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三日目

「魔王様、あなたの仕事は何ですか?」

「…魔物の統率と人族との政治交渉と乗り込んでくる勇者の相手です。」

「一応頭の足りないあなたでも分かってはいるんですね。勇者の相手ですが、きちんと勇者の話を聞いてから戦闘するという決まりが有るのですがご存知ですか?」

「…存じ上げおります。」

「では何故勇者が話している途中で攻撃して一発退場させたのですか?」

こんにちは、皆の魔王です。

今の俺の状況。自室にて床に正座。机の上にあった菓子類は全て撤去され唐辛子チョコやハバネロ味のスナック菓子が代わりに置かれている。

そして正座する俺の前に文官であり側近の冷血秀麗吸血鬼殿がいらっしゃる。なまら容姿が良いため怒ったときの無表情が怖すぎる。

事の発端は昨日の勇者との戦闘にあった…。



昨日の午前二時、勇者襲来の城内放送が入った。午前二時、深夜だ。良い子はとっくに寝る時間だ。一部の人族は『魔族は夜活動するもの』と思い込んでいるらしく、一時期勇者が夜ばかりに来て城内の寝不足な兵達ストレス溜まりすぎてが本気で人族を攻めようとしたので、外交の折に人族の王に国民に深夜に魔王城を襲撃しないように伝えてもらい、現在では深夜に襲撃する勇者はほとんどいないのだがマナーのなっていない勇者が未だにたまにいる。

寝ていたところを起こされて機嫌が非常に悪かったが仕事なのだと割り切って勇者を迎えた。


【無駄に大きな扉】が軋みながら開き勇者が入ってくる。

▼勇者が現れた。

「ふはははは、よく来たな勇者よ…」

仕事と割り切っても眠いもんは眠い。覇気のない声で勇者に言う。

「魔王よ、今日が貴様の命日だ!この【真の勇者】が現れたからには、もうお前の好き勝手にはさせない!」

「【真の勇者】だと…?」

聞いたことがない。そもそも勇者は沢山いるのだから真も偽も無いと思うのだが…。

「俺は神により聖なる力を譲り受け、この右腕に封印したのだ。更にこの赤き左目は全てを見抜く千里眼で………」

なるほど、厨二病患者さんか。しかもかなり拗らせている。残念極まりない。

その間も自称【真の勇者】はペラペラと自分の【設定】を語っている。無駄に長い。そしてなんの捻りも無くてつまらない。こんな痛々しい奴の所為で俺の貴重な睡眠時間を削られたと思うとフツフツと怒りが沸く。

しかしまあ、正直怒りよりも眠気が勝る。奴の語りも相まって意識が朦朧となり舟を漕ぎはじめる。

これが失敗だった。

「……で俺はかくして、って魔王聞いているのか!」

「っは!」

奴の声で現実に引き戻される。

「聞いてなかった。」

「き、貴様ぁぁあ!」

いきなり【真の勇者】が逆上して切りかかってきた。

因みに戦闘開始時は必ず「魔王覚悟!」「捻り潰してくれるわ!」と言わなければならない。つまり勇者はルール違反である。ここ重要。

「うおおぉぉお!」

「くあぁ…」

このタイミングで欠伸がでた。これでも王族、きちんと口を手で覆った。つまり必然的に開いているのは片手、俺の右手だけだ。

切りかかってきた勇者に俺が大人しく切られるはずもなく、勇者を軽く平手で払った。本当に軽く、だ。しかし勇者は予想外に弱く、俺は自分で思っている以上に眠かった。

バッチィィイン!!

派手な音を立てて勇者は吹っ飛んだ。

▼勇者は力尽きた。

そして俺は自室に戻り再び眠りについた。

そして朝起きて机の上の異変に気が付き、今に至る。



「話を聞いていますか魔王様?」

側近の持っていたボールペンが大理石の床に突き刺さる。引きつって声もでない。ていうかどんな力してんだこいつ…。何よりボールペンの強度半端ねぇ…普通大破するだろ。

「聞いてます。」

聞いてなかったけど。現実逃避してたけど強制的に現実に引き戻された。

「勇者の話が終わるのを待った上でテンプレートのセリフを言ってから闘い始めるのがルールです。」

「でも、「言い訳はいりません」

セリフ言う前に攻撃してきたのは勇者が先なのに…。側近は言い訳すら言わせない。理不尽だ…。どうやら昨晩襲撃に来たのはただの一般市民ではなく

貴族の息子であったらしく、こうしてここまで苦情がきた次第だ。

その後もくどくど説教が続く。長い、姑か何かか。思った瞬間に絶対零度の視線が飛んでくる。…エスパーか?つか俺よりこいつの方がチートじゃねぇ?

「…はぁ、」

ため息をついた。コイツがため息を吐いたと言うことは説教の終わりが近い。頑張れ、俺。耐えろ、俺。つか足が痺れ過ぎて感覚が無い。そろそろ壊死するんじゃないか俺の両脚?

「まあ貴方には言葉でいっても余り効果はないでしょうね…。」

あれ?何か雲行きが怪しい気が…?

「とりあえず3日間は菓子類は禁止ですね。」

え…?

「…へ?ごめん、聞こえなかったもう一回言ってくれるか?」

「ですから、3日間菓子類は禁止です」

「なん、だと…!?」

俺から甘味を取り上げたら一体何が残ると言うのであろうか!?

「貴様は鬼かっ!?何という仕打ち!慈悲の心はないのか!?」

「強いて言うならば私は吸血鬼です。そして慈悲を持っている者など恐らく城内にはいないでしょう。」

ハバネロ味の菓子が有るだけの心遣いは持っていますよ。などと宣う辛党吸血鬼。

「甘くない菓子など菓子ではない!!」

「黙ってください糖尿病予備軍。」

畜生…辛党に何が分かる。

「お、俺は魔王だぞ!お前の上司だぞ!?少しは敬え気を遣え!」

「役に立たない上司を尊敬するほどできた性格はしていません。」

「せめて飴だけでも…!」

「異論は認めません。」

「あ゛あ゛あ゛あ~~~~~ぐふっ!?」

下手に出るもにべもなく却下され、叫んだところステッキで容赦なく殴りつけられた。ジーザス。

ドクドクと血の水溜まりを作る俺を虫を見るような目で見据える。

「黙れ、仕事しろ魔王。」

遂に敬語もなくなった。

何でコイツ魔王じゃないんだろうか…?もうコイツ魔王で良いじゃん。

振り向くことなく机の上にハバネロを残し部屋から出て行く背中に呟いた。



なんとか棚の中のロシアンティーとジャムは難を逃れたらしい。これで3日間乗り切れるだろうか?

日本海溝よりも深いため息を吐いたところで勇者襲来のアナウンスが流れ魔王の定位置【無駄に豪華な椅子】に腰掛け勇者を待つ。

仕事中とはいえうなだれる。

モチベーション上がんねえ…勇者とかマジ面倒臭ぇ…。

▼勇者が現れた。

「よお、魔王。」

3度目の来訪のふざけた勇者だった。

「よお、勇者…。」

まあいつもならそれなりに嬉々として出迎えるのだが、今の俺の心は海底まで沈んでいるのだ。

「テンション低いな~。土産持ってきたぞ、ケーキ。」

「愛してるぞ勇者よ!!」

「はあ?」

一気にテンションが跳ね上がる。今ほど勇者の襲来を喜んだことは無いだろう。今なら多分勇者100人束になってかかってきても無傷で勝てる気がする。マジ無双状態。

「まあ入れ勇者!!」 【無駄に豪華な椅子】から飛び降り自室へと案内する。

勇者が俺の机の上の惨状を見た。

「あれ?お前辛党だったか?悪いな、甘いもん持ってきて。」

「断じて違う。甘いものに勝るものなどありはしない!」

勘違いをする勇者に事の顛末を話す。

「お前の側近すげぇな…。」

勇者が大理石にめり込んだボールペンを見てつぶやく。

「俺もそう思う。俺よりアイツの方がチートだ…。」

机の上のハバネロ味の菓子類を叩き落としケーキを置く場所を確保する。皿やフォークを棚からだし、紅茶を淹れた。

「開けても良いか!?」

「どうぞ~。」

ワクワクしながらケーキの箱を開ける。

「ふおおぉ…!!」

現れたケーキに感嘆を漏らした。

シンプルなショートケーキに宝石箱のようなフルーツタルト。美しいチョコレートケーキに光沢のある栗の乗ったモンブラン。幸せ以外の何者でもない。今俺はとてつもなくしまりのない顔をしているだろう。

「世の勇者達が今のお前の姿を見たら幻滅するよな…。」

「ほっとけ。」

一通り目で楽しんでから箱から皿にサーブする。

「本当に人族のケーキは綺麗だな…」

「?魔族のケーキとは違うのか?」

「厨房の奴らが作るケーキは美しくない上に本来料理に使わないようなものを平気で入れるから嫌だ。」

「…それはそれで一度は見てみたいな。」

「やめておけ、トラウマになるぞ。」

以前厨房のコックに作らせたところこの世のものとは思えないケーキが出てきたためそれからは作らせていない。

チョコレートケーキにフォークをさし、一口食べる。

「~~~~~!!」

悶絶。

たった一口で口の中に広がる甘み、フワフワな二層のチョコレートのスポンジ、チョコレートに含まれる僅かな洋酒の香り、何もかもが計算されつくしたような味。食べてしまうのが勿体無い。

「うまいか?」

「うまい!どこで買ったんだ?」

是非部下に買いに行かせたい。

「俺の店のだ。」

「まさかの兼業!?」

勇者とケーキ屋の兼業って…緩いにも程があるだろ。

「ちなみにケーキ屋が本業だ。」

「勇者が副業なのかよ!?」

「当たり前だろ。つかほとんどの勇者が兼業してると思うぞ。」

「…魔王討伐ってそんなもんなのか?」

「勇者は儲からないからな。」

「現実的っ!!」

喋りながらもケーキを食べ進める。

「そういえば、お前が前に組んでたパーティーメンバーはどうしたんだ?」

「生き返らせた後即行解散された。」

「だろうな。」

寧ろそのままパーティー組んだままでいられるやつなんてまずいないだろう。

最後の一口を口にいれ味わう。にしてもうまい。

「さあ、そろそろ闘おうぜ。」

「闘う気があったのかお前!?」

自室から出て【終焉の間】に戻る。

俺は定位置に着き、勇者は一旦【無駄に大きい扉】の外に移動する。ひどく無駄な気がするが一区切りつけるのに必要だと思う。

▼勇者が現れた。

「ふはははは、よく来たな勇者よ!!」

「お前それ飽きねぇの?」

「ほっとけ、仕事だ。」

テンプレートで一応勇者を迎える。

「お前を驚かせるために今日も画期的な武器を用意したぞ!」

「最早驚かせることが主旨だって言っちゃうのな!!」

前回の【棺桶】には驚かされたが多分もう動じない!

「ふ、どんな武器か見せてもらおうか!!」

「覚悟しろ、魔王。」

勇者らしからぬあくどい笑みを浮かべ鞄から一冊の冊子をとりだし、大きく息を吸った。

「『20年後の僕へ。魔界小学校1年2組魔王。』」

「!?」

「『僕は大きくなったら、立派な魔王に成りたいです。』」

「やめろぉぉお!」

▼勇者の攻撃。

▼【小学校の文集】を朗読した。

まさかこんな所で小学生の頃の文集を勇者に朗読されるなんて…!!そもそも何故あいつがそんなものを!?俺ですらどこにあったか忘れてたのに!

「『立派な魔王になったら人族とも仲良くして、友達を沢山作りたいです。』」

「うわぁぁああ!!」

ぼっちだよ!?1人きりだよ、基本!部下と敵しか基本いねぇよ!!だって魔王だもん!

悶絶する俺を後目にニヤニヤしながら文集を読み進める。性格悪っ!!

「『間違っても仕事をサボったり、部下に迷惑をかけるような大人にはなりたくないです。」』

「純真な言葉が胸に突き刺さるぅぅう!!」

▼魔王に15000のダメージ。

そのまま勇者が文集を読み終えた頃には俺の精神的HPは少ししか残っていなかった。画面真っ赤だよ。

「まさかこの俺が、こんなふざけた勇者に負けるだと…?」

ゼイゼイと息を吐きながら自問する。

大丈夫だ気を強く持て、俺。

「どうだ、参ったか?ここで降伏するならば世界の半分をくれてやろう。」

「それ言うならば魔王のセリフぅぅう!!」

つか魔王でも言わねえよ!どこのゲームのセリフだ!

「ところで魔王、この文集に『友達を沢山作りたい』とかいてあるが、」

「ぐっはぁ、もう何も言うなぁ!!」

まだ追い打ちをかけるかコイツ!もう魔王涙目だっての!!

「今のお前に友達は沢山いないかもしれないが」

「魔王には俺という友人がいるだろう。」

「勇者、お前…!」

俺のことを友人だと思って…!

「まあ、嘘だけど。」

無駄に良い笑顔だった。

「うわぁぁああん!!」

▼魔王に5000のダメージ。

▼魔王は逃げ出した。

自室に飛び込み鍵を掛け体育座りで閉じこもる。

「おい、魔王。さっきの冗談だからさ。気にすんなよ。ちゃんと友人だと思ってるよ!」

「どうせ、グスまたさっきみたいに、グス、嘘とか、言うんだろ、ぐすん。」

「言わねえから!友達だから!」

ひきこもりと化した魔王の自室のドア越しに勇者が必死に呼びかける。

恐らく、メンタルが弱すぎる俺は側近に魔王を代わってもらうべきだし、魔王を元気づけようとする勇者も本業のケーキ屋に身を入れるべきなのだろう。


ちなみに勇者は文集を魔王の自室で見つけました。

さらにいえばその文集は側近が魔王に初心を思い出してほしくて置いていったものです。(^^)

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