523、第二次探査作戦は珊瑚の森を征く
直ぐ近くで轟いた稲妻が、閃光と共に空を斬り裂く。
スーパーセル内部、“陸珊瑚の塔”の最下層からボク達が乗った征天丸が飛び立った。風の暴力が吹き荒れるけど、空の支配者なカテンさんが魔法で守ってくれるから安心。
窓から見た世界は、豪雨が真横から降り流れる空の深海。100mを超える巨大な陸珊瑚はふんわりと発光していて、赤青緑黄‥‥カラフルでとっても幻想的。それが1km以上上空まで折り重なって続いている。
分厚い魔法雲の層からにゅっと伸びた珊瑚の枝の隙間を、征天丸はゆっくりと上がって行った。
「先ずは1層上に出たわね。」
「最下層からだと殆ど上の方が見えませんでしたが‥‥珊瑚の上が樹上世界のようになってます。」
直ぐに通り過ぎずに、
「カテンさん!このまま周囲を調べたいです。」
「おお、そうか。では辺りを見回るとしよう。」
R.A.F.I.S.Sで意思を伝えて周辺の探索をする事に。
「もうこの距離でスマイルは完全に圏外で御座います。」
前線基地内ならプライベートルーム経由に電波を引っ張って来れるから、ちゃんとネットワークに繋がるけど。少し離れただけで激しい魔力の濁流に阻害されて圏外になっちゃう。
「スーパーセル内に吹き荒れる暴風は濃い魔力を帯びた魔力風ですからね。深未踏地の遙か上空を吹き荒れる魔力風は、普段なら大した脅威にならないのですが。」
「やっぱり前線基地に通信する手段が無いです。ワープゲートを征天丸の中に開けば大丈夫かな?」
都市内へワープゲートを開けば、そのまま都市ネットワークに接続出来るし。プライベートルームを経由するよりもそっちの方が早いし楽そう。
でも征天丸も移動し続けているから、空間に固定されるワープゲートを開きっぱなしにすると直ぐに壁際までゲートが寄ってそのままパチンと消えちゃう。通信は必要な時だけにしようって事に。
「先ずは陸珊瑚の上‥‥なんて呼ぼうかな?樹上世界じゃ違和感あるし。」
「ラフィさまが決めて良いですよ?深未踏地の地名に関しては厳密な命名規約は御座いません。と言うよりも、公的な地名の呼び名を付けたところでニホンコクの管理外で、尚且つ到達困難な場所ですから意味が薄いのですよ。」
だから深未踏地の各地に付けられた地名は通称で通っている所が多いんだ。ヒトによって同じ場所でも呼び方が違う事も。勿論公序良俗に反する変な地名だと、その呼び名で呼ぶヒトも居ないから意味が無い。
「じゃあ‥‥コーラル・アースとか。」
確か珊瑚礁を英語で言うとコーラル・リーフ。じゃあ珊瑚の大地はそのままコーラル・アースでどうかなって。大地はアース、グランド、ランドと呼び名が色々ある。グランドはそのままの意味で地面、ランドは地名や国の名前。一番自然的な雰囲気に合うのがアースなんだ。
シンプル過ぎず、ちょっとオシャレで分かりやすい。
「悪く無いわね。地名は分かりやすさ重視よ。樹上世界と比べて横文字なのも特別感出て良いわ。」
「では当機がレポートでこの場を呼称する時は、コーラル・アースと呼びましょう。勿論ラフィ様の命名だとも記載します。」
地名を付けるのは冒険感あって楽しい。淡く光を帯びた珊瑚の大地は、大地からも無数の小さな珊瑚が生えて森のよう。
『小さいのは別種の珊瑚ですね。陸珊瑚の上に他の陸珊瑚が寄生しているのですか。』
風速計を覗き見て、森の内部の風の流れをチェック。
「森の中はだいぶ風の勢いが弱まっています。少し機外探索したいです。」
ボクの意見にタマさん達も賛成。このまま征天丸の中から見てるだけじゃ分からない事も多いし。それに珊瑚でゴツゴツした森は狭くて、征天丸じゃ入れそうになかった。
「我が直ぐに転移で戻れるよう、ラフィらの頭上に居ようか。」
「お願いします!じゃあ、早速!」
森のギリギリまで接近した征天丸から、転移でそのまま機外へ!踏み締めたコーラル・アースは硬くて、石の大地のようだった。征天丸の外に出ると早速風の轟音に晒され、ちょっと離れた場所で光る稲光にびっくり。雨も森の中まで降り込んで、バリア装甲が無かったら一瞬で下着までずぶ濡れになっちゃう!
「うわっ!予想してたけど凄い音ね!ラフィ、無線繋がりそう?」
声が全く聞こえないけど、R.A.F.I.S.Sに意思が流れて来る。外じゃ無線は完全にノイズしか流さなかった。首を振るボクの仕草に、タマさんは諦めてR.A.F.I.S.Sでのやり取りに切り替える事にした。
『見た目は幻想的な珊瑚の森なのに、凄い音と風で地獄の入り口のようね!』
『強化外装なら飛ばされずにいられます。』
『傾斜装甲に感謝ですね!』
ブランさんが征天丸の中に残って、周辺の地形データのスキャンをしてくれた。征天丸内でブランさんが地形を把握すれば、R.A.F.I.S.S越しにボク達にも伝わる。視界がとっても悪い森の中でも、上から見た景色が分かっていれば迷わずに進む事が出来た。
チームワークで探索を進めて行く。一歩、一歩誰も踏んだ事のない未踏の地を歩いて行った。時間は沢山あるから、急がずに丁寧に。何も見落とさないよう、好奇心に視線が振り回される。
『ラフィさま、向こう15m先です。』
『はい。R.A.F.I.S.Sにも感知されています。』
外と比べて風が少し弱めなこの場所は、外敵からも身を隠しやすい森の中。珊瑚の木々の高さは2mから5mぐらい、丸かったり枝分かれしてたりで形状様々。その分真っ直ぐ進むだけでも大変で、それだけ敵から逃げやすい環境だった。
となれば何かしら生物が居るかもって考えて探索していた。エンジェルウイングを展開して、癒しのオーラを振り撒く。R.A.F.I.S.Sで敵じゃないよって伝えながら進んで行った。
遂に見通しの悪い珊瑚の隙間から、にゅうっと小動物が顔を覗かせた。ええと、見た事ある感じの顔!何だっけ?!
レイホウさんのアプリには該当データ無し。
『ウーパールーパーじゃない?』
そう!ぬぼーっとした顔の両生類っぽい小動物は、ゴム人形のように伸び縮みする体を珊瑚に張り付けていた。あっちこっちの珊瑚の隙間から薄ピンクの線が伸びる。それはびっくりする程に伸びた舌先。珊瑚の影に隠れながらもボクに興味津々で。舌がバリア装甲をしきりに突いて不思議そうにしていた。
話せなくてもR.A.F.I.S.Sで意思のやり取りが出来る。
『ウーパールーパーの名前はニホンコク独自の愛称です!正式にはメキシコサラマンダーやアクショラトルなんて呼ばれていますね!』
そうなんだ。じゃあサンゴサラマンダーなんて呼ぼうかな?R.A.F.I.S.Sで普段の生活の事を訊いて、今日1日の記憶がふんわり伝わって来る。長い舌で雨水を掬って食べているんだ。空気中から吸収する魔力と、魔力濃度の高い水で生きているみたい。
サンゴサラマンダーはすっごい好奇心旺盛で、少し観察した感想としては犬みたいだなって。動きは意外にも俊敏、シャカシャカ動いてバリア装甲に張り付いてくる。しきりに舌先で突いてきて、ボク達の事を知りたがった。
R.A.F.I.S.Sの提案をすんなり受け入れてくれる。ワッ!とその場に居た10匹が群がって来て、ボクの肩や背中に張り付いたのだった。
『征天丸の水槽に来てくれるみたいです。しっかり観察したいですし、可愛いですから。』
『飼育するのでしたら、水槽内の環境をここの環境に合わせましょう。』
ブランさんの提案でここにある小さな陸珊瑚の一部を拝借する事に。陸珊瑚自体は深未踏地でそれなりに知られる生物だから、飼育方法も分かっている。お金持ちのお屋敷の巨大水槽で陸珊瑚を飼っていたりする事もあるんだし。
『何事も挑戦よね。先ずは試してみましょう。』
征天丸でスキャンしたこの森の環境データを、水槽内の環境データに反映させる。魔力濃度の調整された水が雨のように降り注ぐ涼しげな水槽が出来上がった。水槽内で珊瑚が淡く光っていてすっごい綺麗。枝分かれした珊瑚と丸くて溝の模様が美しい珊瑚が並んで、底に白い砂利が敷かれた。
『流石赤翼肝入りの最高級ですね!観賞用水槽の性能も最高品質ですか。深未踏地の環境再現もお手のもののようです。』
サンゴサラマンダー達の体長はおおよそ50cm。一般的なウーパールーパーの2倍のサイズなのは、やっぱり体面積の大きさがそのまま魔力吸収効率に繋がるからかな?
ゴム質に近い独特な質感の皮膚も頑丈で、常にしっとりしているけど硬い珊瑚で擦れても傷が付く様子が無かった。
一度征天丸の中へ転移。サンゴサラマンダー達にお家の様子を見せて大丈夫か訊いてみる。外敵の居ない安全なお家‥‥大きな水槽へ飛び込むように入って行った。
珊瑚の隙間の広さや、内部の温度。細かい要望がR.A.F.I.S.Sに流れて来て、伸ばしたイルシオンを使って微調整。ブランさんも温度を変えて行って対応してくれた。それと内部に常に微風が流れるように。風に吹かれていないと魔力の吸収が捗らないようだった。
「注文の多いお客さんね。」
「来てくれたのですから、出来る限り快適に過ごして欲しいです。」
水槽の中をカサカサ動き回って、直ぐに上部の小窓から顔を覗かせて出て来ちゃう。ぴゃっ‥‥!と後退るも、あっという間に群がられてしまった。居心地の良い寝室を手に入れたら、好奇心のままに征天丸の中を探検したいらしい。
50cmサイズの10匹のサンゴサラマンダーが駆け回るタクポ内、小さいワープゲートを開いてブランさんに状況報告をお任せした。
「小型犬の群れが走り回ってるようね。ほら、映画でも観てなさいよ。」
タマさんがホロウインドウに収録された適当な映画を流せば、サンゴサラマンダー達は音と共に移ろう映像に興味津々。ソファーの上に並んで見上げていた。
「ぬぅ‥‥?ラフィよ、森が騒がしいな。」
カテンさんの声に征天丸から珊瑚の森を見下ろす。思わず声が出てしまった。
「きゃあっ?!森が動いてる?!」
「何よアレ?!キモい!早く距離を離しなさいよ!」
「もう逃げている!」
珊瑚の森がうぞうぞ動いて、無数の虫が這い回っていた。アプリに表示された生物データはダンゴムシの近縁種、ダイオウグソクムシに似た生き物だった。でも色合いは淡く光る珊瑚と同じで、強化外装の性能無しだと見失いような速度で、大群になって珊瑚の森を這い回っていた。
サンゴサラマンダー達がビャッ!と水槽内へ退避して、R.A.F.I.S.Sに危険だって警告して来る。上から見下ろすと珊瑚の森が風でざわめくよう。群れが上昇する征天丸にも飛び掛かって来て、驚異的なジャンプ力を見せて来た。
「ぬおう?!鱗を齧るな!」
『ラフィさま、迎撃するべきかと。』
「征天丸の駆除用ドローンを使うわ!」
タマさんが接続して起動すれば、小型のドローンが射出される。ドローンには光学銃が積まれていて、ブラックキャットを操作する要領で危険なダンゴムシ達へ照射していく。
カテンさんの風の魔法で散らされても、合間を縫ってすぐに迫って来る。次々と5機のドローンが撃ち落として迎撃した。
「光学兵器の効きが悪いですね。」
「雷に焼かれても大丈夫って事でしょうか。虫ケラの癖に文明の利器に抗うなど鬱陶しいので御座います。」
ボクも出るよ!征天丸の外へ転移で脱出。凄まじい暴風が吹き荒れるけど、セイグリッド・エンジンとアクアマリンを展開!流石にセイグリッド・エンジンレベルの重量だと簡単には飛ばされない。アクアマリンで作った薄虹の水路の上、がっしりとキャタピラで掴んで一気に駆け抜ける!
ダンゴムシ達も群れが連なって巨大な生き物のように振る舞い、即席で作られた大怪獣サイズの化け物が凶悪なアギトを開いた。スキャンされた体長は20mクラス。ダンゴムシで出来たそれはうぞうぞ動いているけど、群体生物として連携は抜群みたい。
大きく振り抜かれたダンゴムシの大爪の下をグルン!薄虹の水路が続いてミニ戦車が駆け抜ける。戦車へ何十匹も飛び付いて来るけど、滑走しながら回転して装甲頼りに弾き飛ばす。無数の質量が飛び掛かっては弾かれる衝撃が、小刻みにセイグリッド・エンジンを揺らした。
カテンさんが放った風の刃が化け物を両断、けれど効果は殆ど無いみたいで懐へ飛び込んだセイグリッド・エンジンを執拗に追いかけ回した。薄虹の水路は螺旋を描くように、ダンゴムシの大怪獣の脇下から頭上まで一気に駆け上る!その速度を追い切れずに明後日の方向へ噛み付いていた。
ボクの姿を追って顔が上向く。真っ直ぐ先でセイグリッド・エンジンが嵐の中で輝いて。
そして上から撃ち下ろすようバルカン砲が、大口径の暴風雨を容赦無く降らした!!
縄張りに入ってごめんなさい!でも、ボク達は負けないよ!!
大自然の猛威を前に、手を抜いて気遣って立ち回るなんて出来ない。深未踏地は一瞬の油断で熟練の開拓者でも帰らぬヒトになる危険領域。それも情報が全然無い未知の危険地帯に潜む、あまりに危険な群体生物。
バルカン砲の掃射は、彼らが今までに受けたあらゆるダメージの中で最大級の一撃だったらしい。あっという間に崩れ去って、粉微塵になって大怪獣のアギトが消滅していった。
バラけたダンゴムシ達は一目散に散って行く。ボク達を諦めてくれたようだった。
『にゃはは、大型の生物に擬態する群体生物の類の存在は幾つか知られています。しかし大怪獣サイズとなると未知の領域ですね。空の上の生物は皆大きいですし、それに対抗する為に大きくなったのでしょうか。』
セイグリッド・エンジンが無かったらかなり危なかった。シラヌイだと強風で制御が危ないし。薄虹の水路をがっしり掴んで動ける地走型の利点がキラリと光った。
「一旦撤退しましょう。」
征天丸搭載のドローン兵器が効果薄い事も分かったしね。一度撤退して装備を練り直す事になったのだった。




