535、ロスト・ブルー
オウルさんが不思議な欠片の事を知っていた。R.A.F.I.S.Sでやり取りしているから、ピザを食べながら色々話してくれる。
『イーディウスは乗り物であり、神聖なもの。至高なる白が齎した自由。』
宗教的なものなのかな?
『ボク達はそれを探しているんです。この近くに墜落した可能性が高いです。』
オウルさんはピクリと興味を持ってボクを見た。ピザを口の中へ押し込みながら。
『なら私が同行しようか。歌で導こう。』
皆にボクから伝えないと。
「皆さん!追っている欠片の正体は乗り物かもしれません。オウルさんが案内してくれるようですので、次は一緒に行きます。」
皆はオウルさんに興味津々。早速アイビーさんが色々インタビューするけど、言葉が通じずに首を傾げるばかりだった。半分くらい本当は分かっているけど、分からないフリをして流してる。自分の事をあまり語りたくないのかな?
‥‥なんとなく押しの強いアイビーさんが苦手そう。目を逸らしていたのだった。
準備を整えて再びやって来た万樹紗華の秘境。隊列を組んで歩き出す。オウルさんはマイペースに、ボクと並んで前を歩いていた。風が吹く。なんとなく、誘うような風がボクの背中を押していた。
カテンさんの力強い風と違って、薄絹のような心地良さ。風が向かう先を示してくれるように感じた。
「風が導く。」
そこら中から色んな原生生物の気配がして、鳥や獣がボク達を見る。R.A.F.I.S.Sが敵意の無さを伝えるけど、流石にこの人数で警戒しながら動いていると説得力が無かった。
今回は無線でのやり取りじゃなくて、R.A.F.I.S.Sに繋いでやり取りする方向性。前回はちょっと舐めてて、オーソドックスなやり方でやってみようなんて。でも深未踏地の怖さを体験した結果、やっぱりR.A.F.I.S.Sを探索の中心に添えようってなった。
「ラフィの円滑な探索って、少人数だったから成立してた感じするわよね。」
タマさんの声にアイビーさんも、
「少人数な方が安定するって不思議な話だよねー。こんな場所、この人数でも正直心許ないのにさ。」
「50人ぐらいで役割分担ハッキリさせて動いた方が安全よね。」
シライシさんの声が同調した。ミニフィーを増やしてもっと警戒した方が良いのかな?万樹紗華の秘境も何だかんだよく行くし、ここまで警戒して動いた事も無かったから。
気性の荒い原生生物はここじゃ思ったよりも少な目で。テンタクルスの方が危険なぐらい。勿論危険なのも居るけど‥‥
見上げた先で、巨大なカブトムシタイプの甲虫が木花の上に止まっていた。皆も気配に気付いて見上げる。銃弾を容易く弾きそうな、がっしりとした外骨格に思わず気圧される。質量兵器で殴ってもクラスC規格程度なら普通に弾いちゃう。それでいて時速300kmオーバーの速度に急加速して体当たりしてくるんだ。
手を出したり近付かなければ無視されるんだけどね。前戦った時はラビットT-60A5でのキックを何度も当てて、あの外骨格にヒビを入れた所でR.A.F.I.S.Sに繋いで和解したんだ。
「ここじゃ改めてヒトはちっぽけな存在だって思い知らされるよ。」
ヒミコさんはスケールの大きな木花の天辺を見上げながら言っていた。
オウルさんが小さく呟く。すると風が虹色に薄っすらと輝いて、風の音が歌うように聴こえた。周囲の隠れていたテンタクルスの気配が静かになった事に気付く。
『少しの間眠っていて貰おう。』
オウルさんが何をしたのか、皆は気付かずにそのまま進む。テンタクルスが潜んでいた岩陰を素通り、木花の側もそのまま通り過ぎた。
『オウルさん、凄いです。』
『私は空歌の君‥‥うーん、キミ達の言葉に訳すなら大魔法使いかな?歌を魔法と呼ぶんだったね。不思議な感じだ。』
オウルさんは凄いヒトなのかも。ホロウインドウの中のフィクサーさんも感心していた。
『ほうほう。空の原生生物が使うバイオマジックを模倣したようですね。気流を操る簡易な魔法を起点に、風の音を詠唱代わりに魔法を行使する。面白い発想です。』
バイオマジック。原生生物が操る魔法の総称で、ヒトが使う際の言葉での詠唱や魔法陣を別の手段で代替えして発動するんだ。そのメカニズムは生物によって違うから、ブラックボックスアーツの代表格として知られている。
『ラフィのすぐ隣にずっと悪魔がいる。私が祓ってあげようか。』
ホロウインドウがにゅっと開く。中のフィクサーさんは悪い顔で手をワキワキ。
『にゃはは、貴女の力は認めましょう。ですがニホンコクには井の中の蛙大海を知らず‥‥そんなことわざがあります。後で意味を調べておくように。』
R.A.F.I.S.Sで大魔法使いと大悪魔とボクの意思が話し合い。ブランさんが察してオウルさんの後ろ襟を摘んだ。
「手出し無用に御座います。」
「‥‥分かった。」
ボクもオウルさんを覗き込んで小さく抗議。
「仲間、です。悪魔でもボクを支えてくれるんですから。」
オウルさんは不思議そうにしていた。フーガさんと言い、魔法に詳しいヒトは悪魔が苦手みたい。
『にゃは、魔法に精通する程ワタシの力の真髄を知りますから。脅威に感じちゃうんですよ。嫉妬もあるでしょうが!』
少し行くと森の景色にキノコが混じって来て、そのままキノコの森に姿を変えた。木花が全然無くて、その代わりに巨大なキノコが大木のように連なる。
「わーっ。こんな場所もあるんだ。」
「ボクも知らない土地です。あっ!キノコが動きましたよ!」
ボク達の足元を小さなキノコの群れが一斉にザワザワと動き出す。ブランさんがちょいと1匹摘んで持ち上げれば、それはキノコを殻代わりにしたヤドカリさんみたいだった。
皆がスマイルカメラで写真を撮って、この光景も映像で残していく。
「未知の生態凄いね。」
目を輝かせるラズベリーさんはヤドカリさんへ挨拶を。こんにちはっ!に爪を振って応えていた。
大きなキノコの裏‥‥
「うへー、嫌いなヒトが見たら卒倒しそう。」
アイビーさんのカメラに映された、ぎっしり詰まったダニのコロニー。キノコには近付かないでおこう。
「バリア装甲が守ってくれる‥‥って安心出来ない所が怖いわよね。どんな質か分かんない生き物には寄らないのが正解よ。」
目に映る全部が目新しくて、皆は口々に発見を分かち合う。そして遂に。
「アレじゃない?!」
ラズベリーさんが指した先の大キノコの上、空色の美しい物体が引っ掛かっていた。高い所にあるから全容が分からないけど、ぱっと見ガッシリとした感じがしない。繊細な芸術品のような‥‥敢えて言うなら鳥のように見えた。
「イーディウス。あれで間違いない。」
オウルさんも50m上を見上げていた。ここらのキノコは細長くて、イルシオンで突いた感じゴムにようにしなる。硬いと柔らかいの中間、みっちりとした柄は逞しい。ブランさんがスキャンした所、極めて強い難燃性を示した。
「ほら、ブラン。行って来なさいよ。」
タマさんに背中を叩かれ、ブランさんはボクを見る。お願いします、と見上げるボクに恭しく礼を。バトロイドの体は頑丈だから、何かあっても大丈夫な筈!
皆が見上げる中、背中から現出されたブースターで一気に上空へ加速するブランさんが飛び上がる。かさの部分へ近付くと‥‥バフン!!
急に凄まじい量の胞子が噴出して、ブランさんが急降下しながら墜落して来た!
「ブランさん?!」
「ラフィ様、近付かないように。当機は大丈夫ですが‥‥」
ブランさんの身体中が胞子塗れで真っ白。
「この胞子は生物に寄生後、急速に魔力を吸って成長するようで御座います。魔力を吸われた結果、駆動魔具の出力が激減。墜落に至りました。」
タマさんの口笛、思わず後退るラズベリーさん達。胞子が降り注がないよう、フィクサーさんが空間ごと圧縮して何処かへ放り投げた。
「ねぇ、何回連続で胞子が出そう?」
ヤミヨさんの疑問に皆の答えは2〜3回。根拠は無いけど、まさかゲームのギミックみたいに無限に出せるとも思えないし。
ブランさんが一旦征天大学の特別隔離室へワープゲートで退避。完全に洗浄されるまでは動けないし、ゆっくりしてて!皆で真下から距離を取って対応策を考える。
何が原因で胞子が出たか分からない以上、やれる事を一通り試すしか。
簡単な作戦、ヤミヨさんがそこら辺の拳大な石を投擲。かさへ直撃、欠けもせずに無反応。予想はしていたけど‥‥
アイビーさんがARを投影、かさの上でボクが踊るけどこれも無反応。だよね。
視認できる場所にはワープゲートを開ける。でも、上へ直通だと胞子を浴びる事になっちゃう。ワープゲートの入り口はボクの直ぐ側にしか作れないから。
テレポーターのミニフィーが上までひとっ飛び!バフン!!胞子が急速に魔力を吸い取って、一瞬でミニフィーが生体ゲルへ戻っちゃった。落ちて来た転移用の魔道具をイルシオンが拾った。
フィクサーさん!
『距離を折り畳む事は出来ますけど、真近にかさが迫っちゃいますよ?』
ううっ、分かってたけどぉ‥‥!
そんなボク達の頭上、急に影が落ちて思わず見上げる。いつの間に音も無く巨大な氷塊が発生していた。落ちて来る気配は無くて、魔力の流れがオウルさんへ繋がっている事に気付いた。
「揺らして落とす。」
もしかして今までずっと詠唱してたの?!巨大な質量兵器な氷塊は、オウルさんに操られて勢い良くキノコへ激突!大きく揺れるけどそれでも倒れる気配は無くて。けれど、かさの上のイーディウスが吹き飛んで落ちて行った。
「そんな雑に扱って良いんかい。」
グミさんの突っ込みにオウルさんは首を傾げていた。見た目的に結構繊細なのかもって思ってたから。それならラズベリーさんに狙撃して落として貰っても良かったのに。
「うーわ!魔法って凄いよね!真近で見ちゃった!」
アイビーさんがスマイルカメラへ口を忙しくする間、オウルさんとボクでイーディウスを回収しに行っていた。
イルシオンが地面へ落下したイーディウスを拾い上げる。やっぱり見た目は鳥さんのよう。見た瞬間思ったのは、鳳凰‥‥のようなデザインだなって。ワシのような体型、孔雀のような立派で派手な尾羽、頭部はどこか鶴のように流線的。脚は無くて、大きい両翼が揃っていた。
その全部が空色で、中で雲のような白い霧が流動している。青空を鳥型に切り取った、そんなイーディウスはボクを魅了した。
‥‥やっぱり、欲しい。
欲望?ううん、違う。もっと本能的な欲求。ボクの中に眠る幾つもの設計図には、“欠けた”物があった。
設計図自体はあっても、それを実現する材料が足りない。エンジェルウイングや、ユリシスのように完成系で存在しないロスト・ブルー。どういう経緯でそんな物が詰め込まれたかは分からない。それでも、欠けた設計図がある事をボクは認識していた。
その一つが多分、イーディウス。
『オウルさん。拾った欠片をボクが頂いても良いですか?これ本体はブランさんがスキャンしてボクへ同期させます。』
『‥‥?まぁ、これは一点物では無い。そもそも大分欠けて壊れてしまっている。私が持っていてもどうしようもないな。技術者じゃなくてね。』
『じゃあ‥‥!全部。頂いちゃっても。』
欲しい!欲しいっ!とお願いする。欠けた穴を塞ぐ事で、ボクはより成長出来るんだ。それにお母さんが残した設計図を完成させたいから。
オウルさんはボクを覗き込む。
『飾るのか?壊れていて不格好だよ。』
『その、食べたいです。』
吸収して、知識を魔王の力で再現する。穴開きの設計図はそうやって埋める事が前提だった。ボクの様子がおかしい事に気付いたのか、後ろからタマさんが抱いて来た。ホロウインドウの中からフィクサーさんも姿を現す。
「何よ、食べたいの?」
「はい。」
「ラフィさま、先ずは皆に相談しましょう。」
「‥‥はい。」
皆の元へ持って行った。イルシオンで持ち上げて見せれば、皆がおおっ?!と声を上げる。
「うわっ?!すっごい綺麗!!」
「幻想的じゃない。」
「こんな発見があるなんて!」
スマイルカメラが瞬き、動画に流れる白い霧が映されていた。‥‥モモコさん達にも見えておきたいなって思って。
探索の成果を見せびらかす為に、虹天リゾートタウンへ帰還する事になったのだった。




