰還、パッケージの中の怪生物は直ぐに話題になる。誰もが一目見ようと集まって、囲まれても怪生物は無関心にしていた。
「何だコレは?知らぬ生物だな。」
白喰みさんも首を傾げる。
「ラフィの面白い発見だ。」
モモコさんとレイホウさんも不思議そうにカイコ頭を見上げていた。
『ああ、その生き物はラプトゥヌスだね。』
『そうだな。この美しいフォルム。まさかこんな場所に野生が居たとは。』
現地のヒトは知っていた。オウルさんとエンリッヒさんに皆が注目。ボク達の知らない事を教えるのは楽しいみたいで、2人は少し得意げに語った。R.A.F.I.S.Sでだけど。ニホンコク語を流暢には話せないからね。
『シャーリアに古くから言い伝えられる伝承に金の糸を吐く神鳥が語られる。金を吐く者という意味の名前だよ。神から遣わされた天の恵みだ。』
『鳥‥‥ニホンコク語ではそう表現するのだったな?しかしキミ達の知る鳥とはまた違う。神格を感じさせる美しさだ。』
美しい‥‥エンリッヒさんはそう評価した。美しいという言葉を勝ち取れなかったミライさんが、ジト目でボヤく。
(ナルシストの美感覚ズレてんじゃないの?)
このまま研究センターへ‥‥R.A.F.I.S.Sで研究の事を伝えて、その代わりに安全とご飯を約束すれば「ならいいや」と言いたげに寛いでいた。時間が空いたら様子を見に行こう。
そんな不思議な出会いの後もホワイト・シーを飛び回る。好奇心が羅針盤の針をぐるぐる、手を伸ばした先全部を踏破したい!と空を飛ぶ。
『ラフィ、向こうの陸珊瑚の森に気になる物が見えるわ。』
征天丸の中でタマさん達が何か見つけたらしい。空を飛ぶボクよりも、機材を使って精密にスキャンしていくタマさん達の方が発見が多かった。でもイーディウスで自由に飛ぶのが楽しいから。カテンさんに合図して急降下して行った。
「近くで見ると大きいですね。」
陸珊瑚の森。陸珊瑚の塔みたいな異常成長じゃないけど、それでもどれも5〜20m程の珊瑚が森のように生い茂る。珊瑚が風除けに、地面には積もった土。上に短い草が生えて、上から見た以上に鬱蒼としていた。
「我は上から見下ろすか。」
『小さくなって付いて行っても、この地形じゃ咄嗟にデカくなれませんからね。しかし真上に居られるとそれはそれで影で尚更暗くなりますね〜。』
フィクサーさんの声にカテンさんはうぐっ、と反応。ボク達の真上を避けて隣を飛んだ。
「こういう場所、如何にも冒険って感じがする!」
ミライさんは勇足、何処からか伸びたテンタクルスの蔓を片手で弾く。やっぱりテンタクルス種も生えていた。ここは極寒の遥か上空なのに、適応出来ちゃうんだ。
「って?!うわっ!冷たいっ?!」
「ミライさん!!」
今のでバリア装甲に小さな穴が、上空の気温はマイナス20℃を下回る。僅かに入っただけでも思わず飛び跳ねてしまった。
「だーから気を付けなさいよ。凍死するわよー?」
「あうう‥‥バリアのお陰で実感無かったけど。マジで死ねる寒さだぜ〜。」
だからバリア装甲を当てにして戦うのは厳禁。ミスリルシールドで攻撃を堅実に防がなきゃ。それか頑張って躱す!
虹渦島でテンタクルスに関する研究も大きく進んだから、識別アプリを起動すれば隠れたテンタクルスが視覚的に分かりやすく表示された。精度100%じゃないけど、R.A.F.I.S.Sを意識して展開していれば大丈夫。
「土の地面の感触は久しぶりです。程よい固さが歩きやすいですっ。」
ボクの足がふみふみ、群生する雑草を一つ一つ写真を撮ってARスキャナーにデータを保存。植生のデータ集めをしながら、人類未踏の森をお散歩。
あれ?背中の収納の中、ピクピク反応が。アクアマリンを展開すれば、中のウィンディーネが飛沫を上げた。水の道標を宙に描いて、視線で追うボク達を導く。
『ウィンディーネもここの現地人でしたね!何か教えたい物があるようです。』
「精霊の導きの先にあるものは何かな?あははっ、精霊が護りし宝玉とか?」
「ゲームの話かしら。現実的に考えるなら水脈かなんかじゃない?」
タマさんのビームシュナイダー一閃、テンタクルスの蔓が灼け落ちる。イルシオンが弧を描いて、白光が襲い掛かる蔓を薙ぎ払っていた。ミライさんも半光学兵器のビームダガーをブンブン、雑草を払う鉈のように振り回していた。
『テンタクルスの群生地に御座います。征天丸から援護射撃致しますか?』
ブランさんの通信へ、可能な限り環境を荒らしたくないから大丈夫だって伝えた。蔓を斬り落とすだけなら数日で復活するけど、根本を銃撃で壊しちゃうと再生出来ずに枯れちゃう。
「ラフィよ、我がチョイと手を貸そう。」
カテンさんの操る真空の刃が、ずっぱりと目前を平たくしてしまった。網目状に生い茂ったテンタクルスの蔓のコロニーがバラバラになっちゃった。根っこは大丈夫。気を遣ってくれていた。
「ありがとうございます。あっ!向こうかな?」
陸珊瑚の淡い光で薄暗い森の中、一際明るい場所があった。水がそこを指し示す。芳醇な水の属性に惹きつけられるよう、空気が輝きを帯びる程に魔力の濃度が高い空間へ続いていた。
「わぁっ!綺麗!可愛いです!」
思わずはしゃいじゃう!陸珊瑚じゃなくて、大きな木が生えていた。木は陸珊瑚に絡んで平たくて、頭上に網を被せたよう広がっている。
『ラフィ様、先程征天丸で捉えた反応で御座います。水面の上を除けばホワイト・シーで確認された初の樹木でしょう。』
そんな木から沢山ぶら下がったそれは、カラフルに光る果実。クリスマスの電飾のよう、手のひらサイズの果実が青、赤、ピンク、紫、黄色。オレンジに白としっかり発光していて輝かしい。
ウィンディーネは青い果実に纏わりついて、溢れ出る魔力を楽しんでいた。
「ここまで光る果実はアタシも初めてね。食べれそう?」
ミライさんが簡単な検査キットを使って、もいだ青い果実を調べる。
「毒性は‥‥多分無いよ?」
「あっ‥‥でも!」
ボクが警告する前にミライさんはパッと齧ってしまった。
「うまっ?!めっちゃ甘くてぇ‥‥!」
そのまま意識が飛んで倒れちゃう。
「ミライさん!ああっ!」
光る程に濃い魔力を帯びているって事は、そのまま齧ったら魔力過剰摂取になっちゃう!毒性は無くても、秘める大きな魔力がヒトに有害さを齎すんだ。胃をオーガインプラントで強化したヒトならある程度は大丈夫だと思うけど‥‥ミライさんは内臓の手術歴無し。
「あーあ、伸びちゃってるわね。一口だし大丈夫でしょ。」
『征天丸で回収致します。血中魔力濃度の急上昇により、ショック状態になったのでしょう。一般人にとって重体ですが、開拓者的には強化外装がどうにかしてくれる範疇ですね。』
転移で現れたブランさんがひょいと抱き上げてしまう。鼻血を垂らしたミライさんはそのまま一緒に消えてしまった。
ミライさんには悪いけど、ボク達なら大丈夫。毒性が無いなら。
「いただきます。」
あむっ。赤く光る果実を齧った。ま、眩しい。そしてじゅわっと広がる猛烈な甘味!魔力濃度高めの深未踏地食材特有の、すっごい分厚くて尾を引く濃厚なフルーティー。
思わず目を輝かせるボクの隣、タマさんもカブリ。
「ん〜、ゲホッ?!甘ッ?!オエッ!!ヤバいめっちゃ喉に残る‥‥!」
慌てて征天丸へ帰還、収納から取り出した深未踏地産のお酒を一気飲みする様子がR.A.F.I.S.Sに伝わって来た。
‥‥タマさんのお口には合わなかったみたい。ちょっと残念。
「ぬ?中々美味いのに。」
カテンさんもぽいと一口で摘んで満足げ。
影の中からオボロさんとグジャさんが姿を現した。
「妾共にも試食して欲しいのか?」
「うむ?そんな要件でも呼ばれるのか。まぁ喫食するとしよう。」
妖の王と魔王のお口に合う?共感を求めるボクの前、2人はモソモソと平らげる。
「おおっ。これはこれは。中々に美味じゃな。」
「美味いッ!!なんだこの果実は?!いかん、全部食ってしまいたくなる。」
「栽培して増やせたらなって。持ち帰って育てて増やしましょう!」
おーっ!とボク達の声を、征天丸からタマさんがオエーな顔で見下ろしていた。
『‥‥植物は人類と共生し、ヒトの手によって豊かな生存戦略を成してきました。ここに生えた木一つも、ラフィさまによって持ち帰られれば無事繁殖拡大を遂げられるでしょう。』
そう言われると数奇な縁を感じる。たまたまの出会いで、この後こことはずっと遠い地へこの木が伝来して数を増やすんだよね。もしかしたら新しい定番フルーツになって、品種改良を受けてより進化を遂げるかも。
このままそっとここに生えていただけじゃ存在しなかった可能性が、ボクの冒険によって芽生えたんだって。
そう考えると面白いし、冒険の甲斐を感じれて嬉しかった。




