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527、岩の浮島に眠るお姫様

鏡のような岩の浮島、風を凌そうな隆起もない場所をセイグリッド・エンジンが進んで行く。一瞬光って、雷が直ぐ近くでバチン!と跳ねた。


「しかしラフィさま、出来ればここでゲートを開ける場所を探し当てたいですね。」


「はい。セイグリッド・エンジンも長時間使い続けると最後にはエネルギーが切れちゃいます。‥‥時間の経過で魔力が充填されますが、1日は掛かるんです。」


激しい戦闘の後で大分エネルギーが目減りしていた。まだ暫く保つけどいざという時の為に余力を残しておかないと。


「ふむ。ラフィさま。付近に妙な魔力の流れがあります。」


濃い魔力を含んだ豪雨、薄っすら輝く魔力の暴風、そして魔力が変質して出来た雷。この魔力の濁流の中でもフィクサーさんは敏感に気付いてくれた。


「教えて下さい。」


ホロウインドウの中に居ないと、電子の仮想脳を作ってR.A.F.I.S.Sに接続する事が出来ない。流石にバルカン砲の制御系の中からじゃ、ボクへ声で語り掛ける事しか出来なかった。


「にゃは、R.A.F.I.S.Sを介さないこういうやり取りはあまり無いですね。」


10時の方向と言われてセイグリッド・エンジンの進路が変わる。動きを変えたボク達に、イルカさん達も興味津々に付いて来た。あっ!


「岩が一部ひび割れています!」


セイグリッド・エンジンのまま入り込めるようなサイズ感。地面のひび割れは下の方へ急な斜面になって続いていて、キュルキュルとキャタピラで地面を掴みながら降下して行った。


イルカさん達も頑張って付いてこようとする‥‥無理しないで良いからね?


小柄な1匹がボクの後ろを追った。それでも体長2mぐらいあるけど、猫さんのようにしなやかな動きで狭い隙間をすり抜ける。


少し降りた先、行き止まり。でもこれは。


「にゃは、人工物に見えますねぇ。」


風化した石の扉。ピッタリ閉じていて、スキャンした感じだと内部に広めの空間があるようだった。中に入りたいけど、セイグリッド・エンジンで突っ込んだら崩落しそうだし。


「オボロさん。」


「妾に任せい。」


魔王の力で影から姿を現したオボロさんの片腕は義手になっていて、超振動ブレードが扉の隙間へ一気に差し込まれた。扉の内側にある(かんぬき)を破壊、そのまま強引にグイグイと押し開けてしまった。


「オボロさんも消えなくて良いです。ここは雨風を防げますから。」


「妾に居て欲しいのか?愛い奴め。」


「もっと自由にしていて良いのですよ。」


一応警戒してセイグリッド・エンジンを解かずにそのまま内部へ入った。フィクサーさんも一旦バルカン砲の制御系から抜け出て実体化する。


「ラフィさま、妙な魔力の根源がそこに居ますね。」


真っ暗な空間の奥、大きな石の棺があった。中に何があるのかな?オボロさんがサッサと棺の石蓋を開けてしまった。相当重量があると思うのに、義手で軽く払い除けるように。


オボロさんの義手は何種類かあって、自由に収納から取り出しつつ付け替えて操れる。今付けている義手はゴツくて大きな爪の付いた、メカメカしい獣の腕のような義手。パワー特化型でカッコいい。


「何じゃ、コイツは。」


「にゃはは、差し詰め眠れるお姫様って所でしょうか。」


セイグリッド・エンジンを解除、ひょこっと覗き込んだ先には1人の女の子が眠っていた。死んで朽ちたり風化する気配が無くて、今にも目を覚ましそうな若々しい肌をしている。


「エルフさんですね。エルフは長寿って聞きますけど、いつからここに居たんでしょう。」


「飲まず食わずじゃエルフと言えど朽ちてしまう。不死ではないのじゃ。妾も知らぬ魔法か。」


フィクサーさんはちょいと調べて直ぐに教えてくれた。


「この感じ、最近触れた魔法にありますね。時空間に干渉する類の魔法です。前のような巻き戻しではありませんし、もっと規模は小さい。差し詰め時が止まっていると言った所でしょうか。」


そんな事が出来るの?!‥‥時間が巻き戻る魔法は体験したし、あり得るって直ぐに飲み込めちゃう。


エルフの女の子はラズベリーさんよりも少し背が低いけど、ボクよりは頭一つ分より大きい。長い髪は不思議な色合い。銀髪‥‥白髪‥‥?ううん、色を失っているような。空虚な色って表現がしっくりする感じだった。


仰向けのまま、両手をお腹の上。呼吸はないけど生命の息吹は感じられる。


「さてさて‥‥どんな事情があるかは知りませんが、ここについて何か知っているのかも。冬眠中の所悪いですが、折角ですし魔法を解いてしまいましょう。ああ、念の為に警戒を。起き抜けにエルフの凄い魔法が飛んで来るかも?」


フィクサーさんの口調は冗談混じりだけど、ボクの姿はセイグリッド・エンジンの中へ消えた。オボロさんも一歩前に出てシールドに変形する義手を軽く構える。


少し後。ゆっくりとその目が開いた。雪のような肌色がほんのりと血色を帯びて、髪が色を取り戻す。透き通った薄水色は薄っすらと美しい。クリハラさんみたいに毛髪にも魔力が通っているのかな?


少しの間ぼぅっとして、ついに起き上がってボク達を見た。ブカブカの白タキシード、黒外套の巨大義手の狐さん、そして白銀に輝く戦車と後ろから覗き込むイルカさん。


動揺したように目が見開く。けれど思いの外冷静で。何か話しかけようとして言葉が通じない事を直ぐに悟った。


R.A.F.I.S.Sで心を突く。ビクリ、と反応したエルフさんはボク達を凝視した。


『ボク達は敵じゃありません。お名前を教えてくれますか?』


少しの間逡巡して、エルフさんは何とか伝えようと‥‥


お腹が鳴った。


『お腹が空いているのでしたら何か用意します。』


セイグリッド・エンジンを目の前で解除する。今度こそエルフさんは変な声を上げて飛び上がってしまった。


「そりゃ目前で鋼鉄の塊が愛らしい男の子に変化したら驚きますよ。にゃはは、しかしどうしましょう。一度ワープゲートを都市へ繋いでも良いですが、余計に混乱させちゃうと思うんですよね。」


そっか。でもボク達の無事は伝えたいし‥‥パンタシアのドアを何処かに貼り付けて、一度連絡を取りたいな。


『少しそこで待っていて欲しいです。美味しいご飯を用意します。お米、パン、お魚、お肉‥‥どれが良いですか?』


『‥‥お魚。天廻(あままわり)ではないのか。』


天廻?ニホンコク語に直訳するとそんな感じ。言語そのままだとギェシシュ。言い辛い上に発音がニホンコク語と違い過ぎちゃう。

お魚料理にサラダとスープ‥‥重いかな?時が止まっていた状態っていうのが分からない。胃が縮小しきってしまっているのか、時を止めた時の状態が維持されているのか。でもざっとスキャンした感じだと若干の飢餓状態なだけで、何も口にしていない期間は二日間ぐらいかな?って感じ。


念の為にナノマシン入りの胃腸薬を先に投薬しよう。急な食事で体がびっくりしても、余程の状態にならない限りは大丈夫。アコライトのボクが見ているからね。


「古代エルフ語の類ですが、訛りも強いですね。どの族の系統でしょうか。エラ?ファルロゥ?ンンィエ?ゴゴ?」


フィクサーさんが思い付く古代エルフ語の挨拶を投げ掛けるけど、どれにも無反応。首を傾げて怪訝な顔。


「古代エルフ語と言っても、国や地方によって全然違いますし。一度大帝国が世界を席捲した時に共通言語が普及して、古代エルフ語も途絶えました。異邦の言語の使用は厳罰に処されましたので。」


「エルフ自体都市ではあまり見かけぬ種族じゃ。自然を愛する連中は都市の在り方が好ましくないようでな。」


パンタシアのドアをぺたりと設置。後ろから聞こえた驚く声と、オボロさんが座らせる音。 


「先ずは皆と連絡を取ります。」


ボクの背中をフィクサーさんの声が突く。


「でしたら面白い計画がありますので。にゃは、実現すれば中々ワクワクするアイデアになるでしょう。」


パンタシアのリビングにて、タマさんがバッと飛びついて来た!ぎゅうっ!抱き締められて、ボクも体にしがみつく。


「また危ない目に遭ったわね。もぅ‥‥心配しちゃうわ。」


「でも戻って来ました。あのイソギンチャクは撃退しましたから大丈夫です。もう手を出してこないと思います。」


ブランさんもボクの後ろに控えて、カテンさんが頭上でうねうねと。


「あの大物を退けたか!うむぅ、その場に居られなかったのは残念だ。征天丸のちっこい体を庇いながらでは動くに動けん。」


「あのっ!ブランさん。早速ですがモモコさん達に連絡を。あとボクのスマイルが壊れちゃいましたので買い替えたいです。それと救助者を一名発見しましたので、食事の提供をお願いします。」


「当機にお任せを。ラフィ様は休んでいて下さいませ。」


「いえ、エルフさんに付き添います。」


ボクと入れ違いにフィクサーさんがパンタシアへ。羨ましそうなカテンさんに片手を振って、直ぐに応接室へやって来たモモコさん達に対応した。


パンタシアから出たボクを早速エルフさんが質問攻めに。


『どこから来た?』


『ずっと下の地上からです。』


驚く顔。興味深そうにボクを観察して、


『名前は?』


『ラフィです。貴女は。』


『オウル・ラケルタクル・ヴィ・フラウリリム。‥‥オウルでいい。』


名前が長い‥‥馴染みの無い名前にちょっと困惑。言われた通りオウルさんって呼ぼう。伝わって来た情報によればオウルが通称、ラケルタクルが族名。ヴィが苗字?血の名前?フラウリリムは神聖な名前?うーん‥‥


ラケルタクル族のヴィ・オウルさん。宗教的な場か公式な文書にはヴィ・フラウリリムで名乗る的な‥‥?


『概ね合っている。‥‥どうして私とキミは話せる?他の者には通じない?』


『ええと、R.A.F.I.S.Sって言って、特殊な力です。無意識を統合して言葉が通じなくても意思を伝え合えちゃいます。』


『壮大な歌だ。』


歌‥‥?R.A.F.I.S.Sの翻訳ミスかな?でも歌としか言い換えようが無いし。


『歌じゃないですが‥‥今は大丈夫です。ええと、何処から話そうかな。』


大勢でここに来た事?外の世界の移り変わりの事?簡単には説明し切れない‥‥そんな時にタマさんがパンタシアから出て来た。


「スマイル届いたわよー。」


「ありがとうございます。」


ボクが受け取った小さなチップをグイグイと覗き込む。気になるの?


『これは?』


『便利な道具です。こうやって使うんです。』


収納内へしまって、共有モードでホロウインドウを起動する。オウルさんは不思議そうに眺め、指先でホロウインドウを貫通させていた。


先ずは生体認証を済ませて、バックアップデータのダウンロードも。パンタシア内じゃないと通信状態がやっぱり悪いな。


パンタシアへ向かうボクの後を、オウルさんが付いてくる。ここは暗いし埃っぽいから、パンタシアの中に招待しようかな。オボロさんはひょい、とボクの影の中へ消えた。


『この‥‥不思議なドアに入っても良いのか?』


『大丈夫です。でもタマさんが怒りますので、許可が無い限り中の物には触れないようにお願いします。』


好奇心のままに勝手に色々弄ったら怒っちゃう。タマさんにとってパンタシアはただの住む家以上に大切な場所だから。


パンタシアへ戻る前に、興味津々に眺め回していたイルカさんへ向き直る。R.A.F.I.S.Sが後でお礼のお肉をご馳走する事を約束した。モモコさん達に手配して、群れの皆が満足する量のお肉を用意して貰わなきゃ。


深未踏地の知性が高い原生生物の群れとは仲良くして行きたい。知性が高いと言うのは、場合によってはヒト以上の高度な知能を持っていたりする。賢くて凄いね、じゃなくて定義上亜人に含まれないけど同等の頭脳を持っていたり。


このイルカさんも多分余りヒトと知性のレベルは変わらないんじゃないかな?肉食なのにボクやオウルさんを見ても齧り付こうとしないし。本能的な欲求を理性で抑えて、この状況を俯瞰して見ながら空気を読んで楽しむ事が出来ていた。


だからこれは契約。野生動物への餌付けじゃなくて、正当な報酬だよ!イルカさんとR.A.F.I.S.Sでお肉の量を交渉する。


2mサイズのイルカさんが1日に食べる量は5kg程。10mサイズだと30kgを超える。1週間に数度狩りをして食い溜めするようだった。100kgを超える魚肉を約束し、満足げにイルカさんは帰って行ったのだった。


そんな様子をオウルさんは不思議そうに見ていた。パンタシアへ戻ろうとした所に、早速スマイルに色々通信が。ワープゲートを虹渦島の方に繋いでここに前線基地を作るって。いや‥‥ただの前線基地じゃない。それ以上の凄いものを。


『少し待っていて下さい。』


目の前でしゅるん、と九尾の尾が生え揃えばオウルさんは大興奮。驚きながらも揺れる尻尾に思わず手を伸ばす。ふわっと触れれば尾先がきゅうっと指に絡んだ。


『‥‥魔力の流れを感じない。』


『別の力を使っています。ゲートを開きますので少し離れて下さい。』


ふわり、シャボン玉が何処からともなく現れて輪を繋ぐ。そしてそこが虹渦島とここを繋ぐゲートになった。


「ラフィさん、お繋ぎありがとうございます。」


ウメさんが部隊の皆と飛び込んで来て、シグさんも少し遅れて顔を覗かせる。


「ほぅ?狭いな。聞いた話通り先ずは工事からだ。」


ゾロゾロと現れる軍属のヒト達に、オウルさんは慌ててパンタシアの中に姿を隠した。


『帝国軍か?!』


『違います。帝国とは別の国の‥‥ええと。傭兵さん?』


ジエイタイみたいな正規の国軍じゃないし、PMCって言っても概念に無さすぎて理解するのが大変。傭兵とは全然違うけど、今すぐに正確に伝えなくても良いかな?


R.A.F.I.S.Sで何でもかんでも同期させちゃうと、異文明のヒト相手だと混乱させちゃう。少しずつニホンコクの事を教えて行かなきゃ。


そしてパンタシアのリビング。タマさん達が出迎えた。


「救助者って初めて聞いた時は驚いたわ。まさかエルフが居るなんてね。」


「とにかく、先ずは食事に致しましょう。ラフィ様もお疲れの様子。」


食卓にはホカホカのお魚ご飯が並んでいたのだった。

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