↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ 『救われた日』

 

 俺は、今から飛び降りる。


 学校でいじめに遭っているからとかそんなんではない。

 生きていけない。独りでは生きてはいけないからと自分で結論づけたからだ。


 今日は両親の葬式だった。死因は事故死。

 居眠り運転をしていたトラックに轢かれたんだと。


 二人の死に涙し、悼む人は多くいた。

 でも俺には形式的に仕方なく弔っているだけのように思えてしまった。

 そんなはずはないと頭では分かっているつもりなのに。


 この人たちはこの葬式が終わったとき、また普段通り過ごすのだろう。充実した毎日を送るのだろう。

 この感情が妬みなのか怒りなのか、俺には分からなかった。


 にしても、ビルの屋上って高いなぁ。

 下が全く見えない。これなら安心だ。怖くない。


 あと一歩。あと一歩で二人に会える...。


「待って!」


 っ!?。


 後ろから声を掛けられた。

 屋上の扉が開く音なんてしなかった。気づかなかった? そんなハズない。


 振り返ってみると、一人の女の子がいた。

 暗くてよくは見えないがおそらく自分と同年代ぐらいだろうか。


 いや待て。なにかおかしい。色々とおかしい。

 頭にとんがったなにかがある。

 背中にマントのようなものも。

 足の隙間から長い紐のようななにかも見える。


「ん? お、おーい? 聞こえてるー?」


 はっきりと聞こえている。だからこそ声が出ない。なんなんだこいつは。


「な、なに?なんなんだお前。なんで止めるんだよ。というかなんでこんな所にいるんだよ。」

「助けてあげようと思ったから。」


 言ってやりたかった。お前には関係ないと。でも言えなかった。

 自分でもよく分からない葛藤をしていると、その子がどんどん近づいてくる。

 手を伸ばしてくる。


 こいつ、本気だ。本当に助けたいと思って手を伸ばしている。

 自分も巻き込まれるかもしれないとか一切思っていない、ただ純粋に手を伸ばしている。


 いま一度下を見てみた。

 怖い。

 下まではっきりと見える。見えるはずのない地面がはっきりと見える。


 気づけば俺は内側へ下がり彼女の手を掴んでいた。


 手を掴んだ瞬間に言い表せないなにかが胸の中で弾けた。

 絶望。恐怖。困惑。安堵。

 いろんな感情が一気に流れ込むような感覚。


 泣きたかった。泣きじゃくりたかった。

 でも今はそれどころではない。

 彼女に言いたいこと、聞きたいことが山ほどある。


 俺は溢れ出る感情をグッと堪え、口を開いた。


「...ありがとう。どうかしてた。」


 手を差し伸べてくれた彼女の目を見て、命を救ってくれたことへの感謝をはっきりと言葉にして伝えた。


「よ、よかった〜!」


 彼女は安心しきった顔で、俺の手をぶんぶんと上下に振った。

 やけに力が強い気がする。


「なぁ。思ったんだけど頭の「それ」はなんだ?」

「え?角。」

「角...。」


 角?そういうアクセサリー?

 最近の若者の流行りってよく分かんないもんだなぁ。


「じゃ、じゃあチラチラ見える紐みたいなのは尻尾的なあれ?」

「尻尾的なというか尻尾だよ。」


「背中に付けた変な感じのマントは?」

「羽だよ、羽。」


 おもむろにスマホのライトを彼女に向けた。

 それにより暗闇の影響でシルエットでしか見えなかったものがくっきりと視界に映る。


 頭にはゲームに出てくるような小悪魔と酷似した角。

 これまた悪魔のようにトゲトゲした感じの羽。

 そして足元からチラチラと見える黒い尻尾。


「...悪魔?」

「うん。今更?」

「悪魔のコスプレ?」

「じゃなくて悪魔。」


 なんだコイツ。ただアクセサリーを付けているだけのはずなのに、頑なに自分を「悪魔」と言い張っている。


 ただ、アクセサリーだとしたらおかしい部分がある。

 尻尾や羽が時折ピクっと動いている。犬や猫みたいに。


 気になる。まさか本物? 触ってみたい。

 でも、本物だった場合尻尾とか羽周りはなんかヤバいよな。

 セクハラで通報されかねん。まぁ偽物でもダメなんだけど。


 角なら硬いだろうし問題ないかな...。


「角、触ってみていい?」

「エッチ。」

「なんでだよ。」

「悪魔にとってのデリケートゾーンなの。特に角は。」


 なんか新しい知見を得た。

 今後一切役立たないだろうけど。


「てか...なんで死のうとしたの。」


 彼女は真剣な眼差しと言葉で、俺の胸を貫きにきた。


 俺は、言うべきか少し迷った。

 言いたい。聞いてほしい。でもいきなりこんな話をして迷惑がられないだろうかと怖くなっていた。


 彼女の顔を今一度よく見てみる。真剣な顔でありながらどこか不安そうな目をしていた。


 なんでお前がそんな目をする。なんでその目で俺を見る。


 俺は気づいていたら話していた。

 何故自殺をしようとしていたのか。自分には身寄りもなくこれから独りで生きなくてはならない。

 それがなによりも嫌だったということも。


「そっか...。」


 話してなにか変わるわけでもない。両親は戻ってこない。

 それでも話したかった。誰かにこの辛さを伝えたかった。


 誰かに心配してもらいたかった。


「じゃあさ、魔界行ってみる?」

「...は?」


 なんて言った?魔界?

 なんだこいつ頭がおかしいのか。さっきの重い空気を無かったことにしようとするな。俺の勇気返してくれ。


「身寄りがなくて1人なんでしょ。気分転換のつもりでさ。私と一緒にさ。」

「一緒に...。」


『一緒に』


 その言葉を聞いた瞬間、目から涙が溢れ出してしまった。抑えられなかった。


 彼女のこの軽い感じ。この重い空気を変えようとしてくれているんだ。暖かい。

 その気持ちだけで嬉しい。


「...名前。聞いていいか。」


 聞きたかった。命を救ってくれた恩人の名前を。

 生涯忘れないだろう恩人の名前を。


「...ナビル。さん付けとかしなくていいから。呼び捨てでお願い。」


 ナビル。ナビルか。ナビルって言うんだな...。


「てか、そういうあんたはなんて名前なの?」

「編川。編川悠真といいます...。」


 ナビルは名前を聞いた後、もう一度俺の手を取った。


「じゃあ、悠真!一緒に行こ!」

「...あぁ。あぁ!」


 ナビルの手は暖かかった。なによりも。


 俺はこうして、悪魔を名乗るナビルという少女と出会い魔界へ行くことになった。


 その選択が、俺の人生をガラリと変えるほどのものだとは、まだ知らずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。