532、大花の森で見つけた空を映す欠片達
ちょっとしたトラブルがあったけど、予定はそのまま。早速虹天リゾートタウンへGOっ!裏方を担当してくれていたスタッフのヒト達は、友人同士つるんだりして街へ繰り出す。
けれど開拓者な出演者の皆の視線が向いた先、それは虹渦島の神秘。大自然咲き乱れる深未踏地の樹海。
「やって来ました!虹渦島!!」
アイビーさんとアウランが競うように前へ出て、大花の森へスマイルカメラを向ける。アイビーさんに抜かれてしまい、映り込んじゃったその背中をAI編集でパッと消していた。
「ここをラフィくん達が冒険したんだよね。」
「映像で見るよりも鬱蒼としてるわね。」
「カメラは見栄え重視だからのぅ。」
いつも魔力の輝きで明るい大花の森は、スーパーセルの影響で大分千切れ飛んだツタが散乱していた。植生的な影響は無いと思うけど、ちょっと見栄えは悪い。
「いつもはもっと綺麗な場所なんです。」
タマさん達大人組の皆は観光するようなテンション、アイビーさん達やエンベリの皆は冒険へ臨むよう勇ましく。ズン、ズン、と一歩ずつ踏み締めて行った。
今回は探索のお話を事前に通していたから、手荷物検査でも装備は没収されていない。皆ボクの仲間達だし、モモコさんもOKしてくれたからね。
「ここはシブサワグループの私有地で御座います。探索は良いですが、何か採取する際は必ずラフィ様の許可を仰ぐように。のんべえ大人連中はタマの許可を仰ぎやがって下さいませ。」
勿論一緒にここへ到達したタマさんの裁量で採取を許可しても大丈夫。モモコさんが認めてくれているから。因みに今はモモコさんとレイホウさんは付いて来ていない。ボクの処方した胃腸薬を飲んだ後、2人で天宝プリンスグランドホテルの屋上プールへ向かっていた。ゆっくりとたゆたって休みたいようだった。
要望があったからミニフィーを1体連れている。ミニフィーも癒しを伝播させるから。‥‥R.A.F.I.S.S越しにミニフィーが2人に手を引かれて歩く姿が見えていた。ついつい伸びた手が小さな頭をもふもふ。ほっぺをすりすり。ピクリと反応すればもっと撫で回された。
「ラフィ、向こう。」
アマネさんの鋭い観察眼が、大花の森に起きた異変を捉えていた。
「あれ、何だろう。」
分からないって風に覗き込むボクの姿に、一同はワクワク顔。
それは木花の太い茎に刺さった、宝石のような欠片。ブランさんがスキャンした結果、特に毒性も無く安全そう。近づき過ぎず、イルシオンでそっとくるんで引き抜いた。
ブァッ?!と茎から噴き出た、花と同じ色の濃い霧に皆もびっくり!そんな様子をタマさんとフィクサーさんがニヤニヤしていて。
「なになに?!何か出た?!」
アイビーさんのカメラの前、段々と霧が薄くなってついに出なくなった。
「木花の茎の中には濃い魔力が流れています。茎に傷が付いて外気に晒されると、今のように魔力の霧を噴射して穴を埋め立てるんです。」
ほら見て!とイルシオンで指した所が、カサブタのように固まった魔力で埋められていた。結晶化というよりも軟膏のような。
「へー、似た特性の植物を知ってるけど。こんな激しい反応は見せないわよ。」
アウランさんもマジマジと眺めていた。
ボクが宝石の欠片のような物を掲げると、皆の視線がそっちへ向く。思ったよりも軽い?いや、すっごい鋭利だけど軽い!
それに‥‥何だろう。欠片を見ていると、疼く。
心の奥底から感情が湧き上がって来て。ボクは欲しいなって感じていた。
「結局何だろうね?」
「分かりません。でも鉱物じゃないかも。軽いです。」
ラズベリーさんへそっと手渡す。本当だ!軽いんだけど!思わずボクと同じ感想が口から飛び出して、試しに皆が私も私もと触って確かめていた。
「すっごいツルツル滑らか。」
「何かの鱗とか?」
「この前のスーパーセルで飛んで来たんじゃないか?」
「じゃあ他にもあるかしら。何よ、楽しそうな感じになって来たじゃない。」
シライシさんの提案で皆で捜索してみる事に。
「でしたら数人ごとに別れて探索しましょう。ミニフィーを付けますので、R.A.F.I.S.Sでサポートします。ここには熟練の開拓者達が居るんです。何か発見出来るかも。」
そう言えば皆気合いが入る。
「開拓者的には美味しい展開じゃん。お姉さん頑張っちゃおうかなー?」
「じゃあデビエコのアタシらは向こう見て来るわ。誰か不甲斐ない奴がテンタクルスにしばかれて怪我するかもしんないけど。そん時はラフィ、お願いねー。」
「気を付けて下さい!タマさん、ちゃんと酔いは覚めてますよね?」
「何言ってんのよ、うりゃ。」
尻尾がボクのほっぺをぷにぷに、すりすり。ほぇぇ‥‥
甘えたくなっちゃうボクは肩を後ろに引かれる。ラズベリーさんが引き寄せていた。
「ほら、ラフィくん!行こう!」
アイビーさん達はアウランさんを連れて4人で別方向へ。エンベリ組のボク達は固まって動く事になった。一応事の経緯をブランさんがモモコさんへ一報入れていた。
場所は危険性の少ない大花の森だし大丈夫だと思うけど、深未踏地の危険性は実際に歩いてみないと分からないから。大花の森だって探索し尽くされた訳じゃない。日夜征天大学の皆が励んでいてもかなり広い。
「ブランさんはアイビーさんの方を見て下さい。サポートをお願いします。場所が場所ですので、安全第一です。」
「承知致しました。浮かれポンチな配信者連中の子守りを致しましょう。」
アイビーさん達の後を付いて行ってくれた。こっちはボクとフィクサーさんが居るから大丈夫。‥‥カテンさんも呼ぼうかな?カテンさんにとってここはお庭みたいなもの。敢えてこの機会に回りたい場所じゃ無くて、今はホテルの大浴場を楽しんでいた。
ううん、いいや。緊急事態になったら頼るけど、今は寛いでいる所だし。
「ここは企業の私有地、深未踏地探索許可証の必要無い法の抜け穴探索だのぅ。」
「抜け穴ゆーなって。」
アマネさんのツッコミでブラックカラントさんの肩が揺れる。宙を飛ぶキャウルンさんをイルシオンが軽く引き寄せた。
「離れるととっても危険です。皆さん、事前にインストールした探査アプリのARガイドに従って下さい。危険と表示されたエリアにはテンタクルスが居ます。精度も100%正確とは限りませんので、各自警戒して下さい。」
「ラフィは頼もしいね。」
キャウルンさんが、パッとボクの背中に引っ付く。そのままよじよじ登って、肩の上に前足を引っ掛けて掴まった。いざという時にキャウルンさんを庇えるよう、バリア装甲内に匿う設定をしないと。
全方位を背の丈を軽く超える高さの木花が囲んで、そこかしこから小動物の気配がした。‥‥森が騒がしい。スーパーセルの影響がどれぐらい出てるか分からない。大きな変化があったら流石に征天大学からボク達へ連絡が行くけど、今の所そんな連絡を受けていない。
「あった!」
ラズベリーさんが地面に落ちていた欠片を拾い上げた。薄っすらと青み掛かった欠片は、空を映したかのよう。いや、実際にその模様は常に動いていて。青空を薄っすらと雲が吹き流されていくような‥‥そんな模様の変化はあまりにも美しい。
ラズベリーさんも暫く魅入ってしまっていた。
「本当に綺麗よね。深未踏地の冒険って、こんな感じに未知のお宝を見つけたりするんでしょ?」
「はい。ボク達も色んなお宝を発見しました。」
グミさんも欠片が刺さった茎を見つけて引っこ抜いていた。
「ほら、あっち。」
キャウルンさんの指示で、イルシオンが茎の裏側へ。同じような欠片が刺さっていて。あれ?形が違う。
「なんだ?随分大きいのぅ。」
カラントさんの顔を薄っすらと頭上から照らすそれは、細長くて3mはある巨大な欠片。
『おそらくスーパーセル内に棲む、何かしらの生物の体の一部と考えるのが妥当でしょう。しっかし不思議な形をした欠片です。』
不思議な欠片を拾い集める間、ラズベリーさん達のスマイルがテンタクルスの生息域をARで警告する。
「この先に居るの?見えないね。」
「擬態してるのかしら。」
「レーダーも植物相手だと反応が無いのぅ。」
それでもアマネさんは気配を察したのか、居場所を指して警告した。
「多分アレ。あの木花の影。こっちに気付いてる。」
そう、テンタクルス種も色々あるけど動物のように獲物を狩る為に鋭い反応を示す種もあるんだ。
「あの種類は地這種って言います。移動はしませんが、獲物が近付くとそっと体色を黒く変色させて小さく縮こまって隠れるんです。」
日の当たらない場所によく生えていて、分かっていても肉眼だとすっごい見えずらい危険な種。でも生息環境が限られているお陰で、ARで警告を飛ばしやすかった。
「近付いたら触手を伸ばして飛び掛かってくるの?」
「強い神経毒の刺胞が付いた触手です。先端速度は音速を超えますし、直撃すればバリア装甲を貫通する可能性があります。」
バリア装甲を貫通する‥‥って聞いて皆警戒を強めて距離を取った。深未踏地の原生生物は、強化外装に身を包んでいてもとっても危険。煌めく文明の力を時として凌駕してくるんだ。
脅威を目の当たりにしたお陰か、皆足取りを慎重に大花の森を進んで行く。AR警告も絶対じゃ無いから、感知が漏れたテンタクルスの奇襲を受けるかも。R.A.F.I.S.Sも植物種相手だと脳が無い分効果が薄くて、動きがあるまでは感知しずらい。
音速の触手が薮から飛び出して、グミさんの目前でイルシオンを弾いた!
「うわっ?!」
伸ばして周囲を覆うイルシオンはテンタクルスへの警戒に最適。イルシオンが奇襲範囲に入れば、反射的に攻撃して来るから直ぐに分かる。
「薮には近付かないようにしましょう。」
気付けば皆銃を構えていた。臨戦体制で神経を尖らせて、僅かな気配も見逃さないように努めている。口数も自然と減って、その表情は魔法少女からプロの開拓者になっていた。キャウルンさんはボクの癒しを浴びながらべったりくっ付いている分、肩の力を抜いて景色を楽しんでいるけど。
「私に言わせてみれば、皆は鈍感過ぎるんだよね。テンタクルスだろうが、なんか気配で分からない?」
キャウルンさんが知覚した場所が、R.A.F.I.S.Sでほんのりと共有されて皆に教える。テンタクルスと言っても、ネズミさんサイズの小動物を狩る種を含めれば思いの外そこら中に生えていた。けれどその半数以上が既に何かしらの獲物を捕らえて、消化中か休眠中。一度動かした触手を休ませる間は無害になってシンとしていた。
キャウルンさんは猫系の獣人族。その感覚の敏感さはヒトよりも多感だった。ボクもアニマトロニクスを起動、しゅるんと生えた犬耳がボクの感覚をより鋭敏に。キャウルンさんがチョイチョイと犬耳を弄ってくるのを感じながらも、辺りの気配を探りつつ進んだ。
犬耳は便利だけど、聴覚と嗅覚に視力の強化がメインで。追跡は大の得意でも、視界外に潜むテンタクルスを発見したりするのは思いの外苦手かも。
その点はキャウルンさんの方が上手だった。
「野生の勘って言うの?都市住まいでも案外衰えないんだよね。」
ラズベリーさん達のキャウルンさんを見る目が変わった感じがした。頼もしいって。
背丈の低い植物が繁茂する場所を選んで進んで、道中に更に10個ぐらい欠片を入手。気付けば既に2時間経っていた。タマさん達とも一度合流しようって連絡が来て、虹の浜へ引き返す事に。
「そう言えば私達今何処に居るの?」
「完全に樹海のど真ん中よね。うわっ、方位磁石が機能してない。」
「周辺の魔力の属性次第で針が狂うからのぅ。しかしこういう時に役立つのが組合の羅針盤よ。」
ずっとワープゲートを使っていたから忘れがちな、開拓者の証でもある羅針盤。これは一般的な方位磁石と構造が違って、常に登録した都市の方向を指し続ける。ここなら征天大学都市の方へ針の先端が向いた。
「知っていても忘れちゃうよね。」
「組合が開拓者に何でこれを手渡してるかって話。」
「それでも遭難する時はするけどね。撤退出来る体力や装備があるとは限らないし。」
「今回は無傷よのぅ。ラフィとキャウルンのお陰よの。」
キャウルンさんはボクの頭の上で得意げ。肉球でぷにぷにとおでこを撫でて来た。
「私ったら色々お役立ちだよ〜?」
「もしかしたらキャウルンさんにお仕事を依頼するかもしれません。ええと、使用人としての雇用はまだ分からないですけど‥‥」
だけどキャウルンさんは嬉しそうにしていた。
「何よ?そいつ雇うの?」
「深未踏地の探索の為に色んな仲間を集めるのが大切だって思いますから。」
グミさんが指先でキャウルンさんを突き、
「セクハラはやめてってば!こっちはエンベリのショー企画が終わっちゃったら無職になっちゃうのよ!」
‥‥深刻な問題を抱えているようだった。




