居場所は無いの
全ての蟲を討伐し終えたウイネ達は、後始末をかって出た騎士達に後を任せ、一足先に城に帰ってきていた。他の者は先に部屋に戻り、久し振りにユェドゥラと水入らずの時間を過ごしていたウイネは、聞こえてきた足音に後ろを返った。
「ウイネ!そっちは大丈夫だったかっ」
「ええ、問題ありませんよ」
こちらに駆け寄るウルフェインも恐らく、下の者に後を任せ、先に帰ってきたのだろう。所々汚れているが、怪我もなく元気そうだ。
――そりゃそうか
今回初めて実戦のウルフェインを見て、人に紛れて獣がいる、と思った程だ。遠くからでもすぐにわかるその荒ぶる猛獣のごとき戦いっぷりは、ひたすら化け物のような強さだった。
正直、ウイネが地上で一対一で戦ったとしたら、一瞬で潰されて終わりだろう。それだけウルフェインの強さは際立っていた。いとも簡単に這い蟲を切り裂き、そのままぶん投げ、もう片方では殴り潰す。まさにちぎっては投げを実戦する男だった。
「まさかこんなに早く終わるとはな、これもウイネ達のおかげだ」
「いえ、私達はただ早く着いただけです。騎士団の方の働きは目を見張るものがありました」
「そういってもらえると嬉しいな、それでこの後なん……」
「フェインッ!フェイン!無事でしたのっ!?」
話の途中に聞こえてきた声に、ウイネは苦笑いする。なんともタイミングが悪いものだ。
「っあぁ、よかったわ!ご無事で安心いたしました」
息を切らせて駆け寄ってきたのは、やはりというか何というか、ウルフェインの恋人ルリーナだった。
「ルリーナ、少し待ってくれないか、今ウイネと……」
「私の事は気にしないで下さい、もう行きますから」
そう告げて、その場から去ろうとするが、ウルフェインが慌てて引き留めようとする。それを阻止しようとしたのか、ウルフェインにすがろうと動いたルリーナのドレスが、ユェドゥラの鼻先を掠った。
――クルルックシュンッ
柔らかい生地のドレスが擽ったかったのか、それともルリーナの甘い香りにむずむずしたのか、ユェドゥラがくしゃみをする。それでもなお擽ったいのか、鼻をひくつかせ、口を大きく開ける。そこから見えた鋭い牙を見た瞬間、ルリーナは甲高い悲鳴をあげた。
「きゃぁぁぁぁぁっ!嫌、襲われるわっ!フェイン、フェイン助けてっ」
「おい、ルリーナ!大丈夫だ、ただのくしゃみだ!落ち着けっ」
ウルフェインは腕にすがり付くルリーナを宥めようとするが、恐怖のあまり混乱し、甲高く叫ぶ彼女には効果がなかった。あまりにキンキンうるさい声に、周りで寛いでいた飛竜達も俄に殺気立つ。それを見たルリーナがまた悲鳴を上げるという悪循環に陥り、ウイネもウルフェインもおろおろとするばかりだ。
「ちょぉぉっと!五月蝿いわよ馬鹿女!ウルフェイン殿、さっさとその女を連れていってちょうだい!迷惑ったりゃありゃしないわっ」
いきなりの罵声に慌てて後ろを振り返ると、いつのまに来ていたのか、そこには怒った様子のアウエルとサエナがいた。
「まったくです!五感の鋭い飛竜にそんなクッサイ臭いをプンプンさせて、しかも悲鳴をあげるなんて大迷惑です!大体ここは、関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
とっとと出ていけと言わんばかりのサエナに、人が増えたことで我に返ったのか、ルリーナがくってかかる。
「なんですって?こんな野蛮な生き物が、城にいる自体が問題なのよ!」
「野蛮だとっ!?貴様もういっぺん言ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!」
拳を握りしめ殴りかかろうとするサエナを、慌てて取り押さえる。
「サエナ!落ち着け」
「ウイネ様!ウイネ様はムカつかないんですか!?飛竜を野蛮だなんて、許せないっ」
歯を剥き出し憤る彼女に、ウイネも実は内心同意していた。勝手に演習場に入ってきて、勝手に騒ぎ、そして挙げ句の果てに野蛮呼ばわりだ。流石にウイネだって、腹が立たないわけがない。しかし同時に、呆れ返って言葉も出ないと言うのも偽らざる本音だった。そんな戦乙女達の気持ちを察したのか、ウルフェインが顔を強張らせながら謝罪する。
「すまない。我々はあなた方を貶している訳ではない、勘違いはしないでほしい」
「あら、あなたの大切な恋人はそうは思ってないみたいだけどぉ?」
「はっ?恋人?いや、なんのこ……」
「どうでもいいですがっ!さっさとソレを連れて出てっていただけませんかねっ、飛竜達が苛立ってるのでっ」
自分の言葉を遮られたウルフェインは、怒り狂っているサエナと今だその腕に絡み付くルリーナに、やっとこの場で会話するのは無理だと理解したらしい。もう一度短く謝り、何か言いたげな顔をしながらもルリーナを連れ去っていった。
「ちょっと!ウイネ様見ました!?あの最後の目!あの性悪、すっごい睨んできましたよ!」
「あぁ、まぁな。しかたないだろ」
演習場を出る直前、ルリーナから向けられた憎悪の視線に苦笑いしかできない。なんとも嫌われたものだと呑気に呟くウイネに、アウエルとサエナは呆れ顔だ。
「まったく、呑気なんだから。サエナ、明日から妨害を強化するわよっ!里に帰るまで、絶対あいつらを近付けさせやしないわっ!」
「はいっ!他の者にも伝えておきます!」
おー! と気合いを入れる二人に、自分はもう気にしてないのになぁと、ウイネは困った顔で笑ったのだった。




