522、そして再び遙か上空の冒険へ
「シブサワグループはサンライズの違法な暴挙を直ぐに取り締まって、ちゃんと応えてくれました。ですから、ボクもまたシブサワグループと手を取り合って進んで行こうと思います!」
大手ニュースチャンネルにて、ちゃんと宣言する事にした。世間はシブサワグループがボクのスポンサーを降りるとか、今後の虹渦島事業が頓挫するとか大賑わいだったから。
「ラフィさんは今回の件を許すという事でしょうか?」
ニュースキャスターのお兄さんの声に、んーんと首を振った。
「ボク個人がタマシティ代表のように振る舞って、許すだなんて言ったりしません。ボクが傷付いた分は、モモコさんと話し合って許し合いました。でもこの件を決して忘れません。2度と起きないよう、祈っています。」
ボクはしっかりカメラを見つめて言い切った。
「これからサンライズは裁判で公正に裁かれます。それで、良いんです。ボクはシブサワに脅されたりなんてしていませんし、利益に打算にお金に。そんなごちゃごちゃした理由で手を取るつもりもありません。ただ、シブサワグループの皆が大好きだから。」
「サンライズが悪いからシブサワの全部が悪い、とかじゃなくて。一人一人を見て付き合って行きたいと思います。」
素直な言葉にキャスターのお兄さんは拍手で軽い拍手で応えてくれて、
「タマシティを揺るがした一件は、今後も注目して行く事になるでしょう。」
ニュースチャンネルの収録が終わったのだった。
スーパーセルの中に前線基地を作って1週間以上経ち、カテンさんのお手伝いもあって無人ドローン探査で周辺の地形が分かってきていた。
ボク達も装備の修理が終わって、冒険を再開しようと訪れる。シブサワプロモーション本社ビルにあるプライベートルームから、一直線に超巨大積乱雲の内部へ。モモコさんとキュエリさんも一緒に着いてきて、珊瑚の中に造られた基地の様子を伺う。
「わぁっ!大分設備も揃ってきましたね。」
街にする予定は無い分、研究に使われる設備一式が揃った研究所が出来ていた。
「魔力濃度の都合上、ここで手に入ったサンプルを虹渦島へ持ち帰ったとしても変質してしまう可能性が御座います。出来る限り現地で調査した方が良いのでしょう。」
凄まじい魔力が渦巻くスーパーセル内と、虹渦島じゃ大気中の魔力濃度が全然違う。そのせいでここで採れたサンプルを向こうに持って行って研究するのは良くないって。
「ふむ、前来たよりも騒音も随分和らいで静かになったね。あちこちで共同出資している分、研究者達の居心地良い空間作りにより予算を割ける。」
基地内は何処からか陽気なBGMが流れて来ていて、中心に大きな広場があった。朝昼晩、そこに料理が並んで皆で集まって食事をするらしい。並んだ木の机にキャンドル、この森の苔むしたの地面の上に並ぶ。
「風情があって良いわねー。虹渦島と違って、未開の部族のキャンプ地みたいな。キャンプファイヤーは無いの?奇妙な祭壇は?」
茶化すタマさんの言いたい事も分かるような。敢えて文明の色を薄くした前線基地の雰囲気は、未開の地を研究して開拓していく気持ちを盛り上げてくれる。
ボクの袖がグイッと引っ張られた。
「亀さんも居たんですね。」
何処までも首の伸びる亀さんが、のそのそ歩いていた。長い年月を1人で過ごした亀さんは、前線基地の賑やかな雰囲気が気に入ったみたい。沢山可愛がられていたのか、前見た時と比べて甲羅がツヤツヤに磨かれていた。
ボク達は大きな幕舎の中へ入って行く。早速探査計画のミーティングが始まった。
場にはレイホウさんやビャクヤさんも来ていて、冒険の再始動を前に楽しげだった。椅子に腰を下ろして、卓上に両腕を置く。楽しみなボクのお口はふにふに、カテンさんも顎をボクの頭の上に乗せて目前のホロウインドウを眺めていた。
「今回は虹渦島の時とは違い、ラフィの転移で安定して来ることが難しい場所だ。だから探索の進行度合いに合わせて、各地に前線拠点を設けて行く必要がある。」
モモコさんが早速話し始めた。ボクの転移は空間の座標を記録して、そこへ距離を無視してワープゲートを繋ぐ物。虹渦島も大空を回遊しているけど、速度はゆっくりだし定期的に来ていれば問題ない程度。でもスーパーセルはとっても速い速度でお空を駆け抜けて行っているから、かなり頻繁に来ないとワープゲートが上空の何も無い空間に置いて行かれちゃう。
でもサイバーシティで色々事件を追ったりしていると、スーパーセルへのアクセス維持の為に掛かりっきりになれるとは限らないし。その点物理的な入り口で空間の出口を固定するプライベートルームなら安定したアクセスを確保出来る。
お値段がすっごい高いけど、そこは共同出資パワーで問題無し。お金だって冒険に必要な物。皆の出資でこの冒険が支えられていた。
「虹渦島の時よりも冒険って感じがするわね。こう、進捗が分かりやすいじゃない。」
「あはは、そうだね。この場所の前線基地を中央基地にして、ここから各前線拠点へアクセス出来るようプライベートルームを繋いで行こう。」
プライベートルームの応接室を潜った後、更に別のプライベートルームの応接室を潜ることは出来ない。一度最初に通った応接室のドアから元の場所へ帰れば大丈夫だけど。応接室経由の移動は不完全転移のマギアーツの応用によるもの。空間に対する安定性を著しく欠いて危険だってお話だった。
だからこの前線基地に勤めるヒト達は、ボクのワープゲートで来る必要があった。ボクの力に大きく頼ったプロジェクトは潜在的な危険性を孕むけど、それでも参加者は事前に契約を交わして同意していた。
‥‥もしボクに何か不幸があったら。ここに勤めるヒト達は応接室経由でしか帰れない。応接室を経由すると24時間の縛りが課せられて、時間の経過で応接室に転移で戻されちゃうんだ。相当辛い想いをする事になると思う。それでも大勢がボクを信用してくれて、プロジェクトへ参加を申し出てくれていた。
「先ず目指すのは、この巨大陸珊瑚の連なる空間の上層だ。この空間もまた、積乱雲全体からしたら大した大きさじゃない。こうやって内部に大きな空洞が幾つもある可能性が高い。」
無人機の探査でスキャンしまわって、積乱雲全体の構造が朧げながらに見えていた。
「新発見された生物種のデータは分かる限り、ラフィのアプリへ登録を済ませてある。探索の際役立てて欲しい。」
レイホウさん、ありがとっ!伸びたイルシオンと軽くタッチ。
「今回の探索でも征天丸を使うわ。風や雷の騒音を最低限に出来るよう、バリア装甲をアップグレードしましたの。これでもっと快適な旅を出来る筈です。」
もう一つ伸びたイルシオンがビャクヤさんともタッチ。モモコさんのちょっと羨ましげな視線がボクを突いていた。
「必要な装備があったら言ってくれ。最大限のバックアップを約束する。」
モモコさんにもイルシオンが。2本伸びた純白の帯と両手でハイタッチ。会議室は和やかな雰囲気だった。
『ではでは、原生生物捕獲用のネットや檻を調達出来ますか?生きたサンプルがあった方が何かと便利でしょう?』
フィクサーさんの声に、モモコさんは勿論と返す。ボク達の前にキャプチャーネットに似た装備と、薄透明なビニール状の袋が用意された。
「用意が良いじゃない。事前に話が付いてたんでしょ?」
「サプライズ的に用意するよう、当機が申請を出しておりました。貸与では無く、授与となりますので餞別として受け取っておきましょう。」
「良いのですか?!ありがとうございます!」
説明がホロウインドウのメッセに届く。フィクサーさんが読み上げてくれた。
『生体捕獲用キャプチャーネット。ネットを噴射すれば、掛かった獲物を転移で捕らえパッケージへ閉じ込める事が出来ます。パッケージには浮遊のマギアーツが付いていますので、移動も楽ちんですね!』
タマシティで見た、電車の通り道を覆っていた透明な強化ビニール。それを応用したパッケージは、柔らかくてとっても頑丈。理論上キメンですら閉じ込めれば出られないってお話だった。
「柔らかいから生体が暴れても怪我をしませんし、普段は邪魔にならないよう畳んでおけます。その分お値段はかなりしますが、当機としてはこれぐらいの支援は当然かと。」
虹渦島で入手した新技術を携えてスーパーセルを冒険する!そう思うと一層ワクワクドキドキ。
「これで色んな生物を捕まえて来ますから!」
早速幕舎を飛び出した。既に征天丸が発進準備を整えて浮かんでいた。わっ!中の様子が全然違う!
前は実用的な移動用拠点で、機材が剥き出しな無機質空間って感じだったのに。タマさんもうーわ、と声を漏らす。
「何よコレ。メガコーポの役員が使う高級タクポかしら。」
内部の空間拡張はより広めに、床を清潔なカーペットが覆いふかふかソファーのある寛ぎ空間が足されていた。ザックリ研究スペース、居住スペース、リラクゼーションスペースに別れている。
「ソファーに映画の見れるホロウインドウ、簡易ですが良デザインの浴槽付き。冷蔵収納にも高級酒の類にジュース類がズラリ。ホテルのようで御座います。」
『食料品も上等な物が揃ってますね!快適な空の旅の要素を詰め込んだようです。』
ビャクヤさんは得意げに。
「赤翼のモデルの中でも、最高級品よ!空の一流ホテルを目指して設計された最上級の内装なの!ほら、壁のを見なさい!」
壁の一部分が大きな水槽になっていて、中に生物を飼育出来るようだった。
「お気に入りのペットと一緒に空の旅をってね。勿論ラフィの場合は、ここに冒険先で捕まえた小動物を飼うのかしら。」
何それワクワクする!
「良いじゃない。綺麗なアクアリウムを作れれば旅の癒しになるわね。」
「当機がセッティング致しましょう。」
『ワタシも協力しますよ?』
「我も生物の専門家だ。出来る限りの助言をしよう。」
音楽を流そうと思えば、征天丸内に上品なクラシックが流れる。勿論流行りのアニソンまで収録数がかなり多い。
モモコさんもレイホウさんとコソコソ。
「キミはああいうの持ってるかい?」
「いや。タクポはあくまで移動用だろう?」
「あはは、だよね。流石にホテルレベルの設備はねぇ。」
とっても素敵な内装なのに、モモコさん達レベルのヒトも使ってないんだ。そんなコソコソ話にビャクヤさんは苦笑い。
「‥‥コンセプトは良いのですけれど、実際買って下さるのはコーポの方よりも資産家の方が多いですわ。その、道楽品として。」
タマさんもちょっと悪い顔で。
「でしょ?こんなの乗ってたら笑われちゃうわよ。キミの職場は空にあるのかい?なんて。アイツら見栄の為なら馬鹿みたいに散財する癖に、こういう道楽品っぽい下品な高級品をバカにするのよ。アイツらにとってオモチャって感覚なのよね。」
モモコさんとレイホウさんは揃って苦笑、ビャクヤさんに軽く謝っていた。
「‥‥まぁ、私もコーポの方への売れ行きはそこまで期待していませんでしたし。余計な機能を省きつつ実用性抜群で、それでいて最高級のブランドがコーポの方のトレンドですわ。」
あくまで仕事用、職場にオモチャを持って来るなって感覚なのかな?でもボクはこういうの好きです。お空の秘密基地みたいなロマンがあって楽しいですから。
「まぁ快適な空の旅になる事は間違いない。寧ろよくこの内装にしてくれたって話さ。コレに乗って取引先の役員を迎えに行く訳じゃないんだ。最高のチョイスだよ。」
ハッチを閉じて、カテンさんが征天丸を巻く。
「じゃあ行ってきます!!」
ボクの合図で征天丸が動き出し、過酷なお空の冒険が始まったのだった!




