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紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
本編
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30/42

ただ話を聞いて





 思わず、といった風に叫んだウルフェインは、前のめりになった己の体勢に、はっとして居住まいを正す。

  

「っまずは謝らせてくれ、これまでの事、本当にすまなかった」

 

 がばりと地面に頭を伏せるウルフェインは、そのまま続けた。

 

「頼む、どうか話を聞いてくれ。聞くだけでいいから」

 

 頭を下げたまま悲痛な声で訴えるウルフェインに、否というほど鬼畜ではないが、だからといってすんなり話を聞けるかと言われれば、それもまた難しい。何も言わないウイネに、ウルフェインは頭を下げたまま続ける。

 

「俺は、話を聞いて貰えるまでは帰らない。もうこれ以上俺を見たくないと言うなら、どうか話を聞いて欲しい」

「……そこまで言われるなら。話を聞くだけです」

 

 渋々承諾したウイネに、漸く顔をあげたウルフェインは、ありがとう、と小さく呟き、大掃討の後の顛末を語り始めた。

 

 

 まず、ユェドゥラを害した事件について。

 あの後、拘束された侍女を厳しく尋問した結果、彼女はルリーナの指示だったと、泣きながら自供したという。

 まさか王族にも家族のように可愛がられ、賢く美しい才色兼備のルリーナが、そんな馬鹿な真似をするはずがない……そう思った王を始め、王太子やウルフェイン、国の重臣達は、その侍女の話をまったくの戯れ言と、これっぽっちも信じなかった。

 

 しかし、きちんと調べると宣言した以上、外交上一応は調べなければならない。しかし渋々調査をした結果、驚くべき事が分かった。なんとルリーナが犯行に使われていた薬品を、裏ルートから秘密裏に入手していた事実が判明したのだ。

 そんなまさかと調べを進めると、他にも数々の証拠が見つかり、事件はルリーナの指示だという事が確実となる。その驚くべき事実に、ルリーナと親しくしていた王族を始め、ウルフェインは大変衝撃を受けた。

  しかし、ルリーナは国内でも影響力を持つ王妹の娘だ。すぐに処罰を下す訳にも行かず、処分を決めかねていた時だった。

 

 独自にルリーナの調査を続けていたドゥーエから、また新たに衝撃の事実が伝えられたのだった。

 

 あの大掃討でウイネ達を窮地に追い詰めた殺蟲玉。あの殺蟲玉は、ルリーナの策略によって本来渡される物とは別の、まだ実験段階の試作品が渡されていたのだ。そのせいで大爆発が起き、ウイネ達が一時孤立する事態になってしまったという事だ。

 

「……やはり、ルリーナ様でしたか」

「気付いていたのかっ!?」

 

 目を剥いたウルフェインに、そりゃ何となくわかるだろう、と呆れ返る。わざわざ辺境国を怒らせてまでウイネに何か仕掛ける人物など、そう居るわけがない。

 

「な、なぜ」

「なぜって、そりゃそうでしょう。恋人と噂のあった女なんて、好かれる筈がないでしょう」

「なっ、ちがうっ。ああそうか、そこからだったな」

 

 頭を抱え、項垂れる彼を横目に、今さら何を言っているんだと溜め息をつく。やはり話など聞くのではなかった、帰ってもいいだろうか、と思い悩む。

 そんなウイネの様子に気がついたウルフェインは、慌てて立ち上がった。

 

「ま、まだだっ!まだなんだ、大事なのはこれからなんだ、続きを聞いてくれ!」


 その懇願にもう一度深く溜め息をつき、小さく頷いた。そんな姿に安堵の表情になったウルフェインは、また徐に話し始めた。

 

 

 

 あの大掃討の時、ウイネ達に向かって撃たれた空砲は、本当に苦肉の策であったらしい。ウイネ達と分断されてすぐに、ウルフェイン達は慌てて駆けつけようとした。しかし、爆発の影響で森から蟲が押し寄せ、いつまでたっても森側で戦っていたウイネ達の所までたどり着く事ができなかったそうだ。

 遮られる視界にウイネ達の状況も読み取れず、焦った他の者達も、様々な方法を試みたのだが蟲が邪魔で上手くいかない。早く何とかしなければと、蟲の相手は他国に任せ、ウルディルドの騎士団は戦乙女の救援に向かったのだが、未だに舞い上がる砂塵と薬粉に解決の手立ても時間もなかった。

 

 そして、とうとう最後の手段として、空砲の風圧で何とか視界を確保するという、一か八かの賭けに出たのだ。

 

 ウイネがあの時聞いた空の唸り声は、一度目の空砲の音らしい。一度では中々晴れない視界に大砲の数を増やした二度目は、思った以上に砂塵を吹き飛ばす事ができたのだが、思わぬ事に、僅に残る蟲の平静さも木っ端微塵に吹き飛ばした。

 そして大混乱の戦場にもう猶予もないと騎馬で飛び込んだのはいいが、あまりの足場の悪さに、助けに入った筈が被害を出していては、ウイネ達の激怒も当たり前の事だった。

 

 そこまで説明をして、本当に申し訳なかったとまた頭を下げるウルフェインに、何とも言えない気持ちになる。説明を聞いてしまえば、なるほどな、とは思う。

 ルリーナの行動は別として、あの戦場であった事に関しては、理解できた。ただ、理解できただけで、許せるかと言われれば別だが……。

 

「許せないと思うのはわかる。だからこそ、我々は賠償にも応じた。金で済む話と言うつもりもないが……」

「話はわかりました。ですが貴方も分かっていただけると思いますが、だからと言って許せるほど私は心が広くありません。……むしろ、自分で考えていたより狭かったようですね」

 

 自嘲気味に笑ったウイネに、ウルフェインは慌てて首を振った。

 

「これから先、あの時のウルフェイン殿の判断は、理解できるようになるかもしれません。私も兵ですので。ただ、ルリーナ様に関しては一生許すことはないでしょう。……貴方は自分の妻に対して、理解と和解を求めているのかも知れませんが、これだけは何を言われようが、絶対変わることはありません」

 

 その言葉に、ウルフェインは顔をひどく苦しそうに歪めた。

 

「いや、ルリーナとは結婚していない。ルリーナは、国境近い山奥にある塔に生涯幽閉が決まった……もう会う事もないだろう」

「っそれは……御愁傷様と言えばいいですか?残念でしたね、恋人を失って。でもね、死んだ訳じゃありません。それで良いじゃないですか。私を酷いと思いますか?でも、あの時戦乙女は誰が死んでも可笑しく無かった。戦で何を生温いと思われるかも知れませんが、もしかしたら誰かの恋人が、大切な人が死んでいたかもしれない。それだけの事をあの人はしたんです。ユェドゥラだって、何もしていなかったのに一方的に傷つけた!」

 

 ウルフェインが悲しげに絞り出した言葉に、胸が苦しくなって叫ぶ。ルリーナを失った事を嘆く彼に怒りが湧いて、鋭い言葉が堰を切ったように溢れだす。怒りと悲しみの感情が渦巻き、もうウルフェインの顔を見たくないと、咄嗟に立ち上がって背を向けた。

 

「っ話は聞きました、お帰りを」

「ま、まってくれ!まだ話は終わってない!」

「っもう聞く話はない!」

 

 引き留めようとするウルフェインを振り切り、ウイネは後ろを振り替える事無く、暖かな場所から走り去った。

 





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