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第六章 四人目の犠牲者

王都には、いつしか奇妙な噂が静かに広まり始めていた。

 

「呪われた男爵令嬢」

 

そう囁かれるようになったのは、クラリーチェの一件から数日が経った頃だった。

けれど、その噂を公然と口にする者は、誰一人としていない。

証拠が何もないからだ。

ミレイユは表向き、殿下の寵愛を受ける令嬢として振る舞い続けており、彼女を糾弾すれば、それはすなわち殿下への反逆と見なされかねない。

貴族達は皆、そのことをよく理解していた。

そんな中、ただ一人だけ、公然と噂を否定する令嬢がいた。

子爵令嬢エルザである。

学院の中でも、誰よりも心優しいと評判の彼女は、私を庇うように、周囲へこう言い続けていた。

 

「アイリス様は何も悪くありません」

 

その言葉に、私は何度も救われた。

けれど、同時に、彼女の身を案じずにはいられなかった。

私、ノエル、クラリーチェと、すでに三人が同じ恐怖を味わっている。

これ以上、誰かが巻き込まれることだけは、絶対に避けたかった。

 

「エルザ、お願いだから、ミレイユ様には近づかないで」

 

私は、幾度となくそう伝えた。

けれど、エルザの決意は固かった。

 

「このままでは、いけないのです」

 

学院の礼拝堂で、彼女は静かにそう答えた。

祭壇の前に跪き、両手を組んで祈りを捧げるその横顔には、迷いのない強さが宿っていた。

 

「わたくしは、争いを終わらせたいのです。それだけを、お伝えしに参ります」

 

その日、エルザは万全の準備を整えていた。

聖印を胸元に下げ、学院付きの神官から特別に授かった祝福のお守りを身につけている。

それは、聖なる加護を宿す品として、王国内でも屈指の力を持つとされていた。

その姿を見て、私は少しだけ安堵した。

これほどの守りがあれば、あるいは。

そんな淡い期待を抱いてしまったことを、今でも悔やんでいる。

エルザは、迷うことなくミレイユのもとへと向かった。

私達も、その後を追った。

噴水広場に佇むミレイユの前に立ち、エルザは涙をこらえながら訴える。

 

「どうか、争いを終わらせてください。アイリス様も、ノエル様も、クラリーチェ様も……もう十分に傷ついています。どうか、これ以上は……」

 

震える声だった。

けれど、その言葉には、確かな覚悟が滲んでいた。

誰かを責めるためではなく、ただ純粋に、これ以上の悲劇を止めたいという、エルザらしい願いだった。

ミレイユは、いつものように微笑んだ。

 

「あなたは本当に優しい方ですね」

 

その声音は、驚くほど穏やかだった。

まるで、エルザの心根を、心から慈しんでいるかのようだった。

けれど、次の瞬間。

二人の視線が、静かに交わった。

その刹那、乾いた音が響いた。

エルザの胸元で、祝福のお守りが砕け散った音だった。

続いて、聖印までもが、みるみるうちに黒く変色していく。

神殿の加護すら、意味を成さなかった。

エルザの呼吸が、突然止まった。

全身が、激しく痙攣し始める。

これまでの三人とは比べものにならないほど、激しい震えだった。

肩が上下に跳ね、歯がガチガチと鳴り、指先までが小刻みに痙攣している。

恐怖のあまり、立っていることすらできなくなったのか、彼女はその場に崩れ落ちた。


「ひっ……ひぃっ……来ないで……来ないでえええっ……!」


その叫びは、これまでの三人の誰よりも激しく、長く、断続的に続いた。

膝をついた瞬間から、エルザの体はまるで人形のように制御を失い、激しく震え続けている。


そして――

最初の熱い雫が、下着の内側を伝った瞬間、エルザの顔が絶望に歪んだ。


「あっ……や、やだっ……出る……出ちゃう……っ!」


これまでの私たちとは明らかに違う。

ほんのわずかな「チビり」で済む余裕など、最初からなかった。

恐怖が彼女の体を完全に支配した瞬間、全身は一気に緩み、熱いものが勢いよく迸った。


「いやぁぁぁっ……止まらない……止まって……っ!」


永遠に続くかのように脈打つように溢れ出す。

下半身は一瞬でぐっしょりと濡れ、制服のスカートを内側から激しく染め上げていく。

膝をついた部分から、濃い染みが円を描くように急速に広がり、布地が重く湿って肌にぴたりと張り付く。

熱い液体は太ももを伝い、床の石畳へと勢いよく落ち、ぽたぽたという音を超えて、ほとんど途切れない流れになっていた。

水たまりはみるみるうちに大きくなり、エルザの膝の周囲に広がっていく。

それでも止まらない。

体が激しく痙攣するたびに、新たな熱い筋が溢れ、スカートは全体がびしょびしょに濡れ、冷たくなり始めた布がまとわりつき、床の水たまりはさらに範囲を広げていく。

エルザは両手で下腹を押さえ、脚を閉じようとするが、震えが激しすぎて力が入らない。

涙と鼻水を垂らしながら、ただ「止まって」「ごめんなさい」「見ないで」と繰り返し、激しく身を震わせ続けている。

これまでの三人以上に、長く、激しく、制御を完全に奪われた失禁だった。


「ひっ……まだ……まだ出てる……やだっ……こんな……っ」


そのときだった。

ミレイユが、優雅に一歩近づき、上からエルザを見下ろすようにして、柔らかく声をかけた。


「大丈夫ですか? エルザ様。そんなに怖がらなくても……わたくし、何もしていないのに」


穏やかで、まるで心配しているかのような声音。

けれど、その言葉が落ちた瞬間――

エルザの瞳が大きく見開かれ、顔から血の気が引いた。


「ひっ……ひぃぃぃっ……! 来ないで……来ないでえええっ……! ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」


さらに激しい恐怖が、彼女を襲った。

すでに制御を失っていた体が、びくん、と大きく跳ねる。

その拍子に、押さえきれずにいた熱いものが、勢いを増して迸った。

床に広がっていた水たまりへ、新たな奔流が叩きつけられるように落ち、音を立てて広がっていく。


「あっ……あっあっ……また……出る……止まらないっ……!」


エルザは、命乞いをするように、びしょびしょに濡れたまま、深く身を屈めようとした。

けれど――その動作そのものが、彼女に新たな羞恥を叩き込んだ。

膝をついた姿勢から、額を床に近づけるために腰を落とし、両腕を前に伸ばす。

そのわずかな体勢の変化だけで、閉じかけていた脚の隙間が開き、びしょ濡れのスカートがめくれ、内側に張り付いていた熱い布が肌から引き剥がされる。

とたんに、堰を切ったように残っていたものが、勢いよく床へこぼれ落ちた。


「や……やぁっ……! 今の……動いただけで……また……っ」


自分が土下座しようと体を沈めた、その動作で、さらに漏らしてしまった。

その事実が、エルザの理性を容赦なく削り取る。

羞恥が、恐怖に混ざって一気に膨れ上がった。

それでも止まらない恐怖は、彼女に選択の余地を与えなかった。

エルザは、漏らしながらでしか、身を低くすることができなかった。

額を石畳に擦りつけ、両腕を前方に伸ばし、完全な土下座の姿勢になる。

その途中も、そして額をつけた後も、熱いものは途切れなかった。

土下座した直後、腰が落ちた拍子に下腹に圧がかかり、また更に短い筋が床を打つ。

びしょ濡れの太ももが小刻みに痙攣し、そのたびにまだ止まらない雫が、羞恥も構わずに石畳へしたたり落ちていく。

水たまりは、土下座した彼女の膝と肘の周囲にまで広がり、制服の袖や胸元までもが床の汚れに触れて湿っていく。


「いや……こんな……土下座してるのに……まだ……出てる……っ」


声は泣きじゃくりで途切れ途切れになり、自分でも信じられないといった響きを帯びていた。

公衆の面前で、失禁を止められないまま、額を床に擦りつけている。

しかも、その姿勢に移る動作のせいで、さらに漏らしてしまった。

子爵令嬢としての矜持も、日頃の優しさも、今は何の意味もなさなかった。

ただ恥ずかしい。

止まらないことが、恥ずかしい。

怖くて土下座しているのに、それでも一向に止まらずに汚さずにはいられない自分が、たまらなく恥ずかしい。


「許してください……許してくださいっ……わたくしが悪かったのです……もう……もう近づきません……だから……止まって……お願い……見ないで……こんな姿……っ」


額をつけたまま、小さく腰が震える。

そのたびに、またわずかずつ熱いものが零れ、土下座した自分の胸の下や膝の内側を伝っていく感触が、エルザに嫌でも自覚された。

涙と鼻水が床を汚し、下半身からは止まらない失禁が続き、彼女の周囲の水たまりはさらに無惨に広がっていった。

漏らしながら土下座をしている、という状況そのものが、彼女の顔を床に押し付けたまま真っ赤に染め、肩を泣き痙攣させていた。

その惨めな姿を、ミレイユは静かに見下ろしていた。

そして――

彼女の唇が、ふっと緩んだ。

周囲には気づかれぬほど小さく、しかし確かに、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

赤い瞳が細められ、満足げに、哀れな獲物を慈しむように、エルザの土下座する姿を映している。

その笑みには、同情も慈悲もなく、ただ純粋な優越と愉悦だけが滲んでいた。

周囲が、一気に凍りついた。


「四人目……!」

「また……また漏らした……!」

「聖印まで砕かれて……しかもあんなに激しく……止まらない……」

「アイリス様、ノエル様、クラリーチェ様に続いて、エルザ様まで……立て続けに四人も……」

「これはもう偶然じゃない……呪われてる……」


ざわめきは、これまでのどのときよりも大きく、激しかった。

貴族の子弟達は顔を青ざめさせ、後ずさりし、中には悲鳴に近い声を上げる者さえいた。

「四人連続」という事実が、学院中に恐怖を増幅させていく。


私は、慌てて彼女のもとへ駆け寄ろうとした。

ノエルとクラリーチェも、同じように動いた。

けれど――


ミレイユの赤い瞳から溢れ出す、根源的な恐怖の余波が、三人を同時に襲った。


「っ……!」


下腹部が、びくりと強く痙攣する。

温かいものが、わずかに下着の内側を伝った。

ノエルもクラリーチェも、同時に体を強張らせ、顔を強張らせた。


「また……」

「だめ……決壊だけは……絶対に……っ」


私は脚をきつく閉じ、両手でスカートを押さえ、下腹に全力で力を込めた。

すでに湿り始めた布が肌に張り付き、熱い雫がじわりと広がる不快感が走る。

「これ以上は出さない」「水たまりは絶対に作らない」と、歯を食いしばって乙女の維持を守る筋肉を締め上げる。

ノエルも同じように震えながら下腹を押さえ、脚をすり合わせ、必死に流れを堰き止めている。

クラリーチェは唇を噛みしめ、冷や汗を浮かべながらも、理論など何の役にも立たないことを知りつつ、ただ本能的に体を強張らせてこらえていた。


ちびりはした。

下着は確実に汚れ、冷たくなりかけた湿り気が太ももに張り付く。

羞恥と恐怖で視界が白み、息が詰まる。

エルザがあんなに激しく、止まらずに漏らし続け、挙句の果てに土下座までしている光景が、さらに恐怖を煽る。

それでも――三人は、なんとか決壊だけは防いだ。

わずかに汚れた下着の中に熱さを閉じ込め、床には一滴も落とさないよう、全身の力を振り絞った。


けれど、エルザのほうはまだ止まっていなかった。

土下座したまま激しく震え続け、時折びくりと体を跳ねさせながら、熱いものを少しずつ零し続けている。

水たまりはすでに大きく広がり、彼女のスカートは完全にびしょびしょに重くなり、床に広がる染みと一体化しているように見えた。


額を床につけたまま、小さく嗚咽を漏らし、それでもなお「ごめんなさい」「許してください」と繰り返している。

私は、恐怖に染まったエルザのもとへ、なんとか歩み寄った。

彼女は私の手すら振り払おうとする。

まるで、この世のすべてが敵に見えているかのように。

激しい震えは収まらず、時折小さく「ひっ……」と漏らすたびに、またわずかに熱いものが零れる。

これで、四人目だった。

しかも今回は、聖なる加護すらも、まったく歯が立たず、これまでの誰よりも激しく、長く失禁が続き、恐怖のあまり土下座までしてしまった。

知らせを受けて駆けつけた神官達も、割れた聖印と、床に広がる大きな水たまり、びしょびしょになり土下座したまま動けないエルザの姿を前に、ただ困惑するばかりだった。


「このようなことは、これまで一度も……しかも四人も連続で……」

 

年老いた神官が、震える声でそう呟いた。

彼らの持つ知識と経験をもってしても、この現象を説明することはできなかった。

その事実が、私の胸に、さらなる不安を積み重ねていく。

エルザは、その日のうちに実家へと運ばれていった。

彼女の両親が、青ざめた顔で娘を抱きかかえる姿を、私は言葉もなく見送ることしかできなかった。

びしょびしょに濡れたスカートの重みと、冷たくなった染みの感触が、運ばれていくエルザの体にまとわりついているのがわかった。

去り際、エルザは私を見つけると、激しく震えながら小さく呟いた。


「アイリス様、ごめんなさい……わたくし、もう……止まらなくて……あんなに……」


その先の言葉は、涙に呑まれて聞き取れなかった。

けれど、その瞳に宿る恐怖の色と、激しい残りの震えだけは、はっきりと見て取れた。

あの穏やかだったエルザの瞳に、癒えることのない傷が刻まれてしまったことを、私はその時、痛いほど理解していた。


夜、公爵邸に戻った私は、自室の窓辺に立ち、ただ静かに外を眺めていた。

ノエルとクラリーチェも同じ部屋にいた。

三人とも、すでに下着を替えていたが、あの余波でちびってしまった感触は、まだ体に残っている。

わずかな湿り気の記憶が、冷たく羞恥を抉る。

四人。

私、ノエル、クラリーチェ、そしてエルザ。

それぞれ性格も、得意とすることも、まったく異なる四人が、皆同じように、あの赤い瞳の前で膝を折り、制御を奪われ、漏らさせられた。

しかもエルザは、これまでの誰よりも激しく、長く、激しく震えながら失禁し続け、恐怖のあまり土下座までしてしまった。

これはもう、個人の強さや弱さの問題ではない。

もっと根源的な、抗いようのない力が働いている。

そう考えるほかなかった。


同じ頃、誰もいなくなった学院の廊下で、ミレイユは一人、静かに歩いていた。

月明かりだけが、彼女の横顔を照らしている。

その唇が、小さく動いた。

 

「あと少し……」

 

誰に聞かせるでもない、独り言のような呟きだった。

けれど、その言葉には、確かな意志が込められていた。

何が「あと少し」なのか。

それを知る者は、まだ誰もいない。

ただ、その一言だけが、静まり返った廊下に、静かに、しかし不気味に響いていた。

私達はまだ、真実の入り口にすら立てていない。

けれど、犠牲が増えるたびに、この出来事の異様さだけは、確実に色濃くなっていく。

エルザの激しく震え、止まらずに漏らし続ける姿を思い出すたび、私の中で、ある決意が固まっていった。

どれほど恐ろしくとも、この謎を解き明かさなければならない。

そうしなければ、次に狙われるのが誰になるのか、誰にも予測できないからだ。

そして、また誰かが、あの瞳に睨まれ、公衆の面前で制御を奪われ、激しく漏らさせられてしまう前に――。

私は、自分の下着に残るわずかな湿りの記憶を握りしめ、静かに目を閉じた。



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