↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
本編
PR
18/42

それでも嬉しい






 その後のウイネの行動は素早かった。お茶会の帰りに王妃の元へ行き、正式に告白をお断りしたのだ。

 いやウイネとて、告白の返事を王妃に託すことに躊躇いが無かったわけではない。本来ならそういった事は、本人に直接断るのが礼儀であると理解している。だが、お茶会の後その本人を呼び止めようとした所、目にも止まらぬ早さで逃げ去って行ったのだ。

 これには流石のウイネもカチンときた。先程までルリーナ達と、あんなに和やかに話していたではないか。なのに仮にも思いを告げた人に対し、顔をひきつらせ、ましてや話すら聞かずに逃げ去るとは何事か。

 

 無表情ながら密かに怒り心頭したウイネは、その心持ちのまま王妃の元へ一目散に向かい、つらつらと訴えたのである。

 曰く、本人に直接伝えようと思ったがどうもつかまらない。私には恐れ多い話をお断りをしたかったが、これでは何時までたっても話にならないので、当事者以外に話をするのは可笑しな事と承知の上で、お母上である貴女様に伝えに参った所存です、と。

 口を挟む隙すら見せず言い切ったウイネに、流石の王妃も息子を弁護できず、本人に伝えると了解してしまったのである。

 

 そしてウイネの言葉は、王妃の激怒と共にウルフェインに伝えられる事になり、たちまち城中にも駆け巡った。

 その日から城の人々は落胆を隠せず、一時お通夜状態になったのだが、その状況も少しの間だけだった。

 少しした頃、ぽつりぽつりと別の噂が囁かれるようになったのだ。

 

 ウルフェインとルリーナが、恋人同士であるという噂が。

 

 事実、ウイネに振られた頃から、その二人がよく一緒にいる所が目撃されるようになった。その二人の様子に、失恋の痛手を癒されるうちにお互い惹かれ合い、付き合うに至ったのだろうともっぱら囁かれていた。

 たちの悪いものでは、幼なじみの二人は元から惹かれ合っていて、ウイネの事はただの遊びだったという噂まで出始める始末。実際どうかはわからないが、二人の距離感からいって、何もないというのはあり得ない雰囲気であった。

 

 それには戦乙女らが激怒した。元より戦乙女は短気な者が多いのだ。そんな者達が怒らない訳がなかった。

 城に流れる噂を聞きつけいきり立つ乙女らの言い分としては、振られたからといってすぐ心変わりするとは、なんという不実かと。しかも遊びだったなど、いくらウイネが気にせずとも、それは許せるものではない。己らの慕う筆頭補佐になんという仕打ちかと、乙女達はウルフェインに憎悪を向けた。

 そんな戦乙女らを宥めながら、実はウイネは少し喜んでいた。今まで皆から好かれているとは思っていなかったが、今回の事で皆がウイネの事を思い、真剣に怒ってくれた。初恋は諦めたが、何にも代えがたい同朋を得ること出来たのは、思った以上に嬉しいことだった。特に自分が直接指揮する部隊の者達の怒りは凄まじく、ウイネが止めなければ、きっとウルフェインを襲撃していただろう。


 一応は自分から振っておきながら、皆から心配されて嬉しいなど、なんと浅ましいのか。こんなだから彼に釣り合わないのだと自嘲しながらも、これはこれでよかったのだと、しみじみ思うウイネだった。

 

 

 

 

「う、うい、は、はなしが……」

「ウイネ様、先程アウエル様が御呼びでしたよ、お急ぎを」

「……あぁ」

 

 何か伝えようとしたウルフェインを遮ったのは、ウイネの部下の一人だ。噂が広まるにつれ、戦乙女らのウルフェイン嫌いは増していくようで、ウルフェインがウイネに側寄るとすぐさま誰かが邪魔をするようになった。

 ウイネも今更彼と話をぶり返す気はないので、彼女達の妨害工作には感謝していた。もちろん彼女達も誇りある戦士なので訓練の時などは割り切っているし、ウイネもウルフェインも、そこは今まで通りに接していた。

 

 アウエルに呼ばれたというのは方便だろうが、ウルフェインの前でそう言われたからには行かなければ怪しまれる。……これだけ妨害されれば、もう薄々気付いているとは思うが。

 

 何か言いたげな表情のウルフェインに背を向けて、呼びに来た者と二人でアウエルの元へと向う。演習場から城の中に向かいながら無言で歩くウイネに、隣を歩く部下が憤慨した様子で話しかけてきた。

 

「今更何の用でしょうか、まったく図々しい」

 

 顔をしかめドスドスと歩く彼女はサエナといって、ウイネが直接指揮を執る一番隊の一人だ。

 実はつい先日まで、ウルディルドに恋人が居たらしい。しかし例の噂が広がるにつれ、ウイネを慕う彼女とウルフェインを擁護する恋人の間で意見が対立し、とうとう別れるに至ったという。

そういう恋人達は何組か居ると聞いて――というより、全組が破局したそうだが。――何だか罪悪感が募るウイネだったが、当の本人達はウイネが原因では無いといって憚らない。

 なんでも、いずれ価値観の違いで喧嘩になっていたはずだと。それが早くに分かって深傷を負わずにすんだ、と強かに笑う彼女達だが、その相手方である男達は、彼女達のようにあっさりしていない事をウイネは知っていた。

 なんせ彼らは暇を見つけては、彼女達に愛を請いに来ているのだから。……例えばそう、目の前の彼のように。

 

「っサエナちゃぁぁぁあんっ!俺が悪かった!愛してるんだっ頼むから結婚してくれ!」

 

 真っ赤な薔薇の花束をサエナに捧げ跪く男は、ウルフェインの右腕とも言われているドゥーエだ。そう、なにを隠そう、初めての合同訓練で豪快にぶっ飛ばされたあの騎士である。

 

「とっとと失せろ阿呆め」

 

 そして氷河期も真っ青、絶対零度の視線を向ける彼女こそが、そのぶっ飛ばした張本人なのだが……何故この二人が付き合う事になったのかは、謎のままだ。

 しかしこれだけは言える。冷たい態度にもめげず、好きだぁぁぁっとサエナの足にすがり付くドゥーエは、流石のウイネもドン引きだと。

 

「…サエナ、そのだな、もう少し優しくしてやったらどうだ」

 

 がしがしとドゥーエを足蹴にするサエナに、おずおずと意見を述べる。

 

「いいえウイネ様、このような塵に優しくする必要はありません」

「だが……」

「ウイネ様、こういった輩は優しくすればつけあがるのです」

「……泣いているようだが」

 

 どんなに冷たくされてもめげないドゥーエに、ウイネは深く尊敬の念を抱くのだった。

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。