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528、呪いに沈んだ都

秋刀魚(サンマ)の塩焼き、金目鯛の煮付け、ミニ海鮮丼、特上握り6貫セットに御座います。」


わぁっ!豪華で美味しそう!ブランさんが作るお料理は毎食豪華で品数が多い。色々楽しめて最高っ!


そんな料理を困惑した顔で見下ろすオウルさん。


『大丈夫ですか?』


『ああ。ただ、初めて見る料理でね。どうしたものか‥‥』


つい、指先が魔法を操った。魔法の気配に一瞬警戒するブランさん、タマさんもさっきからずっと指先に隠していた改造ビームシュナイダーを向けていた。そんな2人の様子に気付かないオウルさんは、焼かれてじゅわじゅわな秋刀魚を宙に浮かせていた。


指を使わず、お腹をはむり。


ぱぁっ!と血色が良くなってガツガツと食い気が凄い。魔法でお食事なんて器用だなって思いつつ、ボクもお寿司をお口へ放り込んでいったのだった。


オウルさんは表情豊かなタイプじゃないように見える。セツナさん達とも違う、どこか達観したような目というか。エルフさんだし見た目が少女のようでも年齢はすっごい歳上なのかな?タマモさんみたいにお婆ちゃんなのかも。


それでもご飯を食べる時は表情豊かに、味わう事に全力を出しているようだった。2日ぐらいご飯を抜いた後の高級ディナー。お魚を食い散らかして、スープを啜って、見様見真似でお寿司をパクリ。


‥‥そんな勢いで食べて大丈夫かな?食後の胃腸薬に合わせて、血糖値スパイクしない為のお薬も増やしておこう。


白いホカホカご飯を気に入ったのか、3度もお代わりして膨れ上がったお腹をさする。表情は幸せそうだった。


「絶食した後に良くまぁそんな掻き込めるわね。お腹が驚いて戻したら張っ倒すわよ。」


「当機が再度胃の中へぶち込みますからご安心を。」


オウルさんはジト目でボクを見やる。


『何か不穏な事を言っていないか?』


『ええと。直ぐに胃を整えるお薬を出します。』


『胃‥‥ああ、薬。内‥‥臓の事は知らない筈なのにね。何故か知っている。』


人類には宗教的な理由でヒトの内側を知らなかった時期があるって言うし、そうなのかな?魔法で健康を保てるのなら、知らなくても大丈夫そう。


『でもボク達の文明ではお薬が大事です。エルフさんでもニホンコク人とお薬の相性に差異が殆どありませんから。』


アコライトなボクは勿論お薬の知識をしっかり覚えてる。専用の資格もあるし、直ぐに収納から携帯分を取り出した。


『不思議だね。急に手元に現れた。あまりに‥‥キミ達は私の知る世界とかけ離れた所にいる。』


ぬるめのお水を添えて、食後の一粒を渡した。


『ゆっくり知っていって下さい。』


カテンさんの時は直ぐにニホンコク語を話せるようになったけど‥‥R.A.F.I.S.Sで知識を共有する事が出来る。でも、あまりに複雑だと難しい。R.A.F.I.S.Sは全自動学習装置って訳じゃないし、接続するだけで何も知らないヒトを、即座に歴戦の開拓者と同レベルの知識と経験を積んだ強者に出来たりなんてしない。


あくまで戦場の離れた場所と場所を繋いで、知った事を全体に共有する事に特化しているんだ。単語単位とかなら、R.A.F.I.S.Sで直感的に教えられるけどね。でも流暢なニホンコク語を完全に共有しきるのは厳しいかな。


特に前知識や概念に無い事を共有しようとすると、朧げな感じになりやすい。美羽の一族の皆に色々教えられたのも、事前にキュエリさんがニホンコクのあれこれを知識として教えてくれていたからだし。


交流会を前に、ヤマノテシティはどんな場所か写真付きで分かりやすく説明してくれていたんだ。お陰でザックリとでも知っていて理解に苦しむ事も無かった。


けれどボクが付き添えば習熟はより早くなると思う。分からなくて躓いた場所を直ぐに直感で理解出来るから。


『ラフィ。その、助けて頂いたのに厚かましいかもしれないけど。それでも異文明のキミ達にお願いがあるんだ。』


オウルさんはサッと姿勢を正してボクへ向かい合う。タマさん達もそんな様子に話す口を止めた。


『私の故郷、シャーリアは呪われてしまった。私は外部へ助けを求める為に逃げて来たんだ。』


呪い。R.A.F.I.S.Sがオウルさんの意思を皆に共有する。タマさんがポンと通信して、フィクサーさんとカテンさんを呼び出した。ボク達は呪いには詳しく無いけど、魔法に詳しい2人なら何か知ってるかもって。


『身体の内で炎が燃え上がり、次第に全身が痛みで悲鳴を上げる。歌を封じられ、やがて息の根が止まる。死の呪いだ。』


フィクサーさんはうーん、と首を捻った。


「死の呪いですか。呪いも魔法の1系統‥‥と思いがちですがブラックボックスアーツの類いですね。」


カテンさんも分からぬと声を漏らす。


「我は別に魔法の専門家では無い。古来からそのような危険な呪いの話を聞き及んだ記憶は無いな。ここは遥か上空、地上と隔絶された世界だからこそ未知の呪い‥‥危険があるのやも知れぬ。」


このスーパーセルにそんな危険が眠っていたなんて。巨大な原生生物は事前に予測出来たけど、呪いだなんて予想外。


『呪いがどう言う経緯で広まったか分かりますか?』


オウルさんは首を振った。


『突然だった。切っ掛けらしき事は思い浮かばない。あっという間に都の者達が呪われ、呪いは農園にまで及んだ。誰もが寝台から動けなくなって死に絶え、私に呪いが及ぶ前に全てを託されて都を脱出した。私は一番の歌を操る者。空歌の姫を冠するが故に選ばれた。』


歌を操る‥‥?


そこでフィクサーさんが思い付いたように。


「あっ!そうでした。歌を操るという言い方には覚えがありますね。歌は魔法を意味します。この者は族の中で一番の大魔法使いだったのでしょう。にゃは、しかし“都”だなんて。」


続きを催促する視線に、オウルさんはなんとか具体的に意思をR.A.F.I.S.Sへ乗せようと気張っていた。口で話すのとは大分勝手が違うから。


『故郷の都は今や天に浮かぶ大地。風に愛された空の都、シャーリア。しかし都が呪いに侵された影響か、風を管理する者達が息絶えた影響か。魔法が暴走したように暴風が渦を巻いた。都から出た私も身動きが出来なくなり、呪いが及ばなそうな大地の端に身を隠したまま‥‥今の状況が分からない。』


ボクは黙って共有モードのホロウインドウに、スーパーセルの外観の映像を映し出した。オウルさんは目を見開いて、思わず口を手で覆う。


『これが‥‥シャーリアなのか?』


『多分、そうです。今はとんでもなく大きな魔法雲の大災害になって、世界中を回遊しています。そしてオウルさんは、全体から見たら下層域にある魔法雲に引っ掛かった巨岩の中で発見されました。』


タマさんは尻尾でオウルさんを指す。


「風で浮島が欠けた時に運良く地上まで落ちずに引っ掛かった訳ね。落ちてたら死んでたわ。高度2000m上空から巨岩と一緒に自由落下なんて、ミンチより酷い事になりそう。」


タマさん!


悪いって。


そんなやり取りの中、オウルさんは直ぐに平静を取り戻す。


『私はシャーリアの場所が分かる。案内するから‥‥呪いに付いて調べて欲しい。察するにキミ達の文明の力は私の知る遥か先を行っている。』


タマさんの気持ちがR.A.F.I.S.Sを引っ張る。


「ブラックボックスアーツは危険よ。止めておきなさい。探査計画を見直さなきゃね。シャーリアとかいう古代エルフの都が乗った浮島を発見したら回避するべきじゃない?」


オウルさんの目線は諦めたように沈む。オウルさん自身も分かっていた。助けを求めても差し出せる物が無い。正体不明の呪いが蔓延る都を調査するリスクを冒す理由が無い。


「もし呪いが何らかの形でパンデミックを起こせば大被害で御座います。当機としてはスーパーセルの探査計画を白紙にするべきかと。」


「ラフィさま、好奇心は猫を殺します。確かにここまでの成果を棒に振るような事はしたくありませんが。それでも呪いが人類社会へ齎す被害を考えたら‥‥」


皆の意見は満場一致で却下。ブラックボックスアーツが関わっている可能性が濃厚な以上、これ以上のリスクは取れない。


本当に?


オウルさんは悲しそうな顔で俯いている。


「悪いけどアンタ、故郷は諦めなさい。今後の事はこっちに任せてくれれば、生活出来るだけの援助はしてやれるわ。カテンのように今の世界を楽しめば良いじゃない。」


「そうだな。我もこの世界に大分馴染んだが、中々毎日が楽しくて仕方ない。飯は美味いし娯楽は極まっておる。」


「当機がモモコらに連絡を致しましょう。」





「待って下さい。」





ボクの声に皆が驚いた顔をした。


『すみません、呪いについてもっと具体的にお願いします。オウルさんの証言で今後の方針が全部決まります。全部を思い出して、どんな細かな事でも良いですので教えて下さい。』


呪いの内容が正直曖昧に感じていた。抽象的って言うか。体の内で炎が燃える?それって口から火を吐いて炭化するって事?それとも火の魔力属性が何か悪さするって話?単純に何かの比喩?


『どんなに時間を掛けても良いです。教えて下さい。』


オウルさんはボクを縋るように見つめ、そしてR.A.F.I.S.Sに目一杯。知っている全部を一欠片も残さないよう振り絞って教えてくれた。





「それで、今後の探査計画だけど───」


モモコさんの声に、ボクはハッキリ言う。


「探査計画の見直しの必要はありません。このまま続行します。呪いの正体が分かりました。」


後ろに立つタマさんのドヤ顔。尻尾がボクの首を巻く。


「ラフィは凄いのよ?あれだけのヒントで言い当てちゃうなんて。」


モモコさんもブランさんから情報を受け取っていたみたいで。


「ははっ、凄いよね。最大限の警戒は要るけど、この計画を白紙にする程じゃないかな。寧ろしっかりと都の様子を確認しないといけない。」


皆で意見を出し合って、呪いの正体への推理はほぼほぼ間違いないってなった。このまま計画は続行!オウルさんの故郷へと向かおう。


『本当に感謝する。都は時を止める歌に護られているから、歌が風に愛されていればそのままになっている筈だよ。』


そして、既に工事が始まっている岩の中の様子にオウルさんは驚いていた。


『これは‥‥?!』


『フィクサーさんの提案で、この巨岩をそのまま探査用の移動拠点へ改造する計画が立ちました。』


征天丸での探査は想像以上に危険な事が分かった。リヴァイアサン級の巨大生物に襲われたら、征天丸が足を引っ張ってカテンさんが全力で相手を出来ずに危険な状態になっちゃう。


このサイズの巨岩なら征天丸よりもずっと大きいし、しっかり強化して全体に都市防壁レベルのバリア装甲を張ってしまえばあのイソギンチャクでも簡単には手を出せない。勿論迎撃兵器もちゃんと積み込めるし、シブサワPMC旅団大隊の方が一緒に戦ってくれるんだ。


「予算青天井、大盤振る舞いだな。」


レイホウさんは呆れた声。


「征天丸がスーパーセルに敵わなかったのが歯痒いですわ。まぁ空中機動要塞なんてロマンに溢れる物を造るんですもの。赤翼の腕の見せ所ですわね。」


ビャクヤさんも楽しげだった。既にセイテンさんまでやって来て、テツゾウさんと一緒に巨岩の内部を確認して回っている。


ハハハッ!見ろよ!これが機動要塞になるんだぜ?!

おい!押すなって!ああ、鬱陶しい奴め。


急ピッチだけど流石に直ぐにって訳にはいかないし、その間にまた冒険を一旦お休み。オウルさんにニホンコクの事を教えて、虹渦島にミュージカルで頑張った皆を招待してちょっと遅めの打ち上げをしないと。


「我はこの要塞の外壁工事に駆り出されるそうだ。まぁ、良い金額を約束された以上やぶさかでもない。」


「農場の管理も疎かにしないように。当機が見張っていますからね。」


「お、おう。」


安全ヘルメット?みたいなのを被って見た目から入るカテンさんはノリノリ。


「スーパーセルを探検する機動要塞だなんてワクワクします。頑張って下さい!」


ボクは皆に手を振って一度パンタシアへ帰ったのだった。

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