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五日目

▼勇者が現れた。


「魔王よ、今日が何の日か知っているか?」

「ん?ああ、知っているが。」

「そう、今日は世界的に見ても多くの教徒を持つ宗教の神、キリストの誕生日!別にキリスト教徒でなくてもみなパーティーを開き、浮足立つ呪われし日!」


いつものように現れたふざけた勇者は背中に黒い瘴気のようなものを背負いながらクリスマスに対して呪詛を呟き始めた。


「いや、呪われた日ってなんだよ?!ていうか普通にクリスマスって言えよ。」

「黙れ魔王がぁぁっ!その言葉を口にするとは貴様殺されたいのか!」

「お、今日は珍しく戦う気があるのか?」

「そういう意味じゃないんだよぉぉお!!」


涙目で突然床を激しく叩き始める勇者。

思わず本能的に後ずさる。気でもふれたか…?


「引いてんじゃねぇよ!!」


「いや、つい……。つかなんでクリスマ「その言葉を口にするなぁぁあ!例のあの日とよべ!」

「お前だって今まで呼んでなかったじゃねぇか……。」


め、めんどくさいぞ、今日の勇者……。


「で、その例のあの日だが……ケーキ屋であるお前はかきいれどきだろ?店空けてきて良かったのか?」


今日はクリスマス。ケーキ屋ならば一年でもっとも儲かる日だ。


「ああ、そうさ……沢山ケーキの予約が入って大いに儲からせてもらったさ……でもなぁあ!!」



時は一時間ほど前に遡る。

俺は店にいて接客をしていたのだが、あるケーキを取りに来たカップルの会話が耳に入ってきたのだ。

「ちゃんとケーキ予約してて良かったわ~」

「ええっじゃあ最初から私と過ごすために……!」

「ああ、もちろん。お前のいないクリスマスなんてありえないぜ!」

「私うれしい!」

とかなんやらアホっぽい会話をするアホっぽいカップル。

ウゼー、とか思いつつもそいつらのケーキを用意してたんだが

「でも彼氏いない人とかカワイソ~」

「そうだよな、クリボッチとかありえねぇよな~」



以上回想。


「っていうことがあったんだよ!!」

「要点をいえ、要点を!何がダメだったんだよ!」


じろりと睨みあげる勇者に少したじろぐ。


「クリボッチだぞ!?クリスマス一人ぼっち、の略なんだぞ!腹が立たないか、いや立たないはずがない!」

「なんで反語使うんだよ……つか普通にクリスマスっていってんじゃん。」


まぁ要はクリスマス一人ぼっちなのが寂しかったんだろう。


「店には従業員だけ残してきた。俺はクリスマスから逃げ出してきたんだ…それなのに!」


勇者がビシィ!と効果音が付きそうな勢いで【終焉の間】の一角を指差した。


「なんでこんなところにまでクリスマスツリーなんてもんがおいてあるんだよっ!」

「そりゃお前、今日がクリスマスだからだろ。」

「しれっと言うな!お前、自分が何かわかってんのか!お前、【魔の王】、だぞ!?何で魔の総督のようなお前がクリスマスガっツリ祝っちゃってんの!?」

「何……?」


今の言葉は少々気に食わない。まさか勇者とあろうものが、よりにもよってこいつが、俺がクリスマスを祝う理由が分からないというのは…。


「貴様なめているのか……?俺がクリスマスを祝う理由……そんなものは一つに決まっているだろう…!」

「はっ!魔王、お前まさか……!?」

「ふっ、今更気づくとは、笑止。そうそれは、」

「クリスマスケーキが食べたいからだっ!!むしろ他にどんな理由があるというのだ!?」 

「だろうな!お前はそういう奴だよなっ!!」


そう!この日は堂々と人国のケーキを食べられるのだ!!

普段は多少厨房の奴らを気にしてこそこそと食べているのだが、そいつらには

「クリスマスケーキっていう種類だから異教徒であるお前たちには作れない!」

とかなんとか適当なことをいって、無事に人国のクリスマスケーキにありつける機会を得たのだ!


「…で、でもどうせ一人で祝うんだろ!?一人でケーキ食べるんだろ!?」

「?そんなわけないだろ、誰がそんな寂しい真似するか。」

「畜生、リア充爆発しろぉぉぉおおおっ!!」


再び凄まじい勢いで床を叩く。非常に痛そうだ。


「部下とか魔王城の連中だがな。」

「はっは、魔王ザマァ非リア乙!!」

「別に彼女いないことか気にしてねぇけど何か腹立つ!!そもそも話聞く限りお前だって彼女いないだろ!!」


取りあえずこちらを指差し爆笑するふざけた勇者の頭を蹴り付ける。あ、吹っ飛んだ。


「ま、魔王…手加減しろよ……」

「勇者が魔王に手加減を要求するってどうなんだろ?」

世も末だ。


「なぁなぁパーティーとかするのか?」

「あ、ああ。全部部下たちが仕切っているがあるらしい。」

あるらしい、というのも俺はケーキ以外に興味がない。つまりケーキさえあれば何でも良い。どんな種類でも。なので部下たちの好きにさせているのだ。


「俺行っても良いか?」

「魔王城のクリスマスパーティーに参加しようとする勇者にびっくりだよ!!」


ばれたとき普通にヤバいだろ!?殺されるだろ。


「ダメか?」

「普通にダメだろ!良いと思ってんの!?」

「っち、まぁ予想範囲内だが、お前はこれを見ても断れるのかな……?」


腰に付けた袋から巨大な箱を取り出した。

……いつも思うのだが勇者たちの持ってるあの袋ってどう考えてもキャパシティオーバーのものをしれっと入れているが、あれの中は異次元にでもつながってんのか?


「これを見よ!俺の力作、三段クリスマスケーキ!!」

「お前賄賂(わいろ)多いよな!前は兵士たちに金つかませてたし。まぁ許可するけどさ!」


異常な袋の中から取り出したケーキは馬鹿みたいにでかいケーキだった。畜生、心得てやがる。


ていうかこいつクリスマスから逃げ出してここに来てんだよな?なんで思いっきりクリスマスケーキを持参してるんだ?逃げるどころかクリスマスの象徴を携えているんだが。


「だが、人間のお前が魔王城にいるのはちょっとな……。」

「いつかのお前みたいに変装すれば問題ないだろ?」

「…流石に城内でクマを連れ歩くのは嫌だぞ……?」


以前自分でかぶっていた【クマのキグルミ】を思い出す。

改めて鏡をみると、流石にこれはないわ…と自分でも思ってしまった。職質も納得のレベルだ。


「誰があんなもん被るかよっ!もうちょっと他にあるだろ。」

「でもなぁ、お前を魔族っぽくするにはな……」


どうしたものかと忘年会やらなんやらの宴会のときに使ったものが入っている箱を物色する。


「おっこれなんてどうだ?いつかに部下が使ってたやつなんだが……。」

「えっ!?これ魔王の部下が使ったのか!?なんでこのチョイス?」

「まぁこれ被ってみろよ。」

「ちょ、待て、いたたたた!髪引っ張んな!禿げる!」

「どうだろ……微妙、か?」

「うん?鏡とかねぇの?……おっ、これ良くないか?魔族のなかに入っても違和感なくね?」

「いや、これアウトだろ。これで気づかなかったら部下たちの無能さに泣けてくるぞ?」

「イケるだろ!?これで行こう、これで!」

「まぁ、いいか。どうなっても知らないからな……。」

「問題ないって!」



数時間後。魔王城のホールでパーティーが行われた。

正直みんなイマイチクリスマスを理解していないためか、クリスマスカラーなどは特に使われていない。かろうじてクリスマスツリーがあるくらいだろうか。ただクリスマスオーナメントをセットで買ったのか、山羊のツノを生やした悪魔が天使の飾りをつけるというシュールな光景が展開される。

だがしかし、ツッコミは不在なためひたすらボケ倒される。もっとも本人はボケているという自覚はないが。この会場の中で唯一ツッコミのできる人族の勇者は目立つわけにいかず、ひたすら目立たぬように魔王の隣にいた。


「うわぁ、カオス……。」

「何がだ?」

「もう全体的にだよ。なんでツリーのてっぺんに頭蓋骨が飾られてんの、なんでそこら中に魔法陣が描かれてんの……!?」

「いや、飾りとかどうでも良いだろ。俺はケーキが食べたくて、あいつらは宴会をする理由がほしいだけなんだから。」

「お前らのクリスマスの認識がよく分かる!」

「あれ?魔王様、隣の方はどなたですか?」


一人の兵士らしい狼男が声をかける。


「ああ、俺が個人的に招いたんだ。」

「珍しいですねぇ。ていうか友達とかいたんですnグハァッ!!」


▼魔王の攻撃。狼男の鳩尾に渾身の蹴り。

狼男に2500のダメージ。


「なにか言ったかワンコよ。」

「い、いえ何も……。」

狼男は口の端から血を流しながら去って行った。


「哀れすぎる狼男……。」

勇者は同情の視線を彼の背中におくった。


「……にしても気づかなかったな、あいつ……。気付かないものなのか?」

「そんなものだろ。」


前から側近である吸血鬼の姿が見えた。

魔王と勇者を交互に見て勇者に言った。

「……人国では魔族のコスプレが流行っているんですか?」

「あ、ばれました?魔族に見えませんかね?これ。」

頭の上の山羊のツノを撫でる。

「なんというか…そもそも顔が人族ッぽいといえば良いのでしょうか。」

「あーそこはどうにも……。」

「…だとしてもお前以外こいつが勇者だってことに気づかないのは如何なものだと思うのだが。」


今勇者は魔王の部屋にあった箱の中から見つけた【なりきり魔族グッズ】で魔族の格好をしているのだ。何年か前の宴会で使った奴がいたらしい。魔族が使っても無意味極まりない。

頭には山羊のツノに黒いモジャモジャのカツラ、黒いマントに悪魔の尻尾。まぁ魔族に見えないこともないが、人族であるのは隠し切れていない。


「まぁみんな酔ってますし、仕方ないんじゃないですか?ばれない方が良いでしょうし。」

ところで、と吸血鬼がニヤリと笑う。

「クリスマスケーキは御覧になりましたか?」

「いやまだだが?」

「…今日のケーキは私がプロデュースしたんですよ。」

「お前、まさか……!?」

「は?ちょ、魔王急にどうし、た……?」


会場の中央に魔王が走り出す。勇者も引きずられるように共に向かう。


そして魔王は膝から崩れ落ちた。


そこには巨大なケーキが鎮座ましましていた。

そう、辛党である側近の好きそうな、赤い赤い唐辛子のケーキ。

勇者は魂が抜けたような魔王をつれて励ましながら魔王の自室へ行く。

なんとか魔王の口に自身の持ってきたケーキをねじ込み蘇生させた。そして魔王はこう呟いた。

吸血鬼(あいつ)に何かを任せるのはやめよう……」、と。

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