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紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
番外小噺
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35/42

乙女の溜め息 上


 欲しくて捕まえたくて仕方がない

   そして大事に大事にしたいのです。





「ウイネっ!ウイネ、どこだっ!」


 どこからか聞こえてくる大きな声に、庭に咲き乱れる花々を見ていたウイネは、またか、と呆れる。ウイネがウルフェインの元へ嫁いで一ヶ月が過ぎた。自分の夫となった人は、結婚前のいざこざが未だ尾を引いているのか、ウイネの姿が見えなくなると途端に騒ぎ始める。

 別に逃げたりしないのに、と一人呟きながら、渋々屋敷へと向かう。そして屋敷の中から聞こえる夫の怒鳴り声と、それを宥める使用人達の声に、やれやれと首を振った。

 

 ここはウイネとウルフェインが結婚するにあたり、急遽建てられた新居である。花が好きなウイネの為に立派な庭が造られているのだが、残念ながらこれまでろくに堪能出来た試しがない。

 

「まったく、せっかくの庭が……」

「っあーっ!見つけたっすウイネ様っ!はやく来てください~」


 ブツブツと文句を言いながら歩いていたウイネに、ドゥーエが大きな声を出しながら駆け寄ってきた。ウルウルと目に涙を溜めるその男は、相変わらずどこか犬を思い起こさせる。


「ウイネ様~っ、ウルフェイン様に無断で出歩かないでくださいっすよ~!俺らが大変なんすからぁぁ」

「いや、そう言われてもな……」

 

 だいたい出歩くも何も、同じ屋敷内である。それに、ウイネがウルフェインと離れてまだ一時間も経っていない。きゃんきゃんと喚くドゥーエに、困ったなと頭を掻くウイネ。そんな二人の空間に、突如怒声が響いた。


「ドゥーエ!貴様ウイネに何してる!」


 めらめらと背中に炎を背負って現れたのは、ウイネの夫であるウルフェインだ。相変わらずの強面、いや、今はその迫力も割り増しで、もう野獣と言った方が正しいだろう。


「ち、ちがうっすよ!何もしてないっすよっ!?」


 ドゥーエが慌てて否定するが、ウルフェインは殺気をみなぎらせている。そんな夫に、ウイネは呆れたように言った。


「フェイン、本当に何もされてないぞ。と言うより、普通に会話していただけだ」

「ぬっ、そうなのか?」

「ああ、それより私を探していたようだが、何か用だったのか?」


 その質問にたちまち顔を真っ赤にさせるウルフェイン。なぜそんな反応をされるかわからないウイネは、なんだ?と首をかしげた。


「そ、そのだなっ!!」


 目をキョロキョロさせ、いきなり挙動不審になったウルフェインに、ドゥーエが後ろからこそこそと耳打ちする。


「そ、そうだな、なるほど。……ゥ、ウイネっ、」

「……なんでしょう」

「その、で、出来ればだっ!俺の目の届かない所に行かないでくれっ!」

「はぁ……」


 そんな事を言われても、お互い訓練や仕事があるのだから四六時中一緒に、というのは無理な話だ。いったいどこまでの範囲で言っているのかわからず、ポリポリと頭を掻く。


「あー、フェイン?例えばだ、訓練の時はどうするんだ?」


 ウイネがおずおずと訊ねる。そのもっともな質問に、思わず言葉を詰まらせるウルフェイン。


「……っそうだ!全部合同にしようっ!」

「……」

 

 苦し紛れに出た言葉に、そんな無茶なっ!とウイネとドゥーエの心境が一致する。


「あー、それにほら、あなたは会議などもあるだろう?私はそれに出席する訳にはいかないし……」

 

 これならどうだ!と得意気になるウイネに対し、何故かドゥーエは不安そうだ。


「……っそうだ!今度から会議はドゥーエに行かせよう!」

「はぁっ!?無理っすよっ!」


 思わず叫んだドゥーエに、ウルフェインが睨みで黙らせる。流石に哀れに思ったウイネは、助け船をだした。


「フェイン、それは少し無茶が……そ、それにだなっ!それに、私は仕事を真面目にする、フェインが好きだ!」


 困った時にはこうするべし!とユルフェルの仲間達に教わった、所詮一撃必殺の言葉を使ってみる。すると効果は抜群か、みるみる顔を赤くさせ、あたふたとし始めた。


「そ、そうか、俺が好きか!」


 いや別にウルフェインが好きなのではなく、仕事を真面目にするウルフェインが好きなのだが……。

 新婚なのに冷めた事を考えているウイネとは反対に、勝手に都合の良い言葉だけを抜き出したウルフェインは、体から火が出んばかりに真っ赤になっている。


「お、お、俺もっ!ウイネが、す好きだっ」


 頭から湯気を出し、顔を強張らせて大声で叫ぶその男は、もはや人とは思えぬ迫力がある。しかし、そんな男に、ウイネはついつい笑ってしまうのだ。


「ああ、私もだ」


 無自覚にいちゃつき始めた二人に、一人貧乏くじを引かされっぱなしで、不貞腐れてしまったドゥーエが呟く。


「……俺だって、サエナとイチャイチャしたいっす」


 ポツリと呟かれたその言葉に、ウルフェインがキョトンとした。残念ながら、その仕草は全く似合っていなかったが。


「だから訓練を合同にしたらいいと言ったんだ。そうすれば一緒にいる時間が長くなるだろう」


 呆れた顔で言うウルフェインを、ウイネが呆れた顔でみる。そんな顔で見られているなど露知らず、ウルフェインはどこか胸を張っている。


「なるほどっそうっすね!流石ウルフェイン様っ、天才っす!」


 ひどく感動した様子のドゥーエは尊敬の眼差しをウルフェインに向け、そんな目を向けられたウルフェインはというと、満更でもなさそうに顔をニヤケさせていた。

 二人の何とも言えないやり取りに、阿呆らし、と呟いたウイネは、男達を残し一人屋敷へと戻っていった。






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