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534、万樹紗華の死闘

準備を済ませた皆が、ワープゲートの向こうへ足を踏み入れた。万樹紗華の秘境、その景色は生命の輝きで彩られた万華鏡のよう。所狭しと無数の動植物が住まうここは、まさに動物達の楽園だった。


大花の森よりも木花は眩く、一層濃い魔力の輝きを纏う。ガラパゴス的に進化した奇妙な生き物達は、ボク達へ視線をやっていた。


「ここが‥‥!」


「随分綺麗な場所だね。」


遠く何かの生き物が吠えた音が聞こえて、皆は警戒を強めていた。


「この辺りはテンタクルスの警告ARの精度が大きく落ちますので、各自自衛の方をお願いします。それと襲ってくる危険な大型生物もいます。攻撃時の許可は要りませんので、危険を感じたら迎撃して下さい。」


今回の探索は人数が居るから、一般的な探索陣形を組んで動く。深未踏地での探索は基本的に20〜50人でやるものらしい。ボクの場合はミニフィーとR.A.F.I.S.Sがあるからかなりガッツリ減らせるけど。それでも警戒するに越した事はないしね。


ボクとブランさん、フィクサーさんが先頭。真ん中にエンベリの皆、両側面としんがりをデビルズ・エコーの皆で埋める。ラズベリーさんとブラックカラントさんが狙撃支援、グミさんとアマネさんが遊撃。それ以外は防御と索敵が主な任務。


とは言っても、この人数じゃあまり機能しないし。


「所詮ごっこ遊びみたいなもんだけど。アタシら以外は初心者なんだし、体験ツアーを楽しんでおきなさいね。」


余裕しゃくしゃくなタマさんは、ヘラヘラしながらしんがりを受け持ってくれた。


「モンスターパニックの定番的にはこういう経験者って最初に死ぬんだよね〜。」


ヤミヨさんに茶化され、シュラウドさんに笑われていた。早く行けって風にしっし、とするタマさんに急かされ皆が動き出す。文明の気配の無い大自然の中へ、ボク達は踏み出した。


全体の歩調を考えながら、ボクの小さな足が柔らかい地面を踏み踏み。枯葉‥‥というより花弁が敷き詰められた地面はカラフルで、見ていて楽しい極彩色の絵画。


やっぱり森の中が騒がしい。スーパーセルで色々飛んできただろうし、落ち着きがなかった。


無線が全員に声を伝達する。


『3時の方向、体長1m級の影が見えたわ。』


シライシさんの報告と、全員に送信された写真。小さくて見えずらいけどそれは宙を飛んでいた。R.A.F.I.S.Sを介しても良いけど、どうせなら一般的な方法で探索しようってなっていた。緊急事態になったら別だけど。


『この地域で未確認の生物の可能性アリです。危険性が未知数ですので警戒を強めて下さい。』


蛇さんのように細長くて、空を飛んでいるような生物。ボクは知らないし、レイホウさんから頂いたアプリも写真に反応しない。データが少な過ぎてAIも困っていた。


暫く進んだ先、細長い滝が50m上から降り注ぐエリア。深いけど小さな滝壺から、川が森の奥へと続いている。


『先程から私達を追いかけている木花の上の群れは大丈夫ですか?』


ラズベリーさんの視線の先、頭から大きなお花を咲かせたお猿さんの群れがボク達を追い掛けていた。数上報告に上がったけど、


『オオハナテナガザルです。危険性はありませんので大丈夫です。』


お猿さん達は好奇心旺盛にボク達を観察する。けれど向こうからはそれ以上接触して来ない。


ボク達は開けた場所へ警戒しながら進んで行く。


『ここで迎え打ちましょう。』


皆が自然と武器を構え、R.A.F.I.S.Sが警告を飛ばす!さっきからずっと地中に潜んでボク達を追跡していたそれは、鋭い歯を覗かせてグミさんの足元から飛び出した!


「バレてるっての!」


身躱すと同時にクラスC質量兵器のガントレットで殴り付けていた。真っ白な色合いのワームは、それでも大した痛痒無さそうに首をしならせてグミさんを狙う。体長1m級、小型の原生生物だけど‥‥真近で観察した結果アプリによると海竜種の近縁種の可能性アリ。


「どっか行ってって!」


ヤミヨさんの差し込んだ青龍偃月刀がワームの体を引っ掛け、強化外装の出力任せにぶん投げた!大回転しながら吹き飛んだ先で木花に激突、それでも血の一滴も出ない。


キーッ!!と甲高い誰かの悲鳴。ヒトの悲鳴のような咆哮音がワームの口から発されていた。けれど直ぐに声が途絶える。頑丈な皮膚を避け、その口腔へシュラウドさんが1発スマートライフルで弾丸を撃ち放っていた。


地面に落下してピクリとも動かない。


「オーソドックスな対処法で倒せて良かったですよ。ただ‥‥」


「まだ来ます!全員警戒して下さい!」


R.A.F.I.S.Sが同じワーム達の襲来を察知していた!さっきの悲鳴を聴いたせいか、10体以上の群れがワッ!とそこらじゅうから姿を現す。空を自由に飛べるようだった。土中も空も行けるなんて。


「キタキタキタ!あははっ!そう来なくちゃ!」


ヤミヨさんの手には質量ナイフ、投擲された1刃が見下ろす1体の口腔を貫いた。


「ほら、連携が大事だよ!」


ヒミコさんの両手には2枚のミスリルシールド。ブランさんとシライシさんも装備を同じく、皆を庇うよう前に出て構える。


「ボクが牽制しますから!」


袖下から伸びたイルシオンが白光眩く、ワーム達の口腔を狙うよう動いて大きく動きを牽制した。自由で広い空を狭苦しく、身動きを阻害し続けて軌道上に残った純白の帯が空を埋めて行った。


「はいはい、大事なのは動かせない事。」


アイビーさん投影したARはトランプ柄の壁。ワームの行く手をトランプが塞ぎ続けて撹乱する。土の下から現れたワームへゾロさんが体を張ってしがみつき、口腔目掛けてタマさんがビームシュナイダーを突き刺した。


グミさんも急襲するワームへしがみ付き、強化外装の出力に物を言わせて食い止める。弱点の口腔をラズベリーさんが撃ち抜いてしまった。


ブラックカラントさんの相転移が、ボクと1匹のワームの位置を交換。敵の懐でアクアマリンとセイグリッド・エンジンを展開、ミニ戦車に身を包んだまま伸びた水路を駆け抜ける。バルカン砲を撃たずとも、質量任せのタックルで何匹か轢き飛ばして赤い霧に変えた。流石にこの威力なら耐えきれないみたい。


『ラフィさま、数匹確保しておきましょう。』


ホロウインドウから伸びたフィクサーさんの指の中、圧縮された空間内に小さくなったワームが数匹。ミミズサイズのそれをキャプチャーネットで捕まえた。未知の危険な原生生物だし、研究しないとね。


皆が激闘する中、ボク達の頭上を大きな影が覆う。暗くなって見上げれば、10を超すハクオオワシの群れが急降下して来ていた。


1体が2mから8mサイズの巨鳥は獰猛な爪を光らせる。その速度は時速200kmを超え、急な襲撃に皆反応出来なかった。いや‥‥その存在を無視していた。


R.A.F.I.S.Sでハクオオワシ達が敵じゃないって伝えていたから。


空の捕食者があっという間にワームの残党を鷲掴みに連れ去って、遠く鳴き声を空の彼方から響かせて行った。


盾役の3人が奮闘したお陰で敵に纏わり付かれずに戦えた。ボクとアイビーさんの撹乱で大きく動きを阻害出来たし、的確なラズベリーさん達の射撃でスムーズに数を減らせた。


「戦闘終了っと。厄介な奴だったわね。」


皆に被害が無いかタマさんは見回す。誰も負傷せずに勝てたようだった。


「この生物達もスーパーセルから飛ばされて来たのでしょうか。」


虹渦島の生態系が心配‥‥大丈夫かな?ハクオオワシ達が島全体を縄張りにしているし、全部食べちゃうかも。


「凄いよね。あれだけ苦戦したワーム達が一瞬で消えちゃった。」


「食物連鎖の過酷さを垣間見たのぅ。」


「襲われたら危なかったわね。」


ハクオオワシは獣害事件も多い、深未踏地の危険なハンター。けど虹渦島の子達はボクのお友達だから。


「大迫力だったよね!今回も動画バズらせちゃうな〜。あっはっは!」


ご機嫌なアイビーさんへニコラさんがグッとサムズアップ。良い絵が撮れたみたい。


「てか思いの外強くてビビった的な。」


「そうそう、殴ってもダメージ無さげでさ。」


アマネさんとグミさんの会話に、皆も口々に思いの外武器が通用しなかった事を話した。驚いていて、同時に強い不安を感じていた。


「何で獣害事件が多いか分かったわね。ヒトを相手にするのとは全然違うわ。」


シライシさんもそうだけど、都市での活動が中心の開拓者達にとって原生生物との戦いは驚きの連続。ヒトを簡単に殺せちゃう武器が、分厚い皮膚や鱗に弾かれてしまう。


「言うても全く効いてない訳じゃないわよ?ただ向こうもドーパミンドバドバで、頑丈な体と合わさって中々怯まないだけ。平気そうでも戦いが終わったらぐったりして死んだりするでしょうね。」


タマさんの意見は正しくて。


「そうです。向こうも痛いのを我慢して必死に戦っているんです。対人戦のような儚さの無い、泥臭い殺し合いですから。しっかり戦い方を覚えないとやられてしまいます。」


ヒトの体はとっても弱いからね。今回勝てたけど、誰が大怪我をしてもおかしくない戦いだったと思う。数が多かったし、詳細も不明だから対処法が曖昧。そういう危険を承知で深未踏地へ挑むけど、多くが帰らぬヒトになってしまうのも現実だった。


1戦交えて、一度撤退するかを皆で確認する。目的地は直ぐそこだけど、ちゃんと体勢を整えようって話になって。時間もお昼過ぎ。お昼ご飯を食べて来る事になった。


ワープゲートの向こう、安全な文明圏の地面を踏んでヒミコさんは悔しそうに唸る。


「もっと動けると思ったんだけどねぇ。実際に戦ってみると動きが予測付かなかったのが悔しいね。」


シュラウドさんも、


「ヒヤヒヤする場面は多かったですし。ラフィさんの力が無かったら少なく無い犠牲者が出たでしょう。」


R.A.F.I.S.Sで完全に同期した連携、千里眼のような広い視野で戦えたのも大きいようだった。


皆思う所は色々あったようで顔色が暗い。お腹が空いてると余計にナーバスになっちゃう。


「大丈夫です。慣れていけば良いんですから。一緒に祝勝祝いはどうですか?」


皆を誘ってピザパーティー!!


ピザが美味しいレストランへ転移‥‥あれ、1人多い。当然の権利、な表情のオウルさんがボクの隣に居た。後ろ襟をタマさんが摘んで店外へ。瞬き一つの間にオウルさんがボクの腕を抱いて立っていた。


「アンタの食い意地は凄いわね。」


「食とは黄。楽しみ、娯楽、うーん。そういうもの‥‥さ。」


辿々しい口調でも意思はしっかりしていて、ボクの腕を引きながら席へ着いてしまった。これには皆も苦笑い、でも何も言わずに受け入れてくれた。オウルさんを1人にしちゃっているし、食べる楽しみぐらいは共有したいなってボクも思った。


ボクの隣にタマさんが座ろうとするも、ラズベリーさんがひょいと。魔法少女達が続いたお陰で危うく別のテーブルに追いやられそうになって、ジタバタしながら対面へしがみ付く。


「そんなにラフィくんと一緒が良いの?少年少女の距離感みたい。」


冷やかすヤミヨさんにうっさいわね、と。タマさんのお顔が見れてボクは嬉しいよ!笑顔で迎えるボクにはウインクを返した。


次々と運ばれてくるピザ!ピザっ♪チーズっ!!ピザっ(,,>᎑<,,)!


にゅぅ〜と伸びたチーズはピザソースで赤みを帯びて、皆して思わず旨味に唸っちゃう。嫌な事を先ずは頭の本棚へしまって、卓上で輝くピザに齧り付こう。


皆の会話が段々と増えて、オウルさんにもラズベリーさん達が色々質問を。


「スーパーセルの中から来たんですよね?どんな所だったの?」


「雷‥‥うるさい。雨、激しい。風、強い。場所。」


もどかしそうに頑張ってニホンコク語を絞り出す。その調子だよ!


「エルフとか初めて見るんだけど。何歳よ?」


「‥‥?」


言葉の意味はざっくり分かるけど、意味が分からないという風に首を傾げた。そんな反応にグミさんは困った顔でピザを噛む。


『そう言えばニホンコクには生まれの数を数える風習があったな。鳥が運び、風に消える我々とは生き方が違う。』


『鳥が運び、風に消える‥‥で良いです。頑張って!』


オウルさんはむぐむぐした後に、


「鳥が運び、風に消える。」


短い答えでも、魔法少女達はオーっ!と声を上げて納得した。文化の違う答えは予想外だけど、らしさがあって聞いていてワクワクするよね。


そんな中あの青い欠片の話が上がって、オウルさんにも見せてみようってなった。


オウルさんは驚いたような顔をして、欠片を摘んで眺める。


『イーディウスの破片が何故ここに。はぁ‥‥嵐は色々壊してしまったようだ。』


知っているようだった。

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