533、欠片の主へ迫る前にちょっと露天風呂
皆で持ち寄って集まった欠片は20個。大きいのから小さいのまで、形も様々。全体的に流線的な形をしているのかな?
「何よ、アンタら随分消耗してるじゃない。」
タマさんはラズベリーさん達をヘラヘラ笑う。皆顔に疲れが出ていて、ぐぬぬ‥‥ってしながらも言い返せなかった。
「初めての深未踏地だったけど、何が出てくるか分からない感じがすっごい緊張するね。」
「明るいのに一寸先は闇って感じかしら。」
「そうだのぅ。よくまぁそなたらはここを開拓出来たものよ。」
「‥‥ダル。」
それに比べて大人達は皆余裕そう。
「まぁ、何か出て来ても返り討ちにすれば良いだけさ。」
「そうそう。テンタクルスぐらい怖く無いって。」
ヒミコさんとヤミヨさんはケラケラ笑う。色んな場数を踏んで来た大人達は新鮮な体験を楽しんだみたい。
「こっちも良い動画が撮れて満足ってね。」
アイビーさん達も問題無さそうにしていた。アウランさんは色々採取したようで、サンプルの入った小瓶を見せてくる。小さな結晶や花弁、特徴的な見た目の虫の死骸が収まっているようだった。
「私達も頑張らないと。」
ラズベリーさんの手をそっと握る。
「少しずつ慣れていけば良いです。危ない場所ですから、変な慣れや無謀は命取りになっちゃいます。」
ラズベリーさんは頷いてくれた。
「この欠片を拾えた場所の分布図で御座います。」
判明している大花の森の地図と、拾った場所を照らし合わせる。
『そこにスーパーセルが虹渦島を通り過ぎた際の風向きの情報を足しましょう。』
事前にブランさんが交渉してくれたお陰で、詳細な風向きのデータが手に入っていた。大学も同じような欠片を虹の浜で発見して、現在調査中だったらしい。だけど危険な大花の森の探索は中々進まなくて。
緊急性の無い研究って事で後回しになっていた。
皆が共有モードのホロウインドウを見上げる。口々に意見が飛び交った。
「ふむ。風向きを考慮するなら欠片の主は大花の森の中程に墜落していそうですが‥‥」
シュラウドさんの声にシライシさんが。
「でも欠片の感じを見ると相当軽そうよ?もっと遠くに飛ばされたんじゃない?」
「少なくとも大花の森の目立つ位置には無さそうだね。そうだったらもう見つかってる。」
ヒミコさんの意見はごっとも。緊急性が無いだけで、征天大学も担当研究者を付けてもう捜索自体は始めてる。でも見つかってない以上、大分奥地に墜落したようだった。
「動画に撮ったんだけどさ。欠片が落ちていた時の向きも重要じゃない?」
アイビーさんが幾つか動画を見せてくれた。よく見れば確かに欠片の向きは大体同じ感じ。そこからどういう風に欠片が散らばったかをシュミレート出来る。
「方向は絞れたわね。木花に刺さってた欠片の高さを誰か記録してない?墜落までの高度推移を測れるわ。」
そこまで分かればかなり正確に場所を割り出せそう。皆で目撃情報や写真を出し合って、フィクサーさんが情報整理アプリに纏めてくれていた。地図の上に情報を並べていって、段々と下がっていく高度が割り出されて行く。
「やっぱり間違いなく島に何かが墜落したわね。場所は万樹紗華の秘境の辺りかしら。」
「あの辺りは直接ワープゲートで飛べませんから、近くから徒歩で向かいましょう。」
「場所は大花の森と違って危険度合いは断然高いので御座います。観光気分で歩ける場所では御座いませんので、準備をしっかり整えて下さいませ。」
ブランさんの声に、少し息抜きをしてからにしようって話になった。一旦体勢を整えよう。
ラズベリーさん達は、あっという間に情報を纏め上げるミーティングに憧れの眼差しを向ける。
「プロって感じ。」
「私らもプロだが‥‥拾う前に写真か映像で残しておくべきだったか。」
「そーね。今は温泉に浸かってちょっと疲れを取りたいわ。」
「温泉は夜だけじゃなくて良いし。ラフィ。」
アマネさんがボクの手を引けば、ラズベリーさん達の顔が赤くなる。
「ラフィくんも?い、良いけど‥‥!」
「マジ?まぁ‥‥反対しないけどさ。」
「ほーう?私らと混浴するかえ?」
あの?!癒しが欲しいのならともかく。そもそもホテルの大浴場は混浴禁止ですから!
「でも部屋に付いた露天風呂は好きに使って良いのよねー。」
タマさんが後ろからボクを抱く。ヤミヨさんもほっぺをくすぐって来て。けれどヒミコさんがボクの腕をぐいと引っ張って、グミさんへ押し付けた。
「ほうら、子供達は纏めて入って来な!こっちは装備の確認と足りないモンの補充を行うよ!ちょっと行って見てくるだけでも深未踏地なんだ。しかも浮島の秘境!油断出来ないよ!」
豪快なヒミコさんの声に押されてボク達はホテルまで転移で帰った。流されて一緒にお風呂に入る事にしちゃったけど‥‥良いのかな?普段からタマさん達と一緒に入る分、ある種の慣れはあっても恥ずかしいのは変わらない。
そんなボクを気遣ってか、ひと足先にお部屋へ戻った皆は水着を着てくれた。
「これなら大丈夫!一緒にプールに入るのと同じ!」
「裸を見れなくて残念ねー。」
胸元を寄せてからかうグミさんに、これで良いです!と小さく抗議。
ボクのホロウインドウがパッと開いて、フィクサーさんが顔を出す。
『初々しいやり取りで良いですねー。タマさんが普段どんな格好でラフィさまとお風呂に入っているか想像付きますか?』
顔が熱くなってそっぽを向くボクの反応に、ブラックカラントさんが調子の良い声で茶化す。アマネさんがボクの手を引いて早速露天風呂に連れて行った。
ここは最上階。見晴らし最高の露天風呂に皆思わず声を漏らす。薄っすらと虹色の雲の渦が目前に見えて、島の内陸へ目をやれば虹巻山を一望出来た。まだ行っていないエリアも沢山見える山は、場所によって色とりどりで。綺麗な景色詰め合わせセットみたいな見た目をしている。
「最高だよ!山おっきい!」
「こんな景色のお風呂とか、庶民な私らには縁遠いわね。」
景色に夢中な皆の傍ら、アマネさんはボクの背中を流してくれていた。
「アマネさんは良いんですか?」
「浸かりながら見るし。ラフィの背中柔らかスベスベ。」
それとなく‥‥前の方も指が這う。お腹から胸元まで泡立った手で撫でられて、もじもじするボクを綺麗にしてくれる。
「ラフィも。交代すっから。」
「は、はい。」
アマネさんの背中は引き締まっていて、ボクよりも筋肉質。ニッポンイチの企業私兵のエリートらしく、鍛えられた体付きをしていた。けれど腹筋が割れてたりはしない。インプラントかな?女性開拓者が浮き彫りになる筋肉を隠して線の細い体付きに見せる為、筋肉の上から特殊な皮下脂肪を注入して隠すんだよね。筋肉質でもほっそり美しいボディライン。タマさんも使っているから知っている。
つい、お腹をぷにっと摘んでみた。やっぱり感触で分かる。シークレットマッスルインプラントだっけ。そんな名前の皮下脂肪特有の柔らかさ。
ボクの手をアマネさんがそっと握って、そのまま‥‥って?!
柔らかな感触が手のひらを包んじゃう。
「触りたいなら好きにして良いから。」
「ち、違いますって!うう‥‥!」
皆が景色にスマイルカメラを向ける後ろ、アマネさんは振り返りざまにボクのほっぺに軽いキスをしていた。
「きゃっ?!」
「ほら、お風呂に入るから。」
皆が振り向く。
「あれ?もう体を洗ったの?」
「そっちも景色は入ってから楽しめばいーじゃん。」
「なんでラフィの顔が赤いのかしら?」
そっぽを向くボクにグミさんは訝しげな顔を向けていた。そんなに見ても言いません。もぅ。
皆で横に並んでお風呂に身を沈める。あったかいお湯が体を温めてくれて、上空の寒さで冷えた体を癒してくれた。
「晩夏とは言え寒いのぅ。ここは冬のようだ。」
「上空2000mよ。そりゃ寒いわ。」
「冬になったらすっごい雪が積もりそうだよね。」
「でも冬の虹渦島も綺麗だと思います。」
「そん時また来たい。ショーで稼いだお金があればちょくちょく旅行にぐらい来れるでしょ。」
「だね!」
ふと、ラズベリーさんがお湯の下でボクの手を握っていた。
ちらり、横目にボクを見る。目が合えば照れ臭そうに笑った。
「‥‥あのね、ラフィくん。ええと。ラフィくんの癒しはさ。服越しよりもぉ‥‥」
グミさんがボクに寄り掛かる。
「地肌同士の方が癒されるわ。癒し版湿布的な。」
「分かる。ダイレクトに肌の内側が休まる感じ?緊張が全部溶けて寝落ちするやつ。」
皆の距離が近い。そっとラズベリーさんの腕がボクの腰を抱いて、ぴっ‥‥!と警戒するも。
思い切ったようにぎゅうっ?!ピャッ?!と慌てるボクは胸元に顔を埋めながら密着していた。
「えへへ〜これ、良い。柔くて良い匂いがして、肌触りがすっごい。ドキドキする。」
「ラズベリーさん‥‥ううっ。」
照れ恥じらいも湯煙が隠して、露天風呂の風が吹き抜けて行った。お風呂場で全員に好きにされて、ムズムズした気分で体を拭く。裸のお付き合いが距離を縮めるって言うけど、皆ともっと仲良くなれたかな?
嫌という訳じゃ無くて。でも、急に見えない壁‥‥袖擦り合う距離から踏み込まれると驚いちゃう。でもそんな距離感に受け入れてくれたのは嬉しかった。
知恵の果実を齧ったアダムとイブは局部を隠した。それが文明の始まりで、服が一番原初の文明だと思う。裸のお付き合いっていうのは、一切の文明を捨てた本能的な交わりで。だからこそどこか尊いもののようにボクは感じている。
ヒトであろうとするボクにとって、大切な事だから。
‥‥恥ずかしい事には変わりないし、優しく抱きしめて欲しいのにグイグイと強引で。気持ちがムズムズしたまま着替えた皆と一緒に、お茶を飲んで寛いでいた。
「本格的な探索はこれからなのになんか和んじゃった。」
「そーねー。疲れを取るのは大事だし良いんじゃない?」
「緩急がコツとなるのだ。」
「ねむ‥‥」
ボクのイメージカラーを基調としたお部屋は洗練されたデザインで、芸術品の中に泊まるよう。室内備え付けの水槽ではお魚がキラキラと鱗を光らせ、グランドピアノが鎮座するホール部屋には青いカーペットが敷かれていた。
眠気覚ましに一曲弾こうかな。勿論ボクはピアノも触れるよ!子供用じゃないから、ミニフィーと一緒に2人で弾こう。サイズ的に手が届かないし。
ユリシスを展開すれば皆の視線をスマイルから引き剥がす。小走りなボクへ目線が移ろい、そのままグランドピアノを前にしたソファー席へ体が引っ張られて行った。
「弾くの?」
「はい。折角ですし、座ってスマイル弄って待つのは勿体無いです。」
お風呂上がりでしんなりしたバイタリティを、鍵盤の音でシャキッとさせよう。
ホロウインドウの中でフィクサーさんが楽譜を選んでくれる。
『でしたらこういうのは如何ですか?』
「ありがとうございます。じゃあ、明るい曲を。」
ミニフィーと横に並んで2人で演奏。指が鍵盤を撫でて、ツンと叩いてリズミカルに。合計20本の指が音に厚みを持たせて豪華な演奏を皆へ。その耳へプレゼント。つい聞き入る4人の体が揺れる。
耳に楽しい音符のワルツが楽譜の中を駆け回り、追いかけっこをするような演奏がどこか冒険心を揺り動かした。今から人類の誰もが知らない未知の世界を歩くんですよ?冒険の準備は出来ましたか?
ピアノが最後の音色を奏でると、やる気に満ちた顔の4人が立ち上がった。
「まだお昼の時間にもなっていません。午前中なんですよ?今日を楽しみましょう!」
「ありがとうラフィくん!」
ラズベリーさん達はいそいそと装備の確認を。キャウルンさんにも声を掛けておかないと。キャウルンさんは獣人族専用の別室だから。ヒトとはサイズ感が違うから、お部屋の家具も全部専用品じゃないといけないんだ。
キャウルンさんの鋭い野生的な感覚は頼りになりそう。次の探索にも付き合って欲しいな。
そしてボク達は神秘の浮島、虹渦島。その中央に聳える虹巻山を見上げる麓。万樹紗華の秘境へ挑んだのだった。




