第二話 『魔界観光ツアー』
ナビルと共に魔界へと足を踏み入れた。しかし想像していたものよりも近代的かつ、どこか珍妙な景色に俺は戸惑いを隠せなかった。
「嘘だろ...?なにこの都会。これが本当の魔界?」
「そうだよ。何度も言ってるじゃん。...ちょっと野蛮な感じ想像してたでしょ。」
「そりゃするだろ。魔界って聞いてこんな都会想像しねぇよ。」
俺はぶつくさ文句を垂れてしまったが、東京の都心部みたいな賑わいを見せているこの魔界に、正直興味が湧いていた。
「なぁ、あの人たちみんなお前みたいに角とかあるけど...。」
「悪魔なんだからそりゃあるでしょ。」
「...そりゃそうか?」
まあ確かに、魔界で暮らしている=悪魔、だよな。そりゃそうなんだが...。
「それじゃ、私たち悪魔が暮らす魔界『ネザルディア』を見て回ろうー!」
「お、おー?」
ナビルと共に、魔界 『ネザルディア』の観光ツアーが始まった。
どうやら俺たちが今いるここは『ゼルディア』というところらしく、このネザルディアの中でも特に都会のようだ。
(なんかイ◯ンみたいなスーパーマーケットまであるんだけど。)
「あっ、見て見て!屋台あるよ屋台!」
ナビルが指差した方を見てみると、確かに屋台があった。
大きく「串焼き」と書かれており、焼かれた肉の香ばしい匂いもする。
そういえば今日は何も食べていなかった。
「おじさん!リザードウルフ2本で!」
「おっ、ナビィちゃん!リザードウルフ2本ね。400『ゼン』だよ!」
どうやらナビルはここら辺だと「ナビィ」という愛称で呼ばれているようだ。
街の人にもあの明るさ。そりゃ可愛がられるよな。
「はい、私のおすすめのリザードウルフの串焼き。ちょっと硬いけど美味しいよ。」
「あぁ。ありが...。」
ちょっと待って?なんの串焼きって言った?
『リザードウルフ』?
ここ来て数分の人間にゲテモノ料理勧めてる?
いや落ち着け。リザードってことはトカゲだよな...。
爬虫類の肉...。ワニ肉的なアレかな。
ワニ肉は鶏のささみに近いって聞いたことあるけど...。
俺は必死に思考を巡らせた。
「...お腹、空いてない?」
固まった俺を見て、ナビルは心配そうに聞いてきた。
可愛らしい顔から繰り出される不安そうな上目遣い。さっき大岩を持ち上げていた怪力ゴリラとはとても思えん。
流石に心が痛む。せっかく俺のために買ってくれたんだ。
その優しさに応えたい。応えないでなにが男だ。
「...よし。いただくよ。ありがとう。」
「...! うん。鶏肉に近い感じだから安心して。」
俺は串にかぶりつき、あまりに未知すぎる肉を必死に咀嚼した。
言ってた通りちょっと硬い。でも噛み切れる。
味は...確かに鶏っぽい。でもなんかパサついてる?
でも美味しい。めちゃくちゃに美味しい。
ただ唯一の欠点を挙げるとしたら、噛めば噛むほど涙が止まらないことだ。
「...うん。うん。ゆっくりでいいよ。」
ナビルの優しい声が耳を通して全身に染み渡る。
それやめろ。余計に涙が溢れてくる。
全部食べ終わった頃には、涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまった。
「...はい。顔拭いて。」
「ごめん...。ありがとう...!」
ナビルからハンカチを受け取り、涙に濡れた顔を拭いた。
彼女はそれを見ても嫌がるような顔は一切していなかった。
顔を拭き終わり冷静になる。このハンカチ、洗って返さないとな。
まぁ、返せたらだけど...。
「終わった...?よし。それじゃ、魔界探検再開しよっか。」
「...あぁ。ごめんな。迷惑ばっか掛けて...。」
「謝らないで。私が好きでやってるだけだから...。」
少し重い空気の中、また歩き始めた。
しばらくの間、沈黙が続いた。
ナビルの顔をチラッと見ると、口がモゴモゴしている風に見えた。
恐らく、ここからどう話を展開させればいいか迷っているのだろう。
俺がこの空気を作ってしまったんだ。
俺が変えなくては。ナビルのために。
「...なぁ。あの車、エンジン音的なのが全くないんだけど、どういう仕組みなんだ?」
「あ、あぁ...えっと。あれは『魔力』で動いてるの。だから地上の車みたいにうるさくないし、排気ガス...っていうのも出ないの。」
「マジか...!あとさ、街灯とかももしかして『魔力』で光ってたりするのか?」
「...! うん、そうなんだよ。地上と違って魔界は魔力で動いてるものがいっぱいあるの。他には...」
ナビルと歩きながら、魔界のインフラ事情について色々と話した。
地上における電気やガスといったものは、魔界では『魔力』というエネルギーを用いているらしい。
自然エネルギー的なやつなんだろう。
そして各地に『転送陣管理施設』という建物があるらしく、それを使っていろんな所へ行き来することも可能らしい。
完全に某猫型ロボットの秘密道具だ。
「なるほどなぁ。てことは携帯電話とかもその魔力を使って...っていう感じか?」
「そう。これが魔界の携帯電話。『携帯型魔力通信機』。」
小っちゃいトランシーバーみたいなものをポケットから取り出した。
急に何世代かぐらい過去にいっちゃってるな。
「私のこれは最新モデルでさ、見て。写真撮れるの!凄くない!?」
「お、おぉ。す、凄え〜。」
ナビルは目を輝かせながら魔界式携帯電話の機能を紹介してきた。
地上のスマホ見たら卒倒するんじゃないかこいつ。
ナビルの熱弁を微笑ましいと感じながら聞いていると、急に鐘の音が鳴った。
それを聞いたナビルは、すぐさま時間を確認しだした。
「...あー。もうそんな時間か。そろそろ家帰らないと...。」
「ごめん!ちょっと今日はこれで終わり。送ってくからちょっと付いてきて!」
ナビルは俺の手を引っ張り、急いで来た道を戻る。
一体なにをそんなに急いでいるのかは分からない。
ただ力の入りようからして相当焦っているのだけは分かった。
俺たちは最初に出てきたあの施設まで戻ってきた。
そしてナビルと共に転送陣の機械に乗った。
視界があの青白い光に包まれる。
そして気づけば、あの森の中に立っていた。
「ふぅー。なんとか間に合った。ごめんね急に帰らせちゃって...。」
「あー、なんか門限みたいなのあるのか?」
「そんなとこ。さ、乗って。また飛ぶから。」
ナビルはあのとき同様、背中を俺に向けおんぶの姿勢になった。
俺はあの時よりも気持ち強めにナビルの身体にしがみついた。
別にやましい気持ちとかないから。
落ちたくないだけ。落ちたくないだけだから。
俺のまた、あの地面が無くなる感覚を味わった。
2回目とはいえ怖い。やっぱり怖い。
でもあったかい。
ナビルの体温が恐怖感を和らいでくれた。
心地よさすら感じるレベルだ。
今日は本当に疲れた......。二人の葬式……。
ビルからの自殺失敗……。それで美少女といきなり異世界の探検だもんなぁ……。
ダメだ……。まず………い……。
……………。
「ほら、起きて。着いたよー。」
「……んぅ? あっ!ご、ごめん!すぐ離れる!」
俺は慌ててナビルの背中から降りてしまった。
まだあの優しい熱さが身体に残っている。正直に言うと、もうちょっと一緒にいたかった。
「ここまで来ればあとは自力で家帰れるでしょ。あっ、あとこれ。渡しておく。」
「なにこれ。ただの石ころ?」
「それは魔界の鉱石の一部。ちょっとだけ魔力が通ってるの。それ持って明日またここにいて。迎えに行くから。」
迎えに行く? つまりまた会える?
またこいつと一緒にいれる?
俺はまた泣き出しそうになったが、グッと堪えた。
「…ありがとう。うん。明日ここで待ってる。じゃあな!」
「うん! また明日!」
俺は今日が夢であることを願いつつ、この出来事が夢でないことを願った。




