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530、ニホンコク語って難しい

スーパーセルの内部から救助されたオウルさんの現在の住まいは、パンタシア・プライベートフォレスト。結局オウルさんの扱う言語の理解者は、シブサワグループとニッポンイチの中に居なくて。キュエリさんも分からないって事だった。


元々エルフは他所と関わろうとしない一面があって、ずっと昔の時代も意思の疎通に苦労する機会が多かったとフィクサーさんは聞かせてくれた。昔に栄えた大帝国がそんなエルフ達も社会の一員に組み込もうと政策を立てて、結果古代エルフ語は廃れてしまった。


だけどオウルさんは古代エルフ語‥‥それに近い言語を扱う。浮島住まいだったそうだし、帝国にちょっかいを掛けられる機会も無かったのかな?外界から完全に独立した生活をしていたんだろうな。当時の事を考えるとちょっとワクワクする。


カテンさんのように凄まじい速度でニホンコク語を習得出来る‥‥という事も無く。オウルさんのお世話はボク達でする事に。タマさんは渋々だったけど、プライベートフォレストのツリーハウス住まいならまぁ良いかって。


オウルさんの今の扱いは亜人と同じ。先ずは目指せ準ニホンコク人!


ツリーハウスの中、ボクはオウルさんとニホンコク語のお勉強をしていた。タマさんもブランさんも企業に全部お任せっていう訳にはいかないから、スーパーセル探査計画の打ち合わせで朝から忙しい。決めなきゃいけない事は沢山、命の掛かった一大プロジェクトの中心を担うんだからね。あの巨大イソギンチャクの襲撃のような事案は無くしていかないと。命が幾つあっても足りない、綱渡りのような探査になっちゃう。


『キミ達が忙しい事は分かっている。それなのに付き合わせてしまってすまない。』


『大丈夫です。オウルさんもこの冒険に加わるんですから、ちゃんとニホンコク語を覚えないとダメです。』


ボクのスマイル内でフィクサーさんが、ボクへ届いた色んなメッセや通信のやり取りをしてくれていた。


『ラフィさま、今度の虹渦島での打ち上げの件。参加者全員の予定合わせが完了しました。ミュージカルの参加者は多かったですし、裏方のスタッフ達も招くとなるとですね。』


「裏から舞台を支えてくれた皆を蔑ろに出来ません。表で目立ったボク達だけではミュージカルは完成しなかったのですから。」


小道具作成に、ARシュミレーション、美術監督さんに舞台の設営管理スタッフさん。しっかり専用のチームを立ち上げて皆で頑張ったんだ。


オウルさんは共有モードになったボクのホロウインドウを見つめ、R.A.F.I.S.Sを介して50音を勉強中。


このご時世聞き取りと読みが出来れば、書きは出来なくても大丈夫。そもそも文字を書く紙とペンを使う機会は少ないし。何でもかんでもスマイルが解決してくれる。書道とか、そういう趣味技能の範疇になっちゃうんだ。


誰でも義務教育で学校でも一応習うけど、大人になったら書きを忘れちゃうヒトは多い。けれどモモコさんやレイホウさんみたいな上流階級のヒトにとっては、書きも基本的な素養の内だった。


因みにボクも書きは‥‥あんまり得意じゃない。流石に自分の名前を書いたり、小学生で習う漢字ぐらいは書けるけど。


『救助を待つしかなかった身だけど、まさか別の言語を一から学ぶ事になるとはね。言葉の壁を意識した事は今まで無かった。』


浮島内で完結する生活を送っていたらそうなるよね。


『それに‥‥全てが私の理解の範疇を超えている。目に映る全てが別の世界の物のようだ。』


浮遊するティーカップドローンが、飲みたくなったタイミングで手元に寄ってくる。中には淹れたての紅茶が湯気を立てていて。


美味しいお茶菓子が乗ったお皿ドローンもそっと寄って来る。腰を下ろした椅子はふかふか素材で最高の座り心地。履いた靴下が足ツボマッサージをやってくれた。


『全てが風のように流れて行く世界と言おうか。自ら動く必要が無く、望んだ分だけ黄の糧と白の寛ぎを齎してくれる。』


向こうの慣用句なのか、色を一言添える事があった。黄は娯楽、白は安らぎ?


『何より不思議なのがこれらが魔法とは違う‥‥変質したもので動いている事なんだよ。』


『マギアーツって言って、魔法とは別の技術です。』


小学生用の国語のドリルをめくっていく。1ページごとにホロウインドウが心地良い紙を捲る音を立てた。


オウルさんはとっても頭が良くて、直ぐに要領を掴んでサクサク覚えて行く。小学生向けのドリルは簡単。でも‥‥幾つも質問が。


『1時はいちじ。2時はにじ。音読みが続くのに対し、どうして4時はよんじで7時はしちじなんだ?訓読みが混じっている。』


しじ、ななじじゃないよね。ええと。


『1、2、3、4‥‥と下から読むと4は“し”と読むが。6、5、4、3‥‥と読むと“よん”になる。7も同じだ。下から読むとしち、上から読むとななになってしまう。』


ええと‥‥!フィクサーさん!


フィクサーさんがにゅっと国語ドリルの隣、教師の格好で姿を現す。


『にゃは、亜人がニホンコク語を覚える際に大抵そこで躓きますよね!そう、ニホンコク語は極めて柔軟な言語です。その疑問に答えるなら簡単、その方が読みやすいからです!』


えっ?そんな理由なの?


『まぁ専門的にうだうだ言って理屈付ける事は出来ますが、結局読みやすい・分かりやすいが一番大切です。諦めて1から10までの読み方を個別に考えず纏まったフレーズとして理解しましょう。』


フィクサーさんの言葉をボクが飲み込んでR.A.F.I.S.Sに出力する。オウルさんはイマイチ納得いかない顔。知らない言語のルールを理解しようとしたら、読みやすさを理由にルールガン無視の読み方を正当化される。


『納得行きませんか?もうちょっと掘り下げるなら普段数字と言うものは、下から順に数える機会は多いのですが、上からカウントダウンする機会って意外と無いのです。』


言われてみればそうかも。1、2、3‥‥と物を数えても、3、2、1‥‥と数える機会って本当にカウントダウンの時ぐらい。カウントダウン自体頻繁にやらないし。


『ですので下から順に数える際は数字を個別に認識せず、読みやすさ重視で1つのフレーズとして纏めて認識してしまうのです。1〜10までのセットで1単語って考えでしょうか。日常的に使う分、そうなったんですよ。』


『しかしカウントダウンは使用機会が少ない分、数字を個別に認識して読まれます。同じ字でも読む際の認識が違うから読み方が音読み訓読みでブレるんです。』


おーっ!とフィクサーさんの分かりやすい説明に小さな拍手。オウルさんもそんなものかと一応納得してくれた。


『ま、この程度で躓いてちゃ大変ですよ?ニホンコク語を更に面倒にする当て字という文化も込み込みで覚えないといけません。当て字のせいで一部の漢字が異常なまでに読み方が増えてるんですよ!』


例えば小学生でも習う“生”という漢字。


『その読み方は一説によれば150種類もあるのだとか。もう何でもありですね。』


生きる、生まれる、生クリーム、生える、生い立ち‥‥生業、芝生、生垣、生憎、弥生、桐生‥‥


全部読み方が違う!?


オウルさんも思わずくらり、と天を仰ぐ。


『習得に何ヶ月掛かるだろうな‥‥』


『一つのフレーズとして覚えるのが良いです。漢字を個別に認識してちゃ頭がこんがらがっちゃいます。』


そこで!とフィクサーさん。


『R.A.F.I.S.Sに頼ったコミュニケーションは便利ですが、日常会話ぐらい無理矢理にでも口で話しましょう。ヒトは必要性に駆られない限り動けない生き物です。』


オウルさんは困った顔をしながらも、ボクに声を掛けようと。


「あ‥‥うう。らふ、らーひー?」


R.A.F.I.S.Sでのやり取りはあくまで意思を伝え合うもの。実際に頭で考えて、自分の口で発音するとなると難しい。特にイントネーションがふらふらしちゃう。


「ラフィ、です。」


「らーふぃ。んんん‥‥」


口元をふにゃふにゃ、思い通りに話せないのがもどかしいみたい。けれど早く話したくて、ゆっくりでもボクに話し掛けていた。


頭で分かっていても、アポゥとアップルと声に出しちゃうような。だけどR.A.F.I.S.Sを上手く使いながら、正確なイントネーションを単語単位で教えていった。


普通のニホンコク語教室に通うよりも、ボクが教えればずっと習熟を早く出来る筈!フィクサーさんも間違えても茶化したりせず、ボクも真面目に向き合う。そんな想いがR.A.F.I.S.Sに乗って伝わって、尚更オウルさんは真剣に取り組んでくれた。


そしてその日の夕食。


折角だしプライベートフォレストでバーベキューを。準備するブランさんをオウルさんは興味津々に観察する。


「アレ、なに、か。」


「今からお夕飯です。ご飯の時間。」


「美味しい、楽しみ。」


エルフの賢者さんが1日掛けてニホンコク語の習熟に取り組んだお陰もあって、辿々しいけど単語単位で話せるようになった。分かる単語の種類は少ないけど。


タマさんとカテンさんも帰って来て、ツキシロにアルビスも寄って来る。フェンリルと大型のイエネコにびっくりするオウルさん。ボクの袖を摘んで一緒にいた。


「いっぱい。」


「はい。もっと沢山居ます。でも、お肉を食べられる子は少ないから。」


草食性の大人しい子が多い。のそ‥‥と遠くで3mぐらいの毛むくじゃらなお大福が地面を這っていた。ゼログラビティラビットがふわふわ飛びながら、ボク達を頭上から見下ろして来る。小鳥達やリスも木々の上から観察して来ていた。


タマさんと一緒に事あるごとに小動物の飼育数を増やしていって、管理を生体管理ドローンにお任せ。しっかりとした業務用を買ったから、このぐらいの規模の森なら十分管理してくれていた。


「それでは早速お肉を投入致します。先ずは前菜としてお肉の説明を。」


首を傾げるオウルさんの前、ワクワク顔のボク達はブランさんの説明を味わう。


「味等級特A8、肉質等級SS5等級。最上級牛王肉になります。シブサワファーム、畜産部門から寄贈された物で御座います。ラフィ様のご活躍は数多く、結果このようにスポンサーから様々な贈り物が届くのです。」


このお肉はいつのだっけ?虹渦島開拓の際、シブサワ系列企業から一気に色んな寄贈品が届いたから。ニッポンイチの系列からも最近は色々届くし。


「‥‥?」


分からないって風なオウルさんにボクがR.A.F.I.S.Sを繋いで。


『要するにとっても高級で貴重なお肉です。この世界の最上級のお肉を楽しみましょう!』


オウルさんの頬が紅潮する。


「お肉っ!」


先ずは前菜として美味しい情報を頂かないと。ただの美味しいお肉として食べるより、情報を調味料にすればもっと美味しく食べれる。期待感が舌に涎を滲ませた。


「そんな肉をバーベキューにして食すのか?こう、ステーキとかに。」


「だってその肉何キロ届いたのよ?」


「5キロで御座います。どう消費しようが問題御座いませんし、ぶっちゃけ消費し切る事にはまた何か届くのではないでしょうか。」


ニッポンイチが加わった事で、シブサワグループの支援はより積極的に。それでいて互いの外交官が定期的に寄贈品の予定を確認し合って、ボク達の迷惑にならないよう調整しているらしい。


お肉がグリル台の上でじゅうじゅう、油がてらてら、焼ける匂いはふんわり。ツキシロ用のお肉も、別口で届いていた。ツキシロは薄くスライスされたお肉より、ブロック肉に齧りつく方が好き。ついでに火が通っていて、甘辛なソースが絡むものを好物にしていた。

同じお肉のブロックが自動調理器の上で煙を上げている。焼けるのを楽しみにお座りして待っていた。


アルビスはボクの隣で、お肉を分けて貰おうと待っていた。


「さぁ、そろそろ焼けましたので。先ずはラフィ様から。」


「はいっ!いただきます!」


皆の前で焼きたてのお肉をはむり。タレもボクの好みを厳選したオリジナルブレンド品。アリスさんからプレゼントされたバーベキューソースがよく絡む。


一般に言う柔らかいお肉を、更にとろとろに。それでいてしっかりとした噛みごたえ。不思議ととろとろお肉と噛みごたえが両立する。それこそが、特A8のお肉。


ほっぺをさすって幸せ〜っ!はふぅ、と息を吐いた。


「皆も食べて下さい。」


次々とお肉が焼けてお皿に盛られる。ボクとブランさんは味覚を同期しているから、皆の分を焼きながらもブランさんもボクと一緒に味を楽しんでいた。


オウルさんがお肉に齧り付く。驚いた風にして、ガツガツとお口へ仕舞い込んだ。口元を指先で隠しながら目を輝かせる。


「美味しい!美味い!美味!」


同じ漢字でも読み方の違う3種の賛美セットで褒め称えた。アルビスも夢中になってお肉に食らいつき、ツキシロも大事そうに一口ずつ味わっている。


美味しいお肉を囲んで、幸せな夜が更けていったのだった。

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