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529、開拓者を開拓者たらしめぬ開拓者組合の陰

機動要塞の建造を待つ間、開拓者組合の本部へ呼び出しを受けてやって来ていた。ブランさんへ10回以上招集要請があって、渋々って風にボクへ話が通ったらしい。無視しなくても良いのに。


「ラフィ様は既に開拓者組合へ名前を貸しているだけの立場になっておりますので。ある程度太いスポンサーを持った開拓者は、開拓者組合に依存した立場から独立致します。」


開拓者が開拓者って名乗れる根拠は、開拓者組合に名前を登録して資格を有しているから。そして組合に所属していれば、自力で仕事を探さなくても組合へ投げられた仕事を受けれるし、報酬の取り立てや依頼内容の違法性の審査を組合がやってくれる。


ランクが上がれば相応の社会的な地位も持てるし、ランクという格付けによって実力が可視化されるお陰で実力相応の依頼を受けやすいのも良い所。


開拓者組合に所属するメリットは大きいんだ。


でもメガコーポをバックに付けた開拓者にとって、メガコーポが組合の代わりに後ろ盾になってくれる。報酬の取り立ても、依頼人との交渉すらも全部やってくれる。


そうなると開拓者組合に所属するデメリットが浮き彫りになっちゃう。


それは仲介料金。開拓者は原則として組合経由で仕事を受けなきゃいけないけど、その際に報酬額から割合で組合に納めなきゃいけない料金が発生するんだよね。報酬額の大きなお仕事になる程、バカにならない額を組合へ支払わなきゃならなくなる。


「ま、ラフィ程売れたらもう開拓者組合に所属するメリットが皆無なのよ。でも組合から脱退するってなんか傭兵落ちした感じもして世間体良くないでしょ?売れた途端組合を切り捨てたようで感じ悪いし。」


「ですのでラフィ様へ依頼する際は、当機とシブサワグループ外交官で審査の上“形だけ”組合を経由するようにしております。この場合組合の取り分は発生致しません。全額報酬を総取りで御座います。」


開拓者として大成するんだ!って意気込んでこの世界に来たのに、いざ名前が売れちゃうと開拓者であるメリットが無くなっちゃうなんて。


「開拓者組合って名前ですのに。深未踏地で開拓に挑めるヒトは大体スポンサー持ちの有名な旅団です。なんか‥‥変な感じがします。」


『にゃはは、開拓者組合なんて名前しておいて!その実組合から脱却出来ない者には開拓者の資格無しって事です。にゃはははは、面白い歪みですよね!』


結局深未踏地を探索するには億単位の許可証と、億単位の装備が要る。そんな額を稼ぐか、支援を受けられる立場のヒトは皆スポンサーに囲われていた。でも装備も実力も知識も不十分なヒトがガンガン深未踏地へ出て行って、大勢が帰らぬヒトになったら深未踏地の魔王に人類の文明力を漏らしちゃう。


構造が複雑な装備品を多少魔王が取り込んでしまっても、そう簡単には模倣出来ない。けれど日常的に手に入る環境になっちゃうとすっごい危険。


「ですからラフィ様は組合へ名前だけ貸している状態で御座います。ぶっちゃけ組合の存在をガン無視でも良いですが、一応体裁を保つ為に顔を出してやりましょう。トウキョウシティの組合本部は無視してやりましたが。」


あっ!そうだ!トウキョウシティの組合本部に行ってない!!毎日お仕事で忙しくて完全に忘れてた!うぅ‥‥不良開拓者になっちゃった気分。傲慢に振る舞うつもりは無いのに。


「良いのよそれで。寧ろ組合と企業の間で宙ぶらりんな状態が一番悪いわ。最悪無意味に組合に仲介料を支払いながら、企業と組合両方に顎で使われる生活をする羽目になるわよ。」


タマさんが教えてくれる。過去にも組合に義理立てするよう、組合との関係性を尊重しながらスポンサーの企業にお世話になった開拓者さんが居て。結果組合からも企業からも便利な武力として駆り出され続け、スポンサー持ちなのに振り回されっぱなしになってしまったらしい。


「今更組合と縁を切るに切れなくて、本人は後悔していたわ。優柔不断さは大概不利益を呼び込むのよ。ラフィもバッサリ組合を切っちゃいなさい。」


複雑な話題が尽きない道中。そしてヤマノテシティ組合本部、応接室でニワさんと向かい合う。前来た時とは比べ物にならないぐらい、最上級のお客様をもてなす様な対応にびっくり。


「当然に御座います。組合としてもラフィ様に憧れて門戸を叩く志願者を増やせるのです。名前を貸しているだけで宣伝効果は抜群で御座います。特にラフィ様は開拓者ドリームを掴み取った、伝説的なヒーローです。」


「名前を貸してるだけで組合に貢献してるってサイコーな状況よね。組合を見下ろす立場、気持ち良いー。」


タマさんは足を組んでどっかりとソファーにお尻を沈めていた。苦笑いするニワさんの前、ボクはグイグイとタマさんの腰に抱き付いて抗議。お行儀悪いですよ!もぅ。ニワさんにもお世話になったんですから。


ヤマノテシティで色んなお仕事を受けたのも、開拓者組合を通してだし。


「ニワさん!お久しぶりです!本当はもっと来たいのですけど、とっても忙しくて。ごめんなさい。」


「あらぁ。ラフィったらホンマええ子やぁ。これだけ売れても謙虚さを失わないその姿勢、隣の不良開拓者に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわぁ。」


ニワさんに閉じた扇子で指され、舌打ちしたタマさんはちょっとだけ姿勢を正した。


「ラフィは売れてるけど、タマ自身が売れた訳じゃないでしょうに。」


「ハン、アタシだってちょっとずつ評価されてるわよ。ま、ラフィと一緒に居る以上シブサワ以外にスポンサーなんか要らないけど。」


ブランさんがケーキのお代わりを催促する。紅茶を3杯飲み干していた。‥‥ケーキバイキングに来た訳じゃないよ。2人ともニワさんに当たりが強い。未だに傭兵をけし掛けられた事を根に持っているようだった。


「ええと、ボクに会いたいのなら直接連絡しても良いです。ブランさん経由だと、どうしてもシブサワの外交官さんとの協議になっちゃいます。それだとその‥‥緊急性の高い用件でもない限りは弾かれちゃうんです。ボクへのお仕事の依頼先の窓口は、シブサワグループに絞りたいって事でお話が進んでいて。」


ニワさんは首を振る。


「そないな事明け透けに言わんといて。普通は隠すもんよ。こっちも分かっとるから、頭越しに声を掛けるなんて。」


じゃあ、じゃあ!とボクの個人的なスマイル通話番号を送信した。


「お休みの日に個人的に会ったりするのは大丈夫です。お仕事の話は難しいと思いますけど、癒したりなら出来ます。その他アコライトとして相談に乗ったり、ええと。お話したり。」


ニワさんがどこか黄色味を帯びた声を漏らしてボクに手招き。そっと隣に座ればぎゅっ!と抱きしめられてしまった。


「あ〜、もう!かわええなぁ。そんなウチに構ってくれるん?」


「お疲れのようですし。疲れているとか、そういうのは分かるんです。」


だから癒したいなって。ヤマノテシティの多くの開拓者さん達が、羅針盤の針を惑わせずにいられるのもニワさんの手腕のお陰。いつの間にか組合と距離が離れてしまっていたとしても、組合が大切な組織な事には変わりないよ。


「ボクは開拓者に憧れていたんです。羅針盤を手放したりはしません。組合からも必要があったら依頼を出してくれて良いです。ボクの力が必要だって思ったのなら、応えたいんです。」


エンジェルウイングでニワさんを包んで、ブランさんにもボクの意向を伝えておいた。シブサワグループのお仕事も大事だけど、組合を無視するのも良くないよ。


「優柔不断だから組合と企業の間で宙ぶらりんになる訳じゃないです。これはボクの意思で、応えられると思ったから。」


ミニフィーで即席の軍隊を作れるし、頼もしい仲間も沢山居る。


「ラフィ様がそう仰るのなら。シブサワグループにも一報入れておきましょう。」


「そうしたいのならそうしなさい。大丈夫よ、大変になったらアタシらが何とかするから。」


『にゃはは、組合を経由する依頼は一般層からの依頼も多いですし。また面白そうな依頼があったらピックアップして受けてみましょう。』


そんなボク達にニワさんは嬉しいわぁ、と喜んでくれていた。直接会ってお話したお陰で離れていた距離を戻せたように感じた。


それから数日後。


直ぐに組合からお仕事が回って来た。内容は芸能依頼で、組合のプロモーションに関わるお話。要するにCMでボクを起用するって。


撮影現場はよくCM撮影でも使われる“ image egg YURAKU“。倉庫をリノベーションした大型スタジオなんだ。打ち合わせは事前に済んでいて、控え室で監督さんと最終確認を。


「いやぁ、まさか組合のCM案件を受けてくれるなんて。メガコーポの世界へ行った開拓者さんは距離を置きたがりますから。」


「ボクは開拓者になるのが夢だったんです。」


開拓者組合はその年に売れた開拓者さんをプロデュースして、CMのイメージキャラクターとして起用したりする。ボクの本籍は結局開拓者組合だから、この芸能依頼で”ラフィ“のキャラクターブランドに対して使用料の支払いは必要無し。ブランドの権利はシブサワグループと、ニッポンイチが持っているんだけどね。うーん、ややこしい。


羅針盤を返却して完全に独立するのなら、組合もボクをCMに出す為に多額の出演料の支払いが発生しちゃう。でも今ならランク相応の金額でOK。ボクが納得する金額ならって事。交渉相手はシブサワじゃなくて、ボク個人だからね。


少なくとも組合が直接依頼する芸能依頼ならこの認識で大丈夫だった。武力衝突が伴うリスクのある依頼となるとシブサワ・ニッポンイチとの協議が必須になるんだけど。でも前と違って門前払いは受けないようになった。


「てかアタシも出るの?」


「ラフィ様とその仲間達を起用したいとの事で御座います。ラフィ様だけをイメージキャラとして支えるメガコーポに対し、その仲間も厚遇するポーズを取りたいのでしょう。」


「思惑は色々ですよ。にゃは、ラフィさまが納得しているにならワタシは文句ありません。」


「ぬぅ。我がカメラに映るとAIが自動でペット扱いしてくるのだ。どうせ今回もAIペット動画撮影モードが起動するぞ。ペットの気を引く可愛い音がカメラから流れるのだぞ?」


「可愛い美少女に変身出来ない我が身を呪いなさいよ。」


「もぅ。ほら!皆、カメラが回りますよ。」


真っ白で光を眩しく反射する背景を背に、ボク達は並んでカメラを見る。今年の開拓者組合のイメージキャラクターはボク達っ!ボクだけじゃなくて、皆もだよ!


「えへへっ!ラフィです!」


軽快なBGMに合わせてカメラが切り替わり、ボクの笑顔が映される。ちょっとあざとい両手の指先を顔の前でくっ付けたポーズ、S.S.Sから銃を構えるカッコいいポーズ、アクロバティックに動いて着地するアングルの後に、ボクの名前が大きく表示された。


「今回は開拓者組合に所属する開拓者として、組合を応援しに来ました!ボクはまだ開拓者を初めて1年と半分ぐらいの新参者ですが!おっきな夢を掴んで駆け抜けて来たんです!」


パッと画面がタマさんに切り替わる。白を基調としたボクの映像と対照的な夜闇のような黒。カッコつけた顔のタマさんがビームシュナイダーを片手で悪い顔。


「開拓者ドリームってやつよ。実力と運に自信のある奴は傭兵やるより開拓者やった方が良いわよ?」


黒と白が交わって、瀟洒なメイド服が画面を通り過ぎる。ブランさんはカメラを流し目に。


「ラフィ様を見れば分かる通り、開拓者組合は人生のカオスを味わえる場所となるでしょう。妙な依頼に振り回され、依頼人の悲喜こもごもを目の当たりにします。退屈な人生を投げ捨てチャレンジしたいのなら、どうぞ。」


今度は赤と白が交わるトランプをイメージした画面の中、フィクサーさんが楽しげに笑う。


「にゃはははは、開拓者とは本来深未踏地の開拓業を営む者。やってる事は傭兵と大差無い?ここだけの話、今の内に開拓者を目指して動いておいた方が良いですよ?悪魔の助言を授けましょう。遠くない内に大きな動きがあるかもしれません。人生一発逆転を夢見ては如何?」


虹渦島をイメージした鮮やかな色の変遷、そしてカテンさんがぬっと画面を覗き込む。


「そもそも我は開拓者では無いのだが‥‥おい!今カメラがペットモードになったのバレてるぞ!可愛い音で我の気を引こうとするな!まぁ、ラフィが我の寝床へやって来たお陰で今があるのだ。不思議な出会いを求めるのなら目指すのも良かろう。」


組合が出す開拓者のCMは、こんな感じに売れっ子開拓者へのインタビューみたいな感じ。長々と話す感じじゃなくて、軽快なBGMの音色に合わせてサクサクと流れて行く。


開拓者組合について一言どうぞ!って風に。編集された映像は個性豊かなメンバーを次々映し出していった。後日早速公開されたCMは好評で、しれっとシブサワグループの広報ハムハムアカウントもこのCMをプロデュースしていた。


‥‥CM撮影の裏話なんてのを有料チャンネルで公開するあたり、組合に対抗心のようなものを感じたような。カテンさんの撮影で本当にペットモードが起動しちゃって一悶着あったお話とか、カッコ付けたポーズを数パターンタマさんが考えて来たのに全部却下されて皆で考える事になったりとか、ブランさんのコメントがNG多くてリテイクの嵐だったりとか。


ボクとフィクサーさんの撮影はさっくり終わったのに、撮影が長引いて夜まで掛かってしまったのだった。

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