559、戦争終わりにちょっと冒険
「ラフィよ、あそこはどうだ?」
「潜ってみましょう!」
翌日、シャリアが起きるまでは動かない方が良いって事でホワイト・シーの探索中。カテンさんと一緒にイーディウスで飛びながら、小雨の降りしきる雲と虹の世界を冒険していた。
企業の皆も流石に大規模な戦いの後処理が大変そうだし、体勢が整うまでは一旦進撃はおやすみ。見上げた空、もう原生生物達の群れも解散して元の生活へ戻っていた。
戦いで出来た大きな虹雲のリングをすぅっと飛び抜ける。元々あった300mぐらいの小山の一部が吹き飛んで、大きな穴がぽっかり空いていた。
後に続いて征天丸の中からタマさん達がバックアップをしてくれていた。ホワイト・シーの地上付近、通信用のビーコンが等間隔に設置されて高度を上げなければ基地まで通信出来るんだ。吹き荒れる魔力は相変わらずだけど、人類の技術がネットワークの通信圏を徐々に拡大して行っていた。
ボクの見下ろした地上、ビーコンを設置するロボットが見える。空撮された写真からホワイト・シー全域の地上マップを作成、そのデータを元に動いていた。冒険ついでにボク達も戦いで地形が変化した分、差分の空撮写真を撮影する任務も受けていた。
『このリング、壮大よね〜。直径200m超えてない?』
タマさんの通信に混じってミライさんの声も聞こえる。昨日体が真っ二つになったのに、もう元気を取り戻していた。
『うーわ!崩れてこないの?空洞音がめっちゃする!』
山を貫通したリングの中、奥行きは400mを超える。遥か上は案外崩れる気配が無くて。魔法雲な分軽いからかな?穴の中は小雨も降らず、代わりにかなり暗かった。
『ラフィ様、ビーコンの設置機材が立ち往生しています。救難致しましょう。』
地形が変わった影響で、ビーコン機材を乗せたロボットが地形に引っ掛かってスタックしていた。足が無限軌道になっていても、流石に垂直な崖は登れない。
『無限軌道と魔法雲は相性悪そうですね。下がモコモコなせいで、細かい魔法雲の繊維を巻き込んで故障しやすくなっているようです。』
地上へ降りたボクのホロウインドウから、フィクサーさんが顔を覗かせてロボットの様子を見る。
「カテンさん、このロボットを回収してそのまま一度基地へ帰還して下さい。」
「おう、任された。」
沢山ビーコン機材を積んだ機械はとっても重量級。でもカテンさんならひょいと巻いて持っていけちゃう。直ぐに細長い影が基地の方へ飛んで行った。この重量だとドローンじゃ厳しいし、どの道突風で飛ばされる可能性のあるドローンはあんまり使いたくない。基地の研究者達が新しい案を出してくれるだろう、と考えていた。
そんな中、ふとボクの見た先にキラリ。
『タマさん、征天丸をこちらに。地上活動の準備をお願いします。』
『何か見つけたの?ラフィったら目敏いわね。』
征天丸が寄って来て、タマさんとミライさんが降りて来た。ブランさんは中へ残って通信係。
『カテンへ救難信号を上げている他の機材の場所を送りましたので、当面帰って来ないでしょう。ラフィ様達はそのまま探索をして下さいませ。』
カテンさん、お疲れ様です。一度場を離れると、そのままドンドンお仕事を追加発注されて便利に使われちゃう。空の主は忙しなかった。
「あれかな?何かあるね。」
ミライさんはスマイルアプリで望遠しながら確認。抉れでボコボコな地形の隅っこ。薄明るくなっていて、キラキラと暗いリングの底を照らしていた。
「先ずは偵察よ。」
タマさんのブラックキャットが光学迷彩で姿を消しながら、50m離れた窪みへそっと近づく。そして‥‥急にドローンが引っ張られて穴の中へ引き込まれてしまった!
「あっ。」
「何が起きたの?!」
「回収しないといけません。‥‥失くしたら機材紛失届を出して捜索しないといけませんよ。」
ドローンじゃなくてミニフィーを使うべきだったかな?タマさんもあちゃーって顔をしていた。失くした物は回収しないと、人類の技術の漏洩に繋がっちゃうからね。ブラックキャットには自爆機能が無いから、第一種捜索網を敷いて大勢で捜索する騒ぎになりかねない。
迂闊な行動、でも探索中にそういうミスが起きちゃうのは仕方ない。光学迷彩でも一瞬で見抜いて攻撃されたって事は、特殊な感覚器官を持つ原生生物が居たって事かな。
空間に固定出来るミスリルシールドを構えたミニフィーが、そっと穴へ迫る。
急にミスリルシールドが引っ張られるものの、空間に固定して事なきを経た。
「先ずはOKだね。何がいるのやら。」
ミライさんもミスリルシールドを構えつつ、ボク達と歩調を合わせて穴を覗き見る。皆の盾が急に引っ張られて、けれど強化外装の出力で反射的に踏み留まれた。盾を空間へ固定、半透明な盾越しの景色に息を呑む。
金色の蜘蛛の巣が輝いている。金にてらりと光を放つ糸が空間一面にびっしり張り巡らされて、ブラックキャットもその奥に絡め取られてぶら下がっていた。
そして驚いたのは、糸を操る主人が巨大な不思議生物だった事。ナメクジのような体、カイコのような顔と触角。背面をもふもふの白と金の羽毛が覆って後ろから見たら大きな鳥のよう。
鳥ナメクジカイコ‥‥何これ?
「きゃっ?!」
ボク達を見て威嚇しているのか、背中の羽毛がふわりと伸びて大きく開く!それはクジャクのようだった。
「レイホウから貰ったアプリには近縁種の情報無しと。」
スティックARスキャナーを構えるタマさんは、その奇妙な見た目へ好奇の視線を向ける。ミライさんも羽毛を目で追っていた。
「‥‥っ!来るよ!」
ミライさんが屈んだ頭上を金の糸が掠める。ボク達も飛び退いて躱していた。ナメクジのお腹から、ワラッと触手が10本。勢い良く盾を迂回するように伸びて、先端が糸を吐いて来たんだ!
R.A.F.I.S.Sで話しかけても反応が薄い。興奮状態をどうしかしないと!
アクアマリンを展開。薄虹の水球を一斉に発射して辺りを覆った。高水圧の水球を触手が通り抜ける事が出来ずに、動きを阻害されて怯む。
燕尾服へ着替えたタマさんは瞬動で吹っ飛んで、その姿が奇妙な生き物の背後へ。カイコ頭の目前に閃光手榴弾、ピカッと光って強烈な光の暴力をぶち撒ける。光の中を猛進したミライさんが、液化アダマンタイトコーティングされた重量網を放り投げていた。
網目の細かい網の重量は50kg。先端が地面へ固定され、中型の原生生物ぐらいなら確保出来るけど‥‥にゅるん!と隙間から一瞬で這い出してしまう。
カイコ頭だけど光のショックは効かない?視力が悪いのかも。見た目に反して動きは素早くて、記録された瞬間的な速度は時速120kmオーバー!ナメクジの速度じゃ無いよ!
奇妙な見た目、そしてすっごい速い。不利を悟って逃げようと動く。ステラヴィアで滑走するボクが目前へ飛び出し、エンジェルウイングを大きく展開!強い癒しの波動は、生物へ瞬間的な脱力を覚えさせる。
目に見えて動きが鈍った一瞬、ボクのキャプチャーネットが噴出していた。
ネットが絡んだ瞬間、転移で征天丸内のパッケージに転送される。隙間も無い、大型原生生物の膂力に耐えるパッケージ内なら逃げられないよ!一瞬のやり取りで何とか捕獲する事が出来たのだった。
「危なかったわね。ほら、そこの隙間。」
「この穴から逃げるつもりだったの?アイツ3mぐらいあったよね?」
「1mも無いですね。ナメクジだから入り込めちゃうのかな。」
ホロウインドウの中で観戦していたフィクサーさんも、満足げに手を叩く。
『にゃは、ワタシも知らない変な生き物でした。』
そして急にホロウインドウ内へ落ちて来たナメクジの群れに集られて、あおぉ〜?!と変な声を上げちゃう。タマさんのクイックハックがアニメーションを再生していた。
「な〜にサボってんだか。アンタが仕事すればもっと簡単だったでしょ。」
『そうは言ってもベリーイージーモードで探索してもつまらないですし?ああ、本当に逃げられちゃいそうなら手伝いましたよ。ラフィさまのガッカリなお顔を見るのも忍びないですし。代わりに今日のお風呂場で、ラフィさまの壺湯ベッタリ権を頂きますが。』
ミライさんの興味津々な顔、ボクの横顔は熱くなってそっぽを向く。タマさんは呆れた声を出した。
『ラフィ様。この奇妙で妙な謎の怪生物は何でしょうか。パッケージ内が金色の糸だらけで無茶苦茶で御座います。』
ブランさんの通信越し、オーアッ!なんて鳴き声が聞こえていた。
‥‥ナメクジでカイコなのに鳴くんだ。




