第三話 魔王と貴公子
その後、わたしたちはアメリカの艦爆を二機、艦戦を四機落とした。仲間がバタバタと落とされていく様を見た敵機が身をひるがえして逃げる。
「逃がすかっ!」
スロットルを開いて追撃しようとした時、坂井先輩の声が無線機から聞こえた。
《山ノ井二飛曹、深追いはするな。我々の任務はあくまで上空哨戒だ》
「わかりました」
闘志を収める。
《燃料が少なくなった。いったん基地に帰投して補給しよう》
「了解です」
坂井先輩、わたし、羽藤二飛曹の順に着陸。指揮所に戦果を報告に行く。
「山ノ井彩音二等飛行兵曹、戦果を報告いたします。敵艦上戦闘機一機を撃墜いたしました」
上官への報告を終えた時だった。
「はぁ!?撃墜ぃ?配属されたてのヒヨッコが?」
そういいながらドアを開けて入ってきた男がいた。
(うわっ、背ぇ高っ・・・・・・・!)
坂井先輩よりも高い身長を第三種夏季軍服に包んでいる。
「おい西澤、そんなこと言うなよ」
西澤と呼ばれた人は、右手で頭を掻きながら言った。
「あぁ、すまんすまん。ちょっと驚いたものでな」
羽藤二飛曹がこっそり教えてくれる。
「同じ台南空の西澤さん。階級は一等飛行兵曹。坂井さんと並んで『ラバウル三羽烏』って呼ばれる人だよ。あだ名は、『ラバウルの魔王』。ちなみにもう一人は太田一飛曹ね」
へぇ~。
「さて、任務に戻るぞ。西澤、またな」
「おう、邪魔したな」
指揮所を出た途端、坂井先輩はポケットからタバコを取り出した。一本取って口にくわえると、わたしにも箱を差し出した。
「お前も吸うか?」
「いえ、わたし十九なんで・・・・あとそれ、カナカじゃないですか。阿片入りの」
坂井先輩は、ちょっと笑って言った。
「バレなきゃいいんだよ。バレなきゃ」
その瞬間、背後から笹井中尉の声がした。
「坂井、それはカナカじゃないか」
先輩の笑顔が凍り付く。油が切れた機械人形のようにふりむいて、そこにいる笹井中尉を見て、さらに笑顔が凍り付いた。
笹井中尉は一応笑ってるけど、額には青筋が浮かんでいる。
わたしと羽藤二飛曹はそそくさとその場から離れた。
坂井先輩は、ヘビに睨まれたカエルのように押し黙っている。笹井中尉がさらに続けた。
「それを吸ってはいけないことくらい君も知ってるだろ?」
「はい、でも、まともなタバコがないんですよ」
笹井中尉は、「はぁ」とため息をつくと、ここで待っているように言い、士官室から大きな箱を持ってきた。地面に置かれたそれを見た先輩が声を上げる。
「うっひょ―!タバコだぁ!しかもめっちゃ高いやつ!さすが笹井中尉、お金持ちですねぇ」
笹井中尉は箱を指さしながら言う。
「全部お前らにやる。カナカなんて捨てろ。あと、俺は決して金持ちではないから、そこのところは覚えておけよ」
羽藤二飛曹がまた耳打ち。
「笹井中尉は造艦大佐の息子なんだ。あと、大西滝次郎中佐の義理の甥にあたるんだ。本人はああいってるけど、けっこうお金はあるよ。ちなみに、あだ名は『ラバウルの貴公子』とか『ラバウルのリヒトフォーフェン』とか。時々お菓子もくれる」
造艦大佐の息子・・・・・そりゃ金持ちだな。
零戦に乗り込み、再び空に舞い上がる。
敵の二次攻撃はないらしく、敵機の姿は見当たらない。
花吹山はいつも通り噴煙をはき、海はきれいな青色をしている。一見平和な光景だけど、そこかしこに作られている見張りやぐらがその平和が仮初のものだということを告げていた。
ちなみに、先輩のあの技は、「木の葉落とし」というらしい。「お前には危険すぎる」と言われて、やり方を教えてもらえなかった。
その後も敵機の襲撃はなく、平和な日々が続いた。しかし、新たな戦いは、すぐそこにまで迫っていたことを、わたしたちは知る由もなかった。
保信「保信とぉ!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびのぉ!」
三人『次回予告外伝番外編~~~!』
―♪さらばラバウルよ また来るまでは しばし別れの涙がにじむ・・・・・・・
春音「さて、今回は台南空のトップエースたちがたくさん出てきましたね。」
保信「戦記物には必ずと言ってもいいほど出てくる人たちだよ。」
みやび「次回は、さらにすごい人が出てくるんですよね。」
春音「そう!次回は、日本海軍のトップエースが登場!それでは皆さん!」
三人『お楽しみに~!』




