敵は突然に来る
ルリーナが言った通り、大掃討が終わったら二人は結婚式を挙げるようだった。別に誰かに聞いた訳では無かったが、慌ただしく動く侍女達の会話で、それとなく知る事が出来た。
ウェディングドレスが非常に素晴らしい物であること、結婚式に使われる花が中々決まらない事、王妃様が大変張りきっていること。特に聞き耳を立てずとも、これくらいの会話は簡単には耳に入ってくる。そしてあの噂を踏まえて考えると、答えとして行き着くのはやはりルリーナとウルフェインの結婚式だけだ。
そう考えたのはウイネだけでは無かったようで、同様の結論に達したアウエルやサエナ、戦乙女達は怒り狂い、もう我慢ならぬと大掃討後すぐさま帰路に就くことが満場一致で決定したのだった。
そんな仲間達に苦笑いしながら、嬉しなぁと感じてしまう自分がおかしくて、ついつい笑いが溢れてしまうウイネであった。
そんな風に比較的平穏な日々を過ごしていたウイネは、なぜかその日は胸騒ぎが止まらなかった。大掃討まであと週の半分を切ったという時期に、その知らせは唐突に届いた。
――カーンッカーンッカーンッ
「っ大変ですウイネ様!城下近くの村に、蟲が出たようです!」
「なにっ!?どういうことだ!なぜそこまで近づかれて誰も気付かなかった!?」
ウイネの部屋に飛び込んできたサエナの知らせに、慌てて部屋を出て演習場へ走る。着いたそこには、すでにアウエルとウルフェインが揃っていた。
「申し訳ありません、遅れました!」
「いいのよ、わたくし達も今来たところ。ウルフェイン殿、状況は?」
真面目な表情のアウエルに、普段とは違う雰囲気に驚きながらもウルフェインは答える。
「あぁ、城下近くの村に蟲が出た。もう大殖期もピークを迎えるからな。少し前から森に近い村は、ちらほらと蟲の出現が確認されていたのだが、今回はいきなり城の近くに、それも四十ほどが現れた」
「ちょっと待ちなさいよ、なんでいきなりそんな所まで来ちゃったわけぇ?」
「それが、どうやら飛び蟲がいるようで、それにくっついて這い蟲が空を飛んできたようだ。地元の自警団では対処できんと早馬がきてな……」
「はぁっ!?飛び蟲!?そりゃぁ珍しいですね……」
サエナが驚くのも無理はない。先ほどから話に出ている飛び蟲というのは、人里に現れる事が少ない珍しい蟲なのだ。
実は蟲には様々な種類がいるのだが、大まかには二種類に分けることができる。それが飛び蟲と這い蟲で、その名の通り単純に、飛ぶことのできる蟲と、地面を這って進む蟲のことだ。
ちなみにその二種類には正式名称、飛行型飛翔蟲と匍匐型這行蟲という名前が有るのだが、難しすぎて誰も使わない。
蟲の大半は這い蟲がほとんどで、危険性と攻撃力は非常に高いのだが、その反面移動速度が遅く、行動範囲が限られている。その為、這い蟲の場合は人里近くに来るまでに発見され、大抵は未然に被害を防ぐ事ができる。
反対に、飛び蟲は空を飛ぶ厄介な蟲なのだが、数が少なく、危険性と攻撃力も高くない。ただし、長距離を移動することが出来るので、大殖期になると今回のように、ごく稀に人里に現れる事がある。しかし、先ほども述べたように攻撃力は高くないので、地元の自警団で充分対処できる。
だが今回の場合は非常に珍しいパターンで、飛び蟲に這い蟲がくっついて、共に人里に現れてしまった。この様な事は滅多にないが、過去の討伐記録には、飛び蟲が這い蟲を運んだという記録も残っている。実際蟲の森の近くに住む人が、大型の飛び蟲に小型の這い蟲が引っ付いて飛んでいるのを見たという証言もあり、そういう事も起こり得ると理解はしていた。
しかし、理解はしていても実際に対応出来て居なければ意味はない。自警団は鍛え直しだと呟いているウルフェインを横目に、ウイネも必死で頭を回転させていた。
「飛竜を先に飛ばしましょう」
「飛竜だけでか?そんな事して何の意味がある?」
唐突に切り出したウイネの言葉、ウルフェインは怪訝な顔をする。
「飛竜は人を乗せなければ、馬の八倍以上の早さで飛ぶことができます。それに、方角さえ教えれば、蟲の臭いを辿って自ずとたどり着くでしょう。先に四十ほど飛ばして、すぐに私達も追えば、少しでも被害を減らす事が出来るはずです」
「っなるほど!では今すぐ頼むっ!騎士団も一部隊を連れすぐに出立する。現地で会おう」
了解しました、と返事するウイネに背を向け、ウルフェインは急いで走っていった。
「アウエル様、これでよかったでしょうか」
「そうねぇ、それがよさそうね。……さぁて、皆聞いたかしらっ!今すぐ二番隊と三番隊は飛竜を飛ばして!それから残った子達は、一と四番隊の子が一緒に乗せて行って!他の子はその場で待機!」
アウエルの命令に、慌ただしく乙女達が動き出す。それを見届けてウイネ達も飛竜に乗り、空高く舞い上がった。




