何故こんな事に
ウルフェインが言い逃げして行った後、そういう事だからゆっくり考えてね、と他人事のように言い去った元凶。そんな彼女に少しばかりの殺意を覚えながら、ふらふらと庭にあったベンチに腰かける。ウイネの後からその隣に座ったのは、何か物憂げな表情のアウエルだ。
「……ウイネは、ウルフェイン殿の事は嫌い?」
いつもより真面目な様子のアウエルに、ウイネもようやく落ち着き始めた頭で考える。いきなりの事で驚きはしたが、だからといって嫌悪感などは無かった。
普段何気なく話すのも楽しいし、いつも優しくて、ユェドラとも仲が良い。見た目も男らしくて好きだし、最強の名に相応しい強さに、鍛練を怠らず真面目な所はとても好感が持てる。だからと言って恋愛的な意味で好きなわけではないと思う。親友としては好いていたが。
そのことを、すべて正直に打ち明ける。
「とりあえずそれでいいんじゃないかしら?これから意識してみればいいのよ」
そう優しく笑うアウエルに少し安心するが、ふとあることに気付いた。
「あの、アウエル様、もしかしてこの事は皆知っているのでしょうか」
「えぇそうねぇ。なんでも、密かに国を上げてのお祭り騒ぎらしいわよ」
「……は?国?」
「そうそう、人望はあるけど女性に人気のない騎士団長の、やっと来た春だ~って、貴族から平民まで大喜びだそうよ」
よかったじゃない、と呑気に言われ、ウイネは卒倒しそうになった。その様子だと、ウルフェインが直接思いを告げた件もすぐさま知れ渡るのではないだろうか。そう考えて、明日からの生活に非常に不安を覚える。
「……反対する人は居ないんでしょうか」
恐る恐る聞くウイネに、アウエルはちらりと視線を向けた。
「この国は、恋愛ばんざーいってな感じのお国柄みたいでねぇ。反対する人は居ないんじゃないかしら?ちなみにウイネちゃんは気がついて無いみたいだけど、うちの子達の中にも、何人か恋人ができた子がいるみたいよぉ」
「……な、なんと」
知らなかったと驚くウイネに、この国の男は情熱的らしいわぁ、と呑気に呟く。それでいいのかと思わないでもないが、特に恋愛禁止という訳でもないし、本人達が良ければ良いのだろう。
「わたくしはねぇ、ここに残りたい子は残ってもいいと、伝えようと思うの。別に里もそこらへんは緩いしねぇ」
里と言うよりも長が緩いのだが、確かにここに残る者がいたとしても、なにか制限や罰があるとは考えられない。ウルディルドにしても、皆陽気で親切な人ばかりだ、里に帰らず残ったとしても、きっと手厚く歓迎してもらえるだろう。
飛竜達にとっても過ごしやすい国であるし、空を飛べば簡単に里と行き来できるので、残ったとしても特に問題も無い。そう考えると、ウルディルドに残ることに問題は見当たらなかった。
しかし、その事実はウイネをより混乱させた。いずれウルフェインと離ればなれになる事を考えてたウイネに、いきなり新たな選択肢が加わったのだ。
「……しかし、やはり私には不相応に思いますよ。あの方はいい方ですし、私よりも綺麗で優しい淑やかな人がお似合いです」
「……ウイネちゃん」
色々と考えたウイネだが、やはり今言ったことが一番本心に近いと思った。確かに離れたくはないが、だからと言って自分が隣に立つとは、あまりに烏滸がましいだろう。なんせ、この国の女性は皆美しい人ばかりだ。
この城の侍女達だって、柔らかそうな白い肌に綺麗な手、可愛らしい声を持っている。それに比べ、自分の手は皮も厚くたこができていて、決して綺麗とは言い難いし、体も鍛え上げられがっしりとしていて、とても女性らしいとは言えない。
一心に飛竜と向き合い、戦乙女として精進してきた証であるこの傷だらけの体を嫌いではない。むしろ戦士として誇らしく思うこともある。だが、女性として自慢できるかと問われれば、頷くことはできそうにない。
「もう、ウイネちゃんったら!いつも思ってたけど、意外と繊細な所があるわよねぇ」
「それはそうですよ、自分に自信がある人なんて、ほんの一握りでしょう。人間誰しも、少しはコンプレックスがあるものではないでしょうか」
苦笑しながら言うウイネに、わたくしは自信しかないけどねぇ、と胸を張るアウエル。そんな彼女に、どうしたらそこまで自信が持てるようになるのか不思議に思う。
ウイネだって、自身はユルフェルでも一目置かれる存在であると自覚はしている。だが、もし自分が飛竜に乗れなくなれば?引退した後は?飛竜という唯一の誇りを無くした自分には、何が残るのだろう。自分を慕ってくれる弟や、良くしてくれるアウエルが、もしも見限って離れていったら?それがウイネには怖くて仕方がないのだ。
「でもねぇウイネちゃん、それでいいのかしら?後悔しないと言える?」
「……それは」
「まだ時間はあるわ、自己完結しないでちゃんと考えなさい」
「……そうですね、わかりました」
静かに諭され、ウイネもその言葉を噛み締めながら頷いた。ゆっくりでいいから、とりあえず真剣に、自分の気持ちを考えてみようと。




