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紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
番外小噺
39/42

犬の場合 三






「ウルフェイン様、いい加減あの女を構うの止めないと、取り返しのつかない事になるっすよ!」

「何を言っている。それにルリーナをあの女呼ばわりするな、あれは俺の妹のようなものなのだぞ?」


 不機嫌そうに叱ってくるウルフェインに、ドゥーエはあぁ、と頭を抱える。何度言ってもこれだ、ちっとも事の深刻さを理解しちゃいない。


「ウイネ様に誤解されてもいいんっすか!?」

「っ!!」


 ウイネ、という言葉に目を見開いたウルフェインだが、次の瞬間には首を振っていた。


「誤解もなにも、ウイネは何とも思ってはないだろう。それに何度言うが、ルリーナは妹だ」


 その言葉に呆れ果て言葉もでない。ウルフェインは妹というが、ルリーナのウルフェインを見る目は女のそれだ、何故そんな事も分からないのか。尚もいい募ろうとすると、ウルフェインが先に口を開いた。


「お前もしつこいぞ、この話は終わりだ、いいな?」


 そう言って去っていく後ろ姿を、呆然と見送る。困る、それでは困るのだ。

 ウルフェイン自身の幸せについてもだが、この問題はドゥーエの幸せもかかっている。それなのに、肝心のウルフェインには取り付く島もない。このままではサエナに嫌われてしまうと絶望が押し寄せ、ドゥーエは頭を抱え、最悪だ、と呟く。

 

 しかし、そんな自分にこれからさらなる最悪の未来が訪れるとは、流石にこの時は思ってもいなかった。




「貴様とはこれまでだ。もう顔を見せるな」


 冷たい言葉を浴びせられたドゥーエは、その言葉を理解するのにかなりの時間がかかった。


「それってどういう……」


 頭の中に警鐘が鳴る。緊張なのか、喉かからからに乾いて、掠れた言葉しか出せない。


「貴様の上司はウイネ様を裏切った。それは我々を愚弄する行為だ。そんな奴と、そんな奴に仕えている貴様は、到底許すことも信用することもできん」

「なん、で……ウルフェイン様達は関係ないじゃないっすか! 何で、何で俺達が……それにっ、あの女は妹みたいな存在だってっ」

「だから何だ? そんな話、今のこの状況でどう信じろと? お前も城で流れている噂を知っているだろう」


 それを言われると、ドゥーエも言葉が見つからない。ウイネが王妃を通してウルフェインを振った後から城に流れ始めた、ルリーナとウルフェインが恋人だという噂。それを耳にした戦乙女達の怒りは、関係の無い筈のドゥーエですら青ざめるほどだった。

 勿論、ドゥーエは噂が真実では無いと知っている。しかし、ウルフェインに何度も何度も忠告したにも関わらず、その言葉が聞き入れられる事もなかったのだ。


「それにどうせ大掃討が終えれば別れる事になるんだ、それが早まっただけの事、何をそんなに取り乱す事がある」


 不思議そうに首を傾げるサエナに、愕然とする。ドゥーエは、大掃討が終わった後も、サエナと別れる気など無かった。むしろ、大掃討が終われば、結婚しようと思っていた程なのだ。なのに何故、こんな事になっているのだろう。


「では、達者でな」


 そう言って去っていく彼女は、茫然と立ち竦むドゥーエの事を振り返りすらしない。その事がより一層、ドゥーエの心に突き刺さる。サエナは、こんなにもあっさりと自分を捨てるのか。確かに付き合ったのも、半分泣き落としのようなものだった。しかし、一緒に過ごした日々の中には、彼女も楽しそうに笑ってくれた事だってあったのに。


「無理っす……」


 一人残されたその場で、ポツリと呟く。


「別れるなんて……別れるなんてっ無理っす!」


 グッと拳を握りしめ、空に向かって吠える。そんなドゥーエの目は、ギラギラと鋭く光っていた。





「いいっすかウルフェイン様! ちゃんとウイネ様と話し合ってくださいっ!」


 そうだそうだ、と大きく頷く男達に囲まれ、ウルフェインはしどろもどろに返した。


「だ、だが! お前達も知っているだろう。俺は今、ウイネに近づくことすら儘ならないのをっ!」


 そんな弱音を吐くウルフェインに、ドゥーエを初めとした男達は、険しい顔で詰め寄った。


「いいっすか? 言っちゃ悪いっすけど、俺たちはウルフェイン様のせいで別れたんですからねっ!」

「そうです、あの変な噂が流れてからというもの、彼女の態度が明らかに違って……」

「俺なんて、ウルディルドの男は信用できないって! これはウルフェイン様のせいですよっ!」


 今ここでウルフェインを囲むのは、皆戦乙女の元恋人を持つ騎士達だった。やはり、あの噂やウルフェインの態度のせいで、皆恋人から別れを告げられたらしい。そんな男達を前に、流石のウルフェインも強くは出れなかった。


「しかし、あんな噂、誰が信じる? お前達も知っているだろう? 俺とルリーナは家族なんだ」


 こんな時になってまで、馬鹿な事を抜かすウルフェインに怒りが湧く。何でこの人は、こんなにも世間の事に疎いのか。きっと本人が思っている以上に噂は悪質で、そしてウルフェインの態度がそれに拍車をかけているというのに、何故わからないのだろう。

 しかし本気で分かっていない様子のウルフェインに対して、それを説明しても無意味だろう。もっと物分かりのいい人間だったなら、とっくに事態の深刻さを理解している筈なのだから。


「取り合えず、今日は何としてでも話し合ってください! 俺たちが隙を作りますから!」


 オルクスが力強く宣言し、ドゥーエ達も大きく頷いた。何とか誤解を解いて貰わなければ、自分達の恋すら儘ならない。ギラギラと目付きを鋭くした男達に見つめられ、ウルフェインは珍しく顔をひきつらせた。


 そうして、他の騎士達の協力を仰ぎ、なんとかウイネを一人にする事に成功したドゥーエ達だったが、事態はそう上手く転ばなかった。いや、むしろ悪化したと言った方が適切だろう。なんせ、ウイネの相棒ユエドゥラが、ウルディルドの者の手によって、傷付けられたのだから。


「終わりだな……」


 ポツリとそう呟いたのは、ユエドゥラを傷付けた侍女を牢屋に連れていった、オルクスだった。


「ああ、もう無理か……」


 じっと床を見つめていたラガスは、唇を噛み締めた。隣に立っていたドゥーエも、ぐっと拳を握りしめ眉を寄せる。そんな暗い雰囲気の中、突如場違いな明るい声が響いた。


「ちょっと待ってよ皆さ~!俺はトカゲちゃんを諦めたりなんかしないよ?」


 陽気な声でそう言ったのは、オルサロだった。

 

「むしろこれはチャンスというか~」

「はっ!? どういう事だ?」


 一人明るいオルサロに、男達は皆怪訝そうにしている。こんな状況になって、チャンスも何もないだろう、と。


「だってさ、可笑しいと思わない? あの侍女、わざわざユエドゥラを狙ったりしてさ? 明らかにウイネ様に敵意あるよね」

「そりゃまぁ、そうだな」

「そこで思い出して欲しいのよ、あの侍女が、だれの侍女かって事!」

「……確か、ルリーナ様?」


 そんなオルサロとオルクスのやり取りを聞いていたドゥーエは、ふと顔をあげた。


「この件、あの女の指示って事っすか?」


 ルリーナをあの女呼ばわりするドゥーエに、周囲の者は苦笑する。


「あの女って……。まあその気持ちは分からなくもないけど」


 そう言ったオルクスは、苦笑いしていた表情を、真剣なものに変える。


「確かに、ルリーナ様は怪しい。でも、上層部がルリーナ様に甘い上、信用も得ているからなあ。そんなルリーナ様を取り調べる事は、無理じゃないか?」

「確かにそうだけどさ~? 勝手に周囲を調べるのは出来るじゃん? で、俺たちが真相を解明したら、もしかしてトカゲちゃんも見直してくれるかも~って思ってさ!」

「成る程! 確かにそうっす!」


 満面の笑みで頷く一同。オルサロの提案は、ここにいる男達にとってかなり魅力的なものだった。むしろ、もうそれくらいしか手段が残されて居ないというのもあったのだが。

 

「明日はいよいよ大掃討だ。調べるとなると、戻ってからになるな」


 そう言ったラガスは、顔をしかめる。大掃討が終われば、彼女達は帰ってしまう。いつ帰るのかは知らされて居ないが、調査は間に合うだろうか。


「ドゥーエ、彼女達が帰る日がいつか、知らないのか?」

「ん~、終わったらすぐ帰るとは言ってたんすけど……」

「でもさでもさっ、慰労の宴とかあるじゃん!? それがたしか、大掃討の一週間後だから……」

「間に合うかもしれんな」


 少しずつ見えてきた希望に、皆が表情を明るくする。そしてお互いの手を握りしめ、強く強く誓い合う。


「いいっすか? 何が何でも真相を明らかにして、サエナに見直してもらうっすっ!」

「トカゲちゃん、喜んでくれるかなぁ~」

「うちの子はたぶん、喜んでくれるよっ」

「むしろ喜ばなかったらお仕置きだ」


 そう言って笑った男達は、明日の大掃討に向け、気合いを入れ直した。……明日が、彼女達との別れの日になるとも知らずに。






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