↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
番外小噺
PR
36/42

乙女の溜め息 下






「それで合同訓練、ですか……」


 悲壮な顔をして言ったサエナに、気まずげに頷くウイネ。それを切っ掛けに、その場にいた少女達が次々と膝をついた。


「そ、そんなっ!訓練の時だけがっ!あいつと離れられる時間だったのにっ!」

「訓練だけがっ、訓練だけがあいつから解放されてっ、息をつける時間だったのにっ」


 あぁっ!と絶望する少女達を前に、ウイネもかける言葉が見つからない。ここに居るのはウイネと一緒に嫁いで来た乙女達、つまりウルディルド飛竜隊の面々だ。

 悲痛な声を上げる乙女達に、同じ演習場にいた相棒の飛竜達が心配そうに寄ってくる。そんな心優しい飛竜達に、乙女達の嘆きは増すばかり。


「ウイネ様っ!何とかなりませんか!?うちは家でもどこでも付き纏われて、休まる時間がないんですっ」


 そう言ってウイネにしがみついてきたのは、モエという名の元戦乙女の一人。以前ウイネが書いた手紙で、耳飾りを処分するよう言っていたのは彼女である。


「なんだ、モエの所もか。実は私の所も、どこに行くにも報告しろと煩くてな」


 うんざりしたように言うのはナウラだ。彼女は例の手紙で、髪飾りを処分しろと言っていた人物である。


「くそっ、昼間もあの野郎と顔を合わせるだと?やってられるかっ」


 一際口悪く悪態をついたのはマヌヤだった。彼女は例の手紙で一番気になる、あれを処分しろと言っていた人物だ。ちなみちあれの正体は、未だ謎のままである。


「いや、そう言われてもな。向こうは随分張り切ってるようで、すでに国王を説得済みだし、こちらもちゃんとした理由が無ければ断るのは……」

「可愛い可愛い俺のトカゲちゃぁぁぁあん!聞いたかいっ!?合っ同っ訓っ練!ひゃっふぅぅぅう!!!」


 ウイネの言葉を遮って突如演習場に乱入してきたのは、やけにテンションの高い一人の騎士だった。その騎士は演習場を見渡し、ウイネ達を見つけると、一目散に駆けてくる。砂煙を巻き上げ、目を輝かせるその男は、まるで獲物を見つけた肉食獣のようだった。


「きっさま!トカゲって呼ぶんじゃねぇって言ってんだろぉぉがっ」


 そんな男に怒声を上げたのは、やはりマヌヤだ。彼女から迸る怒気に、乙女達は顔をひきつらせる。そんな状態の彼女に臆する事もなく、男はマヌヤに抱きついた。


「んぅぅ~っ、俺の愛しのトカゲちゃん!今日も可愛いねぇ~」


 デレデレと鼻の下を伸ばす男に、乙女達はもはやドン引きである。もちろん、それはマヌヤもだ。


「くっそ、どけっオルサロッ!引っ付くんじゃねぇ!」


 ゲシゲシと遠慮なくオルサロの足を踏みつけ、抵抗をするマヌヤだったが、その効果は全く見られない。そんな混沌とした場に、新たに招かれざる客が到着した。


「あ~!ずっりぃ、オルサロ!先に行くなんてっ」

「そうっすよ!俺だってサエナに早く会いたかったのにっ」

「ナウラ、会いたかったぞ」


 がやがやと好き勝手騒ぎながら演習場に入ってきたのは、モエの夫オルクスとドゥーエ、そしてナウラの夫のラガスだ。そこにウルフェインの姿が無いことに密かに安堵つつ、ウイネは渋面を作った。


「一応今は訓練中なのだが……」


 ウイネの呟きも何のその、男達はそれぞれ溺愛する妻たちの元へ直行する。そんな夫達に、妻達は顔を引きつらせる事しか出来ない。


「サエナッ!俺に会えなくて寂しくなかったっすか!?俺は寂しかったっす!」

「……そ、そうか」


 何故か半泣きで抱きついてくるドゥーエに、サエナも戸惑いながらも少し嬉しそうにしている。


「モエ~、俺も寂しかったんだけど?慰めてくれないの~」

「ちょ、やめてよ馬鹿っ!ここは演習場っ」


 モエの頬に口を寄せようとしているオルクスは、その顔に腕を突っ張られ、顔面が歪んでいた。


「おいナウラ、夫に会ったというのに何だその顔は?キスして欲しいのか」

「いや、何でもないやめてくれ」


 然り気無く腰に腕を回され、身動き出来ないように拘束されているのはナウラである。その顔は何故か真っ青になっていた。



 一気に賑やかになった演習場に、飛竜達も楽しそうに喉を鳴らす。飛竜達には、番がじゃれあっているようにしか見えないのだろう。

 そんな一同を前に、渋面を作っていたウイネもつい笑いがこぼれた。何だかんだと文句をいいつつも、乙女達は皆とても幸せそうなのだ。その幸せそうな顔を見て、あの時素直になってよかったと心底思う。


「ウイネっ!」


 ようやく聞こえてきたその人の声に、やはり来たか、と振り返る。そのどこか上機嫌なウイネの様子に首をかしげながら、ウルフェインは愛する妻の元へ駆け寄った。


「どうした?何か良いことでもあったか」

「いえ、ちょっと……幸せだなと」


 珍しく素直に気持ちを吐露した己の妻に、思わず目を見張る。しかし、目の前で繰り広げられる部下達の光景に、ウルフェインも表情を柔らかくした。


「そうだな、俺も幸せだ」

「そうでしょう?」


 ふふふっと微笑みあう二人に、今ごろ自分達の上司が来たことに気がついたのか、一同が慌てて姿勢を正す。そんな部下達に、ウルフェインは真面目な表情を作り、声を張り上げた。


「この時間は、各自夫婦の絆を深める事!以上っ解散!」

「……はぁぁぁぁあっ!?」

――キュルルルルッ


 男達の歓声と女達の悲鳴が響く演習場で、飛竜達が歓喜の声を上げる。


「……おやおや、今日も賑やかな事だ」

「ふふっ、ほんとねあなた。お腹の子供もビックリしちゃうわ」


 庭園まで届いたその咆哮に、お茶をしていたウルディルド王太子夫婦は、幸せそうに笑いあったのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。