531、最高の1日は極上のビュッフェから
スーパーセル探査用の機動要塞が完成する前に、ちょっと遅れたけどミュージカルの打ち上げをやりたいって事でやっと準備が整った。
「今日は豪勢に楽しむんですから。」
場所は虹渦島、虹天リゾートタウン。天宝プリンスグランドホテル、その最上階全体を1日貸切!一泊二日で世界一高い場所のリゾートを満喫するんだ!
『ラズ』
いよいよ今日だよ?!超一流リゾートホテルの最上階貸し切り!!
なんか緊張して来た‥‥!
『グミ』
私らみたいな開拓者にゃ生涯縁の無さそうなリゾートよね
『アマネ』
こういうのも開拓者ドリームの内だから
集合場所に遅れないでよね
『カラント』
全額モモコとレイホウの奢りとはな
頑張った甲斐もあるものよ
『ラフィ』
場所はシブサワプロモーション本社ビルです!
ボク達はゲート前で待っていますから!
朝からわっくわっく、そっわそっわ。タマさん!タマさん!早く行きましょう!皆で遊ぶんですよ!
タマさんの腰を抱いてぐいぐい、尻尾がきゅうっと首を巻いて頭をもふりと撫でられた。
「朝から元気ねー。朝ごはんも向こうでするのよね。」
「そうです!先ずは皆で見晴らしの良いホテルのホールで特別な朝ごはんですよ。」
そんなボク達を気にするオウルさん。プライベートフォレストのドアをチラリと開けて覗き込む。
「どこか行く?」
「ええと。その。」
今回はミュージカルの打ち上げだから、皆が知らないオウルさんを連れて行っても気を遣わせちゃう。
「オウルさんは準ニホンコク人の資格を取れた時に、お祝いで連れて行こうと思っています。」
「‥‥楽しみにしてる。」
諦めてパタン、とドアを閉じた。ごめんなさい、でも今回はお預けです。
「当機も今日は羽を伸ばしてバカンスを楽しみましょう。虹天リゾートタウンのアクティビティの多さはまさに一流リゾートとして恥じない物に御座います。」
お空の上を活かしたアクティビティも沢山、王道から奇抜な物まで何でもあってどれも最高級。シブサワグループ肝入りのリゾートにはこの世の贅沢が盛り沢山だった。
「我も行って良いのだな?ミュージカルに手を貸せなかったが。」
「カテンさんは仲間ですので。」
ホロウインドウの中でフィクサーさんが時計を指した。もう時間。行かなきゃね。
アニマトロニクスを起動、九尾の尾が生え揃ってシャボン玉のゲートを形作る。その向こう景色は快晴の空だった。
『スーパーセルも過ぎ去って、快晴の空模様ですね!』
スーパーセルの探索は続いても、もう虹渦島からは遠ざかっている。深未踏地の樹海に沿ってふらふらしながら回遊しているんだ。
ゲートセンター前、既にモモコさんとレイホウさんが待っていた。
「おはよう、ラフィ。今日は快晴で良かった。」
「2人ともおはようございます。今日はありがとうございます。」
「気にするな。こうも忙しいと息抜きも欲しくなるのでな。ミュージカルを共にした仲間達と空を楽しもうか。」
今日のモモコさんはお気に入りの可愛いチャイナドレス姿。レイホウさんも私服かな?和装の着物姿をしていた。
「邸宅にいる時はこの格好でいる事も少なくない。」
「似合ってますよ。ボクはいつも通りですけど。」
頭には斜めったセーラーハット。白のセーラー服の長袖からは指先が見えない。裾はスカートになっていて、動きやすいワンピースのよう。
「ラフィのその格好、最高に可愛いと思うよ。」
モモコさんはウインクを贈ってくれた。
時間になると手荷物検査を受けた皆が、ゾロゾロとゲートからやって来る。裏方さん達も含めたら大人数。誰もがゲートセンター内のロビーに並んで浮き足だっていた。
「ラフィくん!おはよっ!」
「ラズベリーさん。おはようございます!今日は楽しみましょう!」
手を握り合って笑顔を向け合う。グミさんに肩を叩かれ、アマネさんが目線で挨拶を。ブラックカラントさんはボクへ片手を振りながら、レイホウさんにも気安く挨拶を交わしていた。
「ついにここまで‥‥!沢山写真を撮って旅団のやつらに自慢しまくってやるんだから。」
アウランさんは悪い顔。
「動画撮影はOKだよね?あはは、今回の動画が絶対バズるよ。」
アイビーさんも一張羅のマジシャン衣装。ステッキをくるくる回してオシャレに決めていた。エンベリに正式に参加していないけど、ゾロさんとニコラさんもアイビーさんを裏から支えていたという事で招待されていた。
「動画は任せてや。ワイが良い絵撮ったるわ!」
「今回私達は顔合わせ初めてな方もいますよね。打ち上げに参加しちゃうのも気が引けますが‥‥」
モモコさんが早速手を叩いて進行をしてくれた。
「じゃあ!今回は無礼講と行こうじゃないか。基本は自由に楽しんで行って構わないけど、朝食は天宝プリンスグランドホテルで行う。夕飯も折角だから皆で焼肉をね。食事ぐらい皆で顔を合わせて楽しもうか。」
ボクの頭にのしっと乗っかったまま、キャウルンさんもテンション高めに。
「もうお腹ぺこぺこだよ。何が出るかな?」
肉球でぷにぷにとおでこを押して来ていた。柔らか気持ち良い。あの、重いですから。
猫さんの動きでボクの腕の中に抱かれるキャウルンさん、遠慮無く横合いから抱き奪って地面に下ろすブランさん。
「ラフィ様の腕の中は特等席に御座います。あまり猫の匂いが付くとアルビスがヤキモチを妬くのです。」
ぐぬぬ‥‥な顔を一瞬浮かべるも、キャウルンさんも諦めてボクの脛を尻尾で擦った。将来的にペットとして雇って欲しいって話を持ち掛けられてから、隙あらば距離が近い。猫さんは好きだけど獣人族の方を同じように扱う気も起きなくて。お友達でいたいなって思っていた。
皆で転移した先は見晴らし最高の、天宝プリンスグランドホテルの最上階。その大ホール会場は朝食ビュッフェの用意が既に済まされていた。
スタッフのお兄さん達がボク達へ恭しく優雅に一礼、モモコさんが片手で応えればそのまま入り口の大扉の前へ。気軽に申し付けられるよう、姿勢を正して待機していた。
「それじゃあ、皆お腹空いているだろうし長い挨拶は不要かな。夜に取っておくとして、早速頂こうじゃないか。ミュージカルの成功を祝って。」
「「「乾杯!!」」」
手に取ったグラスが掲げられた!
「なによ、オシャレな盛り付けね。」
ズラリ、並んだ小さなグラス。グラスはどれも上品な装飾が施されていて、いろんな色合いにうっすら輝いている。魔力が流された高級食器の中には、こうやって幻想的に光らせられる物もあるんだよね。
そんな美術品博覧会みたいなグラスの中に、丁度3口分程の料理が入っていた。
取り皿を持ってウロウロしなくて良い。グラスを手に取って収納から取り出した食器でパクリ。ホテル専用のワンタイムアプリを使えば、そのまま空になったグラスを転移で厨房へ戻す事が出来ちゃう。勿論一度使った食器も一緒に。
ビュッフェ前に食事に必要な一式が仕舞われた収納チップを皆受け取って、袖下にそっと付けていた。
勿論飲み物も豊富に揃っていて、酒気が漂うものから紅茶各種にジュースまで。グラスの中を満たしていた。
「なんかすっごい高級感!ええと、どれにしよう?」
ラズベリーさんの目線は定まらず。
「ラフィ、お手本見せてよ。」
グミさんも眺めるばかりで手が伸びない。
「好きなのを取って良いんです。」
並んだ料理は簡単なものから、如何にもな食の美術品まで色々。和洋中華にエスニック系、深未踏地料理と美食のメリーゴーランド。
「ラフィ、選んでよ。」
アマネさんに背中を押され、ちょいとジューシーウインナーの刺さったジャンバラヤを拾う。
「特別な日ですから、普段食べない特別な料理はどうですか?」
朝からジャンバラヤ。まぁ食べないよね。だからこそこういう機会にどうぞ。皆グラスを片手に、ボクも引き寄せて集合写真をパシャリ!
「ラフィのチョイスは意外性あって良いぞ。そこにあるカレーはどうだ?」
「味濃すぎてなんか後に響きそうだしパス。」
「何あれ!ピザが細長グラスに刺さってるよ!あはは!」
魔法少女達と暫く回って、モモコさんとレイホウさんに呼び止められればお別れする。
「皆で楽しんでいる所悪いね。」
「いえ、ボクも色んなヒトと一緒に楽しみたいですから。」
「誤解されがちだが、私も普段からこのような飯を食べている訳では無い。」
「あ〜、分かる。僕も毎食豪華絢爛なビュッフェを食べてるなんてさ。忙しい日は食パン齧りながら朝からお仕事だってのに。」
「特に朝は軽く済ませる。海鮮丼にステーキ、極上ウインナー?ハハハッ、昨日の朝は納豆ご飯片手に書類へ目を通していた。トウキョウシティのゴタゴタのせいで私まで忙しい。」
そう言われると朝からブランさんが豪華なお料理を用意してくれるボクは、共感出来なくてちょっと寂しい。
「ボクは毎朝結構豪華ですから。その。」
2人は笑い掛けてくれた。
「大丈夫。僕達が歳の割には忙し過ぎるだけさ。自由気ままな開拓者はそれで良い。」
「そうだ。コーポの人間特有の悩みでね。企業に命を捧げる連中は皆いつも仕事に追われている。」
2人にとってもこういう朝食は馴染みが無くて楽しいみたい。どっちが多くのグラスを空けられるか、なんて勝負をしていた。
朝から大食い対決だなんて。後で胃薬を処方します。
タマさん達は早速酒気を撒いていた。お酒が飲めるのなら朝からでも飲んじゃう。高性能な酔い覚ましをボクが常備薬としてストックしているから、アテにして好きに楽しんでいる。
「かんぱーい!あははっ!良いお酒取り揃えてるじゃない。」
「朝食ビュッフェだってのに、当たり前のように酒が充実している所。分かってるよねぇ。」
「こっちは荒くれの開拓者だ。欲しがるのを見抜いてやがるね。」
ヤミヨさんとヒミコさんもタマさんと談笑していて、ボクが近付けばそっと尻尾がお腹に絡んだ。
「何よ。ぎゅってして欲しいの?」
「あの。お酒臭い時はいいです。ちゃんと酔い覚ましを後で飲んで下さい。折角の休日なのに酔ったままじゃ勿体無いですよ。」
「分かってるって。」
尻尾が優しくボクのおでこを突く。ちょっと尻尾に甘えてから、宙を泳ぐカテンさんを見上げた。
「しかしラフィよ。良くヒトは食器なんて物を使ってられるな。」
カテンさんの小さな手にはグラスが。長い舌を使って料理をほじくり出すように食べていた。大きく開いた口の中へグラスを逆さまに振って、つるんとさせちゃう。
「食器が無いとボク達は食べずらいですから。」
ブランさんのヤジが飛ぶ。
「カテン、もう少し上品な食べ方を心得て下さいませ、トカゲ畜生な食べ方ではラフィ様の品位まで疑われそうです。」
「ぬぅ‥‥!む、難しい事を言うな!」
ウインナーをもむもむ‥‥お口へ吸い込むボクの肩をフィクサーさんが叩く。にゃは、と指した先には見覚えのあるエルフの少女が。アイビーさん達に囲まれて色々話し掛けられるも、首を傾げて言う。
「ニホンコク語、ワカラナイ。」
って、オウルさん?!どうやってここに来たの?!
パッと飛び付くボクを見ながら、グラスの杏仁豆腐を啜っていた。R.A.F.I.S.Sが繋がる。
『どうやって来たのですか?!』
『料理の気配がしたから。ラフィとの風の縁を辿れば行き着く。』
風の縁?良くわからない‥‥
『ここは招待制です。その、オウルさんは招待されていないから。』
『そうなのか?つい来てしまったが、どうしたものか。』
そう言いながらも遠慮無くグラスを空けていた。オウルさんって結構食いしん坊なのかも。ボク自身としては一緒に楽しみたいけど、どうしよう。
『なに、これだけ贅を尽くした黄を楽しんだんだ。一つ、風の祝福を歌おうか。』
ちょっと困ったボクの元へモモコさん達がやって来る。
「あはは、キミがオウルさんだね?僕はシブサワ・モモコ。モモコと呼んでくれ。」
「モモ‥‥コ?」
「ああ、そうだった。ニホンコク語がまだだったね。ラフィ、済まないけど伝えてくれないか?参加したいのなら拒絶はしない。聞くにオウルさんも大変な境遇にあったようだし、僕達を信用して欲しいんだ。信頼関係を築く所から始めようか。」
オウルさんはこっちの世界の常識もルールも全く知らない。けれど、
『ご飯を食べる時だけ来よう。今日の勉強ノルマが終わっていないんだ。』
‥‥一応お食事は事前に用意してたと思うけど。でも来たいのならボクは大丈夫。
『大丈夫です。虹渦島観光は、またの機会にです。』
『楽しみにしてる。』
去り際、オウルさんは不意に歌を歌い始めた。
澄んだ歌声で、心地良い旋律で。思わずボク達は歌に身を任せるようオウルさんへ傾聴する。
『風の祝福だ。』
歌声が終わると同時にオウルさんの姿が消える。
「おや、何か魔法を使いましたね。」
敏感なフィクサーさんは直ぐに気付いて、そして急にアラームが!!
ホールの警報が鳴って、シャッターが降りる。無許可に不明な魔法が使用された際の防犯プロコトル発動!!ブラックボックスアーツテロ対策にビュッフェが揺れる!!
きゃーっ?!
「‥‥まぁ、そうなりますよね。こういう場で魔法をぶっ放す行為は御法度です。」
「当機が後でゲンコツで躾けましょう。」
「ううっ、先ずは誤解を解かなきゃ。」
誤解は直ぐに解けたけど、これにはモモコさんとレイホウさんも苦笑いだった。




