第一話 『魔界へ行こう』
ナビルという悪魔の女の子と共に、魔界というところへ行くこととなった。
「で、魔界ってどこにあるんだ?秘密の抜け道みたいなのがあったりするのか?」
「んー。簡単に言うと、魔法陣みたいなのがあるの。それを使って魔界へワープ、みたいな。」
ナビルはそう言うと、おんぶの姿勢になり自分の背中をトントンと指差した。
「ほら、その魔法陣があるとこに行くから乗って?」
「抵抗あるわ。」
「...行きたくないの?」
(それとこれとは話がなぁ...。)
ていうか会って数分のやつおんぶするとかどうなってんだ。恥じらいとかないのかよ悪魔ってのは。
でもここで乗らないと俺は...。
「...分かったよ。乗るよ。」
「うん。それでよし。それじゃ、早く早く!」
ほぼ初対面の女子におんぶされるのはいかがなものかと思った。しかもこんな華奢な女子に。
なんか色々と情けなく思えたが、俺はナビルの背中に乗った。
なるべく身体が密着しないように微調整するのに苦戦してしまった。
「なにしてんの。こうすればいいでしょ普通に。」
「ちょっ!?」
ナビルは俺の背中を押し、無理やり密着させてきた。
なにこれすげぇあったかい。
女子の身体ってこんなあったかいのかよ。
いい匂いもする。
なんか凄い安心する。もうこの背中で寝たい。
ってそんなことダメに決まってるだろ!
煩悩を捨てろ。邪念を消せ。平常心を保て。
「それじゃ、飛ぶからしっかり掴まっててね。」
「へ?」
その瞬間、俺の足から地面が消えた。
「な、なにやってんだ! てか高っ!怖い怖い怖い無理無理無理っ!」
「ちょっ!手に力入れすぎ!」
「高度!高度下げてくれ!」
「下の人たちに見られるけどいいの?」
「ごめんやっぱこのままで!」
しばらく飛んでいると、ナビルの髪が風で靡きバシバシと顔に当たった。
「いててててっ!髪!髪が顔に当たってるっ!」
「そのぐらい我慢してよ!」
紺色のポニーテールの襲撃に遭ったが、少し気持ちは和らいだ。
とは言っても怖い。風が強いし踏ん張りも効かない。初めて体験した『空』。
ナビルと出会わなければ、これを体験しながら死ぬことになっていたなんて考えたくもない。
俺は無意識に目を閉じ、ナビルにしがみついていた。煩悩だの恥じらいだのは一切なかった。
ただ死にたくない。落ちたくない。
「高いとこ無理なくせに飛び降りようとしてたの?」
「...ほっとけ。」
「てか悠真軽くない?腕も細いし。ヒョロヒョロじゃん。」
「それには触れないでくれ。流石に傷つく。」
「あ、ごめん...。...もうすぐだよー。」
次第にスピードが落ちていく。
目を開けてみると、木々が生い茂る山の中へと入っていくのが分かった。本当にこんなところに魔法陣なるものがあるのだろうか。
「はい、到着だよー。」
ナビルは悠々と着陸した。無事に着いて良かった。ようやく地に足をつけることができる。
もうちょっとくっついていたかったなんて考えてない。決して。
「...あー。怖かった。で、言ってた『魔法陣』はどこにあるんだ?」
「ちょっと待ってね...。...あった!」
ナビルはそう言い、デカい岩を両手で軽々と持ち上げ、ちょっとだけその場から移動させた。ゴリラかなんかか。
「これ見える?この線。これが言ってた魔法陣。まぁ正確には『転送陣』なんだけど。」
「へー。それにしてはなんか、味気ない感じというか質素というか。もっとこう、ピカーッて光ってるもんかと。」
「このままの状態じゃただのお絵描き。ここに『魔力』を流すの。見てて。」
ナビルは転送陣に手を添えた。
するといきなりブォンっといった感じに転送陣が青白く光った。ゲームでよく見たことある感じの演出だった。
「ほら!これが『転送陣』。地上と魔界を繋ぐ架け橋。今はこれが主流なの。」
「...凄。これに乗れば魔界へワープするのか?」
「そう。ほらほら!乗った乗った!」
ナビルに背中を押され転送陣の上へ。
その瞬間、目の前が青白い光に包まれた。
眩しい光が視界から消え、辺りを見回すと衝撃が走った。
魔界らしいなんとも禍々しい空...ではなく、病院のような、研究室のような人工的建物の中にいた。
足元を見ると、あの転送陣と同じような紋が刻まれた鉄の上に立っていた。
「こ、ここは?これが魔界?」
「うん。ちゃんと来れたよ。まぁここは転送陣を管理する施設だけどね。」
施設。魔界に施設がある?想像してたよりもなんか近代的だな。
「...えっとまぁ、とりあえずここを出たら本当の魔界にって感じか?」
「本当もなにもここ魔界だってば。」
「この光景見ても信用に値しねぇよ!」
俺は転送陣の機械から降り、ナビルについていった。
施設を中を見回してみるとやっぱり違和感しか感じない。
魔界っていったら溶岩の海とか地獄の業火みたいな、恐ろしい感じをイメージしていたんだが。
頭の中で文句を垂れていると、扉が見えた。
「さ!これが悠真の待ち望んでた『本当の魔界』だよ。」
扉を開けナビルと共に外へ。
俺の魔界に対する妄想じみた謎の期待は、この目に映る情報によって見事に打ち砕かれた。
整備された舗道。立ち並ぶビル群。
暗闇を照らす街灯。
まんま都会の一夜のような、風情もなにも感じられないと思うほどの人工物。
「近代的すぎんだろ!」
思わず漏れた俺の魔界での第一声は、その喧騒へと飲まれることとなった。




