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紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
本編
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22/42

居場所は無いの





 全ての蟲を討伐し終えたウイネ達は、後始末をかって出た騎士達に後を任せ、一足先に城に帰ってきていた。他の者は先に部屋に戻り、久し振りにユェドゥラと水入らずの時間を過ごしていたウイネは、聞こえてきた足音に後ろを返った。

 

「ウイネ!そっちは大丈夫だったかっ」

「ええ、問題ありませんよ」

 

 こちらに駆け寄るウルフェインも恐らく、下の者に後を任せ、先に帰ってきたのだろう。所々汚れているが、怪我もなく元気そうだ。

 

 ――そりゃそうか

 

 今回初めて実戦のウルフェインを見て、人に紛れて獣がいる、と思った程だ。遠くからでもすぐにわかるその荒ぶる猛獣のごとき戦いっぷりは、ひたすら化け物のような強さだった。

 正直、ウイネが地上で一対一で戦ったとしたら、一瞬で潰されて終わりだろう。それだけウルフェインの強さは際立っていた。いとも簡単に這い蟲を切り裂き、そのままぶん投げ、もう片方では殴り潰す。まさにちぎっては投げを実戦する男だった。

 

「まさかこんなに早く終わるとはな、これもウイネ達のおかげだ」

「いえ、私達はただ早く着いただけです。騎士団の方の働きは目を見張るものがありました」

「そういってもらえると嬉しいな、それでこの後なん……」

「フェインッ!フェイン!無事でしたのっ!?」

 

 話の途中に聞こえてきた声に、ウイネは苦笑いする。なんともタイミングが悪いものだ。

 

「っあぁ、よかったわ!ご無事で安心いたしました」

 

 息を切らせて駆け寄ってきたのは、やはりというか何というか、ウルフェインの恋人ルリーナだった。

 

「ルリーナ、少し待ってくれないか、今ウイネと……」

「私の事は気にしないで下さい、もう行きますから」

 

 そう告げて、その場から去ろうとするが、ウルフェインが慌てて引き留めようとする。それを阻止しようとしたのか、ウルフェインにすがろうと動いたルリーナのドレスが、ユェドゥラの鼻先を掠った。

 

 ――クルルックシュンッ

 

 柔らかい生地のドレスが擽ったかったのか、それともルリーナの甘い香りにむずむずしたのか、ユェドゥラがくしゃみをする。それでもなお擽ったいのか、鼻をひくつかせ、口を大きく開ける。そこから見えた鋭い牙を見た瞬間、ルリーナは甲高い悲鳴をあげた。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!嫌、襲われるわっ!フェイン、フェイン助けてっ」

「おい、ルリーナ!大丈夫だ、ただのくしゃみだ!落ち着けっ」

 

 ウルフェインは腕にすがり付くルリーナを宥めようとするが、恐怖のあまり混乱し、甲高く叫ぶ彼女には効果がなかった。あまりにキンキンうるさい声に、周りで寛いでいた飛竜達も俄に殺気立つ。それを見たルリーナがまた悲鳴を上げるという悪循環に陥り、ウイネもウルフェインもおろおろとするばかりだ。

 

「ちょぉぉっと!五月蝿いわよ馬鹿女!ウルフェイン殿、さっさとその女を連れていってちょうだい!迷惑ったりゃありゃしないわっ」

 

 いきなりの罵声に慌てて後ろを振り返ると、いつのまに来ていたのか、そこには怒った様子のアウエルとサエナがいた。

 

「まったくです!五感の鋭い飛竜にそんなクッサイ臭いをプンプンさせて、しかも悲鳴をあげるなんて大迷惑です!大体ここは、関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

 

 とっとと出ていけと言わんばかりのサエナに、人が増えたことで我に返ったのか、ルリーナがくってかかる。

 

「なんですって?こんな野蛮な生き物が、城にいる自体が問題なのよ!」 

「野蛮だとっ!?貴様もういっぺん言ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!」

 

 拳を握りしめ殴りかかろうとするサエナを、慌てて取り押さえる。

  

「サエナ!落ち着け」

「ウイネ様!ウイネ様はムカつかないんですか!?飛竜を野蛮だなんて、許せないっ」

 

 歯を剥き出し憤る彼女に、ウイネも実は内心同意していた。勝手に演習場に入ってきて、勝手に騒ぎ、そして挙げ句の果てに野蛮呼ばわりだ。流石にウイネだって、腹が立たないわけがない。しかし同時に、呆れ返って言葉も出ないと言うのも偽らざる本音だった。そんな戦乙女達の気持ちを察したのか、ウルフェインが顔を強張らせながら謝罪する。

 

「すまない。我々はあなた方を貶している訳ではない、勘違いはしないでほしい」

「あら、あなたの大切な恋人はそうは思ってないみたいだけどぉ?」

「はっ?恋人?いや、なんのこ……」

「どうでもいいですがっ!さっさとソレを連れて出てっていただけませんかねっ、飛竜達が苛立ってるのでっ」

 

 自分の言葉を遮られたウルフェインは、怒り狂っているサエナと今だその腕に絡み付くルリーナに、やっとこの場で会話するのは無理だと理解したらしい。もう一度短く謝り、何か言いたげな顔をしながらもルリーナを連れ去っていった。

 

「ちょっと!ウイネ様見ました!?あの最後の目!あの性悪、すっごい睨んできましたよ!」

「あぁ、まぁな。しかたないだろ」

 

 演習場を出る直前、ルリーナから向けられた憎悪の視線に苦笑いしかできない。なんとも嫌われたものだと呑気に呟くウイネに、アウエルとサエナは呆れ顔だ。

 

「まったく、呑気なんだから。サエナ、明日から妨害を強化するわよっ!里に帰るまで、絶対あいつらを近付けさせやしないわっ!」

「はいっ!他の者にも伝えておきます!」

 

 おー! と気合いを入れる二人に、自分はもう気にしてないのになぁと、ウイネは困った顔で笑ったのだった。

 






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